肺葉切除術(はいようせつじょじゅつ)— 肺の一部を取る手術
概要
肺葉切除術は、肺の一部を手術で取り除く治療です。肺は右側が3つ、左側が2つの「葉(は)」というまとまりに分かれていて、この葉をひとまとまりのまま取り出すのが肺葉切除術です。肺がんの治療として行われることが最も多いですが、肺がん以外の病気(重症の感染症や良性の腫瘍など)が原因のこともあります。取った部分の代わりに、残った肺が広がって働くため、多くの方は手術後に日常生活へ戻ることができます。
重要な事実
- 全身麻酔で行う手術です。胸に小さな穴をあけてカメラと器具を入れる方法(胸腔鏡下手術)が広く行われています。
- 取る範囲は、病気の大きさや場所、残る肺の働きをみて医師が決めます。肺の一部だけを取る方法が選ばれることもあります。
- 手術のあとは、深呼吸や咳の練習(呼吸リハビリ)と、早めに体を動かすことが回復の鍵になります。
肺がんで手術を受ける場合の代表的な方法で、日本でも多くの手術が行われています。決して珍しい手術ではありません。
肺がんで手術を受ける方は中高年から高齢の方が多いです。感染症や良性の病気が原因の場合は、より幅広い年齢の方に行われます。
症状
- 突然の強い息苦しさ、呼吸ができない感じ
- 胸の激しい痛み、冷汗をともなう胸の痛み
- 唇や指先が青紫色になる、意識がぼんやりする
- 多量の血を吐く、血の混じった痰が大量に続く
- 手術の傷からの出血が止まらない、傷が大きく開く
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠傷の周りが赤く腫れて、膿(うみ)が出る
- ⚠痰の量が増え、黄色や緑色になる
- ⚠息切れが日ごとに強くなっている
- ⚠ふくらはぎの痛みや片足のむくみ(血の塊ができる血栓のサインのことがあります)
- ⚠水分がとれない、食事がとれない状態が続く
一般的な症状
- 長引く咳や、なかなか良くならない痰
- 血が混じった痰が出る
- 胸の痛みや息苦しさ、階段で息が上がる
- 同じ場所に肺炎を繰り返す
- 原因がはっきりしない体重減少や疲れやすさ
- 自覚症状はほとんどなく、健康診断や人間ドックの画像で見つかることも多い
子供の症状
- 小児ではまれですが、生まれつきの肺の病気や重症の感染症で手術が必要になることがあります。
- 子どもの場合は手術そのものより、麻酔や術後の痛みへの配慮が重視されます。
- 回復が早いことが多い一方、成長に合わせて長く経過を見ていく必要があります。
高齢者の症状
- 高齢の方は、心臓病・糖尿病・腎臓病などの持病や体力の低下が手術の安全性に影響します。
- 手術の前に、肺の働きだけでなく全身の状態を総合的に評価します。
- 術後の回復には時間がかかることがあり、リハビリや家族の支えが大切になります。
- 手術後は一時的に体力が落ちやすく、誤嚥(食べ物が気管に入ること)や転倒への注意も必要です。
原因
主な原因
- 肺がん(手術が必要になる最も多い原因)
- 良性の腫瘍や、他の臓器から肺に転移した腫瘍
- 肺膿瘍(はいのうよう:肺に膿がたまる重症の感染症)や、治りにくい細菌感染
- 気管支拡張症(気管支が広がって元に戻らなくなる病気)
- 結核や過去の感染症のあとに残った傷み
- 胸部のけが(外傷)や、生まれつきの肺の病気
リスク要因
- 喫煙、および周りの人のたばこの煙(受動喫煙)
- 年齢(中高年以降に増える)
- 家族に肺の病気や肺がんの人がいる
- アスベストや粉じんなど、仕事上の有害物質への曝露
- 慢性の肺の病気がある
- 免疫力が低下する状態や治療を受けている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息苦しさが急に強くなった、呼吸が苦しくて横になれない
- 胸の強い痛みや、血の混じった痰が続く
- 高熱が続き、ぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 2週間以上咳が続く、痰が続く
- 健康診断や人間ドックで胸の画像に異常を指摘された
- 手術後に息切れや疲れやすさが続き、生活に支障がある
- 手術の傷の痛みが長引く、しびれが残る
診断
問診と診察に加えて、胸の画像検査、肺の働きを調べる検査、血液検査などを行います。必要に応じて、気管支に細いカメラを入れて組織を採る検査(気管支鏡検査)を行い、病気の種類を確かめます。手術を受けるかどうかは、呼吸器外科や腫瘍内科など複数の専門家で話し合って決めます。
行われる可能性のある検査
- 胸部X線(レントゲン)
- 胸部CT検査(体を輪切りにして詳しく見る画像検査)
- PET-CT検査(病気の広がりを調べる検査。必要に応じて)
- 気管支鏡検査と組織検査(気管支にカメラを入れて組織を採る)
- 肺機能検査(スパイロメトリー:息を吐く力や肺の容積を調べる)
- 血液検査(酸素の状態、腎臓の働き、出血しやすさなど)
- 心電図・心臓の超音波検査
- 6分間歩行テストなど、体力を確かめる検査
診察で予想されること
検査は日帰りで済むものから数日かかるものまであります。結果が出るまでに数日から1〜2週間かかることもあります。手術の方法や範囲は、検査の結果と生活の状況を合わせて相談しながら決めていきます。納得できないときは、別の医師の意見を聞く(セカンドオピニオン)こともできます。
治療
肺葉切除術は、病気のある肺葉をまとめて取り除く手術です。近年は、胸に小さな穴をあけてカメラと器具を使う方法(胸腔鏡下手術)や、機械を補助に使う手術が広く行われ、傷が小さく回復が早い傾向があります。手術の範囲や方法は、病気の大きさ・場所と、残る肺の働きをみて決まります。手術の前後には、呼吸のリハビリや痛みのケアを組み合わせて進めます。
自宅でのセルフケア
- 禁煙は手術の前も後も最も大切です。周りの人のたばこの煙も避けましょう。
- 手術前から深呼吸や、痰を出すための咳の練習をしておくと術後の回復がスムーズです。
- 手術後は、無理のない範囲で早めに起きて歩くことが、肺や体の回復を助けます。
- 傷口は清潔に保ち、赤み・腫れ・膿みがないか毎日観察しましょう。
- 十分な睡眠と休息をとり、疲れをためないようにしましょう。
- 入浴や運動、旅行の再開時期は、主治医の指示に従ってください。
医療治療
治療は手術だけで終わるとは限りません。病気の種類によっては、手術の前後に薬による治療や放射線治療を組み合わせることがあります。手術の後は、痛みをやわらげる薬、感染を防ぐ薬、血の塊(血栓)を防ぐ薬などが、状態に応じて医師から処方されます。どの薬をどのくらい使うかは、年齢や持病、検査の結果をもとに医師が判断します。薬についての疑問は、遠慮なく医師や薬剤師にたずねてください。
手術が検討される場合
肺がんで手術が勧められるのは、がんが肺の中にとどまっている場合などです。肺がん以外でも、繰り返す感染や出血、膿がたまる状態、良性でも大きくなる腫瘍などで手術が検討されます。体力や持病の状態をふまえ、手術以外の選択肢も含めて医師と相談して決めましょう。
この病気と共に生きる
退院後は、数週間から数か月かけて少しずつ体力が戻っていきます。肺の一部を失っても、残った肺が広がって働くため、多くの方は時間とともに息切れが軽くなります。家事や仕事は、疲れを感じたら休みながら段階的に戻していきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続け、たばこの煙のない環境を整える
- 手洗い・うがい・マスクなど、感染症の予防を心がける
- かぜや肺炎をこじらせないよう、体調の変化に早めに気づく
- 無理のない範囲で散歩などの運動を習慣にする
- 手術の傷や息切れの変化を記録し、通院時に伝える
食事と運動
食事は、肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質と、野菜をバランスよくとりましょう。水分もこまめにとります。運動は、手術の回復に合わせて散歩から始め、息が上がりすぎない程度を目安に続けます。呼吸リハビリで教わった深呼吸や口すぼめ呼吸は、家でも毎日行うと効果的です。
精神的健康と心の健康
手術の前は「本当に受けるべきか」という迷いや恐れ、手術の後は「前のように動けない」という落ち込みや不安を感じる方は少なくありません。眠れない日が続く、気分の落ち込みが2週間以上続く、涙が出る、何も楽しめないといった状態があれば、ひとりで抱えずに主治医や看護師、地域の相談窓口に話してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口、救急(119番)に連絡してください。
予防
手術そのものを防ぐことはできませんが、手術が必要になる原因の一部は予防できます。とくに禁煙は最も効果が大きい方法です。受動喫煙を避けること、仕事上の粉じんや有害物質から身を守ることも大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンは、肺の感染症を防ぐ助けになります。手術の前後や持病のある方は、かかりつけ医に接種の時期について相談してください。
検診プログラム
肺がん検診(胸部X線、必要に応じて低線量CT)は、症状がない段階で病気を見つける助けになります。厚生労働省の指針では、40歳以上の方に年1回の検診が勧められています。喫煙習慣のある方は、かかりつけ医に相談のうえで受診を検討しましょう。
合併症
治療しない場合
- 肺がんで手術をしない場合、病気が進み、他の場所に広がる可能性があります
- 感染症や膿瘍を放置すると、全身に菌が回る危険な状態になることがあります
- 繰り返す感染や出血で、肺の働きが少しずつ低下することがあります
- 手術を受けた場合も、出血、傷の感染、空気もれ(肺瘻)、肺炎、血の塊(血栓)、不整脈などの合併症が起こる可能性はあります
長期的な見通し
肺葉切除術は、多くの方にとって病気を根本から取り除くための有効な方法です。肺の一部を失っても、残った肺が働いて日常生活を送れる方がほとんどです。回復の速さには個人差があり、禁煙・呼吸リハビリ・定期的な通院がその後の状態を左右します。不安なことは、遠慮なく医療チームに相談しながら進めていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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