下大静脈(かだいじょうみゃく)フィルターって、どんなもの?
概要
下大静脈フィルターは、脚の静脈でできた血の塊(血栓=けっせん)が血流に乗って肺まで飛んでいくのを防ぐために、体の中に置く小さな医療器具です。下大静脈は、下半身の血液を心臓へ戻す太い血管です。この血管の中に、傘を開いたような形のフィルターを留置して、飛んできた血栓を受け止めます。フィルターは病気そのものを治すものではなく、危険な血栓が肺に届くのを防ぐ「ガード役」です。
重要な事実
- 脚の付け根や首の細い血管から管(カテーテル)を入れて留置する、体への負担が比較的少ない治療です。
- 血栓が肺の血管をふさぐ「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」を防ぐのが主な目的です。
- ずっと体内に残すタイプと、一定期間後に回収できるタイプがあります。
下大静脈フィルターは、血栓症のすべての方に使われるものではありません。血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を使えない、または使っても十分な効果が得られない、出血の危険が高いなど、限られた条件の方に検討されます。決して多い治療ではありません。
脚の深い静脈に血栓ができた「深部静脈血栓症」や肺塞栓症と診断され、出血の危険が高いなどの理由で血液を固まりにくくする薬を使いにくい方が対象になります。大きな手術のあと、長期間の安静が必要な方、がんで血栓のリスクが高い方などで検討されることがあります。
症状
- 突然の強い息切れ、息が吸えない感じ
- 胸の強い痛み、冷や汗、顔色が悪い
- 唇や指先が青紫色になる、意識がもうろうとする、倒れる
- 突然の激しい動悸で立っていられない
- ⚠片方の脚が急に腫れる、強く痛む、赤くなる
- ⚠38度以上の発熱が続く、留置した部位の腫れや出血
- ⚠咳に血が混じる
- ⚠歯ぐきの出血が止まらない、血便や血尿がある
一般的な症状
- 脚(特にふくらはぎ)の片側だけの腫れ、痛み、重だるさ
- 脚の皮膚が赤くなる、触ると温かい
- 息切れ、軽い胸の痛み、長引く咳(肺塞栓症のサインのことがあります)
- フィルターそのもので症状が出ることは多くありませんが、留置した部位の痛みや発熱が出ることがあります
子供の症状
- 小児でこのフィルターが使われることはとてもまれです。
- 必要かどうかは、小児科の医師と血栓の専門医が、体の大きさや成長も含めて慎重に話し合って決めます。
高齢者の症状
- 高齢の方は、がん、寝たきり、手術など血栓のリスクが重なりやすく、フィルターの検討対象になることがあります。
- 一方で、出血しやすい体の状態や持病を考慮して、慎重に判断されます。
- 脚のむくみや息切れは「年のせい」と思わず、早めに相談してください。
原因
主な原因
- 脚の深い静脈に血栓ができる(深部静脈血栓症)
- その血栓が肺に飛ぶ危険が高いと判断される(肺塞栓症の予防)
- 血液を固まりにくくする薬が、出血の危険などの理由で使えない、または十分な効果が得られない
リスク要因
- 長期の安静、入院、寝たきり
- 大きな手術、特に脚や腰の手術のあと
- 妊娠・出産後、経口避妊薬の使用
- 肥満、喫煙
- 血液が固まりやすい体質(遺伝的な要因)
- 長時間のフライトや車移動などで動かない状態が続く
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の息切れや胸の痛みがある(迷ったら119番に連絡してください)
- 片方の脚が急に腫れて痛む
- 留置した部位の出血が止まらない、腫れて熱を持つ
- 高熱が続く、咳に血が混じる
定期受診を予約すべき場合:
- フィルターを入れたあとは、決められた通院日と検査を守りましょう。
- 脚のむくみ、だるさ、歩きにくさが続くとき
- 新しい薬を始めるとき、歯科治療や手術を受ける前
- 海外旅行など長時間の移動を予定しているとき
診断
フィルターが必要かどうかは、血栓症があるかどうか、出血の危険はどのくらいか、ほかの治療が使えるかどうかを合わせて考えて決めます。画像検査で血栓の位置や広がりを確認し、心臓や肺の状態も評価します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血栓の指標や、血が固まりやすい状態かどうか)
- 脚の静脈の超音波(エコー)検査
- 造影CT検査(肺の血管に血栓が飛んでいないかの確認)
- 心臓の超音波検査
- 胸部レントゲン、心電図
診察で予想されること
検査の多くは外来で行えます。超音波検査は痛みがなく、体に負担が少ない検査です。造影CTでは造影剤を点滴するため、腎臓の状態やアレルギーの有無、妊娠の可能性を事前に伝えてください。
治療
治療の中心は、血栓が大きくならないようにする薬物治療と、血栓が肺に飛ぶのを防ぐフィルターです。フィルターは、薬を使いにくい方の「一時的な盾」として使われることが多く、状況が落ち着けば回収できるタイプが選ばれることもあります。
自宅でのセルフケア
- 医師に指示された通院と検査の予定を守る
- 長時間同じ姿勢で動かないことを避け、ときどき足首を動かす
- 弾性ストッキングなどを勧められた場合は、正しく使う
- 出血しやすいサイン(歯ぐき、鼻血、あざ、血便・血尿)に気をつける
- 歯科治療や手術、新しい薬を始める前には、フィルターが入っていることを必ず伝える
- 長時間の移動の前には主治医に相談する
医療治療
血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)が、血栓の治療と予防の基本になります。ただし出血の危険が高い方では使いにくいことがあり、そのような場合にフィルターが検討されます。薬の種類や量は、体の状態に合わせて医師が決めます。自己判断で中止したり量を変えたりせず、気になる症状があれば相談してください。
手術が検討される場合
フィルターの留置は、多くの場合、脚の付け根や首の静脈から細い管(カテーテル)を入れて行う治療で、全身麻酔ではなく局所麻酔で行われます。入院期間は数日程度のことが多いですが、施設や体の状態によって異なります。回収できるタイプは、血栓の危険が下がったころに同じようにカテーテルで取り出せることがあります。
この病気と共に生きる
フィルターが入っていること自体で、日常のほとんどが制限されるわけではありません。ただし、入っていることを忘れずに医療者へ伝える習慣と、定期的な通院が大切です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を心がける
- 長時間の同じ姿勢を避け、水分をこまめにとる
- 適正な体重を保つ
- 出血のサインに気をつける
- お薬手帳や、フィルターの情報がわかるカードがあれば持ち歩く
食事と運動
特別な食事制限は通常ありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の散歩などの運動は、血流を保ち血栓の予防に役立ちます。血液を固まりにくくする薬を使っている場合は、ぶつかる可能性の高いスポーツについて主治医に相談してください。
精神的健康と心の健康
「体の中に器具が入っている」という不安や、血栓がまた飛ぶのではないかという心配を感じる方は少なくありません。眠れない、気分が晴れない状態が続くときは、一人で抱え込まずに医療者に話してください。
予防
フィルターそのものを予防するという考え方はありませんが、フィルターが必要になる原因である血栓症は、生活の工夫である程度防げます。手術前や入院中は、医療者が血栓予防のための方法を一緒に考えてくれます。
検診プログラム
血栓のリスクが高い方(手術前、長期入院、がん治療中、妊娠中など)では、医療機関が症状の確認や定期的なチェックを行います。脚の腫れや息切れなど気になる症状があれば、早めに相談してください。
合併症
治療しない場合
- 血栓が肺の血管をふさぐ肺塞栓症を起こし、命に関わることがあります
- 脚の静脈の流れが悪くなり、腫れや痛みが長く続くことがあります(血栓後症候群)
- フィルターがずれる、折れる、血管に負担がかかるなどのまれな合併症
- フィルターの周りに血栓ができたり、血管がふさがったりする
- 長く留置することで、回収が難しくなることがある
長期的な見通し
多くの方は、フィルターと薬物治療を組み合わせることで、危険な肺塞栓症を防ぎながら日常生活を続けられています。血栓の危険が下がればフィルターを回収できることもあり、見通しは決して悲観的なものではありません。定期的な通院を続けることが、安心につながります。
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最終更新: 2026年11月3日
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