胸腔鏡下手術(VATS)とは ― からだへの負担が少ない胸部の手術
概要
胸腔鏡下手術(きょうくうきょうかしゅじゅつ、英語ではVATS=Video-Assisted Thoracic Surgery)は、胸の病気を治すために行う手術のひとつです。胸の側面に1〜4か所ほど小さな穴(ふつう1〜4cm程度)をあけ、そこから細いカメラと細い手術道具を入れて、テレビ画面を見ながら手術を進めます。昔ながらの手術では胸を大きく開いていましたが、VATSでは開く範囲が小さいため、痛みや出血が少なく、退院までの期間が短くなりやすいといわれています。肺・胸膜(肺を包む薄い膜)・縦隔(肺と肺のあいだの部分)などの病気が対象になります。
重要な事実
- 胸に小さな穴を数か所あけて、カメラの映像を見ながら行う手術です。全身麻酔で行うのが一般的です。
- 胸を大きく開く従来の手術に比べて、痛み・出血が少なく、入院期間が短くなりやすいとされています。
- 病気の場所や広がりによっては、途中で胸を開く手術に切り替えることもあります。これは安全を優先した判断で、失敗ではありません。
はい。日本では肺の手術の多くで胸腔鏡下手術が選ばれるようになっており、胸の手術としては広く行われている標準的な方法のひとつです。病院や病気の内容によって、行われる割合は変わります。
肺にできたしこり(結節)や肺がんが疑われる方、自然気胸(肺に穴があいて空気がもれる状態)をくり返す方、胸水や膿胸(胸に水や膿がたまる状態)の方、縦隔腫瘍(肺と肺のあいだにできるできもの)の方などが対象になります。年齢を問わず行われますが、高齢の方では体力や持病を考慮して手術の方法が相談されます。
症状
- 突然の強い胸の痛みと息苦しさが同時に起きた(気胸などの可能性)
- 息ができず、顔色が悪い、意識がぼんやりしている
- 多量の血の混じった痰が出て止まらない
- 手術後、急に息苦しくなった、胸が強く痛む、傷から血が大量に出ている
- ⚠38度以上の発熱が続く、または手術後に新しく熱が出た
- ⚠手術の傷が赤く腫れてきた、膿のようなものが出ている、痛みが強くなってきた
- ⚠咳や痰が急に増えた、息切れが悪化している
- ⚠食事がとれない、水分がとれない状態が続く
一般的な症状
- 長引く咳や、なかなか良くならない痰
- 血が混じった痰が出る
- 胸の痛みや、胸がしめつけられる感じ
- 階段や坂道で息が切れる、息苦しい
- 原因がはっきりしない発熱や、だるさが続く
- 手術後は、傷の痛み、肩や背中のこわばり、疲れやすさが数週間続くことがある
子供の症状
- 小児では胸腔鏡下手術が必要になることは比較的少なめです。
- 先天性の病気や、胸に膿がたまる病気(膿胸)、肺の生まれつきの形の異常などで行われることがあります。
- 子どもの場合は全身麻酔や手術そのものへの不安が大きくなりやすいため、事前にていねいな説明を受けることが大切です。
高齢者の症状
- 高齢の方では、肺がんが疑われるしこりが見つかったときに手術の相談がされることが多くなります。
- 体力や心臓・肺の持病、服薬中の薬などを総合して、手術を受けるかどうか、どの方法で行うかを相談します。
- 手術後は体力の回復に時間がかかることがあり、リハビリや栄養のサポートが大切になります。
原因
主な原因
- 胸腔鏡下手術は「治療の方法」であり、原因となる病気はさまざまです。
- 肺にできたしこり(良性のものも、悪性のものもあります)
- 自然気胸(肺の表面に穴があき、空気が胸の中にもれる状態)
- 胸水や膿胸(胸の中に水や膿がたまる状態)
- 縦隔腫瘍や胸腺の病気(肺と肺のあいだにできるできもの)
- 転移性肺腫瘍(ほかの場所のがんが肺に広がったもの)
- 食道や胸の交感神経の病気で、手術が検討される場合
リスク要因
- 喫煙は肺の病気全般の大きな危険因子です。手術後の回復にも影響します。
- 年齢が高い、心肺の持病がある、糖尿病などの持病がある場合は、手術のリスクを慎重に評価します。
- 家族に肺の病気や肺がんが多い方
- 過去に肺の病気や胸の手術をしたことがある方
- 長期間、粉じんや有害な物質を吸い込む環境で働いてきた方
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急な息苦しさ、胸の強い痛み、血の混じった痰がある
- 手術後に発熱が続く、傷が腫れて膿が出る、痛みが強くなる
- 食欲や水分がとれず、ぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 咳や痰が2週間以上続く
- 健康診断や検診で胸のレントゲン異常を指摘された
- 息切れが少しずつ悪くなっている気がする
- 手術後の痛みや疲れが長引き、日常生活に支障がある
診断
まず問診と診察、胸部レントゲンやCTなどの画像検査で、胸の中の状態を調べます。必要に応じて血液検査、呼吸機能検査(肺の働きを調べる検査)、心電図なども行い、手術が安全に受けられるかどうかを確認します。病気の種類をはっきりさせるために、気管支鏡(気管支に細い管を入れる検査)や、胸腔鏡を使って組織を少し採取する検査(生検)が行われることもあります。胸腔鏡下手術は、治療と同時に診断の役割を果たすこともあります。
行われる可能性のある検査
- 胸部レントゲン検査
- 胸部CT検査(胸の中を細かく見る画像検査)
- 血液検査(炎症や腫瘍マーカーなどを調べます)
- 呼吸機能検査(肺活量や息の吐き出しやすさを調べます)
- 心電図・心エコー(麻酔や手術に耐えられるか確認します)
- 気管支鏡検査や組織の一部を採る検査(生検)
- 必要に応じてPET検査やMRI検査
診察で予想されること
手術が決まったら、麻酔科の医師から麻酔の説明、看護師から入院生活の説明があります。手術前には喫煙をやめ、指示に従って食事を控える時間が設けられます。手術は全身麻酔で行われ、時間は病気によって異なります(数十分から数時間程度)。手術後は胸に細い管(胸腔ドレーン)が入ることが多く、翌日から歩く練習を始めるのが一般的です。入院期間は数日から1〜2週間程度が目安ですが、病状や回復の早さで変わります。
治療
胸腔鏡下手術は、胸の病気に対する「治療の選択肢のひとつ」です。すべての方が手術を受ける必要はなく、病気の種類・大きさ・症状・体力・年齢などを総合して、手術をするか、薬や経過観察でいくかを主治医と相談して決めます。
自宅でのセルフケア
- 手術前:禁煙をすることは、手術後の回復を助けます。
- 手術後:看護師や理学療法士と一緒に、深呼吸や息を吹きかける練習(呼吸訓練)を続けましょう。
- 無理のない範囲で早めに歩き始めることが、回復を助けます。
- 傷は清潔に保ち、医師の指示どおりにガーゼ交換や入浴を行いましょう。
- 痛み止めは我慢せず、医療者に相談してください。痛みを抑えると深呼吸や歩行がしやすくなります。
医療治療
手術以外にも、症状や病気に応じてさまざまな治療の選択肢があります。たとえば経過を見守る方法、胸にたまった水や空気を抜く処置、薬による治療、呼吸リハビリなどです。どの方法が合うかは病気の種類や体の状態によって変わるため、主治医とよく相談して決めましょう。薬の内容や量については、必ず処方した医師・薬剤師の説明に従ってください。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、画像検査で手術が必要と考えられるしこりがある場合、気胸をくり返す場合、胸水や膿胸が治療で改善しない場合、組織を採って詳しく調べる必要がある場合などです。心肺の状態や持病によっては手術が難しいこともあり、その場合は別の方法が選ばれます。手術を受けるかどうかは、急いで決める必要はなく、家族と相談しながら決めてよいものです。
この病気と共に生きる
手術後は、傷の痛みや疲れやすさが数週間続くことがありますが、多くの方は少しずつ日常生活に戻っていきます。最初の1〜2週間は家事や仕事を軽めにし、徐々に活動量を増やしましょう。傷の痛みで深呼吸が浅くなりがちなので、意識して深く息を吸うことが大切です。手術後しばらくは、肩や背中がつっぱる感じが続くことがありますが、これも回復とともに和らぐことが多いものです。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続けましょう。手術後の回復と、将来の肺の病気の予防に役立ちます。
- 睡眠を十分にとり、疲れをためないようにしましょう。
- 手術後は医師の許可が出るまで、重い物を持ち上げたり激しい運動をしたりするのは控えましょう。
- 風邪や感染症を防ぐため、手洗い・うがいを心がけましょう。
- 通院の予定を守り、体調の変化を記録しておくと診察で役立ちます。
食事と運動
食事はバランスよく、たんぱく質・野菜を意識してとると、傷の回復を助けます。食欲がないときは、少量ずつ回数を分けて食べても構いません。水分もこまめにとりましょう。運動は、散歩など無理のない範囲から始め、徐々に距離を伸ばしていきます。呼吸を整える体操や、医師・理学療法士がすすめる呼吸リハビリは、肺の働きを保つのに役立ちます。息苦しさや痛みが出たら、その場で休み、無理をしないことが大切です。
精神的健康と心の健康
手術は、体だけでなく心にも負担がかかります。結果を待つあいだの不安、痛みへの心配、仕事や家族への影響など、気持ちが落ち着かないのは自然なことです。眠れない、不安が強い、気分が落ち込む状態が続くときは、ひとりで抱え込まずに主治医や看護師に話してください。つらい気持ちが続くときは、お住まいの地域の保健所やかかりつけ医、地域の相談窓口に相談することもできます。緊急に安全が心配なときは119番へ連絡してください。
予防
胸腔鏡下手術そのものを防ぐ、という考え方は少し違います。大切なのは、手術が必要になる原因となる病気を予防し、早期に見つけることです。とくに禁煙は、肺の病気全般のリスクを下げるもっとも大切な習慣です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎などの感染症を防ぐワクチンは、肺の病気を持つ方や手術後の方にとって大切な場合があります。接種が適切かどうかは、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
日本では、市町村が行う肺がん検診(胸部レントゲン、必要に応じて喀痰検査)を受けることができます。対象年齢や内容は地域によって異なるため、お住まいの自治体の案内を確認しましょう。健康診断で異常を指摘されたら、早めに医療機関を受診してください。
合併症
治療しない場合
- 胸腔鏡下手術は治療法のため、対象となる病気を治療しない場合の経過は、その病気によって異なります。
- 肺のしこりを放置すると、悪性の場合に大きくなったり広がったりする可能性があります。
- 自然気胸をくり返すと、突然の息苦しさが何度も起こり、生活に影響します。
- 胸水や膿胸が長引くと、肺が押されて息苦しさが強まることがあります。
- ただし、すべてのしこりや症状が危険なわけではなく、良性で経過観察でよい場合も多くあります。
長期的な見通し
胸腔鏡下手術は、からだへの負担が少ない方法として広く行われており、多くの方が無事に回復しています。手術後の回復の速さには個人差がありますが、呼吸訓練やリハビリを続けることで、少しずつ生活の質を取り戻していけます。不安なことや心配なことは、遠慮なく主治医や看護師にたずねてください。あなたのペースで回復していくことが何より大切です。
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最終更新: 2026年11月3日
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