全身放射線照射(TBI)について
概要
全身放射線照射(TBI)は、体の一部分ではなく全身に放射線をあてる治療法です。主に、造血幹細胞移植(骨髄や末梢血、臍帯血から健康な造血細胞を体内に入れる治療)を受ける前の「前処置」として行われます。ねらいは、残っている病気の細胞をできるだけ減らすこと、そして移植した細胞が体内で根づきやすくすることです。治療そのものに痛みはありません。放射線をあてている間は、機械の下で横になって安静にしているだけで、多くの場合10〜20分ほどで終わります。
重要な事実
- 全身に放射線をあてる放射線治療の一種で、手術ではありません。
- 主に白血病、リンパ腫、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血などで造血幹細胞移植が必要なときに行われます。
- 治療中は痛みを感じませんが、数日から数週間してからだるさ、吐き気、口内炎、脱毛などの副作用が出ることがあります。
- 一度にまとめてあてるのではなく、何回かに分けて少しずつ行う方法(分割照射)が一般的で、副作用をやわらげる工夫がされています。
- 移植を受ける方全員が受けるわけではなく、病気の種類や移植の計画によって選ばれる治療です。
造血幹細胞移植が必要な方の一部に行われる、専門的な治療です。移植を受ける方でも、抗がん剤だけの前処置で済む場合もあり、全員が受けるわけではありません。
白血病、リンパ腫、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、一部の免疫の病気や遺伝性の病気などで、造血幹細胞移植が必要と判断された方です。小児に行われることもあります。年齢や体力、ほかの臓器の状態によって計画が調整されます。
症状
- 息が苦しい、呼吸が速い、顔色が青白い
- 意識がもうろうとしている、けいれんが起きた
- 急に激しい頭痛がした、ろれつが回らない
- 胸が強く痛む、動悸が止まらない
- 血を吐いた、便が黒い、出血が止まらない
- ⚠38℃以上の発熱がある(移植の前後は特に注意が必要です)
- ⚠口内炎がひどく、水分がとれない
- ⚠嘔吐や下痢が続き、尿の量が減ってきた
- ⚠皮膚に水ぶくれや、広がる赤み・痛みが出た
- ⚠体に出血のあざが増えた、鼻血が止まりにくい
- ⚠強い倦怠感で起き上がれない
一般的な症状
- 吐き気や嘔吐(治療の直後から数日以内に出ることが多い)
- だるさ、疲れやすさ、眠気
- 食欲が落ちる、味の感じ方が変わる、口が乾く
- 口の中の痛みや口内炎、飲み込みにくさ
- 皮膚の赤み、乾燥、かゆみ、日焼けしたような変化
- 髪の毛が抜ける(治療の数週間後。多くは一時的で、後に生えそろってくることが多い)
- 発熱(白血球が減って感染しやすくなるため)
- 下痢、おなかの張り
- 手足のしびれやむくみが出ることもある
子供の症状
- 小児では、成長や骨、歯への長期的な影響を定期的に確認していきます。
- 治療後に体力が落ちたり、学校生活に戻るまで時間がかかることがあります。
- 学習面や集中力について、学校と連携しながら見守っていくことが大切です。
- ワクチンの予定を移植後に組み直す必要があるため、小児科の先生と相談しておきましょう。
- 本人が治療の意味を理解しやすいように、年齢に合わせた説明をしてもらえます。
高齢者の症状
- 体力の低下が出やすく、リハビリや栄養のサポートを早めに始めることが大切です。
- 感染症にかかったときの重症化に注意が必要です。
- 心臓、肺、腎臓、肝臓など、もともとの持病への負担を治療前に確認します。
- 転倒予防や口腔ケアなど、日常生活の備えが大切になります。
- 白内障や二次的な病気のリスクについて、長期的な通院で確認していきます。
原因
主な原因
- 白血病やリンパ腫などの血液のがん(移植前に病気の細胞を減らすため)
- 骨髄異形成症候群や再生不良性貧血など、骨髄のはたらきが悪くなる病気
- 一部の免疫の病気や遺伝性の病気(小児で移植が必要な場合など)
- 移植した細胞が体内で根づきやすくするための前処置として
リスク要因
- 移植が必要となる病気の状態や、これまでの治療の経過
- 年齢や体力、全身の状態
- 以前に受けた放射線治療や抗がん剤治療の量
- 心臓、肺、腎臓、肝臓などの臓器の機能
- 治療前の感染の有無や口腔内の状態
- 将来子どもを希望するかどうか(生殖機能への影響を考える必要があります)
- 治療を受ける医療機関の体制や移植の種類
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 38℃以上の発熱、寒気、震え
- 息苦しさ、胸の痛み、動悸
- 水分がとれないほどの口内炎や、飲み込めない状態
- 嘔吐・下痢が続いて尿が減る、めまいがする
- 出血が止まりにくい、黒い便、血を吐く
- 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない
定期受診を予約すべき場合:
- だるさや食欲低下が続くとき
- 皮膚の赤みや乾燥、かゆみが気になるとき
- 口の乾きや味覚の変化が続くとき
- 気分の落ち込みや不安、眠れない状態が続くとき
- 髪が抜けた後の頭皮のケアについて相談したいとき
- 治療後の生活や復学・復職の目安を知りたいとき
診断
この治療は「病気を見つけるための検査」ではなく、移植の計画の中であなたに適しているかを判断するために、さまざまな確認が行われます。血液検査、骨髄の検査、画像検査、心臓や肺の機能検査、歯科のチェックなどを通して、体の状態を詳しく見ていきます。そのうえで、治療の目的や期待できること、副作用の可能性について医師から説明があり、よく話し合ったうえで決めていきます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血球の数、肝臓・腎臓の機能、感染の有無など)
- 骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)
- 画像検査(レントゲン、CT、超音波など)
- 心電図や心臓の超音波検査
- 呼吸機能検査
- 歯科・口腔内の診査
- 妊娠の可能性の確認(必要に応じて)
- 移植の適合性をみるための血液の型や組織の検査
診察で予想されること
治療の前に、放射線をあてる位置を確認するための印をつけたり、実際の機械の動きを確認したりする時間があります。治療の日は、専用の部屋でベッドに横になり、機械の下で安静にしているだけで、多くの場合10〜20分ほどです。痛みはありません。何回かに分けて行うことが多く、期間や回数は医療機関や計画によって異なります。治療中は声やモニターでスタッフが様子を見守ってくれます。
治療
全身放射線照射は、単独で行うというより、造血幹細胞移植という大きな治療の流れの一部として行われます。抗がん剤と組み合わせることもあり、治療の内容は病気の種類、移植の種類(自分の細胞を使うか、 donor の方からいただくか)、年齢や体力によって一人ひとり違います。治療の効果と副作用のバランスを見ながら、医療チームが計画を立てます。
自宅でのセルフケア
- やわらかい歯ブラシと保湿剤を使って、毎日の口腔ケアを丁寧に行う
- こまめな手洗い、うがい、マスクの着用で感染を防ぐ
- 人混みや、風邪や感染症が流行している場所をできるだけ避ける
- こまめに体温を測り、症状を記録しておく(医師に伝えやすくなります)
- 休息と活動のバランスをとり、疲れたら迷わず休む
- 水分をこまめにとる。口内炎があるときは刺激の少ないものを選ぶ
- 皮膚を乾燥させないよう保湿し、日差しを避ける
- 治療や体調について気になることをメモし、診察のときに質問する
医療治療
全身放射線照射は、放射線を何回かに分けて全身にあてる方法(分割照射)が一般的です。一度の量を少なくして回数を分けることで、副作用をやわらげながら必要な効果をねらいます。治療の期間や回数は医療機関によって異なります。あわせて、吐き気をやわらげる薬、感染を防ぐための対応、口の中のケア、輸血、栄養のサポート、痛みのケアなど、副作用を軽くするための支持療法が行われます。具体的な薬や量については、担当の医師・薬剤師にご確認ください。
手術が検討される場合
全身放射線照射そのものは手術ではありません。ただし、移植に伴って中心静脈カテーテルを入れる処置や、移植のための細胞を集める処置などが行われることがあります。これらは計画に沿って事前に説明があります。
この病気と共に生きる
治療の時期は体調の波が大きく、思うように動けない日もあります。予定を詰め込みすぎず、その日の体調に合わせて過ごすことが大切です。体温や症状を記録しておくと、体調の変化に早く気づけ、診察でも役立ちます。移植後は免疫力が戻るまで時間がかかるため、生活のリズムを整えながら、少しずつ活動の幅を広げていきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と休息を心がける
- 手洗い・うがい・換気など、感染対策を習慣にする
- 人混みや感染症が流行する時期の外出は、主治医と相談しながら決める
- 喫煙を避け、受動喫煙の機会も減らす
- 日焼けを避け、外出時は帽子や日傘、日焼け止めを使う
- 口腔ケアを毎日の習慣にする
- 体調の変化を記録するノートをつける
- ワクチンの予定は移植後に組み直す必要があるため、主治医と相談する
食事と運動
食事は、衛生面に気をつけながら、たんぱく質や野菜をバランスよくとることが基本です。口内炎や味覚の変化があるときは、やわらかく、刺激の少ない、食べやすいものを少量ずつに分けてとるとよいでしょう。水分はこまめにとります。運動は、体調が安定している範囲で、散歩など無理のない活動から始めます。移植後は急に体力が戻らないことが多いので、医療チームやリハビリの担当者と相談しながら少しずつ増やしていきましょう。
精神的健康と心の健康
長い治療のなかで、不安、落ち込み、いらいら、先の見えなさを感じることは自然なことです。外見の変化(髪が抜けるなど)や、家族や仕事との関係で悩む方も多くいます。一人で抱え込まず、話せる人や専門の相談窓口を利用してください。つらい気持ちが続くときや、死にたいと感じるようなときは、すぐに医療チームや地域の相談窓口に連絡してください。緊急の場合は119番に電話してください。
予防
全身放射線照射は、移植を成功に近づけるために計画される治療であり、避けるかどうかを選ぶ性質のものではありません。ただし、副作用の一部は事前の準備や治療中のケアでやわらげることができます。治療前に歯科で口腔内を整えておくこと、禁煙、栄養状態を整えること、感染予防を徹底することが役立ちます。将来子どもを希望する方は、治療前に生殖機能を守る選択肢について相談しておくことが大切です。
ワクチン
移植の前後では、これまでの予防接種の効果が弱まることがあります。移植後にワクチンの予定を組み直す必要があるため、主治医と相談しながら計画を立てましょう。生ワクチンは免疫の状態によって時期を選ぶ必要があります。
検診プログラム
治療後は、甲状腺や心臓、肺、歯、目の状態(白内障など)、二次的な病気のリスクについて、長期的に定期チェックを受けていくことが大切です。通院の予定を守り、気になる症状があれば早めに伝えましょう。
合併症
治療しない場合
- 移植の前処置として行われない場合、病気の再発や、移植した細胞が根づかないリスクが高まることがあります。
- ただし、すべての方に必要な治療ではなく、抗がん剤だけの前処置で行う場合もあります。
- 治療を受けない・受けるかの判断は、病気の状態や体力をふまえて医師とよく相談して決めます。
長期的な見通し
全身放射線照射は、移植を成功に近づけるための大切な治療のひとつです。副作用は決して楽ではありませんが、多くは時期がくれば落ち着き、医療チームが症状をやわらげるための対応を一緒に考えてくれます。移植後の経過は一人ひとり異なりますが、長期的なフォローを受けながら、少しずつ生活を取り戻していく方がたくさんいます。先のことを決めつけず、その時々で医療チームと相談しながら進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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