仙骨腟固定術(骨盤臓器脱の手術)
概要
仙骨腟固定術(せんこつちつこていじゅつ)は、骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)という病気を治すための手術のひとつです。骨盤臓器脱とは、膀胱(ぼうこう)・子宮・直腸(ちょくちょう)などをお腹の中で支えている筋肉や靭帯(じんたい=骨と骨をつなぐ強い組織)が弱くなり、膣(ちつ)の中に臓器が下がってきてしまう状態です。この手術では、膣のいちばん奥(子宮を摘出したあとの方では膣の断端=つけね)を、メッシュという医療用の人工の網を使って仙骨(せんこつ=おしりの上のほうにある骨)につり上げて固定します。お腹に小さな穴をいくつか開けてカメラで見ながら行う腹腔鏡(ふくくうきょう)や、ロボットの支援を受けて行う方法が一般的です。
重要な事実
- 骨盤臓器脱の手術の中では、再発(また下がってくること)が比較的少ない方法として知られています。
- お腹を大きく切る必要がなく、体への負担が少ない方法(腹腔鏡やロボット支援)で行われることが多くなっています。
- 手術後は数日から1週間ほどの入院が一般的ですが、病院や体の状態によって異なります。
骨盤臓器脱は女性にとても多い病気で、とくに出産を経験した方や閉経後の方に多くみられます。手術を受ける方も少なくありません。恥ずかしいことではなく、ごくありふれた悩みです。
主に閉経後の女性です。出産の経験がある方、肥満の方、長く続く咳(せき)や便秘がある方、重いものを持つ仕事をしている方に多くみられます。まれに若い方や、出産を経験していない方にも起こることがあります。
症状
- 膣の外に出た臓器が戻らず、色が変わって黒っぽく見える、または激しく痛む(血流が悪くなっている可能性があります)
- 尿がまったく出なくなり、下腹部が張って激痛がある、または発熱をともなう
- 手術後に、強い腹痛・大量の出血・38度以上の発熱・息苦しさがある
- ⚠尿が出にくい状態が続き、お腹が張ってつらい
- ⚠膣からの出血が続く、または量が増えてきた
- ⚠急に脱出がひどくなり、歩くのもつらい
- ⚠排尿時の痛みや血尿がある(尿路感染症の可能性があります)
一般的な症状
- 膣の中に何かが下がってくる感じ、出てくる感じ(お風呂で触るとわかることもあります)
- 下腹部や骨盤のあたりの重だるさ、引っ張られるような痛み
- 腰の痛み(とくに立っていると強くなり、横になると軽くなる)
- 尿が出しにくい、尿が途中で止まる、トイレが近い、尿もれがある
- 便が出しにくい、いきんでも出ない感じがする
- 膣の外に臓器が出てきて、下着がこすれて出血したり、おりものが増えたりする
- 性交(せいこう)のときの違和感や痛み
子供の症状
- 小児では基本的にほとんどみられません。生まれつきの結合組織(体を支える組織)の病気など、非常にまれな場合を除いて通常は対象になりません。
高齢者の症状
- 閉経後の女性に多く、加齢とともに組織が弱くなることで起こりやすくなります。
- 高齢の方は、心臓や肺の病気、糖尿病などをあわせ持つことがあり、手術を受ける前に全身の状態をしっかり確認する必要があります。
- 認知症(にんちしょう)のある方では、違和感を言葉で伝えにくいことがあるため、まわりの方の気づきが大切です。
原因
主な原因
- 骨盤の中の臓器を支えている筋肉と靭帯が弱くなること。これが骨盤臓器脱の根本的な原因です。
- 出産(とくに難産や、赤ちゃんが大きかった場合)で骨盤の支えが傷つくこと
- 閉経による女性ホルモンの減少で、膣や骨盤の組織が薄く、弱くなること
- 加齢による組織全体の衰え
リスク要因
- 出産の回数が多い、または難産を経験した
- 肥満(お腹の圧力が高まりやすい)
- 長く続く咳(たばこ、ぜんそく、COPD など)
- 慢性的な便秘、いきむ習慣
- 重いものを持ち上げる仕事や家事
- 子宮や骨盤の手術を受けたことがある
- 生まれつき結合組織が弱い体質
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 尿がまったく出ない、または激しい痛みをともなう
- 膣の外に出た臓器が戻らず、痛みが強い、色が悪い
- 出血が多く、止まらない
- 発熱をともなう強い下腹部痛がある
定期受診を予約すべき場合:
- 膣の中に何か下がってくる感じが続いている
- 下腹部の重さや腰痛が日常生活の邪魔になっている
- 尿や便の問題(出しにくい、もれやすい)が続いている
- 膣の外に臓器が出てきて、下着がこすれたり出血したりする
- 性生活に支障がある
- 手術を受けたあと、痛みや違和感、発熱が続く
診断
まず、どんな症状がいつからあるのかを聞きます(問診)。そのあと、内診(ないしん=膣の中に指を入れて診察する方法)で、どの臓器がどのくらい下がっているかを確かめます。多くの場合、診察だけで診断がつきます。手術を考えるときは、体の状態を詳しく調べるための検査を追加します。
行われる可能性のある検査
- 問診(症状、出産歴、既往歴、服薬の確認)
- 内診(骨盤の中の状態を直接確かめる)
- 超音波検査(膀胱や子宮、残っている尿の量を調べる)
- 尿検査(感染がないか調べる)
- 尿の流れを調べる検査(尿流測定など)
- 必要に応じてMRIやCT
- 手術前の血液検査、心電図、胸部X線などの全身チェック
診察で予想されること
内診は、恥ずかしいと感じる方が多い検査ですが、女性の医師を希望できる場合もあります。事前に相談してみてください。診察台に上がって数分程度で終わることがほとんどです。手術を決める前には、麻酔科の医師や内科の医師による術前の評価があり、体の状態に合わせた安全な計画が立てられます。
治療
骨盤臓器脱の治療は、症状の強さと、生活にどのくらい支障があるかで決めます。症状が軽ければ、まず体の負担が少ない方法から始めます。仙骨腟固定術は、手術を選ぶ場合の代表的な方法のひとつで、再発が比較的少ないとされています。どの方法が合うかは、年齢、体の状態、出産の予定の有無、生活スタイルによって変わります。
自宅でのセルフケア
- 骨盤底筋体操(けいきんたいそう)を毎日続ける(膣と肛門のまわりの筋肉を、おしっこを途中で止めるようにぐっと締めてゆるめる運動)
- 体重を適正に保つ
- 便秘を防ぐために水分と食物繊維をとる
- 重いものを持ち上げない、持ち上げるときは息を吐きながら腰を使って行う
- 長く続く咳を治療する、たばこをやめる
- 長時間の立ち仕事のあとは、横になって休む時間をつくる
医療治療
手術以外の方法としては、次のようなものがあります。症状に合わせて組み合わせます。 ・骨盤底筋体操(理学療法士などと一緒に行うと効果的です) ・ペッサリー(膣の中に入れて臓器を支える装具。定期的な交換と手入れが必要です) ・生活指導(体重管理、便秘や咳の治療、持ち上げ動作の工夫) ・閉経後の方では、組織を丈夫にする目的でホルモン補充療法が検討されることがあります ・尿や便の症状に対しては、それぞれに応じた対応を行います 具体的な薬や治療法は、かかりつけの医師・薬剤師にご相談ください。
手術が検討される場合
手術は、次のような場合に検討されます。 ・骨盤底筋体操やペッサリーなどで十分に改善しない ・膣の外に臓器が出てきて、日常生活や仕事に大きな支障がある ・排尿や排便のトラブルが続いている ・何度も再発を繰り返している 仙骨腟固定術は、お腹に小さな穴を開けて行う方法(腹腔鏡)や、ロボットの支援を受けて行う方法が一般的です。メッシュという人工の網を使うため、その長所とリスクについて、手術前に医師から詳しい説明があります。手術を受けるかどうかは、ご自身の生活や価値観をふまえて、医師とよく相談して決めてください。
この病気と共に生きる
手術のあとは、数日から1週間ほどの入院が一般的です。退院後は、少しずつ歩くなど軽い活動から始め、重いものを持つのや激しい運動は、医師に指示された期間は控えます。仕事や家事の復帰の時期は、仕事の内容によっても変わるため、主治医に確認しましょう。性生活の再開についても、自己判断せず必ず医師に相談してください。
生活習慣のアドバイス
- 手術後は、医師に言われた期間、重いもの(目安として赤ちゃんや米袋など)を持ち上げない
- 便秘を防ぐために、水分と食物繊維をしっかりとる
- 長く立ったままの作業や、腹筋に力を入れる運動は、許可が出るまで控える
- 咳が出るときは、お腹に手を当てて支える
- 定期的に通院し、経過を確認してもらう
食事と運動
バランスのよい食事で体重を適正に保つことが、骨盤への負担を減らします。食物繊維(野菜、きのこ、海藻、豆類など)と水分を十分にとると、便秘によるいきみを防げます。運動は、許可が出てから、ウォーキングなど体に負担の少ないものから始めます。骨盤底筋体操は、手術の前後を通して続けると再発予防に役立つとされています。
精神的健康と心の健康
骨盤臓器脱は命に関わる病気ではありませんが、「人に言いにくい」「外出がおっくう」「女性としての自信が持てない」と感じる方は少なくありません。こうした気持ちは自然なことで、あなたの弱さではありません。手術を決める前も後も、不安や迷いがあれば、遠慮なく医療者に話してください。つらい気持ちが続くときは、精神科や心療内科、地域の相談窓口に相談することも大切です。
予防
骨盤臓器脱を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減らすことはできます。骨盤底筋体操を習慣にすること、体重を適正に保つこと、便秘や長引く咳を治療すること、重いものを持つときに腹圧をかけすぎない工夫をすることが役立ちます。出産後から骨盤底筋を意識した生活を始めることも大切です。
検診プログラム
骨盤臓器脱のための決まった検診はありません。気になる症状があるときは、我慢せずに婦人科や泌尿器科、かかりつけ医に相談してください。とくに閉経後の方や出産経験のある方は、小さな違和感でも早めに相談すると、選択肢が広がります。
合併症
治療しない場合
- 脱出がだんだん進み、膣の外に臓器が出たままになることがあります
- 下着がこすれて出血したり、ただれたりして痛む
- 尿が出しにくくなる、尿がもれやすくなる(尿路感染症を繰り返すこともあります)
- 便が出しにくくなり、いきむことでさらに悪化する悪循環になる
- まれに、尿の流れが悪くなることで腎臓(じんぞう)に負担がかかることがあります
- 外出や人付き合いを控えるようになり、生活の質が下がることがあります
長期的な見通し
仙骨腟固定術は、骨盤臓器脱の手術の中でも再発が比較的少ない方法で、多くの方が症状の改善を実感しています。手術には出血、感染、メッシュに関連する合併症、排尿の変化などのリスクがあり、再発がまったくないとは言い切れません。しかし、これらのリスクは手術前に医師から説明があり、十分に理解したうえで話し合って決めることができます。症状が軽い方も、手術を受けた方も、適切なケアと定期的な通院を続けることで、前向きに生活を送ることができます。
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最終更新: 2026年11月3日
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