心臓の弁の手術(弁形成・弁置換)
概要
心臓には、血液を一方通行で流すための「弁」が4つあります。弁が硬く狭くなって血液が通りにくくなる状態を「狭窄(きょうさく)」、きちんと閉まらず血液が逆に流れてしまう状態を「逆流(閉鎖不全)」といい、まとめて「心臓弁膜症」と呼びます。弁の働きが悪くなると、心臓はその分だけ余計に働き続け、だんだん疲れてしまいます。心臓弁の手術は、こわれた弁をできるだけ元の形に近づける「弁形成術」と、人工の弁に取りかえる「弁置換術」の2つが中心です。
重要な事実
- 弁膜症は放っておくと「心不全」(心臓がポンプとして働きにくくなった状態)に進むことがありますが、手術で症状の改善が期待できます。
- 手術には、胸を開いて行う方法と、足の付け根の血管などからカテーテル(細い管)を入れて行う方法があります。
- 手術のあとは定期的な診察が必要で、人工弁の種類によっては血液が固まりにくくなる薬を続けることがあります。
日本では高齢化にともない、心臓弁膜症の人が増えています。とくに大動脈弁が硬く狭くなるタイプは70代以上でよく見られ、決して珍しい病気ではありません。
高齢の方に多い病気ですが、生まれつき弁の形に異常がある方は若い頃から、またリウマチ熱という感染症の後遺症で弁が傷む方もいます。年齢や性別を問わず起こりえます。
症状
- 突然の強い息苦しさ、息ができない感じ、冷汗
- 胸を押しつぶされるような強い痛みが続く
- 意識を失う、倒れて反応が悪い(失神)
- 顔や唇が青白い、爪の色が青っぽい
- ろれつが回らない、片側の手足が動かない、会話がかみ合わない(脳梗塞のサイン)
- ⚠数日のうちに息切れがはっきり悪化した
- ⚠足のむくみが急に強くなった、体重が短期間に増えた
- ⚠動悸が止まらない、脈が不規則に感じる
- ⚠発熱が続く(弁に細菌がつく感染の可能性があります)
- ⚠横になると息苦しく、座らないと眠れない
一般的な症状
- 階段や坂道での息切れ、動いたときの息苦しさ
- 疲れやすい、少し動くとだるい
- 動悸(心臓の鼓動が強く、速く感じる)、胸の不快感
- 足のむくみ、夕方になると靴がきつくなる
- 横になると息苦しく、枕を高くしないと眠りにくい
- めまい、立ちくらみ、意識が遠のく感じ
- 乾いた咳が出る(特に横になったとき)
子供の症状
- 生まれつきの弁の異常では、症状がないこともあります
- 息が速い、哺乳(母乳やミルクを飲むこと)が途中で止まる
- 体重が増えにくい、元気がない
- 唇や爪の色が青っぽく見える(緊急のサイン)
- 走るなど運動したときにすぐ息が上がる
高齢者の症状
- 加齢で弁が硬くなるタイプでは、坂道や階段で息が切れる、少し動くと疲れる
- 立ちくらみや失神(一瞬意識がなくなること)
- 胸の痛み、締めつけられる感じ
- 進行すると、安静にしていても息苦しくなる
- 食欲低下や体重の変化として現れることもある
原因
主な原因
- 加齢による弁の変化(硬くなる、石灰化する)
- 生まれつき(先天性)の弁の形の異常
- リウマチ熱という感染症の後遺症で弁が傷む
- 感染性心内膜炎(細菌が弁について傷める)
- 心筋梗塞などで弁を支える部分がゆるむ
- 高血圧や動脈硬化による心臓への負担
リスク要因
- 高齢であること
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールが高い状態)
- リウマチ熱にかかったことがある
- 家族に弁膜症や心臓病の人がいる
- 歯や皮膚の感染症を放置したことがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の息苦しさ、胸の強い痛み、意識を失うなどの症状があるときは、ためらわず救急(119)を呼んでください
- 数日で息切れやむくみが悪化している
- 発熱が続く、動悸が止まらない
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断の聴診で「心雑音がある」と言われた
- 階段で息が切れる、足がむくむなどが続いている
- 家族に弁膜症の人がいる
- 手術を受けたあとで、体調に変化を感じる
診断
まず問診と聴診(胸に聴診器を当てて心臓の音を聞くこと)から始まります。弁に異常があると「心雑音」という音が聞こえることがあります。確定の中心になるのは心臓超音波検査(エコー)で、痛みも放射線もなく、弁の形や血液の流れを映像で見ることができます。
行われる可能性のある検査
- 心臓超音波検査(エコー):弁の狭さや逆流の程度、心臓の動きを調べる
- 心電図:不整脈や心臓の電気の流れを調べる
- 胸部レントゲン:心臓の大きさや肺の状態を見る
- 血液検査:心臓に負担がかかっていないか、感染がないかを見る
- 心臓カテーテル検査:手術の前に詳しく調べる
- CT・MRI:弁や血管の形を詳しく見る
- 運動負荷検査:動いたときの体の反応を調べる
診察で予想されること
検査の多くは外来で受けられ、1回の受診でおおよその見当がつくこともあります。手術を考える場合は、入院してさらに詳しい検査を行うことがあります。検査の前に不明な点は遠慮なく医療スタッフに聞いてください。
治療
症状が軽く心臓への負担が小さいうちは、定期的な検査で見守ることがあります。薬で心臓の負担を減らしながら、弁の状態が進んで日常生活がつらくなってきたときに手術を検討します。手術の方法は、年齢や体の状態、生活スタイルをふまえて医師と相談して決めます。
自宅でのセルフケア
- 毎日同じ条件(朝、トイレのあとなど)で体重を測り、記録する
- 塩分を控えめにして、むくみや息苦しさを招かないようにする
- 禁煙する(受動喫煙も避ける)
- 歯みがきや入れ歯の手入れを丁寧に行い、感染を防ぐ
- 風邪や肺炎を防ぐため、手洗い・うがいを習慣にする
- 処方された薬を自己判断でやめたり減らしたりしない
- 息切れやむくみの変化をメモし、受診時に伝える
医療治療
薬物治療では、血圧を下げる、体内の余分な水分(むくみ)を減らす、心臓の働きを助けるなどして、心臓の負担を軽くします。ただし、硬くなった弁や傷んだ弁そのものを薬で元に戻すことはできません。手術のあとは、人工弁の種類によって、血液が固まりにくくなる薬を続ける場合があります。また、歯科治療の前に細菌感染を防ぐための薬を使うことがあります。薬の内容や量は自己判断で変えず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
息切れや胸の痛みなどの症状がある、心臓の動き(心機能)が低下している、弁の狭窄が高度である、といった場合に手術が検討されます。胸を開く手術のほかに、カテーテル(細い管)を使って行う負担の少ない方法が選べることもあります。高齢の方でも体の状態に合わせた方法が検討されます。
この病気と共に生きる
手術のあとは、体力が戻るまで数週間から数か月かかります。傷の痛みは少しずつ軽くなります。通院日を守り、体調の変化を記録しながら、無理のない範囲で日常生活を取り戻していきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける
- 毎日の体重測定と血圧の記録
- 十分な睡眠と休養をとる
- 感染予防(手洗い・うがい・歯のケア)を続ける
- 運動や旅行、車の運転の再開は、必ず医師に相談してから
- 薬は指示どおりに続ける。飲み忘れがあったときの対応も事前に確認しておく
- 息苦しさや動悸を感じたら無理をせず休む
食事と運動
食事は塩分を控えめにするのが基本です。味噌汁や漬物、加工食品、外食には塩分が多いので意識して減らしましょう。野菜や魚、良質なたんぱく質をバランスよくとります。運動は、医師に相談しながら散歩など無理のない範囲から始めます。息切れが強いときは中止して休み、回復の様子を見ながら少しずつ増やしていきます。
精神的健康と心の健康
手術の前は「このままで大丈夫だろうか」という不安がつきものです。手術のあとは「元の生活に戻れるのか」「また倒れたらどうしよう」という心配が出やすくなります。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、涙が出る、何も楽しめない、といった状態があれば、一人で抱えずに相談してください。つらい気持ちが強いときは、かかりつけ医や地域の相談窓口、救急(119)を頼ってください。
予防
加齢による弁の変化は完全には防げませんが、血圧を整える、禁煙する、歯のケアで細菌感染を防ぐ、リウマチ熱をきちんと治療するなどで、リスクを下げられる場合があります。生活習慣病の管理も心臓全体を守ることにつながります。
検診プログラム
健康診断の聴診で心雑音を指摘されたら、症状がなくても早めに医療機関を受診しましょう。高齢の方は、かかりつけ医での定期的な診察が早期発見の助けになります。厚生労働省も生活習慣病の予防と健診の大切さを伝えています。
合併症
治療しない場合
- 心不全(心臓がポンプとして働きにくくなり、息苦しさやむくみが続く状態)
- 不整脈(心房細動など、脈が乱れる状態)
- 感染性心内膜炎(細菌が弁について重症化することがある)
- 失神や突然の危険な状態
- 脳梗塞(心臓でできた血の塊が脳の血管を詰まらせる)
長期的な見通し
心臓弁の手術は技術が大きく進歩しており、多くの方が症状の改善と社会復帰を果たしています。高齢の方でも体の状態に合わせた方法が選べます。手術のあとも定期的な通院を続けることで、長く安定した生活が期待できます。不安なことは、そのつど医療チームに相談しながら進めていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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