選択的後根切断術(SDR)— 筋肉のつっぱりをやわらげる手術
概要
選択的後根切断術(せんたくてきこうこんせつだんじゅつ、英語の頭文字をとってSDR)は、筋肉の「つっぱり」(痙縮=けいしゅく)をやわらげるための手術です。背中の中を通る神経の束(脊髄)の後ろ側にある細い根っこのうち、筋肉のつっぱりに関係する線維を、電気で刺激しながら見きわめて選んで切ります。すべてを切るのではなく「選んで」切ることで、必要な動きや感覚をできるだけ残しながら、つっぱりを減らすことを目指します。脳性麻痺などで脚がつっぱり、歩きにくさや痛みがあるお子さんに検討される治療のひとつです。
重要な事実
- 筋肉のつっぱり(痙縮)そのものを減らすことを目指す手術で、リハビリや装具だけでは生活が難しいときに検討されます。
- 全身麻酔で行う手術で、数時間かかることが多く、数日から1週間ほどの入院が必要になるのが一般的です。
- 手術のあとは集中的なリハビリが欠かせず、効果は数か月から数年かけてゆっくり現れてきます。
よく行われる手術ではありません。脳性麻痺のある子どもの一部に検討される、専門的な手術です。日本でも限られた専門医療機関で行われています。
主に、脳性麻痺などで両脚の筋肉がつっぱるお子さんのうち、自分の力で歩ける、または軽い支えがあれば歩けるお子さんが対象になることが多いです。成長期の子どもに向いています。大人でも、脳卒中や脊髄の病気のあとのつっぱりで、状態が合えば検討されることがあります。
症状
- 手術のあと、意識がぼんやりする、呼びかけへの反応がおかしい
- 呼吸が苦しい、顔色が悪い
- 手術の傷から透明な水のような液が漏れ続ける、または激しい頭痛や首の痛みが続く
- 脚の力が急に大きく落ちた、動かせない
- おしっこがまったく出ない、高熱が続く
- ⚠手術の傷が赤く腫れる、膿のようなものが出る
- ⚠38℃以上の発熱がある
- ⚠尿が出にくい、膀胱が張って痛む
- ⚠これまでできていた動きが急にできなくなった
- ⚠原因のわからない強い痛みがある
一般的な症状
- 歩くときに脚がつっぱり、つま先立ちや、はさみのように脚が交差する歩き方になる
- 膝や足首が固く、曲げ伸ばしがしにくい
- 筋肉の緊張が強く、体を動かすとすぐ疲れる
- 急に力を入れると手足がピンと突っ張る
- 股関節や膝の痛み、皮膚のこすれ
- 座る・立つ・歩くなど、姿勢を保つのに介助が必要
- 装具をつけても歩き方が安定しにくい
子供の症状
- 歩き始めが遅い、歩き方がぎこちない
- つま先で歩くことが多い
- すぐ転ぶ、走りにくい
- 足の成長に合わせて装具の調整がたびたび必要になる
- 筋肉の緊張が強く、抱っこやおむつ替えがしにくい
高齢者の症状
- 脳卒中や脊髄の病気のあとに、手足のつっぱりが残る
- つっぱりのせいで関節が固まり、歩行が不安定になる
- つっぱりによる痛みや、体を清潔に保ちにくい状態が続く
原因
主な原因
- この手術の対象になる「筋肉のつっぱり(痙縮)」は、脳や脊髄が傷つくことで起こります。
- 代表的な原因は脳性麻痺で、妊娠中・出産時・生後まもなくの脳の損傷が関係します。
- 脳卒中、脊髄の損傷、多発性硬化症などの病気でも痙縮は起こります。
- 脳からの「動け」という指令がうまく伝わらず、筋肉をゆるめる指令が不足するため、筋肉がつっぱり続けてしまいます。
リスク要因
- 早産、低出生体重
- 出産時の酸素不足、脳の出血や炎症
- 妊娠中の感染症や母子の健康状態
- つっぱりが長く続くこと自体が、関節の固まり(拘縮)のリスクになる
- 手術を考える場面では、強い背骨の曲がり(側弯)、股関節の脱臼、すでに進んだ拘縮があると効果が限られることがある
- てんかんのコントロール状態や栄養状態も、手術の適否に関わる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手術のあとに、傷の異常、発熱、尿が出ない、脚の力が急に落ちたなどの変化がある
- つっぱりによる痛みが強く、眠れない、日常生活が保てない
- 転んでけがをした、関節が腫れている
定期受診を予約すべき場合:
- 歩き方の変化やつま先歩きが気になる
- 装具が合わない、皮膚が赤くなる
- リハビリの効果について相談したい
- SDRが自分や子どもに合うかどうかを相談したい
診断
SDRは「診断」というより、手術が合うかどうかを医療チームで見きわめるプロセスです。小児科医、脳神経外科医、整形外科医、理学療法士などが一緒に、つっぱりの程度、歩く力、関節の状態、本人と家族の希望を話し合います。
行われる可能性のある検査
- 診察と問診(歩き方、日常生活の様子の聞き取り)
- 筋肉の緊張や関節の動く範囲の評価
- 歩く様子の観察や歩行分析
- MRIで脳と脊髄の状態を確認
- レントゲンで股関節や背骨の状態を確認
- リハビリの評価(運動機能の等級づけなど)
- 必要に応じて神経の働きを調べる検査
診察で予想されること
検査は痛みの少ないものが多く、何回かに分けて行われます。結果をもとに、手術のメリットとリスク、手術以外の選択肢を説明する場がもうけられます。その場で決める必要はなく、家族で話し合う時間を持って大丈夫です。別の医師の意見を聞くこと(セカンドオピニオン)も可能です。
治療
SDRは、筋肉のつっぱりに対する治療の選択肢のひとつです。まずはリハビリや装具、必要に応じて注射や内服などの治療を試し、それでも日常生活が難しいときに手術を検討する、という流れが一般的です。
自宅でのセルフケア
- 毎日のストレッチとリハビリを無理のない範囲で続ける
- 装具を決められた時間つけ、皮膚の赤みや傷を毎日チェックする
- 転びにくい環境づくり(手すり、滑りにくい床、段差の工夫)
- 体重管理で関節への負担を減らす
- 手術後は、指示されたリハビリの予定を守る
- 便通や排尿の変化を記録しておく
医療治療
治療は大きく分けて、(1) リハビリと装具、(2) 筋肉の緊張をやわらげる注射や内服、(3) 脊髄に小さなポンプを留置して薬を届ける治療、(4) 整形外科の手術、(5) SDRなどの神経への手術があります。それぞれ得意・不得意があり、組み合わせて使うこともあります。どの治療が合うかは、年齢、つっぱりの場所、歩く力、生活の希望によって変わります。主治医とリハビリ担当者に相談しながら決めていきましょう。
手術が検討される場合
SDRは、次のような場合に検討されます。筋肉のつっぱりが主な原因で動きにくくなっている、自分の力か軽い支えで歩ける、関節の固まり(拘縮)がまだ進んでいない、リハビリや他の治療で十分な効果が得られない、本人と家族が手術後のリハビリを続ける見通しがある、といった点が目安になります。年齢や体の状態によって向き不向きがあるため、専門チームの評価が大切です。
この病気と共に生きる
SDRのあとは、数週間から数か月、集中的にリハビリをする時期があります。手術直後は筋肉の緊張がゆるむぶん、一時的に脚の力が抜けたように感じたり、バランスが変わったりします。これはよくある経過で、リハビリを通して体が少しずつ新しい動きに慣れていきます。学校や園への復帰、装具の調整など、生活の調整も並行して進めていきます。
生活習慣のアドバイス
- リハビリの予定を生活の中心に組み込み、無理のない範囲で続ける
- 装具や歩行補助具をこまめに手入れする
- 転倒を防ぐために家の中を整える
- 疲れをためないよう睡眠と休息をとる
- 学校・園・職場と体の状態について情報を共有する
食事と運動
特別な食事制限はありません。バランスのよい食事を心がけ、骨を丈夫にするためにカルシウムやビタミンDを含む食品を意識するとよいでしょう。運動は、理学療法士と相談しながら、ストレッチ、筋力トレーニング、バランス練習、水の中での運動などを無理なく続けることが大切です。痛みや疲れが強い日は休むことも必要です。
精神的健康と心の健康
手術を決めるまでにも、手術のあとも、不安や疲れ、家族の負担が大きくなりがちです。気持ちが落ち込む、眠れない、涙が出るといった状態が続くときは、一人で抱えずに主治医や相談窓口に話してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口、緊急の相談先に連絡してください。
予防
SDRが必要になる背景のつっぱり(痙縮)は、脳や脊髄の損傷から起こるため、すべてを防ぐことはできません。ただ、妊娠中の健康管理、早産の予防、出産時の安全なケア、子どもの発達を早めに確認することが、リスクを減らす助けになります。SDRそのものは予防するものではなく、必要かどうかを一緒に考える治療です。
ワクチン
SDRに直接関係するワクチンはありません。ただし、手術の前後は感染症を防ぐことが大切なので、定期予防接種の予定は主治医と相談してください。
検診プログラム
発達の遅れや歩き方の気がかりは、乳幼児健診や学校健診で見つかることがあります。気になるときは、健診を待たずに小児科やリハビリ科に相談して大丈夫です。
合併症
治療しない場合
- 筋肉のつっぱりが続くと、関節が固まり(拘縮)、動く範囲が狭くなる
- 股関節の脱臼や、背骨の曲がり(側弯)が進むことがある
- 痛みが続き、睡眠や日常生活がつらくなる
- 歩く力が落ちたり、車いすが必要になったりすることがある
- 皮膚のこすれや褥瘡(じょくそう)のリスクが上がる
- 介助する家族の負担が増える
長期的な見通し
SDRは、歩き方や脚のつっぱりを改善する可能性がある手術で、多くの子どもで効果が報告されています。効果の現れ方は一人ひとり違い、手術後のリハビリがとても大切です。手術を受けない選択や、別の治療を選ぶこともできます。どの道を選んでも、その子らしい生活を支える方法はたくさんあります。
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最終更新: 2026年11月3日
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