心臓植込み型電子デバイス(ペースメーカーなど)の交換
概要
心臓植込み型電子デバイスとは、心臓の動きを助けるために体の中に植え込む小さな機械のことです。代表的なものに、心臓の拍動を支えるペースメーカー、危険な不整脈を止める植込み型除細動器(ICD)、心臓の左右の動きをそろえる両室ペーシング(CRT)などがあります。この機械は「本体(ジェネレーター)」と「リード線」の2つの部分からできています。本体には電池が入っており、年数がたつと電池が減ってきます。デバイスの交換とは、ふつうリード線はそのままにして、胸の皮膚の下にある本体だけを新しいものに入れ替える手術のことです。電池が切れる前に、計画的に行うのが一般的です。
重要な事実
- 交換が必要になる一番よくある理由は、電池(バッテリー)の残量が少なくなったことです。
- 多くの場合、交換するのは本体だけで、心臓の中につながるリード線はそのまま使います。
- 手術はふつう肩の下あたりを小さく切って行い、局所麻酔と鎮静(うとうとした状態にする麻酔)で行われます。
- 交換は電池が切れてから慌てて行うのではなく、定期的なチェックで残量を確認しながら計画して行います。
- 手術のあとは、腕の使い方や傷口のケアなど、いくつか注意することがあります。
とてもよく行われる手術です。ペースメーカーや植込み型除細動器を使っている方は、電池が減るために数年〜十数年ごとに交換を受けることが一般的で、心臓のデバイス治療のごく標準的な流れの一つです。
心臓植込み型電子デバイスを植え込んでいるすべての方に関係します。植え込みを受ける方は高齢の方が多いものの、若い方や小児期に植え込んだ方もおられ、長く付き合っていく中で複数回の交換を経験することもあります。
症状
- 意識を失った、または気を失いそうになった(失神)
- 胸の強い痛みや締めつけられる感じが続く
- 息が苦しく、横になれないほどつらい
- 植込み型除細動器が短時間に何度も作動した(電気ショックが繰り返される)
- 傷口から血が止まらない、大量に出血している
- 傷口の周りが急に赤く腫れて熱を持ち、高熱や寒気をともなう(感染の可能性)
- ⚠傷口の痛みや腫れが日ごとに強くなる
- ⚠傷口から膿(うみ)のようなものが出ている
- ⚠38度前後の発熱が続く
- ⚠動悸、めまい、息切れが新しく出てきた、または強くなった
- ⚠デバイスが入っている胸の部分が、以前より硬く盛り上がってきた
一般的な症状
- 交換そのものは症状がなくても、電池の残量低下を知らせる検査の結果によって計画されます。
- 電池が少なくなってくると、だるさ、息切れ、めまい、脈が遅いと感じるなどの変化が出ることがあります。
- 手術のあとは、傷口の痛み、軽い腫れ、内出血による色の変化が数日〜数週間続くことがあります。
- 肩や腕を動かすと、傷口のあたりが突っ張る感じがすることがあります。
子供の症状
- 小児では、体が大きくなる間にデバイスやリード線の位置を調整することがあり、交換も成長に合わせて計画されます。
- 子どもは痛みや不安をうまく言葉にできないことがあるため、機嫌や食欲、睡眠の変化にも気を配りましょう。
- 学校生活や運動の制限については、主治医とよく相談して決めます。
高齢者の症状
- 高齢の方は、手術後のだるさや食欲低下が長引くことがあります。
- 持病の薬(血液を固まりにくくする薬など)を使っている場合は、手術の前に主治医へ必ず伝えてください。
- 入院中は体力が落ちやすいので、術後のリハビリや離床(ベッドから離れて動くこと)を早めに進めることが大切です。
原因
主な原因
- 電池(バッテリー)の残量低下:交換の最も多い理由です。
- デバイス本体の故障や、製造元からの情報提供(リコールや注意喚起)への対応。
- デバイス本体やリード線の感染。
- リード線の断線や劣化、位置のずれなど、リード線に問題が出た場合。
- 心臓の状態が変わり、より多くの機能を持つデバイスが必要になった場合(アップグレード)。
リスク要因
- 植え込みから長い年月がたっている(電池は使うほど減ります)。
- 以前にデバイスの手術を複数回受けている。
- 糖尿病や腎臓の病気など、感染にかかりやすい背景がある。
- 血液を固まりにくくする薬を使っている(出血の注意が必要です)。
- 皮膚の状態や栄養状態が良くない。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 傷口の赤み・腫れ・痛みが急に強くなった、膿が出ている、発熱がある
- 失神や、気を失いそうになる感じがあった
- 動悸や息苦しさが新しく出た、または急に悪くなった
- 植込み型除細動器の作動が続く、または以前より頻繁になった
- 手術後に腕や肩が強く腫れて動かしにくい
定期受診を予約すべき場合:
- デバイスの定期チェックの予定が近づいている、または案内が届いた
- 遠隔モニタリング(自宅からデバイスの情報を送る仕組み)で知らせが来た
- 傷口の違和感が長引いている
- MRI検査や手術など、別の医療機関で処置を受ける予定がある
- 海外旅行や引っ越しなど、生活環境が変わる予定がある
診断
交換が必要かどうかは、ふだん通っている病院の「デバイス外来」などで行う定期チェックで判断します。専用の機械を胸の上に当てて、電池の残量、リード線の状態、心臓の電気の記録を調べます。最近は、自宅にいながら情報を送れる遠隔モニタリングを使うことも多く、電池が少なくなると医療機関に知らせが届きます。
行われる可能性のある検査
- デバイスの点検(専用の機械で電池残量や設定、作動の記録を確認)
- 心電図(心臓の電気の流れを調べる検査)
- 胸部レントゲン(リード線の位置や断線がないかを見る)
- 心臓超音波検査(心臓の動きや大きさを調べる)
- 血液検査(感染や体の状態を確認する)
- 必要に応じて、デバイス本体や傷口の超音波検査、CT検査
診察で予想されること
チェックは痛みがなく、10〜20分ほどで終わることが多いです。電池の残量が少なくなっている場合は、交換の時期や入院の予定、手術の方法について主治医から説明があります。手術前には、血液をサンプルに感染がないか調べたり、麻酔の相談をしたりすることがあります。
治療
交換は、多くの場合「本体の入れ替え」です。肩の下あたりを数センチ切って、古い本体を取り出し、新しい本体をつなぎます。リード線に問題がなければ、そのまま使います。ふつうは局所麻酔と鎮静で行われ、入院は日帰りから数日程度のことが多いです。手術のあとは傷口の確認と、新しいデバイスが正しく動いているかの確認を行います。
自宅でのセルフケア
- 傷口は清潔で乾いた状態に保ち、医師の指示があるまで患部をお風呂やプールに浸さないようにしましょう。
- 手術後しばらくは、決められた期間、手術した側の腕を大きく上げたり、重い物を持ったりするのを控えます。
- 傷口の赤み・腫れ・痛み・発熱など、感染を思わせる変化がないか毎日確認しましょう。
- デバイスの入っている部分を強くぶつけないようにし、締めつける衣類や肩ひもは避けます。
- 決められた日時の定期チェックを必ず受けて、遠隔モニタリングの機器は指示どおりに設置しましょう。
- デバイスの種類と植込みの情報がわかるカード(デバイス手帳)を常に持ち歩きましょう。
医療治療
交換の手術そのものに加えて、感染を防ぐための処置や、傷口の消毒・被覆(ガーゼなどで覆うこと)、痛みの経過観察が行われます。必要に応じて、心臓の状態を整えるための治療方針が主治医から説明されます。薬の名前や量については、必ず主治医や薬剤師の指示に従ってください。自分で判断して薬をやめたり変えたりしないようにしましょう。
手術が検討される場合
電池の残量が少なくなったとき、デバイスやリード線に不具合が見つかったとき、感染が疑われるとき、心臓の状態に合わせてより適したデバイスが必要になったときなどに、交換の手術が検討されます。時期や方法は、心臓の状態や生活背景をふまえて主治医と相談して決めます。
この病気と共に生きる
交換のあとは、多くの方がこれまでとほぼ同じ生活に戻れます。しばらくの間は、手術した側の腕の使い方に注意し、傷口が落ち着くのを待ちます。デバイスは定期的なチェックで状態を確認し、電池の残り具合も見ていきます。電子レンジや家電製品は、通常の使い方であれば問題ないとされていますが、強い磁気を出す機器には近づかないようにしましょう。MRIを受けられるかどうかはデバイスの種類によって違うため、検査の前には必ず医療機関に伝えてください。
生活習慣のアドバイス
- デバイスの種類や心臓の状態に合わせた運動の範囲を、主治医に確認しておきましょう。
- 飲酒や喫煙は心臓に負担をかけます。減らす工夫をしましょう。
- 空港や施設の金属探知機を通るときは、デバイス手帳を見せて係員に伝えましょう。
- 新しい医療機関を受診するときは、必ずデバイスがあることを伝えましょう。
- 手術後の運転の再開時期は、症状や失神の有無によって変わります。自己判断せず、主治医の許可を得てからにしましょう。
食事と運動
食事は、塩分や脂っこいものを控えめにし、野菜や魚、豆類などをバランスよくとると心臓にやさしいです。心不全がある方は、水分や塩分の量について主治医や管理栄養士に相談しましょう。運動は、ウォーキングなど無理のない範囲から始めるのがおすすめです。手術後の運動再開の時期や強さは、傷口の回復と心臓の状態をみて決めますので、主治医に確認してください。
精神的健康と心の健康
「また手術を受けることになった」「機械が故障したらどうしよう」と不安になるのは自然なことです。手術への緊張や、体の中に機械があることへの落ち着かなさを感じる方も少なくありません。そうした気持ちは一人で抱えず、家族や主治医、看護師に話してみてください。つらい気持ちが続くときは、医療機関の相談窓口や地域の保健サービスに相談することができます。気分の落ち込みが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の救急・相談窓口に連絡してください。
予防
電池が減ること自体は防げませんが、定期的なチェックを受けて残量を早めに知ることで、急を要する事態を避けて計画的に交換できます。感染を防ぐために、手術前後の傷口を清潔に保ち、体調を整えておくことも大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎などのワクチンは、心臓や肺の病気を持つ方にとって重症化を防ぐ助けになります。接種の可否や時期は、主治医に相談してください。
検診プログラム
デバイスの定期チェックと遠隔モニタリングが、いわば「見守りの検査」の役割を果たします。決められた間隔で受診し、電池の残量やリード線の状態を確認し続けることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 電池が切れると、ペースメーカーが必要な場面で心臓を支えられなくなり、めまいや失神、息苦しさが起きる可能性があります。
- 植込み型除細動器の電池が切れると、危険な不整脈のときに電気ショックが働かなくなります。
- デバイスの感染を放置すると、感染が広がり、リード線の抜去など大きな治療が必要になることがあります。
- リード線の断線やずれを放置すると、デバイスが正しく働かないことがあります。
長期的な見通し
交換は、多くの方にとって安全に行える標準的な治療です。手術後の回復も比較的早く、以前の生活に戻れる方がほとんどです。定期的なチェックを続け、気になる症状があれば早めに相談することで、長く安心してデバイスと付き合っていけます。
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最終更新: 2026年11月3日
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