アンドロゲン除去療法(前立腺がんのホルモン療法)
概要
アンドロゲン除去療法(ADT)は、前立腺がんの治療法のひとつで、「ホルモン療法」とも呼ばれます。男性ホルモン(アンドロゲン、主にテストステロン)は前立腺を育てる働きがあり、前立腺がんの多くはこのホルモンをエネルギーにして大きくなります。ADTはこのホルモンの働きを抑えることで、がんの成長をゆっくりにする治療です。注射や飲み薬、手術などで体内の男性ホルモンを減らすイメージです。病気そのものを一気に消すというより、がんと長く付き合いながら生活を続けるための治療で、進行した前立腺がんの治療や、放射線治療・手術と組み合わせて使われることが多くあります。
重要な事実
- 前立腺がんの成長を助ける男性ホルモンの働きを抑える治療です
- 注射・飲み薬・手術(精巣を取る方法)など、いくつかの方法があります
- ほてり、疲れやすさ、骨が弱くなるなど副作用があり、定期的な検査と生活の工夫でやわらげることができます
前立腺がんは日本で多いがんのひとつで、アンドロゲン除去療法はその治療として広く行われています。治療を受けている人は多く、副作用への対処方法も知られてきています。
主に前立腺がんと診断された男性が対象です。中高年以降の方に多い治療です。前立腺がない女性には行いません。また、この治療は成人男性のためのもので、子どもには行いません。
症状
- 胸の痛み、胸の締めつけ、息苦しさが急に出た(心臓や血管の病気のサインの可能性)
- 突然、体の片側が動かない・しびれる、ろれつが回らない、言葉が出にくい(脳卒中のサインの可能性)
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が弱い
- 顔やのどがはれる、じんましん、呼吸ができない(重いアレルギーのサインの可能性)
- 突然の激しい痛みで立てない、動けない
- ⚠38度以上の熱が出た、寒気が強い
- ⚠尿が出にくい、まったく出ない、下腹部が張って痛い
- ⚠脚の片側がむくんで痛い、赤くなる(血栓のサインの可能性)
- ⚠脚のしびれや力が入らない、尿や便の出方がおかしい、急に強い背中の痛み(脊髄が圧迫されているサインの可能性)
- ⚠転倒して痛みが続く、骨折が疑われる
- ⚠気分の落ち込みが強く、日常生活がつらい状態が続く
一般的な症状
- ほてり・のぼせ、急に汗が出る(ホットフラッシュ)
- 疲れやすい、だるさが続く
- 性欲の低下、勃起しにくくなるなどの性機能の変化
- 筋肉が落ちて力が出にくくなる、体重が増える、おなか周りの脂肪が増える
- 骨が弱くなる(骨密度の低下)、骨折しやすくなる
- 気分の落ち込み、いらいら、不安、涙もろくなる
- 乳房がふくらむ・痛む、毛髪の変化
- 貧血気味になる、コレステロールや血糖値の変化
- 集中しにくい、物忘れが気になるなどの変化
子供の症状
- この治療は前立腺がある成人男性のためのもので、子どもには行いません。子どもについての副作用は該当しません。
高齢者の症状
- 高齢の方はもともと骨が弱くなりやすいため、骨密度の低下や転倒・骨折に注意が必要です
- 筋力の低下で歩くのがおっくうになったり、日常生活で疲れやすくなることがあります
- 心臓や血管の病気、糖尿病、高血圧などの持病があると、副作用の影響が出やすくなります。持病の管理と定期チェックが大切です
- 物忘れや集中力の変化が気になる場合は、遠慮せずに医師に相談してください
- 飲み薬が増える場合は、飲み合わせについて薬剤師に確認すると安心です
原因
主な原因
- この治療は病気そのものではなく「治療」です。前立腺がんの細胞は男性ホルモン(テストステロン)の刺激で増えるため、ホルモンを下げるとがんの成長が抑えられます
- 脳から「ホルモンを作れ」と出す指令を抑える注射や飲み薬が使われます
- 男性ホルモンを作る精巣を手術で取る方法(精巣摘除)が選ばれることもあります
- 放射線治療や手術の前後、あるいは進行した前立腺がんの治療として組み合わせて行われます
リスク要因
- 年齢が高い(もともと骨が弱くなりやすい)
- 以前から骨密度が低い、骨折の経験がある、ステロイド薬を長く使ったことがある
- 心臓や血管の病気、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの持病がある
- 喫煙、運動不足、やせすぎ、偏った食事
- 治療期間が長い、あるいは治療を繰り返す場合
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛み、息苦しさ、突然の片側の麻痺や言葉の出にくさがある(ためらわず119番へ)
- 高い熱が続く、尿が出ない、脚の片側がむくんで痛い
- 脚のしびれや力が入らない、尿や便の出方がおかしい、急に強い背中の痛み
- 転倒後の痛みが続く、骨折が疑われる
- 気分の落ち込みが強く、自分を傷つけたい気持ちがわいた(すぐに医療機関や救急へ連絡してください)
定期受診を予約すべき場合:
- ほてりや汗、疲れやすさなど副作用がつらいとき
- 気分の落ち込みや不安が続くとき
- 骨の健康や運動の始め方を相談したいとき
- 性生活や体の変化について相談したいとき
- 体重・血圧・血糖値の変化が気になるとき
- 治療の期間や次のステップ、他の治療との組み合わせを確認したいとき
診断
アンドロゲン除去療法は「診断」ではなく治療ですが、治療中は定期的に体の状態を確認します。血液検査で前立腺の状態を示す数値(PSA)や男性ホルモンの値を見たり、骨の強さを測ったり、血圧・体重・気分の変化を聞いたりして、治療の効果と副作用のバランスをみていきます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(PSA:前立腺の状態を示す数値)
- 血液検査(テストステロン:男性ホルモンの値)
- 骨密度検査(骨の強さを測る検査)
- 血液一般・生化学検査(貧血、肝臓・腎臓の働き、血糖、コレステロールなど)
- 血圧・体重・腹囲の測定
- 必要に応じて画像検査(CT・MRI・骨の検査など)
- 症状や気分についての聞き取り
診察で予想されること
多くは通院のなかで行われ、採血は数分、骨密度検査も十数分ほどで終わることが一般的です。結果は後日説明されます。検査の間隔は治療の内容や体の状態によって変わります。
治療
アンドロゲン除去療法は、それだけで行う場合もあれば、手術・放射線治療・他の治療と組み合わせて行う場合もあります。目的は、根治を目指す治療の補助、がんの進行を抑えること、症状をやわらげることなど、人によって異なります。治療を続ける期間も、数か月から長期までさまざまです。途中で休みながら行う方法が選ばれることもあります。
自宅でのセルフケア
- 無理のない範囲で体を動かす(ウォーキングなどの有酸素運動と、軽い筋力トレーニング)
- カルシウムとビタミンDを含む食事を意識する(乳製品、小魚、大豆製品、きのこ類など)
- 適度に日光を浴びる(骨の健康に役立ちます。日焼けしすぎないように)
- 禁煙する。お酒は控えめにする
- 体重を測って変化に気づく。急な増減は医師に伝える
- ほてりがつらいときは、薄着・扇風機・冷たい飲み物・カフェインやアルコールを控えるなどの工夫をする
- 睡眠を大切にし、疲れをためない
- 家の中を整理し、手すりや夜間の照明を用意するなど、転ばない工夫をする
- 気持ちがつらいときは、家族や医療者に言葉にして伝える
医療治療
方法は大きく分けて、注射や皮下に埋め込むタイプ、飲み薬、精巣を取る手術、脳からの指令を抑えるタイプの薬などがあります。どの方法を選ぶかは、がんの状態、持病、通院のしやすさ、生活スタイルをふまえて医師と相談して決めます。ほてりや骨の弱りなどの副作用をやわらげるための対応が一緒に検討されることもあります。具体的な薬の名前や量、使う期間については、必ず担当の医師や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
手術で精巣を取る方法(精巣摘除)は、通院が難しい場合などに選ばれることがあります。これは前立腺そのものを取る手術とは別のものです。前立腺を取る手術や放射線治療とアンドロゲン除去療法を組み合わせることもあります。どの順番で、どの方法を選ぶかは、がんの状態と体の状態をみながら医師と相談します。
この病気と共に生きる
治療を続けながら仕事や家事、趣味を続けている人はたくさんいます。体調の波があるので、予定を詰め込みすぎず、疲れたら休むことを大切にしてください。ほてりや汗は急に来ることがあるため、着替えやタオルを用意しておくと安心です。気になる変化はメモしておき、診察のときに伝えると相談がしやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 定期的な通院と検査の予定を守る
- 体を動かす習慣を無理なく続ける
- 禁煙し、お酒は控えめにする
- 体重と血圧をときどき記録する
- 睡眠を十分にとる
- 転倒しないように家の中を整える
- 気分の変化を日記などに書き留める
- 家族や友人、同じ経験をした人と話す時間をつくる
食事と運動
食事は、野菜・大豆製品・小魚・乳製品などをバランスよくとり、カルシウムとビタミンDを意識すると骨の健康に役立ちます。減塩と、極端な食べ過ぎ・飲み過ぎを避けることも大切です。運動は、ウォーキングなどの軽い有酸素運動と、椅子に座ってできる軽い筋力トレーニングを組み合わせると、筋力と骨を保ちやすくなります。持病がある方は、始める前に医師に相談してください。
精神的健康と心の健康
アンドロゲン除去療法では、気分の落ち込み、不安、いらいら、涙もろくなる、集中しにくいといった変化が起きることがあります。体の変化(筋肉や性機能の変化など)が、気持ちの負担になることもあります。これは珍しいことではなく、治療による変化として知られています。つらい気持ちが続くときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱え込まず、すぐに医療機関や救急(119番)に連絡してください。命に関わる緊急時は119番へ。気持ちの相談は、通院先の医療者や地域の相談窓口でも受けられます。
予防
アンドロゲン除去療法は治療なので、「予防する」という考え方は当てはまりません。ただし、副作用を軽くするための工夫はできます。禁煙、適正体重を保つこと、体を動かすこと、バランスのよい食事は、治療中の体調を支える助けになります。前立腺がんそのものを確実に防ぐ方法は、今のところ確立していません。
検診プログラム
前立腺がんのPSA検査は、日本では全国一律の「対策型検診」としては行われておらず、受けるかどうかは個人の判断で相談する検査(任意型)とされています。年齢や持病、検査の利益と不利益をふまえて、かかりつけ医と相談してください。厚生労働省のがん検診に関する指針も参考になります。
合併症
治療しない場合
- 治療を中断したり受けなかったりすると、前立腺がんが進行する可能性があります
- 骨が弱くなり、骨折しやすくなる
- 筋肉が落ちて転びやすくなる、日常生活で疲れやすくなる
- 体重やおなか周りの脂肪が増え、血糖値やコレステロールの変化が出ることがある
- 心臓や血管の病気のリスクが高まることがある
- 貧血気味になる
- 気分の落ち込みや不安が続く
- 性機能の変化が続く
長期的な見通し
アンドロゲン除去療法は、前立腺がんと共に生活を続けるための有効な治療法のひとつです。副作用は多くの場合、定期的な検査と生活の工夫、医療者への相談でやわらげることができ、治療が終われば元に戻る変化もあります。骨の健康や気分の変化も含めて早めに相談しながら、自分に合ったペースで治療と付き合っていくことができます。
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最終更新: 2026年11月3日
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