迷走神経刺激療法(VNS)
概要
迷走神経刺激療法(VNS)は、首を通る太い神経「迷走神経」に、弱い電気刺激を送り続ける治療法です。体内に埋め込んだ小さな装置から刺激を送る方法と、耳の表面に電極を当てる体外式の方法があります。迷走神経は脳と体をつなぐ神経で、ここを刺激すると脳の興奮のバランスが変わり、てんかん発作が起きにくくなったり、うつ症状が和らいだりすることが期待されます。薬だけでは十分な効果が得られないときに、主治医と相談しながら検討される治療のひとつです。
重要な事実
- 迷走神経は、脳と心臓・肺・消化管などをつなぐ長い神経で、体のさまざまな働きに関わっています。
- 体内式では、胸の皮膚の下に刺激装置を置き、首の迷走神経につないだ細い電線から刺激を送ります。
- 刺激の強さやオン・オフの時間は、体外から専用の機器や磁石を使って少しずつ調整できます。
- 効果はすぐには出ず、数か月から1年以上かけてゆっくり現れることが多い治療です。
- 手術のあと、刺激が入るときに声のかすれやのどの違和感が起こることがありますが、調整で軽くなることが多いです。
難治性てんかんに対するVNSは、世界中で行われている治療ですが、てんかんのある人全体から見ると、VNSを受ける人はごく一部です。日本でも行われており、薬物療法で効果が不十分なときの治療の選択肢のひとつとして位置づけられています。耳に電極を当てる体外式の方法は研究が進んでいる段階で、保険診療での扱いは状況によって異なります。
主な対象は、いくつかの薬を試しても発作が十分に抑えられない「難治性てんかん」の人と、治療抵抗性うつ病と診断された人です。小児から高齢者まで幅広い年齢で検討されますが、年齢や持病、生活の状況をふまえて、専門医が適応かどうかを判断します。
症状
- てんかん発作が5分以上続く、または短い発作が続けて何度も起きて意識が戻らない(てんかん重積)
- 発作のあと呼吸が苦しそう、顔色が悪い、意識がなかなか戻らない
- けがややけどを伴う大きな発作、水の中での発作
- ⚠手術した傷の周りが赤く腫れる、熱が出る、膿のようなものが出る
- ⚠装置が入っている部分が痛む、皮膚が薄くなって装置が見えそう
- ⚠声のかすれや飲み込みにくさが急に強くなった
- ⚠発作の回数が急に増えた、発作の様子が今までと違う
- ⚠気分の落ち込みが強くなり、日常生活が保てない、自分を傷つけたい気持ちが出てきた
一般的な症状
- 薬を何種類か試しても、てんかん発作が繰り返し起こる
- 発作のたびに転倒やけがの心配があり、日常生活に不安がある
- うつ症状が長く続き、薬や心理療法(話し合いによる治療)で十分な改善が得られない
- 発作があることで、学校や仕事、運転など生活の制限が大きい
- 発作の記録から傾向は見えてきたが、薬の調整だけでは限界がある
子供の症状
- 小児では、発作が頻回で発達に影響が出るタイプのでんかんで検討されることがあります。
- 成長に合わせて装置に問題がないかを、定期的に確認します。
- 手術や通院への不安が大きいことがあるため、子どもにわかる言葉での説明と、まわりの支えが大切です。
高齢者の症状
- 高齢者では、他の病気や飲んでいる薬、もの忘れなどの状態をふまえて適応を判断します。
- 手術そのものの負担だけでなく、術後の通院や調整の負担も含めて相談します。
- 発作以外のふらつきや認知機能の変化との区別も必要になります。
原因
主な原因
- VNSは治療法であり、何かの病気の「原因」ではありません。VNSが検討される背景には、薬物療法で十分にコントロールできない難治性てんかんがあります。
- うつ病では、薬物療法や心理療法を十分に試しても症状が続く「治療抵抗性うつ病」の場合に検討されます。
- てんかんの背景には、脳のけがや感染、生まれつきの脳の形の違い、遺伝的な要因など、さまざまな理由があります。
- うつ病の背景にも、体調、睡眠、ストレス、人間関係など、いくつもの要因が重なっています。
リスク要因
- 複数の薬を試しても発作が抑えられない状態が続いている
- 発作による転倒やけがの危険が高い
- うつ症状が長く続き、生活や仕事に大きな影響が出ている
- 手術を受けられる体力や持病の状態に不安がある(適応の判断に影響します)
- 通院や装置の調整を続けるための、家族や周りのサポートが得にくい状況
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発作が5分以上続く、または発作が繰り返して意識が戻らないときは、すぐに119番へ連絡してください。
- 手術した傷の腫れや発熱、装置部分の痛みがあるとき
- 声のかすれや飲み込みにくさが急に強くなったとき
- 自分を傷つけたい気持ちや、消えたい気持ちが強くなったときは、一人で抱えずに主治医や緊急の相談窓口、119番に連絡してください。
定期受診を予約すべき場合:
- VNSを自分の治療の選択肢として考えたい、話を聞いてみたい
- 発作の回数や様子が変わってきたので、記録を見て相談したい
- 刺激の強さの調整や、装置の電池の状態を確認したい
- 気分の落ち込みや不安が続いていることを相談したい
- 別の医師の意見(セカンドオピニオン)も聞いてみたい
診断
VNSそのものを診断する検査はありません。代わりに「自分にとってVNSが合っているか」を判断するための評価が行われます。てんかん専門医や精神科医が、これまでの治療の経過、発作の様子、検査の結果、生活の状況を総合して考えます。
行われる可能性のある検査
- 脳波検査(頭に電極をつけて、脳の電気の動きを調べる)
- 頭部MRIやCT(脳の形や、過去のけが・病気の跡を画像で確認する)
- 発作の記録(発作日記、家族からの聞き取り、場合によっては入院しての詳しい観察)
- 血液検査(薬の効き具合や、肝臓・腎臓の働きを確認する)
- 心電図や胸部レントゲン(手術を受けられる状態かどうかを確認する)
- 精神科・心理の評価(うつ症状の程度や、生活への影響を確認する)
診察で予想されること
外来での問診と検査を数回行い、専門のチームで話し合って適応を判断します。手術を受ける場合は、入院の日程、手術の方法、術後に通院して刺激を調整していく流れについて説明があります。質問はその場でメモしておくと、あとで家族と相談しやすくなります。
治療
VNSは、薬物療法で十分な効果が得られないときの選択肢のひとつです。治療の中心は、装置から迷走神経へ弱い電気刺激を送り続けること。刺激の強さや時間は、体外から少しずつ調整していきます。耳の表面に電極を当てる体外式の方法も研究されています。VNSは他の治療をやめるものではなく、薬物療法などと組み合わせて行われるものです。
自宅でのセルフケア
- 薬は自己判断でやめたり減らしたりせず、決められたとおりに続ける
- 発作があった日時、長さ、様子を記録して、通院時に伝える
- 装置の調子がおかしいときは、自分で触って直そうとせず医療機関に連絡する
- 術後の傷は清潔に保ち、指示された範囲で無理なく過ごす
- 睡眠や食事のリズムを整え、体調や気分の変化を家族と共有しておく
医療治療
治療は段階を踏んで考えます。まず薬物療法を十分に試し、効果と副作用を見ながら調整します。それでも十分でない場合に、てんかん外科手術、ケトン食療法(食事の内容を調整する治療)、VNSなどの選択肢を検討します。うつ病では、心理療法(話し合いによる治療)や生活リズムの調整も大切にされます。効果には個人差があり、合う・合わないを専門医と一緒に見きわめていくことになります。
手術が検討される場合
体内式のVNSは手術で装置を入れます。首の左側と胸の皮膚を数センチ切開し、迷走神経に細い電線を巻きつけて、胸の皮下に刺激装置を収めます。手術はおおむね1〜2時間程度で、全身麻酔で行われるのが一般的です。術後は弱い刺激から始め、通院しながら徐々に調整します。手術を受けるかどうかは、年齢や持病、生活の希望をふまえて専門医と相談して決めます。
この病気と共に生きる
装置は体の中にあり、日常生活で特別に操作する必要はありません。ただ、刺激が入るときに声がかすれる、のどに違和感がある、軽く咳が出るといったことがあります。多くは刺激の強さの調整で軽くなります。電池の残量は通院時に確認してもらえるので、ふだんから気にしすぎる必要はありません。
生活習慣のアドバイス
- 強い磁石や大型のスピーカー、強い電気を出す機器を装置に近づけない
- MRIなど強い磁気を使う検査の前には、VNSの装置が入っていることを必ず伝える
- 空港や施設の金属探知機では、装置があることを係員に伝える
- 携帯電話は装置の位置から離して持つ(胸のポケットに入れないなど)
- 激しい接触のあるスポーツや水泳は、主治医に相談してから行う
食事と運動
特別な食事制限は必要ありません。バランスのよい食事と十分な睡眠は、発作や気分の安定を支えます。運動は多くの場合続けられますが、術後しばらくは傷に負担のかかる運動を控えます。水中での運動や、発作が起きたときに危険が大きい活動は、主治医と相談してください。
精神的健康と心の健康
VNSはうつ症状の改善を目指す治療でもありますが、効果はゆっくり現れ、期待どおりにいかない時期もあるかもしれません。手術や装置への不安、期待と現実の差は、気持ちの負担になることがあります。落ち込みが続くときや、自分を傷つけたい気持ちが出てきたときは、一人で抱えずに主治医や相談窓口に連絡してください。
予防
VNSは治療法であり、てんかんやうつ病そのものを予防するものではありません。また、VNSで発作が完全になくなるわけではなく、回数や重さを減らすことを目指します。発作の記録、服薬の継続、睡眠やストレスの管理は、治療の効果を支える大切な習慣です。
検診プログラム
VNSの治療中は、定期的な通院で装置の確認と刺激の調整を行います。そのときに、発作や気分の変化もあわせて伝えるようにしましょう。
合併症
治療しない場合
- 発作が続くことで、転倒やけが、事故の危険が高まることがあります。
- 発作があることで、学校や仕事、運転など生活の幅が狭くなることがあります。
- うつ症状が長引くと、日常生活や人間関係に大きな負担がかかります。
- 発作が長引く状態(てんかん重積)は、命に関わる危険があります。
長期的な見通し
VNSによって発作の回数や重さが減ることは、多くの研究で報告されています。ただし効果の出方には個人差があり、現れるまで数か月から1年以上かかることもあります。うつ病についても、改善が期待される治療のひとつです。効果が十分でないときは、刺激の調整や他の治療との組み合わせを主治医と相談できます。あきらめずに、自分のペースで治療を続けていくことが大切です。
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最終更新: 2026年11月3日
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