股関節表面置換術(ヒップリサーフェシング)
概要
股関節表面置換術(ヒップリサーフェシング)は、股関節の軟骨がすり減って痛みが続くときに検討される手術のひとつです。太ももの骨(大腿骨)の先にあるボール状の部分を「骨頭(こっとう)」といい、その付け根を「骨頸部(こつけいぶ)」といいます。人工股関節全置換術では骨頭と骨頸部を切り取って人工物に置き換えますが、表面置換術では骨頭と骨頸部をできるだけ残したまま、傷んだ表面だけを削って金属のキャップをかぶせます。骨を温存できるため、術後の動きが保たれやすい、脱臼(関節がはずれること)が起きにくい、将来別の手術が必要になったときの選択肢が残る、といった利点が期待されます。一方で、骨の形や骨密度によって向き・不向きがはっきり分かれる手術で、日本では人工股関節全置換術のほうが一般的です。
重要な事実
- 骨頭(ボール状の部分)を残して表面だけを覆う手術で、人工股関節全置換術とは方法が異なります。
- 比較的若く、活動的な方に検討されることが多い手術です。
- 骨の形・骨密度・腎臓の働き・年齢などで「向き・不向き(適応)」が決まり、すべての方に使える方法ではありません。
日本では人工股関節全置換術がとても多く行われており、股関節表面置換術は限られた施設で行われる比較的少ない手術です。海外では一定の割合で行われてきましたが、国や施設によって取り組みの差が大きいのが現状です。
主な対象として検討されるのは、股関節の軟骨が傷んで強い痛みがある、比較的若い世代(おおむね50歳前後まで)の方です。海外の報告では男性に多い傾向があります。ただし日本人の変形性股関節症は、生まれつき股関節の受け皿が浅い「寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)」が原因のことが多く、このタイプでは表面置換術が向かない場合があります。年齢だけで決まるものではなく、骨の状態を詳しく調べて判断されます。
症状
- 急な息切れ、胸の痛み、呼吸の苦しさ(手術後は血のかたまりが肺の血管を詰まらせる危険があります)— すぐに119番
- 突然の激しい股関節の痛みで足が動かせない、脚の向きがおかしい(脱臼の可能性)
- 手術した傷から膿(うみ)が出る、傷の周りが大きく腫れて熱を持つ、高熱が続く
- 転倒して立てない、足が変形している
- 意識がもうろうとする、顔色が悪く汗が出る
- ⚠38度前後の発熱が続く、傷の赤みや腫れが広がっている
- ⚠ふくらはぎの痛み・腫れ・赤み(血のかたまりができている可能性)
- ⚠痛み止めを使っても日常生活が難しいほどの痛み
- ⚠手術した側の脚のしびれや力が入らない感じ
一般的な症状
- 歩き始めや立ち上がるときの股関節の痛み
- 長く歩くと痛くなり、休むと楽になる
- 脚の付け根(そけい部)やおしりの痛み
- 足を横に開く、靴下をはくなどがしにくい(動きの制限)
- 歩くときに体が左右に揺れる、足を引きずる感じがある
- 夜間や安静時にも痛むことがある
- 痛みで眠りが浅くなる、気分が落ち込む
子供の症状
- 小児期にこの手術が行われることは通常ありません
- 子どもの股関節の痛みや歩き方の変化は、別の病気(成長に関わるものなど)の可能性があるため、早めに小児科や整形外科に相談してください
高齢者の症状
- 高齢の方では骨密度が低いことが多く、表面置換術の適応になりにくい傾向があります
- すでに別の病気(腎臓の病気など)がある場合は、金属の影響を考えて別の方法が選ばれます
- 痛みで動けなくなり、筋力や体力が落ちてしまう前に相談することが大切です
原因
主な原因
- 股関節の軟骨が長い時間をかけてすり減る「変形性股関節症」
- 生まれつき股関節の受け皿が浅い状態(寛骨臼形成不全)による関節の傷み
- リウマチなどの炎症性の病気による関節の破壊
- 骨頭の血流が悪くなって骨が弱る「骨頭壊死(こっとうえし)」
- けが(骨折や脱臼)のあとに起こる関節の傷み
- 表面置換術そのものは病気の治療法であり、原因ではありません。手術を検討する背景には、こうした股関節の傷みがあります
リスク要因
- 年齢(比較的若い世代ほど検討されやすい)
- 体重が重いことによる股関節への負担
- 生まれつきの股関節の形(寛骨臼形成不全など)
- ステロイド薬の長期間の使用歴、飲酒の習慣(骨頭壊死と関連)
- 喫煙(傷の治りや合併症に影響します)
- 骨密度が低いこと、腎臓の働きが低下していること
- 仕事やスポーツで股関節に繰り返し負担がかかる環境
- 過去の股関節のけがや手術の経験
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手術後に息切れ・胸の痛み・呼吸の苦しさが出たとき(救急対応が必要です)
- 手術した傷の赤み・腫れ・膿・高熱があるとき
- 突然歩けなくなった、脚の向きが変わった、激痛があるとき
- ふくらはぎの腫れや痛みがあるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 股関節の痛みが数週間以上続く、少しずつ悪くなっている
- 歩く距離が短くなった、階段の上り下りがつらい
- 靴下をはく、爪を切るなどの動作がしにくくなった
- 痛みで睡眠がとれない、気分が落ち込んでいる
- 手術を検討したい、ほかの治療法と比べたい
診断
まず問診と診察で、痛みの出方・歩き方・股関節の動きを確認します。そのうえで画像検査を行い、軟骨の減り具合や骨の形を調べます。表面置換術が向いているかどうかは、画像に加えて骨密度や持病(腎臓の働きなど)も含めて総合的に判断されます。診断はあくまで医師が行うもので、患者さん自身が決める必要はありません。
行われる可能性のある検査
- 問診・診察(痛みの場所、動きの制限、歩き方の確認)
- 股関節のレントゲン検査(軟骨の減り具合、骨の形をみる)
- MRI検査(軟骨や骨の状態、骨頭壊死の有無を詳しくみる)
- CT検査(骨の形を立体的に確認する)
- 血液検査(炎症の有無、腎臓の働き、全身の状態を確認)
- 骨密度検査
診察で予想されること
診察は1回で終わらず、画像検査の結果を待ってから方針を話し合うことが一般的です。手術を検討する場合は、人工股関節全置換術との違いや、それぞれの利点・注意点を担当医から詳しく説明してもらえます。納得いくまで質問し、必要であれば家族や支援者と一緒に聞くことをおすすめします。
治療
治療は、手術を急ぐ前に、まず痛みを和らげて動きを保つ方法から始めるのが一般的です。運動療法や生活の工夫で状態が保てることも多く、手術はあくまで選択肢のひとつです。手術を選ぶ場合も、表面置換術と人工股関節全置換術のどちらが合うかを、骨の状態や生活スタイルを踏まえて相談します。
自宅でのセルフケア
- 体重を適正に保ち、股関節への負担を減らす
- 太ももやおしりの筋肉を無理のない範囲で鍛える(いすに座っての運動など)
- 痛みが強いときは杖を使い、歩く量を調整する
- 長距離を一度に歩かず、こまめに休む
- 禁煙する(傷の治りや全身の血流に良い影響があります)
- 湯たんぽや温めることで筋肉の緊張をやわらげる(腫れが強いときは冷やす)
- 靴の左右差や高さを整え、つまずきにくい環境をつくる
- 自宅の段差を減らす、手すりを付けるなどの環境調整
医療治療
医療機関では、リハビリテーション(運動療法)や生活指導を中心に、必要に応じて痛みを和らげる薬が医師の判断で使われます。薬の種類や量は体の状態によって変わるため、自己判断で使わず、医師や薬剤師に相談してください。手術を検討する場合は、骨の状態を詳しく調べたうえで、表面置換術か人工股関節全置換術かを選びます。手術後は、痛みの管理とリハビリテーションを組み合わせて回復を目指します。手術には感染、血のかたまり(血栓)、脱臼、神経や血管の損傷などのリスクがあり、事前に説明を受けられます。
手術が検討される場合
手術は、痛みで日常生活(歩行、入浴、睡眠、仕事)が著しく妨げられ、運動療法や生活の工夫で十分な改善が得られない場合に検討されます。表面置換術は、骨頭と骨頸部を残せること、骨の質が保たれていること、腎臓の働きに問題がないことなど、いくつかの条件を満たす方に限られます。若い方では将来の再手術の可能性も含めて、長い目で相談することが大切です。
この病気と共に生きる
手術を受けた場合は、入院中からリハビリテーションが始まり、退院後も通院しながら徐々に動ける範囲を広げていきます。回復の速さには個人差が大きく、数か月かけて少しずつ良くなっていくのがふつうです。日常生活では、急な動きや高い衝撃のかかる動作を控え、体の声を聞きながら活動量を調整しましょう。手術をしない場合も、痛みと上手に付き合いながら動く習慣を保つことが、状態を長く安定させる助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で毎日体を動かし、筋力を保つ
- 長時間同じ姿勢を避け、こまめに立ち上がる
- 重い物を抱えての移動は、台車や家族の力を借りる
- 転倒予防のため、家の中の整理整頓と照明の確保を心がける
- 飲酒はほどほどに(骨や回復に影響します)
- 禁煙を続ける
- 定期的な受診を欠かさず、変化があれば早めに相談する
食事と運動
食事は、たんぱく質・カルシウム・ビタミンDを意識して、骨と筋肉を支える内容を心がけましょう。塩分や糖分のとりすぎに注意し、体重管理につなげます。運動は、痛みのない範囲でのウォーキング、水中歩行、自転車(固定式)、椅子に座っての筋力運動などが取り組みやすい方法です。強い痛みが出たら中止し、量や内容は主治医や理学療法士に相談しながら調整してください。
精神的健康と心の健康
股関節の痛みや手術は、思うように動けないもどかしさ、仕事や家事への不安、将来への心配など、こころの負担につながることがあります。これは特別なことではなく、多くの方が経験します。気持ちが晴れない日が続くときは、一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に話してみてください。つらい状態が続く場合は、地域の相談窓口や医療機関で相談できます。
予防
股関節表面置換術そのものを防ぐというより、手術が必要になるほど股関節の傷みが進むのを遅らせることが目標になります。適正体重を保つ、筋力を維持する、けがを避ける、股関節の違和感を早めに相談することが役立ちます。手術を受ける場合は、禁煙や口腔ケア、血糖値の管理などが合併症の予防につながります。歯科治療を受ける前には、手術の履歴を歯科医に伝えて相談してください。
検診プログラム
決まった健診はありませんが、股関節の痛みや歩き方の変化が続く場合は、早めに整形外科で診てもらうことが大切です。骨密度検査や股関節のレントゲン検査は、状態を知る手がかりになります。
合併症
治療しない場合
- 股関節の痛みが強くなり、歩ける距離が短くなる
- 筋力が落ち、立ち上がりや階段がつらくなる
- 関節の動きが制限され、靴下をはく・爪を切るなどが難しくなる
- 歩き方が変わり、腰や膝への負担が増える
- 転倒しやすくなる
- 痛みで睡眠や気分が乱れる
- 状態が進むと、より大きな手術が必要になることがある
長期的な見通し
股関節の痛みは、運動療法や生活の工夫で和らぐことも多く、手術はあくまで選択肢のひとつです。表面置換術を受けた方の多くは、リハビリテーションを重ねることで日常生活の動作が楽になっていきます。回復には個人差があり、時間がかかることもありますが、あせらず一歩ずつ進んでいけば大丈夫です。気になることはその都度、担当医や看護師、理学療法士に相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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