恒久的ペースメーカー(植込み型)を知る
概要
恒久的ペースメーカーは、心臓の拍動を助ける小さな機械(医療機器)です。胸の皮膚の下に植え込み、心臓に細い電線(リード)を通して電気的な合図を送ります。心臓の脈が遅くなりすぎる状態(徐脈:じょみゃく)のときに、心臓が一定のリズムで動けるように助けます。なお、これは病気そのものを治す治療ではなく、症状が出ないように支える治療です。
重要な事実
- 主に、脈が遅くなりすぎる徐脈(じょみゃく)に対して植え込まれます。
- 多くは局所麻酔(体の一部だけをしびれさせる麻酔)で行われ、入院は数日程度のことが多い治療です。
- 植え込んだあとも、定期的な外来受診や遠隔モニタリング(自宅から機器のデータを送る仕組み)で作動を確認します。
- 電池には寿命があり、機種によりますが数年から十数年で交換の相談をします。
- MRIなどの検査や手術の前に、ペースメーカーがあることを必ず医療者に伝えることが大切です。
日本でも年間数万件規模で行われている、よく行われる治療です。特に高齢の方に多い治療ですが、若い方や子どもに植え込まれることもあります。
主に高齢の方に多いですが、心筋梗塞(しんきんこうそく)のあと、心臓の手術のあと、生まれつきの心臓の病気、遺伝性の不整脈、一部の薬の影響などが原因で、若い方や子どもが対象になることもあります。
症状
- 意識を失って倒れた、呼びかけに反応が乏しい
- けいれんが起きた
- 呼吸が苦しい、息ができない感じがする
- 胸の痛みが続く、冷や汗が出る
- 脈が触れない、顔色が青白い
- ⚠めまいやふらつきが繰り返し起きる
- ⚠ふらつきのため一人で歩くのが不安
- ⚠動悸が長く続く、脈がとても速い感じがする
- ⚠息切れが急に悪くなった
- ⚠足のむくみが急に強くなった
一般的な症状
- めまい、立ちくらみ
- ふらつき、力が入らない感じ
- 失神(気を失って倒れること)
- 疲れやすい、すぐに息が切れる
- 動悸(どうき:心臓の鼓動を強く感じる)、脈が飛ぶ感じ
- 階段や坂道で息苦しくなる
- 集中しにくい、ぼんやりする
- 脈が遅いと言われた(自分で測って50回/分を大きく下回るなど)
子供の症状
- 哺乳(ほにゅう)のときに疲れてすぐ止めてしまう
- 体重が増えにくい、成長がゆっくりに見える
- 遊んでいるとすぐ息切れする、疲れて座り込む
- 突然気を失う、けいれんのように見える発作
- 動悸を「胸がドキドキする」と表現する
高齢者の症状
- 失神して転倒し、骨折や頭を打つけがにつながることがある
- なんとなくだるい、元気が出ないという形で現れる
- 物忘れや集中力の低下のように見えることがある
- めまいで歩くのが不安になる、外出を控えるようになる
- 脈が遅い以外に目立った症状がないこともある
原因
主な原因
- 洞不全症候群(どうふぜんしょうこうぐん):心臓の電気を作る場所の働きが弱くなる状態
- 房室ブロック(ぼうしつブロック):電気の通り道が途中で途切れやすくなる状態
- 心筋梗塞(しんきんこうそく)や心筋症など、心臓の筋肉や電気の道が傷つく病気のあと
- 心臓の手術のあとに電気の通り道が傷つくこと
- 生まれつきの心臓の病気や、遺伝性の不整脈
- 一部の薬の影響で脈が遅くなること
- 加齢に伴う電気の通り道の変化
リスク要因
- 高齢であること
- 心臓の病気の既往(心筋梗塞、心不全、心臓の手術など)
- 家族に脈が遅い人やペースメーカーを植えている人がいる
- 甲状腺(こうじょうせん)の働きの低下など、脈を遅くする体の状態
- 脈を遅くする作用のある薬を使っている(自己判断で中止せず、必ず相談してください)
- 激しい運動をする人にみられる徐脈など、体質によるもの
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 気を失った、倒れた、転倒した
- めまいが強く、何度も繰り返す
- 息切れや動悸が急に悪くなった
- 胸の痛みがある
- 脈がとても遅い、または触れにくいと言われた
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断の心電図で「脈が遅い」「ブロックがある」と言われた
- ここ数か月、疲れやすさや息切れが続いている
- 階段や坂道で前より息が上がる
- ふらつきがあり、外出を控えるようになった
- 家族にペースメーカーを植えている人がいる
診断
まず問診で、めまいや失神があったか、どんなときに起きたかをうかがいます。そのうえで心電図(心臓の電気の流れを記録する検査)を行い、脈の遅さや電気の通り道の異常を確認します。症状がいつも出ているとは限らないため、24時間など長時間記録する検査や、必要に応じて小型の記録装置を使うことがあります。
行われる可能性のある検査
- 心電図(12誘導心電図):その場の心臓の電気の流れを調べる
- ホルター心電図:24時間など長時間、心臓のリズムを記録する
- 植込み型心電計(ループレコーダー):数週間から数か月、皮下で記録する小型機器
- 心エコー(超音波検査):心臓の形や動き、弁の状態を調べる
- 血液検査:甲状腺の働きや電解質(体の中の塩分バランス)などを確認する
- 運動負荷試験:運動したときの脈や心電図の変化を見る
- 胸部レントゲン:心臓の大きさや肺の状態を確認する
診察で予想されること
検査は痛みが少なく、短時間で終わるものがほとんどです。ペースメーカーが必要と判断された場合は、担当医から目的・方法・リスク・代わりの選択肢について説明があります。手術前は食事を控える指示が出ることが多く、感染予防のための点滴や、体を清潔にする処置が行われることがあります。植込みは局所麻酔で行われ、所要時間は1〜2時間程度が目安です。終わったあとは胸部レントゲンと機器の作動確認を行い、傷の状態をみながら退院の時期を決めます。
治療
治療の中心は、脈が遅くなることで起きる症状(めまいや失神)を防ぐことです。原因が一部の薬の影響や甲状腺の働きの低下などである場合は、その原因への対応で改善することがあります。原因が心臓の電気の通り道そのものにある場合は、恒久的ペースメーカーの植込みが検討されます。
自宅でのセルフケア
- 症状が起きた日時と状況をメモしておく(受診のときに役立ちます)
- 自分で脈を測る習慣をつけ、記録しておく
- 水分をとり、極端な暑さや寒さ、長時間の立ちっぱなしを避ける
- 睡眠と休息を十分にとる
- 傷口は清潔に保ち、赤み・腫れ・熱感・膿(うみ)があるときは早めに相談する
- 発熱や体調の大きな変化があれば、自己判断せず医療者に相談する
- 処方されている薬を自己判断で中止したり量を変えたりしない
医療治療
ペースメーカーの植込みは、多くの場合、鎖骨の下あたりの静脈から細い電線を心臓まで通し、胸の皮膚の下に作った小さなポケットに本体を収める方法で行います。電線を使わない種類の機器が選ばれることもあります。脈が遅くなる原因になっている薬があれば、種類や量の調整が検討されます。植込み後は、外来での定期チェックや、自宅から機器のデータを送る遠隔モニタリングで作動状況を確認します。電池が少なくなったら、本体を交換する処置を行います。具体的な機器の種類や交換の時期は、担当医と相談して決めます。
手術が検討される場合
失神や強いめまいなど症状のある徐脈、心臓の電気の通り道の高度な異常、心不全を伴う伝導の異常などがある場合に、植込みが検討されます。状況によっては緊急で行われることもあります。植込みが必要かどうかは、検査結果と症状をあわせて担当医が判断します。
この病気と共に生きる
多くの方は、植込み後はこれまでに近い日常生活を送れます。傷が治るまでの入浴や腕の使い方については、退院時に具体的な指示があります。運転については、症状の状態や植込みからの期間によって指示が異なるため、必ず担当医に確認してください。ペースメーカー手帳や機器の情報がわかるものを携帯しておくと、旅行先や救急の場面でも安心です。
生活習慣のアドバイス
- 強い電磁気を出す設備(溶接機、大型モーター、変圧器など)には近づかない
- スマートフォンは植込み側と反対の耳で通話し、胸のポケットに入れたままにしない
- MRI検査や電気メスを使う手術・処置の前に、必ずペースメーカーがあることを伝える
- 空港などの金属探知機は、歩いて通るゲートはそのまま通過できますが、手で当てるタイプの検査器は機器から離すよう申し告する
- 定期的な外来受診と、遠隔モニタリングの指示を守る
- ペースメーカー手帳や連絡先を常に持ち歩く
- 体調の変化や新しい症状は、次回の受診を待たずに相談する
食事と運動
特別な食事制限が必要になることは多くありません。塩分を控えめにしたバランスの良い食事と、無理のない範囲の有酸素運動(散歩など)が勧められます。植込み直後は、腕を大きく上げる運動や重い物を持つことは控えるよう指示されることが多いです。運動の強さや再開の時期は、心臓の状態に合わせて担当医に確認してください。
精神的健康と心の健康
体の中に機械が入ることへの不安、電磁気への心配、体のイメージの変化など、気持ちが落ち着かないのは自然なことです。多くは数か月かけて慣れていきますが、不安が強いときや眠れないときは一人で抱えずに医療者に話してください。気持ちがつらいときは、かかりつけ医や地域の相談窓口、信頼できる人に相談することが大切です。もし自分を傷つけたい気持ちが浮かんだり、命に関わる切迫した思いがあるときは、ためらわず救急(119)や医療機関に連絡してください。
予防
ペースメーカーが必要になる状態そのものを完全に防ぐことは難しいですが、心臓の病気を予防・管理することで、一部の原因は減らせます。血圧を適切に保つ、禁煙する、糖尿病があれば血糖を管理する、適正体重を維持する、適度に体を動かすといった生活習慣が役立ちます。脈を遅くする薬を使っている場合、自己判断で中止すると別の危険があるため、必ず医療者に相談してください。
ワクチン
心臓の病気がある方には、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンが勧められることがあります。接種の時期や必要性は、主治医に相談して決めてください。
検診プログラム
健康診断の心電図で、脈の遅さや電気の通り道の異常が見つかることがあります。めまいや失神、息切れなどの症状がある場合は、健診を待たずに早めに受診してください。
合併症
治療しない場合
- 失神による転倒で、骨折や頭を打つけがをする
- 外出や運転を控えるようになり、生活の範囲が狭くなる
- 心臓の働きが低下し、息切れやむくみが悪化する(心不全)
- まれに、脈が長時間止まることで命に関わる状態になる
- 植込み後は、傷口の感染、電線の位置の変化、機器の不具合などが起こることがある(定期的な確認で早期に見つけられます)
長期的な見通し
ペースメーカーは、症状のある徐脈に対してよく確立された治療です。多くの方はめまいや失神が減り、これまでに近い日常生活を送れるようになります。定期的な確認と生活の工夫を続けることで、長く安定して使えます。不安な点はその都度、担当医や看護師に相談しながら進めていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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