良性発作性頭位めまい症と耳石整復術(CRP)
概要
耳石整復術(じせきせいふくじゅつ)は、英語でCanalith Repositioning Procedure(CRP)と呼ばれ、日本では「エプリー法」などの名前でも知られる治療法です。これは「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」というタイプのめまいを治すために行います。BPPVでは、耳の奥(内耳)にあるバランス感覚のセンサーの中に「耳石(じせき)」という小さな砂粒のようなものが迷い込み、頭を動かすたびにその粒が動いて、ぐるぐる回るめまいが起こります。耳石整復術は、頭の向きを決まった順番でゆっくり変えていくことで、迷い込んだ耳石を元の場所へ戻そうとする治療です。薬や機械は使わず、診察室で数分程度で行われます。
重要な事実
- 特徴は「頭を動かしたときだけ」起こる、数十秒ほどでおさまる回転性のめまいです。じっとしていると軽くなります。
- 耳石整復術は頭の向きを順番に変えるだけで行う治療で、痛みはなく、数分で終わります。
- 多くの場合1〜3回の施術で大きく改善しますが、再発することもあり、その場合はまた同じ治療が可能です。
とてもよくあるめまいの原因のひとつです。めまいを専門に診る外来では、最も多い原因として挙げられることもあります。決して珍しい病気ではありません。
症状
- 突然の激しいめまいに、ろれつが回らない・顔の片側が下がる・手足の片側が動かないなどの症状を伴う(脳卒中のサインの可能性)
- ものが二重に見える、歩けない、意識がもうろうとする
- これまでにない激しい頭痛を伴う
- けがや頭を強くぶつけた後に、繰り返す嘔吐や意識の変化がある
- 胸の痛みや呼吸の苦しさを伴う
- ⚠めまいに聞こえにくさや耳鳴りを伴う
- ⚠嘔吐が続いて水分がとれず、トイレの回数が減るなど脱水が心配される
- ⚠めまいが何時間も続き、軽くならない
- ⚠歩行が不安定で、支えがないと危ない
- ⚠初めてのめまいで、自分では原因がわからない
一般的な症状
- 寝返りをうったとき、起き上がるとき、上を向いたときなど、頭の向きを変えた直後に起こるぐるぐる回るめまい
- めまいは数十秒から1分ほどで自然におさまる(長く続いても数分程度)
- 吐き気や気分の悪さをともなうことがある
- 目が細かく揺れる(眼振=がんしん。周りの人から見て気づくことがある)
- 耳鳴りや聞こえにくさはふつう伴わない
- めまいの間は体のバランスが取りにくく、ふらつく感じがする
子供の症状
- 子どもではBPPVはまれですが、まったくないわけではありません。頭をぶつけた後などに起こることがあります。
- 子どもは「めまい」と上手に言えないことが多く、急に立ち止まる、親にしがみつく、ぐずる、吐く、歩くのをいやがるといった形で表れることがあります。
- 子どもの繰り返すめまいは、別の原因のこともあるため、小児科や耳鼻咽喉科での診察が大切です。
高齢者の症状
- 高齢者ではめまいによる転倒がけがや骨折につながりやすいため、特に注意が必要です。
- 「年のせい」と片づけられてしまい、診断が遅れることがあります。
- めまいを避けようとして動くのを控え、体力やバランス力が落ちてしまうことがあります。
- 持病の薬や血圧の影響など、他の原因が隠れていることもあるため、診察が大切です。
原因
主な原因
- 内耳の平衡感覚のセンサーの中に耳石(小さな炭酸カルシウムの粒)が迷い込み、頭の動きに反応して余計な信号を出すことでめまいが起こります。
- 加齢による内耳の変化で耳石がはがれやすくなることがあります。
- 頭をぶつける、転倒するなどの外傷の後
- 長期間のベッドでの安静や、寝たきりに近い状態の後
- 耳の手術の後や、内耳の炎症(前庭神経炎など)の後
- 特にきっかけがないことも多く、原因を特定できない場合も少なくありません。
リスク要因
- 中高年以降の年齢
- 頭部への外傷の経験
- 骨粗しょう症など骨の代謝に関わる状態
- 長期間の安静や入院
- 過去に同じめまいを経験したことがある(再発しやすい)
- 耳の手術や内耳の病気の既往
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 初めて経験するめまいで、強い吐き気や嘔吐を伴うとき
- めまいに聞こえにくさ・耳鳴り・耳の痛みを伴うとき
- 頭をぶつけた後にめまいが出たとき
- 歩くのが難しい、まっすぐ歩けないとき
- めまいが何時間も続いて改善しないとき
定期受診を予約すべき場合:
- 頭を動かすたびに、数十秒のぐるぐるするめまいが繰り返し起こるとき
- 寝返りのたびに目が覚めるほどのめまいがあるとき
- めまいを避けるために動くのが怖くなっているとき
- 以前にBPPVと診断され、同じような症状が出てきたとき(再発)
- 高齢の方で、めまいによる転倒が心配なとき
診断
まず問診で、どんなときに、どんなふうにめまいが起こるかをくわしく聞きます。そのうえで、頭の向きを素早く変えてめまいと目の揺れが出るかどうかを確かめる検査(頭位変換検査)を行います。この検査は耳石整復術ととてもよく似た動きで、検査を兼ねて治療になることもあります。痛みや放射線の心配はありません。
行われる可能性のある検査
- 問診(めまいが起こるきっかけ、持続時間、伴う症状の確認)
- 頭位変換検査(ディックス・ホールパイク法など。頭の向きを変えてめまいと眼振を確認します)
- 寝たまま頭を左右に回す検査(ロールテスト。別のタイプのBPPVを調べます)
- 目の揺れを観察する検査(眼振検査)
- 聴力検査(耳の別の病気との区別のため)
- 症状が典型的でない場合や、脳の病気が心配される場合には、MRIやCTなどの画像検査
診察で予想されること
診察は10〜30分ほどで終わることが多く、検査中に一時的にめまいが出ますが、すぐにおさまります。気分が悪くなることもあるので、検査後は少し休んでから帰るのが安心です。多くの場合、その日のうちに診断がつき、そのまま治療を受けられます。
治療
良性発作性頭位めまい症の治療の中心は、耳石整復術(CRP)です。頭の向きを決まった順番でゆっくり変えていき、迷い込んだ耳石を元の場所に戻すことで、めまいの原因を取り除きます。多くの場合は診察室で数分間行うだけで、1〜3回の施術で大きく改善します。自然に良くなることも多いめまいですが、治療を受けると早く楽になることが期待できます。
自宅でのセルフケア
- 施術の後は、その日は頭を激しく動かす運動や、長時間うつむく姿勢を控えめにしましょう。
- 寝るときは少し頭を高くし、急な寝返りを避けると楽なことがあります(医師の指示に従ってください)。
- 指示された頭の体操(自宅で行う整復の動き)があれば、無理のない範囲で続けましょう。
- めまいが起きたときは、すぐに座るか、つかまれるもののそばでゆっくり動き、転倒を防ぎましょう。
- 夜間のトイレなどは、照明をつけ、手すりや家具を伝ってゆっくり移動すると安心です。
- 水分と食事をしっかりとり、脱水や疲れを避けましょう。
医療治療
治療の中心は、診察室で行う耳石整復術です。頭の向きを一定の手順で変え、必要に応じて数回繰り返します。施術のあとは、めまいが残っていないか確認します。吐き気が強いときや不安が強いときには、症状をやわらげる薬が使われることがありますが、薬だけで耳石が戻るわけではありません。めまいが長引く場合には、リハビリ(平衡訓練)が行われることもあります。具体的な薬や量については、担当の医師や薬剤師にご相談ください。
手術が検討される場合
手術が必要になることはほとんどありません。ごくまれに、何度も治療しても改善しない場合に、耳の専門医のもとで手術が検討されることがありますが、多くの方は施術とリハビリで改善します。
この病気と共に生きる
めまいが続くと、外出や家事、仕事を控えたくなりますが、動かないでいることがかえってバランス感覚を落とすことがあります。転倒に注意しながら、無理のない範囲で普段の活動を続けることが大切です。施術後は数日で楽になることが多く、多くの方は1〜2週間ほどで日常生活がほぼ元に戻ります。
生活習慣のアドバイス
- 急に頭を振り向く、勢いよく起き上がるなどの動作はゆっくり行いましょう。
- ベッドや布団から起き上がるときは、一度横向きになってから体を起こすと安心です。
- 床に物を置かない、浴室に手すりをつけるなど、転倒しにくい環境を整えましょう。
- 十分な睡眠と休息をとり、疲れをためないようにしましょう。
- めまいが起きたときの対処を家族と共有しておくと安心です。
食事と運動
特別な食事制限はありませんが、水分をしっかりとり、バランスのよい食事を心がけましょう。骨の健康に関わる栄養(カルシウムやビタミンDなど)について気になる場合は、医師や管理栄養士に相談してください。運動は、めまいが落ち着いてから、ウォーキングや軽いストレッチ、バランスを鍛える運動を無理なく始めるとよいでしょう。ふらつきが強い間は、転倒しないよう支えのある場所で行ってください。
精神的健康と心の健康
めまいは「また起きたらどうしよう」という不安を生みやすく、外出を控えたり、気持ちが落ち込んだりすることがあります。これは決して大げさなことではなく、よくある反応です。つらい気持ちが続くときは、一人で抱え込まず、家族や友人、かかりつけの医療機関に話してください。気持ちの面でもサポートが必要な場合は、地域の相談窓口や医療機関が力になります。緊急に助けが必要なときは、日本では119番に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、頭をぶつけないように気をつける、長期間の安静を避けて早めに体を動かす、転倒しにくい環境を整えるといったことが、リスクを下げる助けになります。再発は珍しくなく、その場合も同じ治療が有効です。骨の健康が気になる方は、かかりつけ医に相談してみましょう。
検診プログラム
この病気のための決まったスクリーニング検査はありません。めまいを感じたら、早めに医療機関で診てもらうことが大切です。
合併症
治療しない場合
- めまいが続くことで転倒し、骨折やけがにつながることがあります。
- 外出や運動を控えるうちに、体力やバランス力が落ちることがあります。
- 「まためまいが起きるのでは」という不安から、活動範囲が狭くなることがあります。
- まれに、めまいが長引いたり繰り返したりして、日常生活に支障が出ることがあります。
長期的な見通し
良性発作性頭位めまい症は、命に関わらない病気で、多くは数日から数週間で良くなります。耳石整復術を受けた方の多くは、数回の施術でめまいが大きく改善します。再発することもありますが、そのときも同じ治療で対応できます。安心して、医療機関と相談しながら一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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