下肢の動脈内膜摘除術(PADの手術)
概要
脚に血液を送る動脈の内側には「内膜」という薄い層があります。この内膜の内側に、コレステロールや脂肪などが固まって「プラーク」と呼ばれる塊ができると、血液の通り道が狭くなったり詰まったりします。動脈内膜摘除術(どうみゃくないまくてきじょじゅつ)は、このプラークを血管の内側から直接かき出して取り除き、血液の流れをよくする手術です。この手術が検討されるのは、主に「末梢動脈疾患(まっしょうどうみゃくしっかん、PAD)」と呼ばれる状態で、脚の動脈が狭くなったり詰まったりしている場合です。PADは「下肢閉塞性動脈硬化症(かしへいそくせいどうみゃくこうかしょう)」とも呼ばれます。手術が必要かどうかは、症状の強さや血管の詰まり方、体の状態をふまえて医師が判断します。
重要な事実
- PADは、脚の動脈が動脈硬化で狭くなったり詰まったりする病気です。
- 内膜摘除術は、血管を詰まらせているプラークを直接取り除く手術です。
- すべての人に手術が必要なわけではなく、症状や血管の状態に合わせて治療法を選びます。
- 手術を受けたあとも、禁煙や生活習慣の見直しが、再び血管が狭くならないために大切です。
- 足の傷が治りにくい、歩くと脚が痛いといった変化は、早めに医師へ相談するサインです。
PAD自体はめずらしい病気ではなく、日本でも多くの人が抱えていると考えられています。ただし、内膜摘除術という手術は、カテーテルを使う治療(風船やステント)やバイパス手術に比べると行われる頻度は少なめで、血管の詰まり方によって選ばれる治療のひとつです。
主に中高年以降の人に多く、特に60〜70代でよく見られます。糖尿病のある人、喫煙する人、透析を受けている人、血圧やコレステロールが高い人ではリスクが高くなります。若い人や子どもではまれですが、生まれつきの血管の病気やけが、過去のカテーテル治療の影響で血管が狭くなることもあります。
症状
- 突然、脚に激しい痛みが出た
- 脚が青白い、またはまだらに変色している
- 脚が氷のように冷たい
- 足の脈が触れない(太ももの付け根や足の甲で感じられない)
- 脚の感覚がにぶい、動かせない、力が入らない
- これらの症状が数時間以内に急に出た(急性の血流障害の可能性があります)
- ⚠休んでも足の痛みが消えない、夜も痛くて眠れない
- ⚠足の傷が治らず、広がっている、黒くなってきた
- ⚠足が赤く腫れて熱を持ち、発熱もある
- ⚠歩ける距離が急に短くなった、数日で症状が悪化している
- ⚠手術を受けたあとで、傷の周りが大きく腫れる、痛みが強くなる、発熱する
一般的な症状
- 歩くとふくらはぎや太ももが痛くなるが、立ち止まって休むと数分で楽になる(間欠性跛行・かんけつせいはこう)
- 足が冷たい、しびれる、疲れやすいと感じる
- 足の皮膚のつやがなくなり、毛が薄くなる、爪が厚く変形する
- 足の傷がなかなか治らない、または治りが遅い
- 進行すると、じっとしていても足が痛む(安静時痛・あんせいじつう)
- 重症になると、足の指やかかとが黒ずんだり、じくじくしたりする
子供の症状
- 小児では非常にまれですが、生まれつきの血管の病気やけが、過去のカテーテル治療の影響で血管が狭くなることがあります。
- 子どもは症状をうまく言葉にできないことがあるため、歩きたがらない、足を痛がる、片方の足だけ冷たいといった様子が見られたら医師に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢になると症状を感じにくくなることがあり、「年のせい」「足が弱っただけ」と思い込んでしまうことがあります。
- 歩くのが遅くなった、すぐ疲れる、休み休みでないと歩けないといった変化は、血管のトラブルのサインかもしれません。
- 足の傷や黒ずみができやすいため、毎日の足の観察とフットケアが特に大切です。
- 認知症などで痛みを伝えにくい場合は、ご家族が足の色や温度、歩き方の変化に気づいてあげてください。
原因
主な原因
- 動脈硬化:血管の内側にコレステロールなどのプラークがたまり、通り道が狭くなる
- 血管の中に血の塊(血栓)が詰まる
- まれに、血管の炎症(血管炎)やけが、放射線治療の影響で血管が狭くなる
リスク要因
- 喫煙(PADでもっとも大きな危険因子のひとつです)
- コレステロールや中性脂肪が高い(脂質異常症)
- 慢性腎臓病、特に透析を受けている
- 年齢(中高年以降で増えます)
- 家族に血管の病気の人がいる
- 肥満、運動不足、偏った食事
- 睡眠時無呼吸や強いストレスも関係することがあります
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 安静にしていても足が痛む
- 足の傷が治らない、黒ずんでいる、じくじくしている
- 足が赤く腫れて熱を持ち、熱が出ている
- 短い距離でも歩けなくなってきた、症状が急に悪化している
- 足の色や温度が明らかに左右で違う
定期受診を予約すべき場合:
- 歩くと脚が痛くなるが、休むと楽になる(間欠性跛行)
- 足が冷たい、しびれる、爪や皮膚の変化が気になる
- 糖尿病、高血圧、脂質異常症、腎臓病などで通院している
- 家族にPADや心筋梗塞、脳卒中の人がいる
- 足のケアの方法や運動の仕方を知りたい
診断
まずは問診と診察で、歩くとどこが痛くなるか、どのくらい歩けるか、足の色や温度、脈の触れ方などを確認します。そのうえで、脚の血圧を測る検査や画像の検査を行い、血管がどのあたりでどのくらい狭くなっているかを調べます。内膜摘除術が適しているかどうかは、詰まっている場所や長さ、血管の状態、体全体の健康状態を総合して判断します。
行われる可能性のある検査
- 血圧測定と診察(足の脈、皮膚の色や温度、傷の有無を確認)
- ABI(足関節上腕血圧比):腕と足首の血圧を測り、その比から血流の悪さを調べる検査
- 血管超音波検査(エコー):血管の狭さや血流の状態を、体の外から見る検査
- CT血管造影(CTA)やMR血管造影(MRA):血管の立体画像で、詰まりの場所と長さを詳しく調べる
- 血液検査:血糖、コレステロール、腎臓の働きなどを確認
- 必要に応じて心電図や心臓の検査:全身の血管の状態を確認するため
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、日帰りで受けられます。造影剤を使うCT検査では、事前に腎臓の働きやアレルギーの有無を確認します。検査結果は総合的に判断されるため、結果が出るまでに数日かかることもあります。検査の前に、飲んでいる薬や持病、アレルギーについて医師に伝えておくと安心です。
治療
PADの治療は、大きく分けて「生活習慣の改善」「薬による治療」「血管を広げる・血の通り道を作る治療(カテーテル治療や手術)」の3つを組み合わせて進めます。内膜摘除術はこのうちの手術のひとつで、血管を切って内側のプラークを取り除く方法です。ただし、すべての人に手術が必要なわけではなく、症状が軽い場合は生活習慣の改善と薬による治療を中心にすることも多くあります。どの方法が合うかは、血管の状態や体の負担、生活の状況をふまえて医師と一緒に決めていきます。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する:喫煙はPADの進行に大きく関わります。禁煙外来なども活用できます。
- 毎日、足を見る:傷、色の変化、腫れ、爪の異常がないか確認しましょう。
- 足を清潔に保ち、乾燥する人は保湿する。爪は深爪をせず、まっすぐ切る。
- 足に合った靴を選び、きつい靴や裸足での外出は避ける。
- ウォーキングなど、無理のない範囲で歩く習慣をつける(痛みが出たら休みながら)。
- 寒さで血管が縮まないよう、足を冷やさないようにする。
- 主治医の指示に沿って、血圧・血糖・体重を記録する。
医療治療
治療には、血管を固まりにくくする薬、コレステロールを下げる薬、血圧や血糖をコントロールする薬などが使われることがあります。どの薬が必要か、どのくらい続けるかは、医師が体の状態に合わせて判断します。血管そのものを治療する方法には、細い管(カテーテル)を血管の中に入れて風船で広げたり、網目の筒(ステント)を入れて広げたりする治療と、外科手術(内膜摘除術やバイパス手術)があります。内膜摘除術は、比較的太い血管の狭い部分に適していることがあります。治療法の選択や薬についての疑問は、必ず主治医や薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、歩くときの痛みが日常生活に大きく影響している場合、薬や運動で十分に改善しない場合、安静時の痛みや足の傷・黒ずみがある場合などです。また、血管の詰まり方や場所によって、カテーテル治療より手術が適していると判断されることがあります。手術の前に、心臓や腎臓の状態、麻酔の安全性も含めて総合的に評価されます。手術を受けるかどうかは、メリットとリスクの両方を聞いたうえで、ゆっくり決めてよいものです。
この病気と共に生きる
PADは長く付き合っていく病気です。每日の足の観察を習慣にし、違和感があれば早めに相談することが、大きなトラブルを防ぎます。歩くときは痛みが出る前に休むペースを覚えると、外出もしやすくなります。手術を受けた場合は、傷の治り具合を見ながら、医師が示す範囲で少しずつ活動を戻していきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(受動喫煙も避ける)
- 定期的な通院と検査を欠かさない
- 足を冷やさない、締めつけない靴下や靴を選ぶ
- 長時間同じ姿勢で座り続けない、ときどき足を動かす
- 睡眠やストレスにも気を配る
- 足の傷は自分で無理に処置せず、医療機関で相談する
食事と運動
食事は、塩分や脂っこいものを控えめにし、野菜・魚・食物繊維をバランスよくとることを心がけましょう。血糖値が気になる人は、間食や甘い飲み物を見直すことも大切です。運動は、痛みが出る手前で休みながら歩く「休み休みウォーキング」が勧められることがあります。どのくらいの運動が安全かは、心臓の状態などによって変わるため、主治医に相談してから始めてください。
精神的健康と心の健康
「また痛くなったらどうしよう」「歩けなくなるのが怖い」と不安を感じるのは自然なことです。手術をためらう気持ちや、生活習慣を変えることへの負担感も、多くの人が経験します。一人で抱え込まず、家族や医療者に気持ちを話してみてください。気分の落ち込みが続くときは、かかりつけ医に相談するか、地域の相談窓口を利用しましょう。つらい気持ちが強いときは、身近な人や医療機関、地域の相談窓口に連絡してください。
予防
血管が狭くなる原因の多くは、喫煙・糖尿病・高血圧・脂質異常症など、生活習慣と深く関わっています。これらを早めに整えることで、PADになるリスクや、手術後に再び狭くなるリスクを下げられる可能性があります。すでにPADと診断されている場合も、進行をゆるやかにするための取り組みは役立ちます。
ワクチン
血管の病気そのものを防ぐワクチンはありません。ただし、感染症は血管の病気を持つ人にとって体の負担になることがあるため、季節性の予防接種などについて主治医に相談してみるとよいでしょう。
検診プログラム
糖尿病、高血圧、脂質異常症、腎臓病のある人や、長く喫煙している人、家族に血管の病気が多い人は、足の血圧を測る検査(ABI)などを含めた定期的なチェックが勧められます。健診の結果を放置せず、かかりつけ医に相談することが早期発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 血管の狭まりが進み、歩ける距離が短くなっていく
- 安静にしていても足が痛むようになる
- 足の傷が治らず、潰瘍(かいよう)になる
- 組織が死んで黒くなる(壊死)ことがあり、最悪の場合は足を失う可能性がある
- 心臓や脳の血管も同じように狭くなっていることが多く、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まる
長期的な見通し
PADは、適切に治療と生活習慣の見直しを続けることで、多くの人は症状をやわらげながら生活を続けられます。内膜摘除術などの治療で血流が改善すれば、歩く痛みが楽になることも少なくありません。一方で、治療後も血管の状態を見守る通院は大切です。不安なことがあれば、そのつど医療者に相談しながら、焦らず一歩ずつ進めていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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