心臓移植
概要
心臓移植は、薬や手術では助けることが難しくなった重症の心不全(心臓が血液を十分に送り出せなくなった状態)の患者さんに、ドナー(臓器を提供してくださる方)の心臓を移植する治療です。日本では、臓器移植法という法律に基づいて、脳死と判定された方やご家族の承諾のもとで行われます。移植は「最後の手段」というより、心臓の働きを立て直し、ふたたび日常生活を取り戻すための選択肢のひとつです。
重要な事実
- 心臓移植は、心臓の働きが大きく低下した人のための治療で、手術そのものより「移植までの待機」と「移植後の長期のフォロー」がとても大切です。
- 日本ではドナーの数が限られているため、待っている間に補助人工心臓(心臓の働きを機械で助ける装置)を使うことがあります。
- 移植後は、体が新しい心臓を異物とみなして攻撃しないよう、免疫を抑える薬を続ける必要があります。定期的な通院が生活の一部になります。
心臓移植は決して多い治療ではありません。日本ではドナーが限られているため、移植を受けられる方はごくわずかです。ただ、心不全で移植を検討する方は一定数おられ、評価や待機のための体制は各地の施設で整えられています。
心不全が進み、薬や他の治療では改善が見込みにくい方が対象になります。若い方から高齢の方まで幅はありますが、年齢だけでなく、他の病気の有無、体の状態、生活の支えなどを総合して判断されます。生まれつきの心臓病や心筋症などで移植が必要になるお子さんもいます。
症状
- 息が苦しくて話せない、横になれない、顔色が青白い
- 胸の強い痛みや圧迫感が続く
- 意識がもうろうとしている、気を失った
- 脈がとても速い、または極端に遅いと感じ、ふらつく
- ⚠数日のうちに体重が急に増えた、むくみが強い
- ⚠夜眠れないほどの息苦しさがある
- ⚠動悸や脈の乱れが続いて落ち着かない
- ⚠いつもの薬を飲めていない、体調がいつもと明らかに違う
一般的な症状
- 少し動いただけで息が切れる、階段の上り下りがつらい
- 疲れやすく、からだがだるい
- 足や顔、おなかがむくむ
- 横になると息苦しく、夜中に咳こんで目が覚める
- 動悸がする、脈が乱れる感觉がある
- 食欲がわかない、食べるとすぐおなかが張る
- 体重が急に増える(数日で1〜2kg以上)
子供の症状
- おっぱいやミルクを飲む量が減る、飲みながら息が上がる
- 体重が増えにくい、成長の曲線から外れる
- 汗をたくさんかく、顔色が青白い
- 遊びたがらない、すぐに疲れて休む
- 呼吸が速い、息をするたびにおなかや胸がへこむ
高齢者の症状
- 息苦しさよりも「なんとなく元気が出ない」「食欲がない」として現れることがある
- 足のむくみや体重の増加が目立ちやすい
- 夜中にトイレに起きる回数が増える
- 持病の薬の飲み合わせや、他の病気の影響で症状が分かりにくくなることがある
原因
主な原因
- 拡張型心筋症など、心臓の筋肉そのものが弱くなる病気
- 心筋梗塞のあとに心臓の筋肉が傷つき、働きが落ちた状態(虚血性心筋症)
- 心臓の弁の病気が長く続いたことによる心不全
- 生まれつきの心臓病(先天性心疾患)
- 心筋炎(ウイルスなどによる心臓の炎症)のあとの心機能低下
- 重い不整脈が長く続くことによる心臓の弱り
リスク要因
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を放置している
- 喫煙、過度の飲酒
- 冠動脈の病気や心筋梗塞の既往
- 心臓病の家族歴
- 一部の抗がん剤治療や放射線治療のあと
- ウイルス感染による心筋炎の既往
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 短い期間で体重が増え、むくみや息苦しさが強くなってきた
- 安静にしていても息が上がる、夜に何度も起きてしまう
- 動悸や脈の乱れが続く、ふらついて立っていられない
- かぜのような症状のあと、急に息苦しさが出現した
定期受診を予約すべき場合:
- 最近、階段や坂道が前よりつらくなった
- 足のむくみが夕方に強くなる、朝になっても引かない
- 疲れやすさが数週間続いている
- 移植の待機中で、体調の変化を相談したい
- 移植後の通院で、気になる症状や生活の不安がある
診断
心臓移植が必要かどうかは、ひとつの検査で決まるものではありません。心臓の働き、症状の重さ、他の治療で改善する見込み、体の状態や生活の支えなどを、循環器科・心臓外科・看護師・心理職などがチームで話し合って総合的に判断します。移植を希望される場合は、移植を行う施設で評価を受け、国の決まりに沿って登録されます。
行われる可能性のある検査
- 心エコー(超音波で心臓の動きや弁の状態を見る検査)
- 心電図、24時間心電図(脈の乱れを調べる)
- 血液検査(心臓に負担がかかっているかの目安や、他の臓器の状態を見る)
- 胸部レントゲン、心臓カテーテル検査(心臓の中の圧や血管の詰まりを調べる)
- 心肺運動負荷試験(運動したときの息と心臓の余力を調べる)
- 移植の適応をみるための検査(感染症の有無、がんの検査、歯や鼻のどの状態の確認など)
- 心理面・社会的な状況の聞き取り(ご家族の支えや生活環境も含めて)
診察で予想されること
評価には複数回の通院と、いくつかの検査が必要です。待ち時間が長く感じられることもありますが、それは安全に移植を受けるための大切な準備です。検査の結果や今後の見通しは、遠慮なく医師や看護師に質問してください。
治療
心臓移植は、心不全の治療の流れの中のひとつの選択肢です。まずは薬による治療や、生活の工夫、必要に応じて心臓の働きを助ける装置などが検討されます。それでも息苦しさや日常生活の制限が強い場合に、移植が話し合われます。
自宅でのセルフケア
- 毎日、体重と血圧を同じ条件で測って記録する(体重の急な増加は体に水分がたまっているサインです)
- 塩分を控えめにし、水分量は医師の指示に従う
- かぜや感染症を防ぐため、手洗い・うがい・人混みを避ける工夫を心がける
- 禁煙し、飲酒は医師に相談する
- 無理のない範囲で体を動かし、筋力を保つ
- 処方された薬は自己判断で中止したり量を変えたりしない
- 発熱や息苦しさなど、いつもと違う変化は早めに連絡する
医療治療
心不全に対しては、心臓の負担を減らす薬や、尿と一緒に余分な水分を出す薬などが、その方の状態に合わせて組み合わされます。薬の種類や量は医師が調整するもので、自分で判断して変えないことが大切です。必要に応じて、心臓の動きを助けるペースメーカーや植込み型の機器、補助人工心臓(心臓のポンプの働きを機械で助ける装置)が使われることがあります。移植後は、体が新しい心臓を攻撃しないようにするための免疫を抑える薬を続け、感染症や合併症を早く見つけるために定期的な通院と検査を行います。
手術が検討される場合
移植は、移植施設での評価と登録を経て、適合するドナーが見つかったときに行われます。待っている間、状態によっては補助人工心臓を使って心臓の負担を減らしながら待つことがあります。手術の時期や方法は、担当のチームが個別に説明します。
この病気と共に生きる
移植を待つ間も、移植を受けたあとも、「毎日の小さな記録」がとても役に立ちます。体重・血圧・症状・服薬を記録し、通院時に見せると、体の変化に早く気づけます。移植後は通院の回数が多く、生活のリズムを整えることが大切になります。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と食事のリズムを保つ
- 感染症予防のために手洗いを習慣にし、予防接種は医師と相談して受ける
- 日光にあたる時間を長くしすぎない(移植後は皮膚の健康にも気を配ります)
- たばこを避け、受動喫煙にも気をつける
- 体調に合わせた無理のない運動を続ける
- 移植を受けたことや服薬について、必要に応じて周囲の人に伝えておく
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、バランスよく食べることが基本です。移植後は免疫を抑える薬の影響で、血糖や血脂、体重の変化が起こりやすくなるため、主治医や管理栄養士と相談しながら内容を調整します。運動は、リハビリの専門職と相談して、散歩など無理のない範囲から始めましょう。息苦しさや動悸があれば中止し、医師に伝えてください。
精神的健康と心の健康
移植を待つ期間は、不安やいらだち、先が見えないつらさが続くことがあります。ドナーとそのご家族への思いを抱えて気持ちが重くなる方も少なくありません。移植後も、気分の落ち込みや眠りにくさが続くことがあります。これは弱さではなく、誰にでも起こりうることです。つらいときは一人で抱えず、医療チームの看護師や心理職、地域の相談窓口に話してみてください。気持ちが追い詰められている、自分を傷つけたい気持ちがわいた、というときは、すぐに医療機関や地域の緊急の相談先に連絡してください。
予防
心臓移植そのものを「予防する」ことはできませんが、心臓移植が必要になるほど心不全が進むのを遅らせることはできます。血圧・血糖・血脂を整える、禁煙する、適正な体重を保つ、心臓の病気を早めに治療することが大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎などの予防接種は、心臓や肺への負担を減らすうえで役立ちます。移植前後の接種のタイミングは治療の内容によって変わるため、必ず主治医と相談して決めてください。
検診プログラム
定期的な健診で血圧・血糖・血脂を確認し、心臓の病気が疑われたら心エコーなどの検査を受けることが、早期発見につながります。心不全と診断されている方は、通院を途切れさせないことが何よりの予防になります。
合併症
治療しない場合
- 心不全が進行し、息苦しさやむくみで日常生活が大きく制限される
- 危険な不整脈が起き、突然命を落とす危険がある
- 腎臓や肝臓など、他の臓器の働きが悪くなる
- 入退院を繰り返すようになる
長期的な見通し
心臓移植は、重症の心不全の方にとって、命と生活の質を取り戻す可能性のある治療です。移植後の経過は多くの方で改善が期待できますが、免疫を抑える薬を続ける必要があり、感染症や合併症の管理が欠かせません。待機中の方も、補助人工心臓や薬での治療を続けながら、次の一歩を準備することができます。主治医とよく話し、不安な点はそのつど確かめながら進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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