経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR/TAVI)
概要
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、心臓の出口にある「大動脈弁」というドアが硬く狭くなってしまったとき(大動脈弁狭窄症=だいどうみゃくべんきょうさくしょう)に行う治療のひとつです。胸を大きく開いて手術をする代わりに、足の付け根の血管や胸の小さな穴から細い管(カテーテル)を入れ、先端につけた新しい弁を心臓の所まで運んで取り付けます。全身麻酔を使わない、または負担の少ない方法で行われることが多く、高齢の方や体力に不安がある方でも選びやすい治療として広がっています。
重要な事実
- 新しい弁は、折りたたんだ状態で細い管の中を通って心臓まで運ばれ、そこで広がって古い弁の内側にはまり込みます。
- 胸を大きく切らないため、体への負担が少なく、回復が早い傾向があります。ただし誰にでも向く治療ではなく、心臓の状態や血管の形をよく調べてから決めます。
- 手術(外科的弁置換術)とTAVRのどちらが合うかは、年齢・体力・他の病気・血管の状態などを総合して、心臓チームが話し合って決めます。
大動脈弁狭窄症は、高齢になるほど増える病気です。日本でも高齢化に伴い患者さんが増えており、TAVRは2013年から保険診療で行われるようになって、今では多くの病院で実施されています。決して珍しい治療ではなく、心臓の治療の選択肢のひとつとして定着しています。
主に高齢の方に多い病気です。70代、80代、ときには90代の方で見つかることもあります。加齢とともに弁が石灰(せっかい)のように硬くなるのが主な原因です。若い方では、生まれつき弁の形が違う場合や、昔のリウマチ熱の影響などが関係することもあります。
症状
- 突然の激しい胸の痛みが続く
- 意識を失った、呼びかけに反応がない
- 息ができず、話すことも難しいほど苦しい
- 唇や顔が紫色になる、顔色が明らかに悪い
- 冷や汗をかき、ぐったりして動けない
- ⚠今までになく息切れが急に悪化した
- ⚠足のむくみが急に出た、体重が数日で急に増えた
- ⚠ふらつきや立ちくらみが繰り返す、気が遠くなりかけた
- ⚠動悸が長く続いて落ち着かない
- ⚠胸の痛みが軽いものでも、回数が増えてきた
一般的な症状
- 坂道や階段で息が切れる、以前より歩くのがつらくなった
- 胸の中央が締めつけられるように痛む(特に体を動かしたとき)
- 立ちくらみ、ふらつき、一瞬意識が遠のく(失神)
- 疲れやすい、だるい、力が出ない
- 動悸(どうき)がする、心臓がドキドキする感じがする
- 夜中や横になったときに息苦しくなる、枕を高くしないと眠れない
- 足のむくみ
子供の症状
- 子どもでは大動脈弁狭窄症はまれです。見つかる場合は、生まれつき弁の形が違う「先天性大動脈弁狭窄症」が多いとされています。
- 子どもでは、哺乳(ほにゅう)の力が弱い、体重が増えにくい、泣くと顔色が悪くなる、といった形で気づかれることがあります。
- 子どもの治療方針は大人とは異なり、小児循環器の専門医が中心になって判断します。
高齢者の症状
- 年齢のせいだと思っていた「最近歩けなくなった」「階段がつらい」が、実は弁の狭さからきていることがあります。
- 高齢の方では、はっきりした胸の痛みより、疲れやすさや息切れ、食欲低下、元気がないといった変化として現れることがあります。
- 失神(意識を失うこと)は高齢の方では転倒やけがにつながるため、軽く考えずに早めに相談してください。
原因
主な原因
- 加齢による弁の変性:長い年月の間に弁が厚く硬くなり、石灰のようにカルシウムが沈着して開きにくくなる(最も多い原因)。
- 生まれつきの弁の形の異常(二尖弁=にせんべん など):本来3枚の弁が2枚しかないなど、生まれつきの形の違いから若いうちに狭くなることがある。
- リウマチ熱の後遺症:昔かかった感染症の影響で弁が傷つき、長い時間をかけて狭くなる。
- 慢性の腎臓病や、胸部への放射線治療の影響など、他の病気に伴って弁が傷むことがある。
リスク要因
- 高齢であること(最大の要因)
- コレステロールが高い状態
- 慢性腎臓病
- 胸部への放射線治療を受けたことがある
- 生まれつき弁の形に違いがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に息切れが強くなった、横になると息苦しい
- 意識が遠のく、失神した、転倒した
- 胸の痛みが出て、回数や強さが増している
- 足のむくみや体重増加が数日のうちに進んだ
定期受診を予約すべき場合:
- 坂道や階段で息が切れるようになった、以前より歩くのが遅くなった
- 健康診断や診察で「心雑音(しんざつおん)が聞こえる」と言われた
- 動悸や疲れやすさが続いている
- 家族や身近な人に心臓弁の病気の人がいる
- 心エコー検査を受けたことがなく、高齢で息切れが気になる
診断
まず問診で、息切れやふらつきがいつ頃から、どんなときに起きるかをうかがいます。次に聴診器で胸に当てて「心雑音」を聞き、心エコー検査で弁の狭さの程度や心臓の動きを調べます。重症度がわかったら、治療方針を決めるためにさらに詳しい検査を行います。
行われる可能性のある検査
- 心エコー検査(超音波で心臓の動きと弁の開き具合を見る、痛みのない検査)
- 心電図(心臓の電気の流れを調べる)
- 胸部レントゲン(心臓の大きさや肺の状態を見る)
- 血液検査(心臓への負担や腎臓の働き、貧血などを調べる)
- 心臓カテーテル検査(冠動脈=心臓の血管の狭さを調べる)
- CT検査(足の付け根など血管の通り道の形を調べ、TAVRが可能かを判断する)
- 必要に応じて、運動したときの心臓の反応をみる検査
診察で予想されること
検査の多くは痛みが少なく、入院して数日でまとめて行われることが一般的です。CTや心エコーの結果をもとに、心臓内科・心臓外科・麻酔科などの専門チームが集まって、外科手術とTAVRのどちらがその方に合うかを話し合います。検査結果の説明は一度にたくさんの情報になることがあるので、家族と一緒に聞いたり、質問をメモしておいたりすると安心です。
治療
大動脈弁狭窄症の治療は、大きく分けて「症状をやわらげる治療」と「狭くなった弁を置き換える治療」があります。弁の狭さが中等度までで症状が軽ければ、まずは経過を見ながら生活を整えることが多いです。重症で息切れや失神などがある場合は、外科手術(胸を開いて弁を置き換える)かTAVRのどちらかが検討されます。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する。喫煙は心臓にも血管にも負担をかけます。
- 血圧や体重を記録し、変化に気づけるようにする。
- 塩分を控えめにし、バランスのよい食事を心がける。
- かかりつけ医の診察を定期的に受け、処方されている薬は自己判断でやめない。
- 歯科を受診して口の中を清潔に保つ(心臓の感染症予防につながります)。
- 風邪や感染症にかからないよう、手洗い・うがいを習慣にする。
- 体調がいつもと違うときは、無理をせず早めに相談する。
医療治療
弁そのものを元に戻す薬は今のところありません。薬は、心臓への負担を減らしたり、息苦しさやむくみをやわらげたりする目的で使われます。どの薬が必要かは、心臓の状態・血圧・腎臓の働きなどを見て医師が判断します。薬の飲み方や副作用が気になるときは、自己判断で中止せず、医師や薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
息切れや失神、胸の痛みなどの症状があり、弁の狭さが重症と判断された場合は、弁を置き換える治療が勧められます。胸を開く外科手術は若い方や血管の状態がよい方に、TAVRは高齢の方や体力に不安がある方、胸の手術歴がある方などに選ばれることが多いですが、最終的には心臓チームが総合的に判断します。治療のタイミングを逃さないことが大切で、症状が出てきたら早めに相談することが勧められます。
この病気と共に生きる
治療のあとは、定期的な通院と検査が続きます。手術や処置のあとは、医師の指示に沿って少しずつ活動量を増やしていきます。体のだるさや息切れが続くときは無理をせず、その日の体調に合わせて過ごすことが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける。必要なら禁煙外来の利用も考えましょう。
- お酒は量と頻度を控えめにする。
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない。
- 入浴は、のぼせるのを避けてぬるめのお湯にする。
- 寒い季節は、急に体を動かさず保温を心がける。
- 旅行や遠出の前には、かかりつけ医に相談しておく。
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして、野菜・たんぱく質・主食をバランスよくとることを心がけます。むくみがあるときは塩分と水分のとり方について医師に相談してください。運動は、医師の許可を得たうえで、散歩など無理のない範囲から始めるのがおすすめです。息が切れて話ができないほど強い運動は避け、体調のよい日に行いましょう。
精神的健康と心の健康
心臓の病気と言われると、不安や落ち込みを感じるのは自然なことです。「急に倒れたらどうしよう」という心配が続いたり、眠れなくなったりすることもあります。治療のあとも気分が晴れない、楽しめないという状態が2週間以上続くときは、がまんせずに医療チームに伝えてください。話すだけで気持ちが軽くなることもあります。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ひとりで抱えず、かかりつけ医やお住まいの地域の相談窓口、保健所にすぐ連絡してください。
予防
加齢による弁の変化を完全に防ぐ方法は、今のところわかっていません。ただし、心臓と血管をいたわる生活は、弁の病気だけでなく心臓全体の健康を守ることにつながります。禁煙、血圧を整えること、バランスのよい食事、適度な運動、定期的な健康診断を心がけましょう。
ワクチン
心臓の病気がある方は、かぜや肺炎などの感染症にかかると重症化しやすくなります。インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンについて、厚生労働省の定期接種の案内も参考にしながら、かかりつけ医に相談してみてください。
検診プログラム
高齢の方で息切れやふらつきがあるとき、また健康診断で心雑音を指摘されたときは、心エコー検査を受けることが早期発見につながります。症状がなくても、気になる変化があればかかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 心臓が血液を送り出すのに苦労し、心不全(息切れ・むくみ・疲れやすさ)が進むことがあります。
- 失神や転倒の危険が増えることがあります。
- 胸の痛みや不整脈が出ることがあります。
- 症状が出ている重症の場合は、治療しないままだと体調が急に悪くなることがあります。
長期的な見通し
大動脈弁狭窄症は、適切なタイミングで治療すれば、息切れや生活のつらさが軽くなり、日常生活を取り戻せる方が多くいます。TAVRは体への負担が比較的少ない治療として、高齢の方の選択肢を広げてきました。すべての方に同じ経過ではありませんが、心臓チームとよく相談しながら一歩ずつ進んでいくことができます。不安なことは遠慮なく医師に聞いてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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