低侵襲僧帽弁形成術 ― 体への負担を抑えて僧帽弁を修復する手術
概要
心臓には血液の流れを一方通行にするための「弁」が4つあります。そのうち左心房と左心室の間にあるのが僧帽弁(そうぼうべん)です。この弁がきちんと閉じずに血液が逆流してしまう状態を僧帽弁閉鎖不全症といい、息切れやむくみなどの原因になります。低侵襲僧帽弁形成術は、この僧帽弁を切り取って人工の弁に取り替えるのではなく、自分の弁を形を整えて修復する手術です。しかも胸の真ん中の骨(胸骨)を大きく切らず、わきの下や肋骨の間の小さな傷から、内視鏡やカメラの助けを借りて行う方法が広く用いられています。「低侵襲」とは、体への負担(侵襲)をできるだけ小さくする、という意味です。
重要な事実
- 胸の骨を大きく切らず、わきの下や肋骨の間の小さな傷から行う方法が多い手術です。
- 自分の弁を残して修復するため、人工弁に取り替える場合と比べて術後の生活の制約が少ないことがあります。
- 傷が小さく、回復が早い傾向がある一方、すべての方に適するわけではなく、弁の状態や体の状況で判断されます。
- 手術の方法や対応できる施設は地域や病院によって異なるため、まずは循環器の専門医に相談することが大切です。
僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の弁の病気の中では比較的よくみられます。低侵襲の手術はここ数年で広がってきていますが、行える病院や適応となる条件には差があります。
中高年以降の方に多くみられますが、若い方でも、生まれつきの弁の形、感染症、リウマチ熱の既往などが原因で起こることがあります。
症状
- 突然の激しい息切れ、息ができない感じ
- 胸の強い痛み、締めつけられる痛み
- 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い
- 唇・爪・顔色が青白い、または紫色に見える
- 泡立つような痰、血が混じった痰が出る
- 突然の強い動悸が続き、ふらつく、倒れそうになる
- ⚠ここ数日で息切れが明らかに悪化している
- ⚠足のむくみが急に増えた、2〜3日で体重が急に増えた
- ⚠動悸が続く、脈が不規則に感じる
- ⚠発熱が続く(心臓の感染症などの可能性があります)
- ⚠夜、横になれないほど息苦しい
一般的な症状
- 坂道や階段での息切れ、動いたときの息苦しさ
- 疲れやすい、体がだるい
- 動悸(心臓の鼓動が強く、速く感じる)
- 足の甲や足首のむくみ
- 夜、横になると息苦しく、枕を高くすると楽になる
- 夜間や横になったときのせき
- 食欲が落ちる、体重が変化する
子供の症状
- まったく症状がないことも多い
- 哺乳(授乳)に時間がかかる、途中で休む
- 体重が増えにくい、成長がゆっくりに感じる
- 泣いたり動いたりした後の息切れ、汗をたくさんかく
- 顔色が青白く見えることがある
高齢者の症状
- 年齢のせいだと思っていた息切れや疲れやすさ
- 買い物や入浴など、日常の動作がつらくなってきた
- 足のむくみが続く、数日で体重が増える
- 夜のせき、横になると苦しい
- 食欲低下、だるさ、元気が出ない
原因
主な原因
- 弁の組織が弱くなったり伸びたりして、閉じきらなくなる(加齢に伴う変化や弁の逸脱など)
- 心臓の筋肉の病気や心筋梗塞により、弁を支える構造が傷つく
- 感染性心内膜炎(心臓の内側や弁に細菌がつく感染症)
- リウマチ熱の既往による弁の変形
- 生まれつきの弁や心臓の形の特徴
リスク要因
- 高血圧や心臓病の既往
- リウマチ熱の既往
- 心臓の感染症の既往、歯や皮膚の感染を繰り返す
- 心房細動などの不整脈
- 家族に弁の病気の方がいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息切れやむくみが急に悪化したとき
- 胸の痛み、強い動悸、失神(気を失うこと)があったとき
- 発熱が続くとき
- 安静にしていても息苦しいとき
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断や聴診で「心雑音」を指摘された
- 階段や坂道で以前より息が上がるようになった
- 足のむくみが続いている
- 動悸や脈の乱れを感じることが増えた
- 手術を勧められ、詳しく話を聞きたい
診断
まず問診と聴診で、心臓の音(心雑音)や症状の経過を確認します。中心になるのは心エコー(超音波検査)で、弁の形や血液の逆流の程度、心臓の大きさや動きを直接みることができます。痛みはほとんどなく、体への負担も少ない検査です。
行われる可能性のある検査
- 問診・聴診(心雑音の確認)
- 心エコー(超音波で弁と心臓の動き、逆流の程度をみる)
- 心電図(不整脈や心臓の電気の流れを確認)
- 胸部X線(心臓の大きさや肺の状態を確認)
- 血液検査(心臓への負担を示す指標や貧血、感染の有無を確認)
- 必要に応じて心臓CT、心臓カテーテル検査、運動負荷検査
- 手術前には歯や全身の状態の確認
診察で予想されること
心エコーはベッドに横になるだけで、20〜30分ほどかかります。検査の結果はその場で説明を受けられることも多く、手術の必要性や方法については、検査を重ねたうえで循環器内科と心臓血管外科の医師と一緒に相談して決めていきます。
治療
治療は大きく3つに分かれます。症状を和らげる薬による治療、定期的に経過をみる方針、そして弁を修復する(形成術)か取り替える(置換術)手術です。低侵襲僧帽弁形成術は、このうち「自分の弁を修復する手術」を、体への負担を抑えて行う方法です。胸の真ん中を大きく切る方法に比べ、傷が小さく、回復が早い傾向がありますが、弁の状態や体の状況によって向き不向きがあります。
自宅でのセルフケア
- 毎日体重を測り、急な増加に気づけるようにする
- 血圧や脈拍を記録しておく
- 塩分を控えめにし、むくみをためない
- 禁煙する。受動喫煙も避ける
- かぜや感染症にかからないよう手洗い・うがいを心がける
- 歯みがきなど口腔ケアを丁寧に行う(歯の感染は心臓の感染症につながることがあります)
- 指示された通院日を守り、体調の変化をメモして伝える
医療治療
薬では、たまった水分を減らして息切れやむくみを楽にする薬、血圧や心臓の負担を軽くする薬、脉を整える薬などが使われることがあります。薬は症状を和らげ心臓を守るためのもので、逆流そのものを治すものではありません。不整脈がある場合は、血が固まりにくくなる治療が検討されることもあります。どの薬が必要か、どんな手術が合うかは、主治医とよく相談して決めてください。
手術が検討される場合
息切れなどの症状がはっきり出ている、心臓の機能が低下してきている、逆流が高度である、心臓が大きくなってきている、といった場合に手術が検討されます。弁を修復できる可能性が高いと判断されれば、低侵襲の方法が選べるかどうかを専門医と相談します。症状が軽くても、心臓への負担が強い場合は早めの手術が勧められることがあります。
この病気と共に生きる
手術後は、病院でのリハビリと段階的な回復を経て、少しずつ日常に戻っていきます。傷の痛みや疲れやすさは数週間かけて軽くなることが多いですが、回復の速さには個人差があります。通院で心エコーや心電図の検査を受け、弁の状態と心臓の働きを定期的に確認していきます。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(受動喫煙も避ける)
- バランスのよい食事と塩分控えめを心がける
- 体重と血圧の記録を習慣にする
- 医療者と相談しながら、無理のない範囲で体を動かす
- 口腔ケアを丁寧に続ける
- 睡眠と休息を十分にとる
- 手術痕の状態を観察し、赤み・腫れ・発熱があれば早めに連絡する
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、野菜や魚、良質なたんぱく質をバランスよくとると、むくみや血圧の管理に役立ちます。水分は医師の指示に従ってください。運動は、退院後のリハビリで指示された内容から始め、散歩など軽い運動を少しずつ増やしていくのが一般的です。息苦しさや動悸が出たら無理をせず休み、主治医に相談しましょう。
精神的健康と心の健康
手術の前は「本当に受けていいのか」「痛みはどうか」といった不安を感じる方が多くいます。手術後も、思うように回復しないように感じて気分が落ち込んだり、疲れやすさにいらだちを覚えたりすることは自然なことです。こうした気持ちは一人で抱えず、家族や医療者に話してみてください。つらい気持ちが長く続くときは、医療機関や地域の相談窓口を利用しましょう。気持ちが非常に追い詰められていると感じたら、ためらわずに119番や近くの救急窓口を頼ってください。
予防
僧帽弁の病気は、すべてを予防できるものではありません。ただ、リウマチ熱や心臓の感染症(感染性心内膜炎)を防ぐこと、高血圧を管理すること、禁煙すること、歯のケアを丁寧に行うことは、心臓と弁を守る助けになります。気になる症状があるときは早めに受診することが大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンは、心臓に負担のかかる感染症を防ぐ助けになります。接種の時期や対象については、医師や自治体の案内に相談してください。
検診プログラム
健康診断の聴診で心雑音を指摘された場合は、心エコーで詳しく調べることが勧められます。動悸や息切れ、むくみなどの症状があるときも、早めの検査が役立ちます。
合併症
治療しない場合
- 心不全(心臓が血液を十分に送り出せなくなる状態)
- 肺に水がたまる状態(肺水腫)による息苦しさ
- 心房細動などの不整脈が起こり、脳梗塞のリスクが上がることがある
- 肺の血圧が上がる状態(肺高血圧)
- 心臓が大きくなり、心臓の働きが徐々に低下する
- 心臓の内側や弁への感染症
長期的な見通し
低侵襲の僧帽弁形成術は、多くの方で症状が改善し、日常生活に戻れる治療です。自分の弁を残す修復術は、長い目でみた経過が良好とされることが多い方法です。一方で、回復の速さや結果には個人差があり、弁の状態や体の状況によって異なります。手術の後も定期的な通院を続けることが、長く安心して過ごすための近道です。
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最終更新: 2026年11月3日
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