下肢静脈瘤と手術(結紮術・ストリッピング術)
概要
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、脚の静脈のなかにある「弁」がうまく働かなくなり、血液が心臓へ戻りにくくなって、静脈がふくらんでコブのように浮き出る状態です。脚の静脈は、血液を下から上へ押し上げるために、ところどころに一方通行の弁があります。この弁が弱ると血液がたまってしまい、静脈の壁が伸びて目立つようになります。結紮術(けっさつじゅつ)は、悪くなった静脈の一部分を糸でしばって血液が流れないようにする方法です。ストリッピング術は、弁が働かなくなった静脈そのものを、細い管を使って脚のなかから抜き取る手術です。どちらも「血液がたまる原因になっている静脈の通り道をなくす」ことで、脚のつらさを減らすことを目的としています。
重要な事実
- 下肢静脈瘤はとてもよくある病気で、成人の1割以上にみられると言われています。命に関わる病気ではありませんが、脚のだるさやむくみが続くことがあります。
- 手術は「見た目をよくするためだけ」のものではありません。脚の重さ・痛み・むくみ・皮膚のトラブルを減らすために行われます。
- 最近は、血管のなかに細いカテーテルを入れて熱で静脈を閉じる治療法など、からだへの負担が少ない方法も選べるようになり、結紮術やストリッピング術はそのひとつという位置づけになっています。
はい、とてもよくある病気です。成人の大約1割から2割程度にみられるとされ、年齢とともに増えていきます。女性のほうが多くみられますが、男性にも起こります。治療が必要になるのは、症状が強い方や皮膚のトラブルが出ている方など、一部の方です。
立ち仕事や座り仕事が長い方、女性(とくに妊娠・出産を経験した方)、ご家族に同じような方がいる方、年齢が上がってきた方、体重が多い方などに多くみられます。若い方でも、生まれつき弁が弱い場合には起こることがあります。
症状
- 片方の脚が急に大きく腫れて、痛みや熱感がある(深部静脈血栓症という、脚の奥の静脈に血のかたまりができる病気の可能性があります)
- 突然の息切れ、胸の痛み、呼吸のしづらさ、冷汗(血のかたまりが肺の血管に詰まる肺塞栓症の可能性があります)— この場合はためらわず119番に連絡してください
- 脚の静脈瘤から大量に出血して止まらない
- ⚠脚の皮膚に傷(潰瘍)ができて、膿や強い赤み、熱感がある
- ⚠脚の静脈瘤の部分が急に硬く腫れて、強く痛む(血栓性静脈炎の可能性)
- ⚠脚全体の腫れと発赤が急速に広がる、発熱をともなう
一般的な症状
- 脚がだるい、重い、疲れやすい(夕方に強くなることが多い)
- 脚がむくむ(とくに足首からふくらはぎ)
- 皮膚の下に青っぽい、あるいは赤っぽい血管が浮き出てコブのように見える
- 夜中にこむら返り(ふくらはぎのけいれん)が起こる
- 脚の皮膚がかゆい、乾燥する、色が茶色っぽくくすむ
- 長時間立った後に、脚の痛みやほてりを感じる
子供の症状
- 子どもでは非常にまれで、多くは思春期以降に現れます
- 思春期ごろに、脚の血管が目立つ、脚がだるいと訴えることがあります
- 子どもでは他の病気が隠れている場合もあるため、気になる症状があれば小児科や皮膚科に相談してください
高齢者の症状
- 皮膚の色が茶色っぽく変わる、皮膚が硬くなる、かゆみや湿疹が続く(うっ滞性皮膚炎)
- 足首のまわりに傷(潰瘍)ができやすく、治りにくい
- 脚のむくみが強く、歩くと疲れやすい
- 高齢の方は、皮膚の変化や潰瘍が先に目立つことがあります
原因
主な原因
- 脚の静脈にある「弁」の働きが弱くなり、血液が逆流してたまること(最も多い原因)
- 長く立っている・座っていることで、脚の静脈に血液がたまりやすい状態が続くこと
- 静脈の壁が生まれつき弱い、あるいは加齢で弾力を失うこと
- 脚の深いところの静脈が詰まった後の影響(血栓後症候群)
リスク要因
- 立ち仕事・座り仕事が長く、同じ姿勢が続く
- 妊娠・出産を経験した(ホルモンの変化とおなかの圧迫が影響します)
- 家族に下肢静脈瘤の人がいる(体質が関係します)
- 年齢が上がってきた
- 体重が多い、肥満傾向がある
- 運動不足で、ふくらはぎの筋肉をあまり使わない生活
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 片脚が急に腫れて痛む、赤くなる、熱をもつ
- 息切れや胸の痛みがある(119番へ)
- 脚の皮膚に傷ができて、膿んでいる、広がっている
- 静脈瘤の部分が急に硬く腫れて強く痛む
定期受診を予約すべき場合:
- 脚のだるさ・重さ・むくみが毎日のように続き、生活に支障がある
- 血管のコブが気になる、見た目が気になる
- 皮膚のかゆみ、色の変化、湿疹が続いている
- 夜のこむら返りが頻繁に起こる
- 家族に下肢静脈瘤の人がいて、自分も脚の血管が目立ってきた
診断
まず問診と診察で、脚の症状や生活習慣、ご家族の状況をうかがい、脚の血管の浮き出方を目で見て、触って確認します。次に、超音波(エコー)検査で、脚の静脈の血液の流れと弁の働きを調べます。これは痛みがなく、からだへの負担も少ない検査です。必要に応じて、手術の計画を立てるために詳しい検査を行うことがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診・視診・触診(症状と血管の状態を確認します)
- 下肢静脈超音波検査(エコー)— 血液の逆流や血栓の有無を調べる、最も大切な検査です
- 場合によりCT検査や静脈造影検査(より詳しく血管の形を調べます)
- 血液検査(血栓の疑いがあるときなど)
診察で予想されること
診察はおおむね10〜30分程度で、超音波検査もあわせて30分ほどかかることがあります。検査で痛みを感じることはほとんどありません。どんな治療が合うかは、症状の強さ、静脈の状態、生活スタイル、そしてご本人の希望をふまえて、担当の医師と相談して決めていきます。
治療
下肢静脈瘤の治療は、「症状をやわらげ、皮膚のトラブルを防ぐこと」を目的に行います。症状が軽い場合は、生活の工夫と弾性ストッキング(圧迫ストッキング)による保存的な治療から始めます。症状が強い場合や、皮膚の変化・潰瘍がある場合には、硬化療法(薬液を注入して静脈を閉じる方法)、血管内治療(細いカテーテルを入れて熱で静脈を閉じる方法)、そして結紮術・ストリッピング術などの手術が検討されます。どの方法がよいかは、脚の状態と生活スタイルによって変わります。
自宅でのセルフケア
- 長時間の立ちっぱなし・座りっぱなしを避け、30分〜1時間ごとに歩くなど脚を動かす
- 休憩時には脚を心臓より高く上げて休む
- ふくらはぎの筋肉を動かす運動(ウォーキング、かかとの上げ下げ、自転車こぎなど)を習慣にする
- 担当の医師や看護師の指示に従って、弾性ストッキングを正しく着用する
- 体重が増えすぎないように気をつける
- 脚を締めつける衣類や、長時間のヒールを避ける
- 皮膚の乾燥やかゆみがあるときは、刺激の少ない保湿剤を使い、かきむしらない
医療治療
保存的な治療の中心は、弾性ストッキングによる圧迫療法です。脚の外側から適度に圧力をかけて、血液がたまるのを助け、だるさやむくみをやわらげます。着用の時間や圧力の強さは、症状に合わせて医療者が選びますので、自己判断で強すぎるものを選ばないようにしてください。症状に応じて、静脈の働きを助ける飲み薬や塗り薬が使われることもありますが、これは医師の判断によるものです。根本的な治療としては、硬化療法(細い針で薬液を注入して静脈を閉じる)、血管内レーザー・高周波治療(カテーテルで静脈の内側から閉じる)、そして結紮術・ストリッピング術などの手術があります。どの治療も、メリットとデメリット、通院回数、費用などを含めて、担当の医師とよく相談して決めてください。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、脚のだるさ・痛み・むくみが強くて日常生活に支障がある場合、皮膚の色の変化や湿疹・潰瘍などの皮膚トラブルがある場合、血栓性静脈炎を繰り返す場合、そして保存的な治療で十分な改善が得られない場合です。結紮術は、逆流の原因になっている静脈の部分を小さな切開からしばって血流を止める方法です。ストリッピング術は、悪くなった静脈を細い管を使って抜き取る方法で、以前より切開が小さく、からだへの負担も少なくなっています。最近は入院せずに日帰りで行えることも多く、手術後は早めに歩くことが勧められます。見た目だけが気になる場合には、手術が本当に必要かを十分に話し合うことが大切です。
この病気と共に生きる
下肢静脈瘤は、付き合い方次第で上手にコントロールできることが多い病気です。長時間同じ姿勢をとらない、こまめに歩く、疲れたら脚を上げて休む、といった小さな工夫を毎日のなかに取り入れてみてください。弾性ストッキングは、慣れるまで着装に少し手間がかかりますが、履き方を工夫すると続けやすくなります。手術を受けた場合も、担当の医師の指示に沿って歩くなどの活動を続けることで、回復が助けられます。
生活習慣のアドバイス
- こまめに歩く習慣をつくる(1日30分程度を目安に、無理のない範囲で)
- 長時間の立ち仕事・座り仕事のあいだに、かかとの上げ下げなど小さな運動をはさむ
- 休憩や就寝時に脚を少し高くして休む
- 禁煙する(血流と血管の健康に良い影響があります)
- 適正体重を保つ
- 脚を締めつけない靴・衣類を選ぶ
- 暑い場所で長時間立つときは、こまめに水分をとり、休憩をとる
食事と運動
特別な食事制限は必要ありませんが、塩分のとりすぎはむくみにつながることがあるので、バランスのよい食事を心がけましょう。野菜・魚・適度な水分をとり、体重が増えすぎないようにすることが大切です。運動は、ふくらはぎの筋肉を動かすものが特におすすめです。ウォーキング、階段の上り下り、かかとの上げ下げ、水泳、自転車などが挙げられます。ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、収縮することで脚の血液を心臓へ押し戻す助けをしてくれます。無理のない範囲で、毎日少しずつ続けることが一番の近道です。
精神的健康と心の健康
脚の血管が目立つことや、だるさ・むくみが続くことで、「人に見られるのが気になる」「夏の服装をためらう」「思うように動けずつらい」と感じる方は少なくありません。見た目や症状の悩みは、誰かに話すだけで気持ちが軽くなることがあります。不安や落ち込みが続くときは、遠慮なく医療者に相談してください。
予防
体質や遺伝の影響が大きいため、完全に防ぐことは難しい病気です。ただ、生活の工夫によって症状の進行をゆるやかにしたり、つらさを減らしたりすることはできます。長時間の同じ姿勢を避ける、こまめに脚を動かす、適正体重を保つ、弾性ストッキングを活用する、といったことが役立ちます。
検診プログラム
下肢静脈瘤そのものを早期に見つける決まった健診はありません。脚のだるさ・むくみ・血管の浮き出しが気になるときは、かかりつけ医や皮膚科・血管外科などに相談してください。すでに症状がある方は、定期的な診察を受けることが勧められます。
合併症
治療しない場合
- 皮膚の色が茶色っぽく変わる、皮膚が硬くなる、湿疹が続く(うっ滞性皮膚炎)
- 足首のまわりに潰瘍(傷)ができ、治りにくくなる
- 静脈瘤のなかに血のかたまりができて、硬く腫れて痛む(血栓性静脈炎)
- まれですが、脚の深い静脈に血のかたまりができる深部静脈血栓症を合併することがある
- 静脈瘤の部分から出血しやすくなることがある
長期的な見通し
下肢静脈瘤は、多くの方にとって命に関わる心配の少ない病気で、治療も生活の工夫も効果が期待できます。症状が軽ければ、治療を急がずに経過を見ることもできます。手術を受けた方の多くは、脚のだるさやむくみが楽になり、生活の質が上がったと感じています。再発することもありますが、その場合も定期的な診察と適切な対処でコントロールできます。不安なことは、ひとりで抱えずに担当の医師に相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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