心臓の穴を閉じる器具(カテーテルによる閉鎖治療)
概要
心臓は4つの部屋に分かれていて、部屋と部屋の間には壁があります。この壁に生まれつき穴が残っていたり(心房中隔欠損や卵円孔開存など)、血液が本来と違う道に流れてしまう部分があると、息切れや脳梗塞などの原因になることがあります。心臓閉鎖デバイスは、そうした「穴」や「隙間」を塞ぐために体内に留置する小さな器具です。多くは脚の付け根の血管から細い管(カテーテル)を入れて心臓まで運び、開胸手術をせずに治療します。器具は体内に残りますが、時間とともに自分の組織に覆われてなじんでいきます。心房細動のある方では、血栓ができやすい心臓の一部(左心耳)を塞ぐ目的で使われることもあります。
重要な事実
- カテーテル治療は開胸手術に比べて体への負担が少なく、入院期間が短いことが多い治療です
- 器具は体内に残りますが、多くは数か月から数年かけて自分の組織に覆われていきます
- すべての穴や隙間が対象になるわけではなく、大きさ・位置・症状の有無で治療するかどうかを判断します
- 治療後は、感染予防のケアと定期的な通院(フォローアップ)がとても大切です
心房中隔欠損は先天性心疾患の中では比較的よく見られるタイプで、大人になってから見つかることも少なくありません。卵円孔開存(生まれつき心臓の壁に小さな通り道が残っている状態)は成人のおよそ4人に1人にあるといわれるほど一般的で、多くの人は症状なく過ごしています。心臓閉鎖デバイスによる治療そのものは、必要な方に対して行われる専門的な治療です。
生まれつき心臓の壁に穴がある方、原因がはっきりしない脳梗塞を経験した方、心房細動があり血液を固まりにくくする薬が使いにくい方、以前の心臓の手術のあとに隙間が残ってしまった方などが対象になります。年齢を問わず行われますが、大人になってから見つかって治療に至るケースも多くあります。
症状
- 突然の片側の手足の麻痺、口の曲がり、ろれつが回らない、言葉が出ない(脳卒中のサイン)
- 胸の強い痛みや締めつけられる感じが続く
- 息ができない、呼吸がとても苦しい
- 意識を失う、もうろうとする
- 処置した部位からの大量の出血
- 高熱と寒気、血圧の低下など、体の感染を疑う強い症状
- ⚠38度以上の発熱が続く(器具の感染を心配する症状です)
- ⚠カテーテルを入れた部位の腫れ、赤み、痛みが強くなる、膿のようなものが出る
- ⚠動悸が止まらない、脈がとても速い・乱れている
- ⚠息切れやむくみが急に悪化した
- ⚠原因不明の強いだるさや食欲低下が続く
一般的な症状
- まったく症状がない(健康診断や心エコーで偶然見つかることも多い)
- 少し動くと息が切れる、階段で息が上がる
- 疲れやすい、だるさが続く
- 動悸(心臓の鼓動が強く感じる、乱れる)
- 足のむくみ
- 片頭痛(特に卵円孔開存のある方でみられることがある)
- 原因がはっきりしない脳梗塞(手足の麻痺や言葉の出にくさ)を起こしたことがある
子供の症状
- 小児では生まれつきの穴(先天性)が多く、無症状のまま過ごすことも多いです
- 小さな穴は成長とともに自然に閉じることもあります
- 体重が増えにくい、哺乳のときに疲れる、息が速いといった様子が見られることがあります
- 小児の場合は小児循環器を専門とする医師が経過をみていきます
高齢者の症状
- 息切れやむくみを「年のせい」と思い込み、受診が遅れることがあります
- 心房細動を合併しやすく、脳梗塞の予防目的で左心耳を塞ぐ治療が検討されることがあります
- 加齢に伴い心臓の予備力が下がるため、症状が出やすいことがあります
- 複数の持病の薬を飲んでいることが多く、治療方針は全体を見ながら相談して決めます
原因
主な原因
- 生まれつき心臓の壁の仕切りが十分にできない(心房中隔欠損、心室中隔欠損など)
- 胎児のときに開いていた通り道(卵円孔)が生後閉じずに残る
- 心房細動により心臓の一部(左心耳)に血栓ができやすくなる
- 心臓の弁の手術や心臓の手術のあとに隙間が残る
リスク要因
- 先天性心疾患の家族歴がある
- 心房細動などの不整脈がある
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある
- 喫煙習慣がある
- 原因不明の脳梗塞を起こしたことがある
- 高齢である(心房細動や心臓の病気が増えるため)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 脳卒中のサイン(突然の麻痺、言葉の出にくさ、顔のゆがみ)があれば、ためらわず119番に連絡してください
- 胸の強い痛み、呼吸の苦しさ、意識が遠のく感じがあるとき
- 発熱が続く、処置した部位が赤く腫れて痛むとき
- 動悸や息切れが急にひどくなったとき
定期受診を予約すべき場合:
- 以前から息切れや疲れやすさがあり、だんだん強くなっている気がする
- 健康診断で心雑音や心電図の異常を指摘された
- 片頭痛が繰り返す、原因不明の脳梗塞を経験した
- 心房細動と診断され、治療の選択肢を相談したい
- 治療後の定期受診の予定が近づいている
診断
まず問診と診察、聴診で心臓の音を確認します。そこから心エコー(超音波で心臓の動きや穴の大きさを見る検査)で詳しく調べるのが一般的です。穴の位置や大きさ、血液の流れ方を確認し、カテーテル治療が適しているかを総合的に判断します。必要に応じて、のどから細い管を入れて心臓をより詳しく見る経食道心エコーや、心臓カテーテル検査が行われます。
行われる可能性のある検査
- 診察と聴診(心雑音の確認)
- 心電図(不整脈や心臓の負担をみる)
- 胸部X線(心臓の大きさや肺の状態をみる)
- 心エコー(経胸壁:胸の上から超音波で観察)
- 経食道心エコー(のどから細い管を入れて詳しく観察。器具の大きさを決めるのに役立ちます)
- 心臓カテーテル検査(心臓の中の圧や血液の流れを測る)
- CTやMRI(心臓の形を立体的に確認する)
- 血液検査、24時間心電図(動悸がある場合)
診察で予想されること
検査は一度にすべて行うのではなく、外来で少しずつ進めることが多いです。経食道心エコーはのどを麻酔して行うため、検査前の食事制限などの説明があります。結果が出るまで時間がかかることもあり、その間は不安な気持ちになるかもしれません。検査の意味や次に何をするのかを医師に確認しながら進めると安心です。
治療
治療が必要かどうかは、穴の大きさや位置、症状、脳梗塞のリスクなどを総合して決めます。症状がなく心臓への負担も小さい場合は、定期的に経過をみるだけですむこともあります。治療を行う場合は、脚の付け根などの血管からカテーテルを入れて器具を留置する方法が主流です。
自宅でのセルフケア
- 処方された薬は、自己判断で飲むのをやめたり量を変えたりしない
- カテーテルを入れた部位は清潔に保ち、医師の指示に従ってケアする
- 治療後しばらくは、激しい運動や重い物を持つことを控える(期間は医師に確認する)
- 歯科治療や抜歯の前には、心臓に器具が入っていることを必ず伝える
- 器具の種類がわかるカードや説明書を持ち歩き、MRI検査の可否を確認できるようにしておく
- 発熱や体調の変化を記録し、受診時に伝える
医療治療
中心となるのは、カテーテルを使って器具を穴や隙間に留置する治療です。全身麻酔ではなく、鎮静(うとうとした状態)で行われることが多く、入院期間も比較的短い傾向があります。治療の前後には、血液が固まりにくくなる薬(抗血栓薬)が使われることがあります。薬の種類や期間は、出血のリスクや持病に合わせて医師が決めます。心房細動のある方では、血栓ができやすい部分を塞ぐ治療が選ばれることもあります。治療後は、器具が正しく留置されているか、穴が塞がっているかを心エコーなどで定期的に確認します。
手術が検討される場合
穴が大きすぎる、位置が特殊でカテーテルでは届きにくい、他の心臓手術と同時に行う必要がある、といった場合には開胸による手術が検討されます。どちらの方法が適しているかは、心臓の状態を詳しく調べたうえで医師と相談して決めます。
この病気と共に生きる
治療後は、多くの方が数日のうちに普段の生活に戻っていきます。しばらくは治療した部位をいたわり、医師から指示された期間は激しい運動や重い物を持つことを控えます。器具は体内に残りますが、多くの方はその存在を意識せずに生活できるようになります。定期受診を続け、体調の変化があれば早めに相談することが安心につながります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を心がける(心臓と血管を守るために大切です)
- 血圧や体重、血糖値を定期的に確認する
- 睡眠を十分にとり、過労を避ける
- 風邪や感染症にかからないよう、手洗いなどの基本的な対策を続ける
- 歯の健康を保ち、歯科治療の前には器具のことを伝える
- 飲んでいる薬のリストを常に持ち歩く
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして野菜や魚をバランスよくとる形が基本です。運動は、治療後の回復に合わせて無理のない範囲から始めます。どのくらいの運動が可能かは穴の状態や治療からの期間によって違うため、退院前や外来で医師・リハビリ担当者に相談してください。ウォーキングなど体に負担の少ない運動から再開するのが一般的です。
精神的健康と心の健康
「心臓に器具が入っている」という事実に不安を感じたり、動悸や息切れがあるたびに心配になったりする方は少なくありません。そうした気持ちは自然なものです。不安が続いて眠れない、気分が落ち込む、日常が楽しめないと感じるときは、一人で抱え込まずに医師や看護師、家族に話してください。必要に応じて心の相談窓口(お住まいの地域の保健所や精神保健福祉センターなど)も利用できます。気持ちがとてもつらいとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口、緊急時は119番に連絡してください。
予防
生まれつきの心臓の穴(先天性)は、生活習慣で防ぐことはできません。一方で、心房細動や高血圧、糖尿病、喫煙といった心臓と血管に負担をかける要因を管理することは、合併症を防ぐうえで大切です。また、治療後に感染症を防ぐケアや定期的な受診も、安全に過ごすための「予防」になります。
ワクチン
心臓に病気のある方では、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンが勧められることがあります。接種の適否や時期は体の状態によって変わるため、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
先天性心疾患の家族歴がある場合や心雑音を指摘された場合は、心エコーなどの検査を早めに受けることが勧められます。治療後は、器具の状態を確認するために心エコーなどの定期検査が続きます。健診で心電図や心雑音の指摘があったら、そのままにせず相談しましょう。
合併症
治療しない場合
- 心臓に余分な負担がかかり続け、息切れやむくみなどの心不全症状が出ることがあります
- 肺の血管の圧が上がる肺高血圧につながることがあります
- 心房細動などの不整脈が起こりやすくなることがあります
- 脳梗塞(血液の塊が脳の血管を詰まらせる)のリスクが上がることがあります
- 器具や心臓の弁に感染が及ぶ心内膜炎のリスクが高まることがあります
長期的な見通し
多く方は治療によって症状が軽くなり、普段どおりの生活に戻っていきます。器具は体内で自分の組織に覆われ、時間とともに落ち着いていきます。定期的な受診を続けることで、状態を確認しながら安心して過ごせます。心配な症状があれば早めに相談することが、よい経過につながります。
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最終更新: 2026年11月3日
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