植込み型除細動器(ICD)— 突然の不整脈から心臓を守る装置
概要
植込み型除細動器(ICD)は、心臓のすぐ近く、多くは鎖骨の下の皮下に植え込む小さな医療機器です。心臓の電気の流れを24時間見張り、命に関わる危険な不整脈(心室細動や心室頻拍など、心臓がけいれんのように震えて血液を送れなくなる状態)が起きたときに、電気ショックなどで心臓を正常なリズムに戻します。ICDは「不整脈を治す薬」ではなく、「命を落とす瞬間を食い止める安全装置」と考えるとわかりやすいでしょう。
重要な事実
- ICDは不整脈そのものを治すものではなく、危険な不整脈が起きたときに命を守るための装置です。心臓病そのものの治療は、別に続けていく必要があります。
- 植え込みは、多くは局所麻酔と鎮静を使って1〜2時間ほどで行われ、数日間の入院が一般的です。術後は患部を安静にします。
- 作動(ショック)は突然起こり、痛みを伴うことがあります。作動したら、日時・そのときの状況・体の感じ方を記録し、医療機関に連絡してください。一度の作動で慌てる必要はありませんが、記録が次の診療に役立ちます。
誰もが持つ装置ではありませんが、特別に珍しいものでもありません。心筋梗塞のあとや心不全、遺伝性の不整脈など、突然死のリスクが高いと判断された人には、日本でも広く使われるようになっています。
心臓のポンプの働きが低下している人、危険な不整脈が実際に起きたことのある人、遺伝性の不整脈(ブルガダ症候群やQT延長症候群など)と診断された人とそのご家族などが対象になります。年齢は子どもから高齢者まで幅広く、小児では体が小さいため別のタイプの装置が選ばれることもあります。
症状
- 意識を失って倒れた、けいれんした
- ICDが作動したあと、意識が戻らない、ぐったりしている、息苦しい
- 短い間に何度も作動(ショック)が続いている
- 胸の強い痛み、冷や汗、呼吸が苦しくて横になれない
- 脈が触れない、呼吸がない(心肺停止)— すぐに119番に電話し、指示に従って胸骨圧迫を始めてください
- ⚠強い動悸が長く続いて止まらない
- ⚠ふらつき・めまいを繰り返す
- ⚠ICDが1回作動したが、その後は元気に見える(当日中に医療機関へ連絡)
- ⚠植込み部位の腫れ・赤み・痛みが強くなる、発熱がある(感染の可能性)
- ⚠植込み部位から出血や分泌物がある
一般的な症状
- 動悸(心臓がドキドキする、脈が速い・脈が乱れる)
- めまい・ふらつき・立ちくらみ
- 失神(一瞬から数秒、意識を失って倒れる)
- 息切れ、胸の苦しさ
- 胸の不快感や痛み
- 疲れやすさ、階段や坂で息が上がる
- 症状がまったくないこともある(健康診断の心電図で見つかることも多い)
子供の症状
- 運動中や入浴中、驚いたときに倒れる・意識を失う
- 動悸を「胸が変」「ドキドキする」と表現する
- 家族に若くして倒れた人・突然亡くなった人がいる
- 学校の心電図検査で異常を指摘される
- 運動を極端に嫌がる、疲れやすい
高齢者の症状
- 立ちくらみやふらつきを「年のせい」と思いがち
- 脈が飛ぶ、脈が速いと言われる
- 坂道や階段で息が切れる、横になると息苦しい
- 足のむくみや体重の急な増加(心不全のサイン)
- なんとなくだるい、食欲がない
原因
主な原因
- 心筋梗塞(心臓の血管が詰まる病気)のあと、心臓の筋肉が傷んで電気の流れが乱れやすくなる
- 心筋症(心臓の筋肉そのものの病気)や心不全で、心臓の働きが低下している
- 遺伝性の不整脈(ブルガダ症候群、QT延長症候群、肥大型心筋症など)
- 心臓の弁の病気や生まれつきの心臓病
- まれに、電解質の異常など心臓以外の原因で危険な不整脈が起きることがある
リスク要因
- 心臓病の既往(心筋梗塞、心不全、心筋症など)
- 家族に若くして突然亡くなった人、遺伝性の不整脈の人がいる
- 心臓超音波検査で心臓のポンプ機能の低下を指摘されたことがある
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などの生活習慣病
- 大量の飲酒、脱水、極端な疲労(一時的な不整脈の引き金になることがある)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- ICDが作動した(ショックを感じた)
- 失神した、倒れた、気が遠くなった
- 動悸が長く続く、ふらつきが繰り返す
- 植込み部位の発熱・腫れ・痛み・出血
定期受診を予約すべき場合:
- 決められた定期外来(装置の点検)の受診
- 動悸や息切れ、むくみが増えてきた
- 新しい薬が始まった、他の病気で手術や検査を受けることになった
- 旅行・引っ越し・運転・運動について相談したい
- 不安や気分の落ち込みが続いている
診断
ICDが必要かどうかは、心臓の電気の流れと心臓のポンプの働きを調べたうえで、循環器の専門医が総合的に判断します。危険な不整脈が記録されたか、失神があったか、心臓の働きの数値、家族歴などを組み合わせて検討します。一度の検査で決まるとは限らず、時間をかけて話し合うこともあります。
行われる可能性のある検査
- 安静時心電図 — 心臓の電気の流れを波形で確認します
- ホルター心電図 — 24時間から数日間、日常の中の不整脈を記録します
- 心臓超音波検査(エコー)— 心臓の形とポンプの働きを調べます
- 心臓カテーテル検査・冠動脈造影 — 心臓の血管の詰まりを調べます
- 電気生理学的検査 — 心臓の内側から電気の流れを詳しく調べます
- 血液検査 — 電解質や心臓への負担、貧血などを確認します
- 遺伝子検査やご家族の心電図検査(必要に応じて)
診察で予想されること
検査は日帰りでできるものから数日間の入院が必要なものまであります。検査の前に、何のために行うのか、痛みや時間の目安を医師や看護師に確認しておくと安心です。結果は説明の場でゆっくり聞き、わからない言葉はその場で質問しましょう。
治療
ICDの治療は二本柱です。ひとつは「危険な不整脈を起こしにくくする治療」、もうひとつは「起きてしまったときに命を守る装置」です。両方を組み合わせることで、突然死のリスクを下げながら日常生活を続けていきます。
自宅でのセルフケア
- 植込み部位を清潔に保ち、医師の指示があるまで患部を水に浸さない
- ICD手帳(患者さん用の記録カード)を常に持ち歩く
- 定期外来で装置の点検を受ける(電池の残りや作動の記録を確認します)
- 作動したら、日時・そのとき何をしていたか・体の感じ方を記録して医療機関に連絡する
- 強い磁気や電気を出す機器(大型モーター、溶接機、盗難防止ゲートに長く立つなど)に近づきすぎない
- 携帯電話は植込み部位から離して使う(一般に15cm以上離すのが目安とされています)
- MRI検査や手術、歯科治療の前に、必ずICDがあることを伝える
- 運転は主治医の指示と日本の道路交通法の決まりに従う
医療治療
心臓を守る標準的な治療(心不全の治療、血圧やコレステロールの管理、生活習慣の改善)、不整脈を起こしにくくする薬(種類や量は主治医が決めます)、カテーテルアブレーション(心臓の内側から不整脈の原因となる部分を焼いて治療する方法)、心臓再同期療法(心不全で心臓の動きがずれている場合に、ペースメーカーの働きで動きをそろえる治療)、そしてICD本体の植え込みです。薬は指示どおりに続けることが大切で、自己判断で中断しないでください。
手術が検討される場合
ICDの植え込みは、鎖骨の下などに小さなポケットを作り、リード(細い電線)を心臓まで通す手術です。多くは局所麻酔と鎮静で行われ、1〜2時間ほどかかります。数日間の入院が一般的で、術後しばらくは患部側の腕を大きく動かさないよう指導されます。最近は皮下に植え込むタイプや、リードの通し方を工夫した方法など選択肢が増えています。どの方法が合うかは主治医と相談して決めます。
この病気と共に生きる
ICDを植え込んだあとも、多くの人は仕事や家事、趣味を続けています。シャワーや入浴は、術後の指示が解除されれば通常どおり可能です。空港や施設の保安検査では、ICDがあることを係員に伝えてください(一時的に検査を止めてもらえます)。旅行の前に主治医に相談し、行き先の医療機関の情報も用意しておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける
- 適正体重を保つ
- 睡眠を十分にとり、過労を避ける
- 飲酒は控えめにし、脱水を避ける
- 発熱や体調の変化は早めに医療機関へ連絡する
- 入浴や運動など、術後の制限は主治医の指示に従う
食事と運動
食事は塩分と脂肪を控えめにし、野菜・魚・大豆製品などをバランスよくとりましょう。運動は、主治医に確認したうえで、会話ができる程度の散歩から始めるのが一般的です。激しい運動や競技スポーツは制限されることがあるので、始める前に必ず相談してください。
精神的健康と心の健康
「いつ作動するかわからない」という緊張、ショックへの恐怖、外出を控えてしまう、眠れない、気分が落ち込むといった気持ちが生じることがあります。これは珍しいことではなく、相談してよいことです。つらい気持ちが2週間以上続く、生活に支障が出る場合は、主治医や精神科・心療内科、お住まいの地域のこころの相談窓口に相談してください。自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱え込まず、すぐに119番に電話するか、地域の救急・こころの相談窓口に連絡してください。
予防
ICDが必要になる背景には心臓病があることが多いため、心臓病を予防し適切に管理することで、危険な不整脈のリスクを下げられる可能性があります。ただし遺伝性の不整脈のように、生活習慣だけでは防げないものもあります。
ワクチン
心臓病を持つ人には、インフルエンザや肺炎のワクチンが勧められることがあります。接種の可否や時期は主治医に相談してください。
検診プログラム
健康診断の心電図は、不整脈や心臓の病気を見つける大切な機会です。家族に若くして突然亡くなった人や遺伝性の不整脈の人がいる場合は、症状がなくても早めに循環器科で相談してください。
合併症
治療しない場合
- 危険な不整脈による突然死のリスクが高まる
- 失神による転倒・けが・交通事故
- 心不全の悪化(息苦しさ、むくみ、体重増加)
- 外出や運動を控えることによる生活の質の低下と不安の増大
長期的な見通し
ICDは、危険な不整脈による突然死を減らすことが示されている治療です。装置と上手につきあいながら、仕事や趣味を続けている人はたくさんいます。作動しない期間が長く続くことも多く、日々の診療と生活習慣の管理を続けることが何より大切です。不安があれば相談しながら、自分に合ったペースで生活を組み立てていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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