腹腔神経叢(ふくくうしんけいそう)ブロックとは
概要
腹腔神経叢(ふくくうしんけいそう)ブロックは、みぞおちから背中にかけての「奥のほうの強い痛み」をやわらげるための処置です。お腹の上のほうの臓器から出た痛みの信号は、腹腔神経叢とよばれる神経の束を通って脳へ伝わります。この神経の束のまわりに、細い針を使って痛みを伝えにくくする薬を注入します。すい臓(すい臓がんなど)の病気による痛みや、慢性すい炎で長く続く痛みがあるときに検討されます。手術ではなく、注射の処置です。
重要な事実
- 背中側から細い針を刺して行う処置で、日帰りや1泊程度の入院で受けられることが多いです
- 痛みの原因そのものを治す治療ではなく、痛みをやわらげて生活しやすくするための治療です
- 効果のあらわれ方や続く期間には個人差があり、数週間から数か月続くこともあります
- 痛みの原因に対する治療や、緩和ケア(痛みやつらさを和らげるケア)と組み合わせて行われます
日常的によく行われる処置ではありません。がんで強いお腹の痛みがある方や、慢性すい炎で長く痛みに悩んでいる方のうち、飲み薬や注射の痛み止めだけでは十分に楽にならない場合に検討される処置です。
主に、すい臓がんなど上腹部のがんによる痛みがある方、慢性すい炎による長く続く痛みがある方が対象になります。年齢を問わず検討されますが、小児ではほとんど行われません。
症状
- 処置のあと、意識がもうろうとする、会話がかみ合わない、呼びかけに反応が弱い
- 息が苦しい、胸が痛い、冷や汗がひどい
- 足に力が入らない、下半身がしびれて動かせない
- 高熱と激しい背中の痛みが同時に出た
- 立てないほどのふらつき、または失神した
- ⚠38度以上の発熱や寒気がある
- ⚠針を刺した場所が赤く腫れる、膿が出る、痛みが強い
- ⚠処置の前より痛みが強くなった
- ⚠水分がとれないほどの吐き気や嘔吐が続く
- ⚠おしっこが出にくい、お腹が張って排便がない
- ⚠立ちくらみが続く
一般的な症状
- この処置で和らげたい症状(処置の対象となる痛み)のみぞおちから背中にかけての、持続する強い痛み
- 痛みのため眠れない、食欲がわかない、体がだるい
- 痛み止めを使っても十分に楽にならない
- 体を丸めると少し楽になるような、体の奥深くからくる痛み
- 痛みが続くことで気分が落ち込む、不安になる
子供の症状
- 小児ではこの処置はほとんど行われません。小児で強い痛みがある場合は、小児科医や小児の痛み・緩和ケアを専門とするチームに相談することが大切です。
高齢者の症状
- 高齢の方は、処置のあとに血圧が下がりやすいことがあります。また、血液を固まりにくくする薬などを持病で使っている場合は、事前の調整が必要になることがあります。持病や飲んでいる薬はすべて医師に伝えてください。
原因
主な原因
- すい臓がんなど、上腹部の臓器のがんによる痛み
- 慢性すい炎による長く続く痛み
- 上腹部の臓器の病気にともなう、神経を通る強い痛み
リスク要因
- 血液を固まりにくくする薬を使っている(処置の前に調整が必要なことがあります)
- 発熱や感染がある、体調がすぐれない
- 血圧が低い、脱水がある
- 処置を受ける姿勢がとりにくい(強い痛み、肥満、背中の手術歴など)
- 痛みや不安が強く、処置中にじっとしているのがつらい
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 処置のあとに高熱が出た、寒気がする
- 針を刺した場所の腫れや赤みが広がる、膿のようなものが出る
- 痛みが急に強くなった、痛み止めを使っても改善しない
- 足のしびれや力が入りにくさがある
- 水分がとれない、尿が出ない
定期受診を予約すべき場合:
- 処置の効果が感じられない、または効果が切れてきた気がする
- 眠れない、食欲がない状態が続いている
- 痛みについての不安や気分の落ち込みが続いている
- 処置後に受ける予定の診察の時期がきた
診断
この処置は病気を見つけるための「診断」ではなく、痛みを和らげるための治療です。ただし行う前に、痛みの原因や痛みの出ている場所、体の状態を確かめるための診察と検査があります。痛みの強さや性質、日常生活への影響をくわしく聞いてもらえます。
行われる可能性のある検査
- 問診(痛みの場所、強さ、いつからか、どんなときに強くなるか)
- 血液検査(出血しやすくないか、感染や腎臓の働きの確認)
- CT検査や超音波検査(神経の位置と、針を進める道すじの確認)
- 必要に応じてMRI検査
- 飲んでいる薬(特に血液を固まりにくくする薬)の確認
- 血圧や脈拍の測定、体調の確認
診察で予想されること
多くの場合、うつ伏せか横向きに寝て、背中から細い針を刺します。X線やCTの画像で針の位置を確かめながら進めます。処置そのものは15〜30分ほどで、日帰りか1泊程度の入院で行われます。腕から点滴をして、血圧や痛みの変化を見守ります。処置中はリラックスして、痛みやしびれ、気分の悪さがあればすぐに声をかけてください。
治療
腹腔神経叢ブロックは、痛みの原因そのものを治す治療ではなく、痛みを和らげて眠ったり食べたりしやすくするための治療です。がんの治療や慢性すい炎の治療と並行して行われます。効果のあらわれ方や続く期間には個人差があり、一度で十分でない場合は繰り返すこともあります。
自宅でのセルフケア
- 処置の当日は安静にし、指示があるまで運転や力仕事、入浴は避ける
- 立ちくらみを防ぐため、急に立ち上がらず、ゆっくり動く
- 食事や水分は、医療者の指示に従って少しずつ再開する
- 痛みの強さや時間、眠れたかどうかを簡単にメモしておき、次の診察で伝える
- 発熱や強い痛みなど気になる症状があれば、自己判断せず医療機関に連絡する
医療治療
処置では、痛みの信号を伝えにくくする薬を、神経のまわりに注入します。痛みをより長く抑えたい場合には、神経の働きを長く抑える方法が選ばれることもあります。どの方法がよいかは、体の状態や痛みの原因をみて医師が判断します。処置の前後には、飲んでいる痛み止めやそのほかの薬、サプリメントについて必ず医師や薬剤師に伝えてください。薬の名前や量はここではお伝えしません。主治医と相談して決めてください。
手術が検討される場合
この処置は手術ではなく、針を使った処置です。痛みの原因そのものに対する手術や、別の治療が適していると判断される場合もあります。どの選択肢が自分に合うかは、主治医や緩和ケアチームと話し合って決めていけます。
この病気と共に生きる
処置のあとは、痛みがどう変わったかを観察しながら、無理のない範囲で普段の生活に戻していきます。痛みが軽くなると、眠りや食欲が戻る方も多くいます。反対に、思ったほど変わらないこともあります。どちらの場合も、感じたことをそのまま医療者に伝えることが次の工夫につながります。
生活習慣のアドバイス
- 食事は決まった時間に、無理のない量をとる
- 禁煙を心がけ、飲酒は控えめにする(主治医の指示に従ってください)
- 散歩など、体調に合わせた軽い運動を続ける
- 睡眠を大切にし、痛みで眠れないときは早めに相談する
- 痛みや体調の記録をつけ、診察のときに見せられるようにする
食事と運動
一度にたくさん食べるとお腹が張ったり痛みが出たりすることがあるため、少量ずつ回数を分けて食べると楽なことがあります。脂っこい食事で調子が悪くなる場合は、主治医や管理栄養士に相談してください。運動は、散歩や軽いストレッチなど、息が上がらない程度から始めましょう。痛みが強い日は無理をせず休んでください。
精神的健康と心の健康
長く続く痛みは、気持ちを疲れさせます。眠れない、涙が出る、何も楽しめない、不安が消えないという状態は、弱さではなく、痛みとともに生活している人によくあることです。がまんせずに医療者に話してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口、救急(119)に連絡してください。
予防
この処置で和らげたい痛みの多くは、病気そのものから来るもので、生活習慣だけで完全に防ぐことは難しいものです。ただ、処置にともなうトラブルは、飲んでいる薬を正確に伝えること、処置後の注意を守ることで減らせます。痛みをがまんせず、早めに相談することも大切です。
ワクチン
この処置に直接関係するワクチンはありません。ふだんの予防接種については、主治医や地域の医療機関に相談してください。
検診プログラム
この処置のための特別な検診はありません。痛みの原因となっている病気については、主治医の指示に従って定期的な検査を受けてください。
合併症
治療しない場合
- 痛みが続くことで、眠れない、食べられない状態が長引き、体力が落ちることがあります
- 痛みによるつらさから、気分の落ち込みや不安が強くなることがあります
- 痛みのため動くのがおっくうになり、日常生活の活動が減ることがあります
- 家族や身近な人の負担が大きくなることがあります
長期的な見通し
多くの方で、処置のあとに痛みが軽くなり、眠ったり食べたりしやすくなったと報告されています。効果のあらわれ方や続く期間は人によってさまざまで、思うようにいかない場合もありますが、そのときは別の方法を組み合わせることができます。処置を受けるかどうかも含め、主治医や緩和ケアチームと一緒に、あなたに合った痛みのコントロールを探していけます。
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最終更新: 2026年11月3日
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