下腹神経叢ブロック(骨盤の痛みを和らげる注射)
概要
下腹神経叢ブロック(かふくしんけいそうブロック)は、おなかの下のほう(骨盤の中)の慢性的な痛みをやわらげるために行う注射の治療です。骨盤の中には「下腹神経叢」という、内臓の痛みを脳に伝える神経の集まりがあります。ここに細い針を刺して、痛みの信号を伝わりにくくする薬を注入します。治療そのものは30分ほどの処置で、日帰りで受けられることが多い治療です。痛みを完全になくすというより、痛みの強さを下げて生活しやすくすることを目指します。効果の続く期間は数日から数週間、人によっては数か月続くこともあります。
重要な事実
- 骨盤の中の神経の集まりに薬を注入して、内臓の慢性的な痛みをやわらげる治療です。
- X線やCTで針の位置を確かめながら行うので、比較的安全に行える処置です。
- 効果には個人差があり、続く期間も数日から数か月までさまざまです。
- 効果が続かない場合でも、ほかの痛みの治療と組み合わせて考えていくことができます。
慢性の骨盤の痛みに対する治療のひとつとして、痛みの専門外来などで行われています。ただし、すべての痛みに必要な治療ではなく、痛みの原因やこれまでの治療の経過をみて、担当の医師が適しているかどうかを判断します。
がんで骨盤の中に痛みがある方、子宮内膜症(子宮の内側に似た組織がほかの場所にできる病気)による痛みが続く方、慢性骨盤痛症候群(はっきりした原因が見つかりにくい骨盤の長引く痛み)、膀胱(ぼうこう)や直腸の慢性的な痛みで悩んでいる方などが対象になります。年齢や性別を問わず検討されますが、妊娠中の方は事前に必ず医師に伝えてください。
症状
- 息が苦しい、胸が痛い、意識がぼんやりする
- 注射した部分が大きく腫れて、皮膚の色が黒っぽく変わる
- 両脚が動かせない、力がまったく入らない
- 尿が出ない状態が続き、おなかが張って苦しい
- ⚠38度以上の発熱がある
- ⚠注射した部分の赤みや腫れが広がっている、膿のようなものが出ている
- ⚠これまでにない強い痛みが続く
- ⚠脚のしびれや力の入りにくさが半日以上続く
- ⚠排尿しづらい、おなかが張る
一般的な症状
- 下腹部の奥のほうが、ずきずき・しめつけられるように痛む
- 腰やおしりのあたりに広がるような重い痛みがある
- 座っているときや排便・排尿のときに痛みが強くなることがある
- 痛みが長く続き、眠りや仕事、家事に影響が出る
- 痛み止めの薬だけでは十分に楽にならない
子供の症状
- 小児ではこの治療が行われることはまれです。
- 子どもの長引くおなかの痛みは、まず小児科で原因を調べることが大切です。
- 子どもの痛みは本人が言葉にしにくいことがあるため、様子の変化を大人が記録しておくと役立ちます。
高齢者の症状
- 高齢の方は、痛み以外に持病や飲んでいる薬が多く、処置の前に確認することが増えます。
- 血を固まりにくくする薬を使っている場合は、いったん休む必要があることがあるため、必ず医師に伝えてください。
- 足のしびれや排尿の変化など、処置後の変化に気づきにくいことがあるので、家族の見守りがあると安心です。
原因
主な原因
- がんで骨盤の中の臓器や神経が圧迫されたり侵されたりすることによる痛み
- 子宮内膜症や子宮の病気による、繰り返す骨盤の痛み
- 慢性骨盤痛症候群のように、はっきりした原因が見つかりにくい長引く痛み
- 膀胱や直腸、肛門の慢性的な痛み
- 手術や治療のあとに続く痛み
リスク要因
- 痛みが3か月以上続いている
- 痛み止めの薬やこれまでの治療で十分な効果が得られていない
- 痛みのために眠れない、気分が落ち込むなど、生活の質が下がっている
- 血を固まりにくくする薬を使っている、または出血しやすい状態がある(処置の前に相談が必要です)
- 妊娠中、または妊娠の可能性がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 処置のあとに38度以上の発熱が出た
- 注射した部分の赤み・腫れ・痛みがどんどん強くなる
- 脚のしびれや力の入りにくさが続く
- 尿が出にくい、おなかが張って苦しい
- 痛みが以前より強くなり、日常生活が保てない
定期受診を予約すべき場合:
- 治療の効果がどのくらい続いたかを知りたい
- 痛みの性状(痛む場所や時間帯、きっかけ)が変わってきた
- 痛み止めの使い方や、ほかにできる治療を知りたい
- 痛みで眠れない、気分が沈む日が続いている
- 次の治療をどうするか相談したい
診断
この治療は「病気を診断する」ためのものではなく、長引く痛みに対して適しているかどうかを判断して行います。まず問診と診察で、痛みの場所・性質・期間・これまでの治療を確かめ、画像検査で骨盤の中の状態を確認します。そのうえで、この治療が合いそうかを担当の医師が総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診と診察(痛みの場所、痛み方、睡眠や生活への影響を聞きます)
- 画像検査(CT・MRI・超音波などで骨盤の中の状態を確認します)
- 血液検査(出血しやすさや体の状態を確認します)
- 試験的な注射(少量の薬で痛みがどう変わるかを見て、効果を予想することがあります)
- 痛みの記録(痛み日記)をもとにした評価
診察で予想されること
処置は、うつ伏せの姿勢で行うことが多く、X線やCTで針の位置を確かめながら進めます。注射の前に、痛みを感じにくくするための処置をします。針を刺すときに一瞬痛みを感じることがありますが、処置そのものは30分ほどで終わることが多いです。終わったあとはしばらく休んでから帰宅でき、日帰りで受けられることがほとんどです。処置のあとは、自分で車の運転をせず、できれば家族などに付き添ってもらうと安心です。
治療
下腹神経叢ブロックは、痛みの信号を伝えにくくする薬を骨盤の中の神経の集まりの周りに注入する治療です。痛みを完全になくすのではなく、痛みの強さを下げて、眠る・食べる・動くといった日常生活がしやすくなることを目指します。効果には個人差があり、続く期間もさまざまです。効果が限られている場合は、繰り返し行うことや、ほかの痛みの治療と組み合わせることが検討されます。
自宅でのセルフケア
- 処置の当日は、激しい運動や長湯、飲酒を避け、担当の医師の指示に従って過ごす
- 注射した部分は清潔に保ち、強くこすったり温めたりしない
- 処置のあとの痛みの変化を記録しておくと、次回の相談に役立つ
- 飲んでいる薬(特に血を固まりにくくする薬)は、自己判断で止めず、必ず医師に伝える
- 痛みでつらいときは我慢せず、早めに医療機関に連絡する
医療治療
痛みの治療は、ひとつの方法だけに頼らず組み合わせて行います。痛み止めの薬を上手に使うこと、体を動かすリハビリ、温める・休めるなどの工夫、睡眠や気分のケア、痛みの専門外来での相談などが組み合わされます。神経ブロックにもいくつかの種類があり、痛みの場所や原因に合わせて選ばれます。薬の種類や量は、体の状態や持病に合わせて医師が決めるため、自己判断で量を変えたり、人から勧められた薬を使ったりしないでください。
手術が検討される場合
下腹神経叢ブロックは手術ではなく、針を使う侵襲(体への負担)の少ない処置です。ただし、痛みの原因となっている病気そのものに対する手術や治療が必要と判断される場合は、担当の医師から別途説明があります。
この病気と共に生きる
痛みは、その日の体調や気温、睡眠、ストレスによっても揺れ動きます。痛みが弱い時間帯に何ができたかを記録しておくと、自分に合った過ごし方が見つけやすくなります。予定を詰め込みすぎず、休む時間を先に確保しておくと、生活が安定しやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で体を動かし、長時間同じ姿勢を続けない
- 睡眠を十分にとれるよう、寝る前の過ごし方を整える
- 痛みや体調を簡単なメモに残し、受診のときに見せられるようにする
- 温める・冷やすなど、自分が楽になれる方法を見つけておく
- 一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に話す
食事と運動
決まった食事法が痛みを治すわけではありませんが、バランスよく食べて便秘を防ぐことは、骨盤の痛みを悪化させにくくする助けになります。水分もこまめにとりましょう。運動は、痛みのない範囲で歩く・軽いストレッチをするなど、続けられるものを少しずつ行うのがおすすめです。始める前に、担当の医師や理学療法士に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
長く続く痛みは、気分の落ち込み、不安、眠れないことなどにつながることがあります。それは弱さではなく、痛みとともに暮らす誰にでも起こりうることです。つらい気持ちが続くときは、早めに医療者に話してください。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口、救急(119)に連絡してください。
予防
この治療そのものを「予防する」という考え方はありません。大切なのは、痛みの原因となる病気の早期発見と、痛みが長引いたときに早めに相談することです。痛みを我慢し続けると、生活の質が下がり、回復しにくくなることがあります。
検診プログラム
痛みの原因となる病気の中には、決められた検診で早く見つけられるものがあります。自治体のがん検診など、対象年齢に応じた検診を定期的に受けることが、結果として痛みの予防や早期対応につながります。
合併症
治療しない場合
- 痛みが長引き、睡眠や食欲、気分に影響が出ることがあります
- 動くのがおっくうになり、体力や筋力が落ちることがあります
- 仕事や家事、人とのつきあいが減ってしまうことがあります
- 処置を受けない場合に限らず、処置後も、注射した部分の内出血・腫れ・痛み、一時的な脚のしびれや排尿しづらさ、気分の変化が起こることがあります(多くは一時的ですが、必ず医師に伝えてください)
長期的な見通し
下腹神経叢ブロックは、長引く骨盤の痛みとつきあっていくための選択肢のひとつです。効果の感じ方や続く期間には個人差がありますが、痛みが少しやわらいで眠れた、動けた、という変化が生活の支えになります。効果が限られている場合でも、薬の調整やリハビリ、心理的なサポートなど、組み合わせられる方法はいくつもあります。あせらず、担当の医療者と一緒に、自分に合ったやり方を見つけていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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