高気圧酸素治療(こうきあつさんそちりょう)ってどんな治療?
概要
高気圧酸素治療は、専用の圧力室(チャンバー)の中に入り、ふだんの空気より高い気圧のもとで酸素を吸う治療です。気圧を高くすると、酸素は血液の中によりたくさん溶け込み、届きにくかった体のすみずみまで酸素を運べるようになります。その結果、傷の治りを助けたり、感染と戦う力を後押ししたりする效果が期待されます。なお、健康器具として売られている「酸素カプセル」とは違い、医師の管理のもとで行う医療行為です。
重要な事実
- 1回の治療はおよそ60〜120分で、病気に応じて何回も繰り返します。外来で通える場合もあれば、入院して行う場合もあります。
- 日本では、厚生労働省の診療報酬で高気圧酸素治療の対象となる病気が定められており、すべての病気に使える治療ではありません。
- 治療中は耳のつまり感が出ることがありますが、スタッフがそばで見守り、飲み込む・あくびをするなどのコツを教えてくれます。
- 自己判断で受けるものではなく、主治医が必要と判断したときに行われます。
とても広く行われる治療ではありません。特定の病気や状態に対して、専門の医療機関で行われる治療です。ただし、対象となる病気は決してめずらしいものばかりではなく、糖尿病による足の傷や、放射線治療のあとの治りにくい傷などで必要になることがあります。
年齢を問わず行われます。治りにくい傷や皮膚の潰瘍、血流が悪くなった組織、放射線治療のあとの障害、潜水で起きる減圧症、一酸化炭素中毒、突発性難聴、骨や皮膚の治りにくい感染などがある方が対象になります。
症状
- ガス漏れや閉鎖された場所で、頭痛・吐き気・もうろうとした様子・意識がない(一酸化炭素中毒が疑われる)
- 潜水のあとに胸の痛み、息苦しさ、意識がぼんやりする、けいれん、体の麻痺(重い減圧症が疑われる)
- 傷が急に黒くなり、激しい痛みや腫れが広がっている
- 息が苦しい、意識がない、ぐったりしている
- ⚠傷が治らず、赤みや腫れが広がってきた
- ⚠発熱をともなって傷が悪化している
- ⚠突然、片方の耳が聞こえにくくなった(できるだけ早く耳鼻咽喉科へ)
- ⚠潜水のあとに軽い関節の痛みや皮膚のかゆみが続いている
一般的な症状
- 数週間たっても治らない傷や、皮膚の潰瘍(皮膚がえぐれた状態)
- 糖尿病などで血の流れが悪くなり、傷がじくじくしている・黒ずんできた部分がある
- 放射線治療を受けた部位の痛み、しびれ、治りにくい傷
- 突然聞こえにくくなる、耳がふさがった感じが続く(突発性難聴)
- 潜水のあとに起こる関節の痛み、皮膚のかゆみや発疹(減圧症)
- 頭痛、吐き気、もうろうとした感じが、ガス器具やストーブを使ったあとに起こる(一酸化炭素中毒を疑う症状)
- 骨や皮膚の感染が長引き、抗生物質の治療だけでは改善しにくい
子供の症状
- 子どもでは、やけど、重症の皮膚や骨の感染、事故による一酸化炭素中毒などで検討されることがあります。
- 小さい子どもは耳の圧を調整するのが苦手なことがあるため、医師が年齢や状態をよく見て判断します。
- 治療中は保護者の付き添いができる場合が多く、不安をやわらげる声かけが助けになります。
高齢者の症状
- 高齢の方では、糖尿病による足の傷、床ずれ(褥瘡)、血の流れが悪いことによる傷が治りにくいときに検討されやすいです。
- 心臓や肺に持病がある方は、治療の前に必ず主治医に伝えてください。治療前の検査で安全を確認します。
- 通院が負担になりやすいため、家族や医療ソーシャルワーカーに相談しながら通院計画を立てると安心です。
原因
主な原因
- 血の流れが悪くなり、組織に酸素が十分届かない状態(糖尿病による足の病変、動脈硬化など)
- 感染によって組織が傷つき、治りが遅れている状態
- 放射線治療のあとで組織が硬くなり、血の流れが悪くなっている状態
- 急な気圧の変化(潜水や航空機の搭乗など)で体内に気泡ができる状態
- 一酸化炭素を吸ってしまい、血液が酸素を運びにくくなる状態
リスク要因
- 動脈硬化や末梢動脈疾患(手足の血管が細くなる病気)
- 放射線治療の経験
- 喫煙(血管を細くし、酸素の運搬を妨げます)
- 長期間の安静や車いす生活による床ずれ
- けがややけど
- 潜水を仕事や趣味にしている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 傷が広がる、黒くなる、強い痛みがある
- 発熱と傷の腫れが一緒にある
- 突然、聞こえにくくなった
- 潜水のあとに体の不調が続く
- 頭痛や吐き気が、ガス器具を使ったあとに起こった
定期受診を予約すべき場合:
- 傷が2週間以上たっても治らない
- 糖尿病があり、足の傷やただれが気になる
- 医師から高気圧酸素治療を勧められた、または相談された
- 治療を受けるかどうか迷っているので、利点と注意点を聞きたい
診断
高気圧酸素治療は「診断」ではなく「治療」です。対象になるかどうかは、症状の経過、これまでの病気の履歴、体の診察、画像の検査などを合わせて、医師が総合的に判断します。治療を受ける前には、安全に行えるかどうかを確認するための検査も行われます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(感染の程度や血糖値、貧血などを確認)
- 画像検査(レントゲン、CT、MRI、超音波などで傷や血流の状態を確認)
- 傷の部分の培養検査(どんな菌がいるかを調べる)
- 聴力検査(突発性難聴が疑われる場合)
- 心電図や胸部レントゲン(治療前の安全確認)
- 必要に応じて肺の機能検査
診察で予想されること
治療の前に、耳・鼻・肺の状態を確認します。気圧が変わる治療なので、耳の調整が難しい場合や、肺に問題がある場合は安全面の配慮が必要です。初めての治療では、チャンバーの中が狭く感じて緊張することもありますが、スタッフが常にそばで様子を見守り、耳のつまり感をやわらげる方法(つばを飲む、あくびをするなど)を教えてくれます。
治療
高気圧酸素治療は、専用のチャンバーの中で高い気圧の酸素を吸うことで、血液により多くの酸素を溶かし込み、体の組織に酸素を届けやすくする治療です。傷の治りを助け、感染と戦う白血球の働きを後押しし、新しい血管が育つことを助けると考えられています。治療の回数や期間は病気によって異なり、医師が状態を見ながら決めていきます。
自宅でのセルフケア
- 医師や看護師の指示を守り、治療の予定を無理なく続ける
- 禁煙する(喫煙は血管を細くし、酸素の運搬を妨げます)
- 糖尿病がある場合は、血糖値を安定させる
- 傷や潰瘍のある部分を清潔に保ち、自分で無理にいじらない
- 治療前の食事や水分についての指示があれば必ず守る
- 耳や鼻の調子が悪いときは、治療の前に必ずスタッフに伝える
- 治療のあとは十分に休み、体調の変化をメモしておく
医療治療
高気圧酸素治療は単独で行うものではなく、傷の処置、感染に対する治療、血の流れを良くする治療など、標準的な治療と組み合わせて行われます。回数や期間は病気や状態によって変わり、医師が経過を見ながら判断します。健康食品やサプリメントで代わりになるものではありません。
手術が検討される場合
対象となる状態によっては、壊死した組織を取り除く処置や、血の流れを改善するための手術が並行して行われることがあります。手術が必要かどうかは、主治医が総合的に判断します。
この病気と共に生きる
治療は何回も通うことが多く、生活のリズムを整えることが大切です。通院の日は無理をせず、治療のあとはゆっくり休むようにしましょう。傷の状態や体調の変化を簡単なメモに残しておくと、診察のときに医師へ伝えやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(必要なら禁煙外来などの支援を利用する)
- 血の流れを保つために、長時間同じ姿勢を避ける
- 足に傷がないかを毎日見る習慣をつける
- 十分な睡眠と休息をとる
- 飲酒はほどほどにする
- 決まった通院日を守り、体調が悪いときは早めに連絡する
食事と運動
バランスの良い食事を心がけ、塩分や糖分のとりすぎに注意しましょう。糖尿病がある方は、主治医や管理栄養士と相談しながら食事の内容を整えることが大切です。運動は、傷や体調に合わせて無理のない範囲で行います。ウォーキングなど軽い運動は血の流れを助けますが、傷のある足に負担がかかる場合は、必ず医師に相談してから始めてください。
精神的健康と心の健康
治療が長く続くと、「本当に良くなるのだろうか」と不安になったり、疲れを感じたりすることがあります。それは自然な気持ちです。家族や友人、医療スタッフに気持ちを話してみてください。つらい気持ちや眠れない日が続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口(保健所・精神保健福祉センターなど)に相談することが助けになります。一人で抱え込まないでください。
予防
高気圧酸素治療そのものを「予防する」という考え方は少し違いますが、この治療が必要になる状態を減らすことはできます。糖尿病の管理、禁煙、血の流れを保つ生活、足の傷の早期発見などが大切です。
ワクチン
季節性インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンは、感染による傷の悪化や体調の急な変化を防ぐ助けになります。接種するかどうかは、かかりつけ医や薬剤師に相談してください。
検診プログラム
糖尿病がある方は、定期的な血糖値の検査と足のチェックを受けましょう。血圧や脂質の検査も、血管の健康を知るために役立ちます。健診で気になる数値を指摘されたら、早めに医療機関に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 傷や潰瘍が悪化し、感染が広がることがある
- 組織が壊死してしまい、場合によっては切断が必要になることがある
- 聴力の回復が遅れたり、十分に戻りにくくなったりすることがある
- 減圧症の症状が長引くことがある
- 一酸化炭素中毒のあとに、もの忘れや集中しにくさなどが残ることがある
長期的な見通し
適切な時期に治療を始められれば、傷の治りや症状の改善が期待できることが多くあります。効果の出方には個人差があり、時間がかかることもあります。治療の目的や見通しについて主治医に遠慮なく尋ね、一緒に進めていくことが安心につながります。
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最終更新: 2026年11月3日
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