複雑大動脈手術(胸部・腹部の大きな血管の手術)
概要
大動脈は、心臓から全身へ血液を送り出す、体の中でいちばん太い血管です。複雑大動脈手術は、この大動脈にできた「こぶ(動脈瘤)」や「血管の壁の裂け(解離)」、または血管が詰まったり狭くなったりする病気に対して行う手術です。特に「複雑」と呼ばれるのは、心臓にとても近い場所や、脳・腕・内臓・腎臓・脚へ枝分かれする血管まで病気が及んでいる場合です。病気の部分を人工の血管(人工血管)に取りかえる方法や、カテーテルという細い管を使って血管の中に補強材を入れる方法などがあり、体への負担や回復の早さがそれぞれ違います。
重要な事実
- 大動脈の病気は初期にはほとんど症状がなく、健診やCT検査で見つかることが多いものです。
- 手術をするかどうかは、こぶの大きさや育つ速さ、症状の有無、そして心臓・肺・腎臓などの全身の状態を合わせて決めます。
- 手術の方法は一つではなく、開胸・開腹して行う手術、カテーテルを使う方法、両方を組み合わせる方法などから、あなたに合ったものが選ばれます。
高血圧などが原因の大動脈のこぶ(動脈瘤)は、めずらしい病気ではありません。ただ、その中でも心臓に近い場所や枝分かれした血管まで及ぶ「複雑」な手術が必要になる人は、全体から見ると限られています。
症状
- 突然起こった、引き裂かれるような激しい胸や背中の痛み(緊急のサインです)
- 意識がもうろうとする、気を失う、会話がかみ合わない
- 冷や汗がひどく出る、顔色が悪い、脈が弱く速い
- 突然の片側の手足の麻痺、ろれつが回らない、物が二重に見える(脳への血流が悪くなったサイン)
- 強い呼吸困難、息ができない
- ⚠以前とは違う、新しく出た胸や背中、おなかの痛み
- ⚠声のかすれや飲み込みにくさが急に始まった
- ⚠数日〜1〜2週間で症状がはっきり悪くなってきた
- ⚠発熱をともなう血管の病気を指摘されたことがあり、熱や痛みが出た
一般的な症状
- 多くの場合、症状はほとんどありません( silent な病気と呼ばれます)。
- 胸や背中、おなかに、重い・押されるような痛みを感じることがあります。
- 息切れや動悸を感じることがあります。
- 血管が近くの器官を圧迫すると、声のかすれ、飲み込みにくさ、咳が続くことがあります。
- おなかの部分に、拍動(脈打つ感じ)するしこみを自分で触れることがあります。
子供の症状
- 子どもではとてもまれです。
- 生まれつきの結合組織の病気(マルファン症候群など)や心臓の病気がある場合は、定期的な検査が大切です。
- 胸の痛み、息切れ、体重が増えない、疲れやすいといった症状があれば、小児科の医師に相談してください。
高齢者の症状
- 加齢とともに痛みを感じにくくなり、症状が出たときには病気が進んでいることがあります。
- 「年のせい」と思いがちな息切れや疲れやすさも、一度相談してみてください。
- 複数の病気(高血圧、腎臓病、肺の病気など)が重なっていると、症状の出方が変わることがあります。
原因
主な原因
- 動脈硬化(血管の壁が硬く、もろくなること)によって血管の壁が弱り、こぶができたり裂けたりします。
- 長く続く高血圧が、血管の壁に負担をかけ続けることが大きな原因になります。
- 生まれつき結合組織が弱い病気(マルファン症候群など)では、若い年齢でも大動脈の病気が起こります。
- 感染や外傷(事故など)が原因になることもありますが、まれです。
- 大動脈弁の形の生まれつきの違い(二尖弁など)が関係することもあります。
リスク要因
- 高血圧(いちばん大きな要因の一つです)
- 喫煙(たばこは血管の壁を直接傷つけます)
- 年齢(特に50歳以上)
- 家族に大動脈瘤や大動脈解離の人がいる
- 脂質異常症(コレステロールなどが多い状態)
- 動脈瘤を以前に指摘されたことがある
- マルファン症候群などの結合組織の病気
- 強い力仕事や急に力むことが多い生活、激しい体重の変動
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の激しい胸・背中の痛みや、意識がはっきりしない状態 → ためらわずに119番へ連絡してください。
- 新しい痛みが続く、症状が急に悪くなった、発熱をともなう痛みがある → その日のうちに医療機関へ。
- 片側の手足が動かない、言葉が出にくい → すぐに救急要請を。
定期受診を予約すべき場合:
- 健診や人間ドックで「大動脈が太い」「要精査」と言われた
- 家族に大動脈瘤・大動脈解離・突然死の人がいる
- 血圧が高いと言われたことがある、または治療を中断している
- 胸や背中に、なんとなく続く違和感や圧迫感がある
- 手術を受けたあとで、傷の違和感や体調の変化が気になる
診断
まず問診と診察で、症状の出方や今までの病気、家族の病史、血圧の状態をうかがいます。その後、大動脈の形や大きさ、裂けの有無を画像で確認します。手術が必要かどうかは、画像の結果と、心臓・肺・腎臓などの働きを合わせて総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- 造影剤を使ったCT検査(血管の形を立体的に調べる、いちばん大切な検査の一つです)
- 心臓や腹部の超音波(エコー)検査
- MRI・MRA検査(造影剤を使えない方にも行えます)
- 胸部レントゲン検査
- 心電図、心臓の超音波検査(手術に耐えられるか心臓の状態を調べます)
- 血液検査(腎臓や肝臓の働き、炎症の有無を確認します)
- カテーテル検査(冠動脈や血管の細かい様子を調べる必要がある場合)
診察で予想されること
CT検査では、造影剤を注射してから撮影します。注射のときに体が温かく感じたり、軽い気持ち悪さが出たりすることがありますが、多くはすぐに落ち着きます。腎臓の状態によっては造影剤を使わない方法を選ぶこともあります。検査結果は数日でまとまることが多く、担当医から画像を見ながら説明を受けます。不安なことは、遠慮なく質問してください。
治療
治療は「見守る」「薬で負担を減らす」「手術で取りかえる・補強する」の3つを組み合わせて考えます。こぶが小さく症状がなければ、定期的な画像検査と血圧の管理で経過を見ることが多いです。こぶが大きい、育つスピードが速い、症状がある、裂けてしまった(解離)といった場合は手術を検討します。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(手術前でも手術後でも、いちばん効果の大きい一歩です)
- 自宅で血圧を測って記録し、通院時に医師に見せる
- 処方された薬を、自己判断で中止したり量を変えたりしない
- 塩分を控えめにし、体重を適正に保つ
- 便秘や激しい力みを避ける(いきむと血圧が大きく上がります)
- 決められた通院・検査の予定を守る
- 手術後は、医師の指示に従って徐々に体を動かす
医療治療
手術をしない場合や、手術までの間に、血管への負担を減らす治療を行います。血圧を下げる薬や、コレステロールを下げる薬、血液を固まりにくくする薬などが用いられることがありますが、どの薬が必要かは、あなたの血圧・腎臓の働き・他の病気との組み合わせで変わります。薬の内容や量は必ず担当医の指示に従い、自己判断で変えないでください。手術には、開胸・開腹して人工血管に取りかえる方法、脚の付け根などの血管からカテーテルを入れて補強材を留置する方法、両方を組み合わせる方法があります。
手術が検討される場合
こぶの大きさが一定以上になったとき、短い期間に大きく育ってきたとき、胸や背中の症状が続くとき、血管の壁が裂けた(解離)とき、内臓や脚への血流が悪くなっているときなどに手術を検討します。ただし、年齢や他の病気による全身の状態も大切にしながら、あなたにとっての利益と負担のバランスで決めていきます。
この病気と共に生きる
手術のあとは、しばらく通院と検査が続きます。傷の痛みや疲れやすさは少しずつ良くなっていくのがふつうですが、回復のスピードには個人差があります。仕事や家事、運転の再開時期は、手術の方法や体の状態によって違うため、必ず担当医に確認してください。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(必要なら禁煙外来の利用も相談してください)
- お酒はほどほどにし、医師に量を確認する
- 睡眠を十分にとり、無理のない範囲で体を動かす
- 血圧を毎日記録する習慣をつける
- 風邪や感染症をこじらせないよう、体調管理を心がける
- 重い物を持ち上げる、力む動作は、術後しばらくは控える
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして、野菜・魚・大豆製品などをバランスよくとる和食スタイルがおすすめです。加工食品や汁物の塩分にも気を配りましょう。運動は、医師の許可が出てから、ウォーキングなど軽い有酸素運動を無理のない範囲で始めます。息が上がるほど強く動くことや、急に走る・重い物を持つといった動作は、まずは避けてください。何をどこまでしてよいかは、リハビリの担当者や医師に具体的に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
大きな手術を経験すると、「また倒れたらどうしよう」「傷が開かないか」といった不安や、眠りにくさ、気分の落ち込みが起こることがあります。これは特別なことではなく、体が大きな出来事を経験したときの自然な反応です。ご家族も同じように不安を抱えていることが多いので、気持ちを話し合う時間をつくってみてください。つらさが続くときは、かかりつけ医や病院の相談窓口、地域のこころの健康相談に相談してください。気持ちがとてもつらいとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわず救急(119番)や地域の緊急窓口を利用してください。
予防
大動脈の病気を完全に防ぐことはできませんが、血管にやさしい生活を続けることで、リスクを下げたり進行をゆるやかにしたりできる可能性があります。特に禁煙と血圧の管理は大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎などの予防接種は、感染症を防ぎ、心臓や血管への負担を減らす助けになることがあります。手術の前後や、心臓・血管の病気がある方には勧められることがありますので、接種の時期や可否は担当医に相談してください。
検診プログラム
血圧測定はすべての大人にとって基本的なチェックです。家族に大動脈の病気の人がいる場合や、高血圧を指摘されている場合は、超音波やCTなどの画像検査を含めた定期的なチェックについて医師に相談してみてください。健診での「要精査」をそのままにしないことが大切です。
合併症
治療しない場合
- こぶが大きくなり、血管の壁が破れる(破裂)危険があります。
- 血管の壁の裂け(解離)が広がり、心臓や脳、内臓への血流が悪くなることがあります。
- 心不全や心筋梗塞など、心臓の合併症を起こすことがあります。
- 脳への血流が悪くなり、脳梗塞を起こすことがあります。
- 腎臓や腸、脚への血流が悪くなり、それぞれの臓器の働きが落ちることがあります。
長期的な見通し
大動脈の手術は技術が大きく進歩しており、適切なタイミングで治療を受け、術後も通院と生活管理を続けることで、多くの方が社会復帰されています。手術には一定のリスクがあることも事実ですが、担当医はあなたの全身の状態をよく見たうえで方法を選び、安全に進めようとします。心配なことは、遠慮なく何度でも医療者にたずねてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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