胸部大動脈瘤と血管内ステントグラフト治療(TEVAR)
概要
胸部大動脈瘤(きょうぶだいどうみゃくりゅう)は、胸の中を通っている大動脈——心臓から全身へ血液を送り出す、体でいちばん太い血管——の壁が弱くなり、風船のようにふくらんだ状態です。ふくらんだ部分は、大きくなると破裂(血管がやぶれること)を起こすことがあるため、大きさを見ながら治療を考えます。 血管内ステントグラフト治療(TEVAR:ティーバー)は、胸を大きく開かないで行う治療法です。足の付け根の血管から細い管(カテーテル)を入れ、人工血管がついた「ステントグラフト」という筒状の器具を、ふくらんだ部分にぴったり留置します。血液が瘤の中に流れ込まなくなることで、破裂の危険を下げます。
重要な事実
- 胸部大動脈瘤は、多くの場合、症状がないまま健康診断や画像検査で見つかります。
- 血管内ステントグラフト治療(TEVAR)は、胸を大きく開かずに行う手術です。体への負担が比較的少ない方法として広がっています。
- 治療が必要かどうかは、瘤の大きさ、大きくなる速さ、症状、体全体の状態を合わせて決めます。
- 治療のあとも、定期的な画像検査と血圧管理を続けることが大切です。
胸部の大動脈瘤は、おなかの部分(腹部)の大動脈瘤に比べると数は少なめです。ただ、高齢化や画像検査の普及にともない、見つかる人は増えています。
50〜60代以降の男性に多くみられます。喫煙、高血圧、動脈硬化、家族歴のある方、マルファン症候群など生まれつき血管の壁が弱い体質(結合組織の病気)のある方は、より注意が必要です。若い方や子どもでは非常にまれです。
症状
- 突然の、今までにない激しい胸の痛み、背中の痛み(引き裂かれるような痛み)
- 冷や汗、顔色が悪い、意識がもうろうとする
- 急な息苦しさ、呼吸ができない感じ
- 片側の手足の力が入らない、しびれる
- 以上の症状は、破裂や大動脈解離(血管の壁が裂けること)のサインの可能性があります。ためらわずに119番へ連絡してください。
- ⚠胸や背中の違和感が数日続く
- ⚠声がれや飲み込みにくさが新しく出てきた
- ⚠原因のわからない発熱が続く(感染の可能性)
- ⚠血圧がいつもより高い状態が続く
一般的な症状
- ほとんどの方は無症状です。健康診断や、別の病気の検査のときに見つかることが少なくありません。
- 胸や背中に、なんとなく重い感じや違和感がある
- 声がかすれる、咳が続く(ふくらんだ部分が神経や気管を圧迫したとき)
- 食べ物が飲み込みにくい
- 胸の痛みや背中の痛みが続く
子供の症状
- 小児ではとてもまれです。
- マルファン症候群など、生まれつき結合組織が弱い体質の子に見つかることがあります。
- 多くは症状がなく、成長を見ながら定期的に検査を続けることが多いです。
高齢者の症状
- 動脈硬化や高血圧が進むため、リスクが高くなります。
- 痛みなどの症状が出にくく、気づかないまま大きくなることがあります。
- ほかの持病の薬を飲んでいることが多いので、治療法は体全体の状態を見て選びます。
原因
主な原因
- 動脈硬化(血管の壁が硬く、もろくなること)
- 高血圧(血管の壁に長く強い圧がかかり続ける)
- マルファン症候群などの結合組織の病気(生まれつき血管の壁が弱い)
- けが(外傷)、感染、血管の炎症
リスク要因
- たばこを吸っている、または昔吸っていた
- 血圧が高い
- コレステロールが高い、糖尿病がある
- 家族に大動脈瘤や大動脈解離の人がいる
- 50代以降である
- 男性である
- 肥満、運動不足
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の激しい胸や背中の痛みがある → 迷わず119番に連絡してください
- 胸の違和感、声がれ、飲み込みにくさが新しく出てきた
- 発熱が続く、体がだるい状態が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断や人間ドックで胸部の異常を指摘された
- 家族に大動脈瘤や大動脈解離の人がいる
- 血圧が高いと指摘されている
- 喫煙歴があり、50代以上である
- 動悸や息切れなど、気になる症状が続いている
診断
症状がないことが多いため、画像検査で見つかることがほとんどです。造影CT(血管を強調して撮るCT)で、瘤の場所、大きさ、形、まわりの血管との関係をくわしく調べます。
行われる可能性のある検査
- 造影CT検査(大きさと形を正確に測る、いちばん大切な検査)
- 胸部レントゲン(健康診断で最初の手がかりになることがあります)
- 心臓エコー検査(心臓の動きや弁の状態を見る)
- MRI検査(腎臓の機能が気になるときなど、CTの代わりに使うことがあります)
- 血液検査(貧血や炎症、腎臓の働きなどを確認)
診察で予想されること
診察では、これまでの病気、飲んでいる薬、喫煙歴、家族歴などを聞かれます。CT検査は10〜20分ほどで、途中で息を止める時間があります。結果は数日から1〜2週間ほどで説明されます。瘤の大きさと、大きくなる速さによって、次の検査の時期や治療の必要性が決まるので、決められた間隔で通い続けることが大切です。
治療
治療の方向は、瘤の大きさ、大きくなる速さ、症状の有無、体全体の状態を合わせて決めます。小さいうちは定期的な画像検査で見守りながら、血圧と生活習慣を整えます。大きくなって破裂の危険が高まったら、手術を考えます。手術には、胸を開いて人工血管に取りかえる方法(開胸手術)と、カテーテルで行う血管内ステントグラフト治療(TEVAR)があります。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(家族やまわりの人の煙も避ける)
- 血圧をこまめに測って記録する
- 処方された薬を、自己判断でやめたり減らしたりしない
- 決められた時期に画像検査を受ける
- 塩分を控えめにして、バランスよく食べる
- 無理のない範囲で体を動かす
- 便秘で強くいきむのを避ける(血圧が上がりやすいため)
- 発熱や体調の変化に気づいたら、早めに医師に伝える
医療治療
血圧を下げる薬やコレステロールを下げる薬などを使って、血管にかかる負担を減らし、瘤が大きくなるスピードをゆるやかにすることがあります。薬の種類や量は、あなたの血圧や腎臓の状態、ほかの持病を見て医師が決めます。飲み方を自己判断で変えず、気になることがあれば薬剤師や主治医に相談してください。
手術が検討される場合
瘤が大きくなってきたとき(大きさの目安は場所によって異なり、おおむね5〜6cm前後といわれます)、半年で5mm以上大きくなる、症状がある、破裂や解離の危険が高い、といった場合に手術を考えます。血管内ステントグラフト治療は胸を大きく開かないため体への負担が少ない方法ですが、瘤の形や場所、血管の状態によっては適さないことがあります。開胸手術とどちらがよいかは、心臓血管外科の医師とよく相談して決めます。治療のあとも、定期的な画像検査を続ける必要があります。
この病気と共に生きる
治療を受けた方も、経過を見ている方も、日常生活のほとんどは今までどおり続けられます。血圧を測る習慣をつけ、体調の変化に気を配りながら、無理のないペースで過ごしましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(吸いたくなったときの対処法をあらかじめ決めておくと安心です)
- お酒はほどほどにする
- 十分な睡眠と休息をとる
- 寒い日の朝は血圧が上がりやすいので、急に体を動かさない
- 重い物を持つなど、力む動作はほどほどにする
- 決められた通院を、予定どおりに続ける
食事と運動
塩分を控えめにして、野菜、魚、大豆製品などをバランスよくとりましょう。加工食品や汁物の塩分にも気を配るとよいです。運動は、散歩や軽いストレッチなど、話しながらできる程度のものを毎日少しずつ。息が上がるような強い運動や、急に始める激しい運動は、主治医に相談してからにしましょう。
精神的健康と心の健康
「血管がふくらんでいる」と言われると、不安や怖さを感じるのは自然なことです。検査のたびにどきどきする、夜眠れない、つい考えすぎてしまう、といったこともあります。ひとりで抱え込まず、家族や友人、医療者に気持ちを話してみてください。つらさが続くときは、心のケアの専門家に相談することもできます。もし自分を傷つけたい気持ちがわいてきたら、すぐに119番、またはお住まいの地域の救急相談窓口に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、血管をいたわる生活でリスクを下げることはできます。とくに禁煙は大切です。血圧をきちんと管理し、コレステロールや血糖値にも気を配りましょう。
ワクチン
この病気に直接効くワクチンはありませんが、心臓や血管の病気がある方は、インフルエンザや肺炎のワクチンについて主治医に相談するとよいでしょう。
検診プログラム
症状がなくても、喫煙歴がある方、血圧が高い方、家族に大動脈瘤の人がいる方は、胸部の画像検査(エコーやCT)について主治医に相談してみてください。日本では、特定健診(メタボ健診)で血圧、脂質、血糖をチェックできます。胸部レントゲンだけでは小さな瘤が見つかりにくいこともあるため、気になる場合は診察で伝えましょう。
合併症
治療しない場合
- 破裂(血管がやぶれて、命に関わることがあります)
- 大動脈解離(血管の壁が内側から裂ける)
- 瘤がさらに大きくなる
- 血栓ができて、手足や内臓の血管が詰まる
- まわりの神経や気管、食道を圧迫して、声がれ、飲み込みにくさ、咳が出る
- 感染を起こす(まれですが、発熱が続くときは注意)
長期的な見通し
胸部大動脈瘤は、多くの方が定期的な検査で安定した状態を保っています。治療が必要になっても、血管内ステントグラフト治療は体への負担が比較的少なく、良好な結果が報告されています。禁煙と血圧管理、そして決められた通院を続けることが、いちばんの近道です。心配なことは、ひとりで抱えずに主治医に相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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