単孔式手術(おへそ1か所から行う手術)
概要
単孔式手術(たんこうしきしゅじゅつ)とは、おなかに開ける小さな穴(ポート)を1か所だけにして行う手術のことです。多くはおへその中を切って行うため、おなかの傷あとが1か所で済み、目立ちにくいのが特徴です。おなかに細い管(内視鏡=先にカメラがついた細い管)を入れて、モニター画面を見ながら手術を進めます。以前は「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」といって、おなかに3〜5か所の穴を開ける方法が一般的でした。単孔式はその穴を1か所にまとめた方法です。
重要な事実
- おなかの傷(ポート)が1か所で済むため、傷あとが小さく目立ちにくい方法です。
- 全身麻酔で行う手術です。入院日数や手術の時間は、病気の種類や病院によって異なります。
- すべての人・すべての病気に使える方法ではなく、担当医が体の状態や病気の広がりをみて判断します。
- 傷が小さいことと、安全に手術できることは別の問題です。安全性を第一に考えて方法が選ばれます。
日本では、胆のう(たんのう)を取る手術、虫垂(ちゅうすい)を取る手術、卵巣や子宮の手術などで行われてきました。ただし、すべての病院で行われているわけではなく、設備や医師の経験によって対応が異なります。また、おなかの手術全体でみると、3〜5か所に穴を開ける従来の方法が今も広く使われています。
手術が必要と診断された人のうち、担当医が「単孔式で安全に行えそうだ」と判断した場合に選ばれます。年齢や性別で決まるものではありません。体の大きさ、過去の手術の経験、おなかの状態、病気の種類などをもとに判断されます。
症状
- 急に始まった激しいおなかの痛みで、体を丸めても楽にならない
- おなかが硬く板のように張って、触ると痛がる
- 顔や白目が黄色くなる(黄疸)、尿の色が濃いお茶のようになる、一緒に発熱がある
- 意識がぼんやりする、呼びかけへの反応がにぶい
- 手術後に、胸の痛み、息苦しさ、冷や汗、傷からの大量の出血がある
- 手術後に、立っていられないほどのめまいや動悸がある
- ⚠38度以上の熱が続く、または寒気を伴う熱が出た
- ⚠手術の傷が赤く腫れて、膿のようなものが出る、痛みが強くなる
- ⚠何度も吐いて水分がとれない
- ⚠おなかが張って、おならや便が出ない状態が続く
- ⚠尿が出にくい、排尿時に痛む
- ⚠手術後に、足のふくらはぎが片側だけ腫れて痛む
一般的な症状
- この項目は「手術そのものの症状」ではなく、手術が必要になることがある病気のサインを説明しています。
- おなかの右側やみぞおちのあたりが、食後や脂っこいものを食べたあとに痛む(胆のうの病気でよくみられます)。
- おなかが張る、何度も吐く、食欲がない(腸や虫垂、卵巣などの病気でみられることがあります)。
- 下腹部の痛みや、生理のとき以外の下腹部の不快感(卵巣や子宮の病気でみられることがあります)。
- 熱が出る、寒気がする、だるさが続く。
子供の症状
- 子どもでは、腹痛をうまく言葉で説明できないことがあります。ぐったりしている、遊ばない、機嫌が悪い、食欲がないといった様子も大切なサインです。
- 子どもの虫垂炎(もうちょうえん)は、最初はおなかの真ん中の痛みから始まり、あとで右下腹部へ移ることがあります。
- 小さな子どもでは、単孔式を行うかどうかは体の大きさや病気の状態をみて慎重に判断されます。
高齢者の症状
- 高齢の方は、痛みが軽くても病気が進んでいることがあります。熱が出ないのに重い病気だった、ということもあります。
- 心臓や肺、腎臓などの持病がある場合は、手術の方法や麻酔について担当医とよく相談することが大切です。
- 手術後の回復には個人差があります。無理に急がず、ゆっくり進めることが大切です。
原因
主な原因
- 単孔式手術は「病気の原因」ではなく、手術の「方法」のひとつです。ここでは、手術が必要になることがある主な病気を挙げます。
- 胆のう結石(たんのうけっせき)や胆のう炎:胆のうに石ができたり炎症が起きたりする状態です。
- 虫垂炎(もうちょうえん):虫垂という小さな器官に炎症が起きる状態です。
- 卵巣のう腫(らんそうのうしゅ)、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)、子宮内膜症などの婦人科の病気。
- そけいヘルニア(足のつけ根がふくらむ状態)や、一部の胃・大腸の手術。
- これらの病気は、痛みが強かったり、治療が遅れると危険だったりする場合に手術が検討されます。
リスク要因
- 単孔式が選ばれにくい条件として、次のようなものがあります。
- おなかに大きな手術の傷あとが複数ある、または癒着(ゆちゃく=組織がくっついてしまうこと)が強いと予想される。
- 高度の肥満があり、おなかの壁が厚い。
- 緊急で、おなかの広い範囲を詳しく見る必要がある。
- 病気が広がっていて、1か所の穴では対応が難しいと判断される。
- 心臓や肺に重い持病があり、手術そのものの負担を減らす必要がある。
- これらは「手術を受けられない」という意味ではありません。安全な方法を選ぶための目安です。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- おなかの強い痛みが数時間以上続く、またはどんどん強くなる
- 発熱とおなかの痛みが同時にある
- 何度も吐いて水分がとれない
- 白目や皮膚が黄色くなった気がする
- 手術後の傷が赤く腫れて膿が出る、熱が続く
定期受診を予約すべき場合:
- ときどきおなかが痛む、食後にみぞおちが重い感じがする、といった症状が繰り返す
- 下腹部の痛みや生理痛が以前より強くなった気がする
- 「手術が必要かもしれない」と言われて、方法や不安についてゆっくり相談したい
- 手術を受けるかどうか、別の病院の意見も聞いてみたい
診断
まず問診と体の診察を行い、痛みの場所や始まった時期、食事との関係などを確認します。そのうえで血液検査や画像検査を行い、病気の種類と広がりを調べます。単孔式で行えるかどうかは、画像の結果と体の状態、過去の手術歴、病院の設備などを総合して担当医が判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診と触診(おなかを触って硬さや痛む場所を確認します)
- 血液検査(炎症の程度や黄疸の有無などを調べます)
- 腹部超音波検査(エコー:体の外から超音波を当てて、胆のうや卵巣などを観察します)
- CT検査やMRI検査(体の断面を画像にして、病気の広がりを詳しく調べます)
- 場合によっては内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)
- 必要に応じて心電図や胸部レントゲン(麻酔の安全性を確認するため)
診察で予想されること
検査は痛みの少ないものがほとんどですが、CTでは造影剤を使うことがあり、その場合は事前にアレルギーの有無を確認します。検査の結果が出るまでに数日かかることがあります。結果を聞くときは、ひとりで行くより、家族や信頼できる人と一緒に行くと安心です。聞きたいことをメモしておくと役立ちます。
治療
手術が必要な病気でも、まず薬で様子をみる、食事や生活を整える、といった選択肢がある場合があります。手術の方法にも、単孔式、おなかに数か所穴を開ける方法、おなかを開いて行う方法などいくつかあり、それぞれに長所と短所があります。どの方法がよいかは、病気の種類、体の状態、病院の体制をふまえて担当医と相談して決めます。
自宅でのセルフケア
- 禁煙:吸烟は傷の治りを遅らせ、手術後の肺の合併症を増やします。手術が決まったら禁煙を考えましょう。
- 手術前の説明で、服用している薬やサプリメントをすべて伝えてください。自己判断で中止しないようにしましょう。
- 手術前後の呼吸練習や、 early な歩行(無理のない範囲で歩くこと)は回復を助けます。病院の指示に従ってください。
- 退院後は、傷を清潔で乾燥した状態に保ち、入浴やシャワーについて病院の指示を守りましょう。
- 痛み止めが必要かどうか、いつから仕事や運動に戻ってよいかは、必ず担当医に確認してください。
医療治療
手術以外の方法として、薬で炎症や痛みを抑える治療、食事の内容を工夫する治療、定期的に経過をみていく方針などが選ばれることがあります。どの治療が合うかは病気の種類と程度によって変わります。薬の名前や量については、必ず担当医や薬剤師の説明を受けてください。当記事では具体的な薬の名前や量はお伝えしません。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、薬や食事の工夫だけでは症状が繰り返す場合、炎症が強い場合、放置すると危険な状態になる可能性がある場合などです。緊急の手術が必要と判断されることもあります。手術を受けるかどうか迷うときは、別の医師の意見を聞くこともできます。遠慮なく相談してください。
この病気と共に生きる
単孔式手術のあとは、多くの場合、数日で退院できます(病気や病院によって異なります)。退院後しばらくは、傷の痛みやだるさが残ることがあります。重いものを持つ、激しい運動をする、長風呂に入るといったことは、病院から指示があるまで控えましょう。傷の状態を自分で毎日観察し、赤みや腫れ、膿などの変化に気づいたら早めに連絡してください。
生活習慣のアドバイス
- バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動を続けましょう。
- 手術後は血流をよくするために、長時間同じ姿勢でいることを避け、こまめに動きましょう。
- 飲酒や喫煙は、回復に影響することがあります。主治医に相談しながら調整しましょう。
- 傷あとが気になる場合は、日焼けを避けると目立ちにくくなることがあります。
- 手術を受けたこと、受けた日、手術の方法をメモしておくと、将来別の病院にかかったときに役立ちます。
食事と運動
手術後は、いきなり普段と同じ量を食べるとおなかが張ることがあります。少量ずつ、よく噛んで食べるところから始めましょう。水分はこまめにとります。運動は、散歩など軽いものから始め、痛みが出ない範囲で少しずつ増やしていきます。どのくらいから始めてよいかは、手術の種類によって違うため、退院時の説明を確認してください。
精神的健康と心の健康
手術は、たとえ小さな傷でも体と心に負担がかかります。「本当に必要だったのだろうか」「傷あとが気になる」「また痛くなったらどうしよう」と不安になるのは自然なことです。眠れない、気分が晴れない、食欲がないといった状態が2週間以上続くときは、担当医やかかりつけ医に相談してください。話すだけで楽になることもあります。つらい気持ちが強いときは、地域の相談窓口や医療機関を頼ってください。
予防
単孔式手術は治療の方法なので、それ自体を予防するという考え方はありません。ただし、手術が必要になることがある病気(胆のうの病気、虫垂炎、婦人科の病気など)のリスクを下げるために、次のような生活が役立つとされています。急な激しい痛みや発熱があるときは、予防よりも早めの受診が大切です。
ワクチン
この手術に直接関係するワクチンはありません。ただし、手術前には、かかりつけ医と予防接種の状況を確認しておくと安心です。
検診プログラム
日本では、自治体によるがん検診(大腸がん検診、子宮頸がん検診など)が行われています。対象年齢や受診方法はお住まいの地域によって異なるため、自治体の案内やかかりつけ医に確認してください。検診は症状がない段階で病気を見つける助けになります。
合併症
治療しない場合
- 手術が必要な病気を放置すると、炎症が広がったり、穴が開いたり(穿孔)、腹膜炎という重い状態になることがあります。
- 胆のうの病気では、黄疸や胆管の炎症などが起きることがあります。
- 手術そのものの合併症として、傷の感染、出血、癒着、へその傷がふくらむ(ポートサイトヘルニア)などがあります。頻度は高くありませんが、起こりうることを事前に知っておくと安心です。
- 単孔式は傷が小さい一方で、機器が1か所に集まるため、従来の方法に比べて手術に時間がかかることがあります。
長期的な見通し
単孔式手術は、多くの場合、安全に行われ、回復も比較的スムーズです。傷が小さいことは、日常生活への戻りやすさや見た目の面で利点があります。ただし、向いているかどうかは一人ひとり異なります。担当医とよく相談し、不安な点は遠慮なく質問してください。手術後の経過は人によって違いますが、多くの方は時間とともに日常生活を取り戻しています。
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最終更新: 2026年11月3日
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