低侵襲心臓手術(MICS)ってどんな手術?
概要
低侵襲心臓手術(ていしんしゅうしんぞうしゅじゅつ/MICS)は、胸の真ん中を大きく開く従来の手術とはちがい、胸の横や脇の下などに数センチ程度の小さな切開(せっかい=皮膚を切って開くこと)をして、細いカメラや専用の器具を使って心臓の手術を行う方法です。カテーテル(細い管)を血管から入れて治療する方法も、広い意味で低侵襲な治療に含まれます。体への負担が比較的小さく、出血が少ない、入院期間が短くなりやすい、傷あとが目立ちにくいといった利点がある一方で、すべての人に適しているわけではなく、心臓の状態や体型、これまでの病歴によって向き・不向きがあります。手術を受けるかどうか、どの方法がよいかは、心臓血管外科の医師とよく相談して決めていきます。
重要な事実
- 胸を大きく開かず、小さな切開やカテーテルで行う心臓手術の総称です。
- 出血が少なく、回復が早く、傷あとが残りにくい傾向があります。
- だれにでも合う方法ではなく、心臓の状態や体の条件で選ばれます。
心臓の手術全体からみると、低侵襲の方法で行われる割合は年々増えています。ただし、病気の種類や病院によって対応できる範囲は異なり、従来の方法(胸を開く手術)のほうが安全で適していると判断される場合も少なくありません。
心臓弁の病気(弁膜症)、冠動脈(心臓に血液を送る血管)の病気、先天性(生まれつき)の心臓の病気、不整脈などで手術が必要になった方が対象になります。高齢の方や、体力に不安がある方、以前の手術の傷が気になる方などで検討されることがあります。
症状
- 胸の強い痛みが続き、冷や汗が出る(心筋梗塞などの可能性)
- 意識がない、呼びかけに反応がない
- 息ができない、話せないほど苦しい
- 顔や唇が青白い、脈が触れない
- ⚠急に息苦しくなった、横になれないほど苦しい
- ⚠動悸が何十分も続き、止まらない
- ⚠足のむくみが数日のうちに急に悪化した
- ⚠発熱とだるさが強く、息苦しさをともなう
一般的な症状
- 少し動いただけで息切れがする
- 動悸(どうき)がする、脈が速い・乱れると感じる
- 疲れやすい、だるさが続く
- 胸の中央に圧迫されるような痛みや違和感がある
- 足や足首がむくむ、体重が急に増える
- 立ちくらみや、一時的に意識が遠のくことがある
子供の症状
- 母乳やミルクを飲む力が弱く、すぐ疲れてしまう
- 体重が増えにくい、成長がゆっくりに感じる
- 息が速い、泣くと唇や爪の色が青っぽくなる
- 汗をたくさんかく、機嫌が悪いことが多い
- 歩いたり走ったりするとすぐ息が上がる
高齢者の症状
- 階段や買い物の途中で休まないと歩けない
- 夜、横になると息苦しくて起きてしまう
- 足のむくみがひどくなり、靴がきつくなる
- 食欲が落ち、体重が減る一方で足だけむくむ
- 動作がゆっくりになり、転びやすくなった
原因
主な原因
- 心臓の弁が狭くなる、または閉まりが悪くなる病気(弁膜症)
- 心臓に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりする病気
- 生まれつきの心臓の形や穴の病気(先天性心疾患)
- 心臓の筋肉の働きが低下する心筋症や、心不全の状態
- 心房細動などの不整脈で、手術が必要と判断される場合
リスク要因
- 加齢(としをとること)
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールなどの異常)
- 肥満、運動不足、塩分のとりすぎ
- 心臓の病気の家族歴
- 睡眠時無呼吸や慢性的な腎臓の病気
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みが続く、冷や汗をともなう
- 急な息苦しさで横になれない
- 意識が遠のく、失神した
- 動悸が長く続いてつらい
定期受診を予約すべき場合:
- 以前より息切れや疲れやすさが増した気がする
- 足のむくみが続いている
- 心臓の雑音や弁の異常を指摘されたことがある
- 健診で心電図や血圧の異常を指摘された
診断
まず問診(症状や生活の様子を聞くこと)と診察から始まります。聴診器で心臓の音を聞き、息切れやむくみの程度を確認します。そのうえで、心臓の形や動き、弁の状態を調べる検査を行い、手術が必要かどうか、低侵襲の方法が向いているかを判断します。
行われる可能性のある検査
- 心電図(心臓の電気の流れを調べる)
- 心臓超音波検査(エコー:超音波で心臓の形や弁の動きをみる)
- 胸部レントゲン検査
- 血液検査(心臓に負担がかかっているかの目安)
- 心臓カテーテル検査(冠動脈の状態を調べる)
- 胸部CT検査(手術の前に血管や胸の形を詳しく確認する)
- 運動負荷試験や24時間心電図(必要に応じて)
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、短時間で終わります。超音波検査はゼリーを塗って器具をあてるだけで、放射線も使いません。心臓カテーテル検査は手首や足の付け根の血管から細い管を入れるため、数時間の安静が必要になることがあります。検査結果は医師から説明があり、手術の方法や時期について一緒に話し合います。
治療
治療は、症状をやわらげる薬による治療と、心臓の形や流れを整える手術・カテーテル治療に分けられます。低侵襲心臓手術はその中のひとつで、小さな傷から行う方法です。どの方法がよいかは、病気の種類、心臓の働き、年齢や体力、これまでの病歴をふまえて総合的に判断されます。
自宅でのセルフケア
- 禁煙を心がける(受動喫煙も避ける)
- 血圧・体重・脈拍を毎日記録し、変化に気づけるようにする
- 塩分を控えめにし、バランスよく食べる
- 医師の指示の範囲で、無理のない運動を続ける
- 睡眠と休息を十分にとり、体調の悪い日は無理をしない
- かぜや感染症を予防するため、手洗い・うがいを習慣にする
医療治療
症状をやわらげたり、心臓の負担を減らしたりするお薬が使われることがあります。お薬の種類や量は、医師が病状に合わせて決めるもので、自分で判断して開始・中止・量の変更をしないでください。薬で症状が落ち着いていても、心臓の状態によっては手術やカテーテル治療が勧められることがあります。治療方針は、心臓の専門医と相談しながら決めていきます。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、息切れやむくみなどの症状が日常生活に影響しているとき、心臓の弁や血管の異常が進んでいるとき、薬だけでは症状のコントロールが難しいときなどです。低侵襲の方法が向いているかどうかは、胸の手術の経験があるか、体型、血管の状態などで変わります。緊急を要する場合には、安全性を優先して従来の方法が選ばれることもあります。
この病気と共に生きる
退院後は、傷の治りを確認しながら少しずつ日常の活動に戻していきます。傷口は清潔に保ち、赤み・腫れ・分泌物・発熱があれば早めに連絡してください。通院の予定を守り、体重や血圧の記録を続けることが、体調の変化に早く気づく助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で散歩などの軽い運動を続ける
- 階段や重い荷物など、胸に負担のかかる動作は指示に従って控える
- 十分な睡眠と休息をとる
- 飲酒や喫煙は医師と相談する
- 風邪や感染症にかからないよう注意する
- 服薬は自己判断でやめず、決められたとおりに続ける
食事と運動
食事は塩分を控えめにし、野菜・たんぱく質・適度な主食をバランスよくとります。むくみがあるときは水分や塩分について医師や管理栄養士に相談してください。運動は、医師の許可を得たうえで、会話ができる程度の速さの散歩から始めるのが一般的です。息苦しさや胸の痛みが出たら中止し、休息をとってください。心臓リハビリテーションが受けられる場合は、専門スタッフと一緒に無理のない計画を立てられます。
精神的健康と心の健康
手術の前後は、不安・緊張・気分の落ち込み・眠りにくさが起こることがあります。これは特別なことではなく、多くの方が経験します。家族や友人に気持ちを話す、日記をつける、医療者に遠慮なく質問するといったことが助けになります。つらさが続くときは、医療者に相談してください。
予防
心臓の病気すべてを防ぐことはできませんが、生活習慣病を適切に管理することで、手術が必要になるような状態に進むリスクを下げられる可能性があります。
ワクチン
心臓の病気がある方は、インフルエンザや肺炎などの感染症にかかると重症化しやすいことがあります。ワクチン接種については、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
健康診断で血圧・血糖・コレステロール・心電図を定期的に確認することが大切です。息切れやむくみ、動悸などの症状があるときは、健診の結果にかかわらず早めに受診してください。心雑音を指摘された場合は、心臓超音波検査を受けることが勧められます。
合併症
治療しない場合
- 心不全(心臓のポンプ機能が弱まり、息苦しさやむくみが続く状態)が進むことがあります
- 不整脈が起こりやすくなり、動悸や失神の原因になることがあります
- 腎臓や肺への負担が増えることがあります
- 日常生活の活動が制限され、生活の質が下がることがあります
長期的な見通し
低侵襲心臓手術は、多くの方にとって体への負担を抑えながら治療を受けられる選択肢です。回復の速さや術後の生活の戻りやすさが期待できる一方、すべての方に同じ結果というわけではありません。手術後の通院と服薬、生活習慣の見直しを続けることで、長く安定した状態を保てる方が多くいます。心配な点は、遠慮せずに医療チームに相談しながら進めてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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