歯の感染症と抗菌薬(抗生物質)— 知っておきたいこと
概要
歯の感染症は、むし歯や歯のけが、歯ぐきの病気などが原因で、歯やその周りの組織に細菌(ばい菌)が入り込んで起こる炎症です。歯の神経が死んでしまうと、細菌が歯の内側で増え、やがて歯の根の先に膿(うみ)がたまることがあります。抗菌薬(抗生物質)は、この細菌を減らすための薬です。ただし、抗菌薬は「原因そのもの」を治す薬ではありません。むし歯の穴や死んだ神経の中には血液が流れていないため、薬が届きにくいのです。そのため、歯科での治療(穴を削る、根の中をきれいにする、抜歯するなど)と組み合わせて使うのが基本です。
重要な事実
- 抗菌薬は細菌を減らす薬で、むし歯や膿の袋そのものを取り除くことはできません。原因への歯科治療が必要です。
- 腫れや発熱があるとき、感染が広がっているときなどに、歯科医師の判断で抗菌薬が使われることがあります。
- 症状が良くなったように見えても、指示された使い方を最後まで守ることが大切です。自己判断で中断したり、残った薬を取っておいたりしないようにしましょう。
- 抗菌薬の効かない細菌(薬剤耐性菌)が増えているため、必要かどうかを歯科医師がよく見極める時代になっています。
とてもよくある問題です。歯が痛む理由のひとつとして、日本でも多くの人が一生のうちに一度は経験します。ただし「痛み=抗菌薬が必要」ではありません。痛みの多くは歯科治療で改善します。
年齢を問わず起こります。むし歯のある子ども、過去に歯の治療をした大人、歯ぐきの病気がある人、口が乾きやすい人、糖尿病のある人、喫煙する人、強い治療で免疫が下がっている人などは特に注意が必要です。定期的に歯科を受診していない人もリスクが高くなります。
症状
- 呼吸が苦しい、息がしづらい
- 飲み込むのが難しい、唾液が飲み込めず口からあふれる
- 口の底や首、のどが腫れて声が変わった、話しにくい
- 顔や目の周りの腫れが急速に広がり、目が開けにくい
- 意識がぼんやりする、もうろうとしている
- 高熱と顔の腫れが同時にあり、ぐったりしている
- こうした症状は感染が深い部分に広がったサインの可能性があります。ためらわずに119番へ連絡してください。
- ⚠顔やあごの腫れがどんどん大きくなっている
- ⚠発熱(特に38度以上)と歯の痛みが一緒にある
- ⚠口がほとんど開かない、開けると強く痛む
- ⚠痛みが強く、市販の鎮痛薬ではほとんど楽にならない
- ⚠膿のような味やにおいが続き、膿が出ている
- ⚠抗菌薬を飲み始めても2〜3日で改善しない、むしろ悪化している
- ⚠糖尿病や免疫を下げる治療を受けている人で、歯ぐきの腫れや発熱がある
一般的な症状
- ズキズキする歯の痛み、特に夜間に強くなることがある
- 冷たいもの・熱いものでしみる、かむと痛い
- 歯ぐきの腫れ、赤み、触ると痛い
- 歯の根元や歯ぐきから膿が出る、口の中に変な味やにおいを感じる
- 顔やあごの周りが腫れる
- 発熱、だるさ、首やあごの下のリンパ節が腫れて痛む
- 口が開けにくい、かむと違和感がある
子供の症状
- 「どこが痛いか」をうまく伝えられず、不機嫌になる、泣き続ける
- 食事や水分をとりたがらない、よだれが増える
- ほっぺたの片側だけが腫れている、触ると嫌がる
- 発熱や夜泣き、眠りが浅くなる
- 乳歯でも感染は起こります。子どもの場合は症状の進みが速いことがあるので早めに受診しましょう。
高齢者の症状
- 痛みをあまり感じず、気づかないうちに進行することがある
- 歯ぐきや頬の腫れ、食事のときに違和感がある
- 入れ歯の下や残っている歯の根に問題が隠れていることがある
- 発熱や元気がないなど、口以外の症状として現れることがある
- 認知症や飲み込みの力の低下があると、感染が広がりやすいので注意が必要です
原因
主な原因
- 深いむし歯が神経まで達し、細菌が歯の内側で増える
- 以前の治療で神経を取った歯の根の奥で細菌が増える(治療のやり直しが必要になることが多い)
- 歯ぐきの病気(歯周病)で、歯と歯ぐきの間の袋に細菌がたまる
- 歯が欠けた・割れた・ぶつけて傷んだ
- 親知らずなどが半分埋まったままになり、周りに汚れがたまる
- 根の先に膿の袋(膿瘍)ができ、周りの骨や組織に広がる
リスク要因
- 歯みがきや定期的な歯科受診が十分でない
- 甘いものを頻繁にとる習慣
- 口の乾燥(薬の副作用や加齢などで唾液が減る)
- 糖尿病などの全身の病気
- 免疫の働きを下げる治療を受けている、または病気がある
- 過去に入れた詰め物や被せ物が古くなっている
- 妊娠中は歯ぐきが腫れやすく、ホルモンの変化でトラブルが増えることがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 顔や首の腫れが急に広がっている
- 発熱、寒気、ぐったりした感じがある
- 口が開けにくい、飲み込みにくい
- 呼吸が苦しい、声が変わった(この場合は119番)
- 糖尿病や免疫低下のある人で腫れや発熱がある
定期受診を予約すべき場合:
- 数日続く歯の痛みやしみる感じ
- 歯ぐきの腫れや出血が繰り返す
- 口の中のいやな味やにおいが続く
- かむと痛む、歯が浮いた感じがする
- むし歯かもしれないと思う箇所がある
- しばらく歯科検診を受けていない
診断
歯科医院で、まず口の中の様子を診てもらい、痛む歯を軽くたたいて反応を見たり、冷たいものや電気的な刺激への反応を確かめたりします。多くの場合、レントゲン写真で歯の根の先や周りの骨の状態を確認します。必要に応じて、より詳しい画像検査や血液検査が行われることもあります。
行われる可能性のある検査
- 視診・触診(歯や歯ぐき、頬の腫れを確認)
- 打診(歯を軽くたたいて痛みの有無をみる)
- 温度刺激や電気刺激による歯の神経の反応チェック
- デンタルエックス線写真(根の先の膿や骨の状態を確認)
- 必要に応じてパノラマ写真やCT撮影
- 腫れや発熱が強い場合は血液検査や、大きな病院への紹介
診察で予想されること
診察は数分から十数分程度で、痛みを伴う検査はふつう最小限にします。どの歯が原因か、感染がどこまで広がっているかを説明してもらえます。治療の内容や回数、抗菌薬が必要かどうかについても、納得がいくまで質問してよいものです。わからないことは遠慮なく聞きましょう。
治療
歯の感染症の治療の中心は、原因を取り除く歯科治療です。抗菌薬は、感染が広がっているときや発熱があるときなどに、治療を助ける目的で使われることがあります。抗菌薬だけで治すことは難しく、また軽い症状の場合には不要なことも多いため、歯科医師が状態を見て判断します。
自宅でのセルフケア
- 痛みや腫れがあるときは無理をせず休み、水分をとる
- 患部を冷やしすぎないよう、冷たいタオルを頬の外側に当てるのは短時間にとどめる
- ぬるま湯でそっと口をすすぐ(強くゆすがない)
- 刺激の強い食べ物、とても熱いもの・冷たいものを避け、やわらかい食事をとる
- 痛む側で強くかまない
- 処方された薬は、指示されたとおりに使い、自己判断で量を変えたり中断したりしない
- 症状が消えても、指示された受診や治療の予約は必ず守る
- 口の中を清潔に保つ。ただし腫れている部分を強くみがかない
医療治療
歯科医師はまず、感染の原因を取り除く処置を行います。具体的には、むし歯の部分を取り除いて詰める、歯の根の中をきれいにして塞ぐ治療、歯ぐきの袋の掃除、膿がたまっている場合は切開して排出する、などです。感染が広く広がっている場合や発熱がある場合、免疫が低下している場合などには、抗菌薬(抗生物質)が処方されることがあります。薬の種類や使い方は、年齢・体重・アレルギー歴・腎臓や肝臓の状態などをもとに歯科医師が決めます。抗菌薬を飲んでいる間も、原因への治療を受けないと再び腫れることがあります。なお、抗菌薬はかぜなどのウイルスには効きません。自己判断で使わず、歯科医師・薬剤師の指示に従いましょう。
手術が検討される場合
歯を残せないほど大きく壊れている場合や、親知らずが繰り返し感染を起こす場合には、抜歯が選ばれることがあります。根の治療をやり直しても改善しない場合も、抜歯や専門的な治療が検討されます。腫れが広い範囲に及ぶときは、切開して膿を出す処置や、大きな病院の口腔外科で治療が必要になることがあります。
この病気と共に生きる
治療が始まれば、多くの人は数日から数週間で痛みや腫れが落ち着きます。腫れが引いても、歯科で続けて治療を受けることが再発を防ぐ近道です。痛み止めや抗菌薬を使っている間は、飲酒や激しい運動を控え、体を休めるようにしましょう。
生活習慣のアドバイス
- 1日2回以上、ていねいに歯をみがき、歯と歯の間も清掃する
- 砂糖を多く含む飲み物やお菓子をだらだらととらない
- 口が乾くときは、こまめに水分をとる、キシリトール入りのガムをかむなど工夫する
- 喫煙は歯ぐきの血流を悪くし、治りを遅くするため、禁煙を考える
- 糖尿病などの持病がある場合は、主治医の指示どおりに治療を続ける
- かみ合わせや入れ歯の不具合があれば、早めに調整してもらう
食事と運動
バランスのよい食事をとり、よくかんで食べることが歯と体の健康につながります。痛みがあるときは、おかゆ、やわらかいうどん、スープ、ヨーグルトなど、かみやすいものを選びましょう。激しい運動は腫れが強い間は控え、体調が戻ってから徐々に再開するとよいでしょう。
精神的健康と心の健康
歯の痛みは眠れないほどつらく、イライラしたり気分が落ち込んだりすることがあります。見た目の腫れが気になる、治療の痛みが心配、費用が不安、といった気持ちも自然なものです。つらさが続くときは、ひとりで抱え込まず、歯科医師やかかりつけの医師、身近な人に話してみてください。
予防
ある程度は予防できます。毎日のていねいな歯みがきと、糖分をとる回数を減らす工夫、そして定期的な歯科検診がもっとも大切です。小さなむし歯を早く見つけて治せば、神経まで達する感染を防げます。
ワクチン
歯の感染症を防ぐワクチンは、現在ありません。日々のケアと定期的な歯科受診が中心になります。
検診プログラム
自治体や職場の歯科健診、かかりつけ歯科医院での定期検診(3〜6か月ごとが目安とされることが多い)を受けると、むし歯や歯ぐきの病気を早い段階で見つけられます。治療した歯でも定期的な確認が大切です。
合併症
治療しない場合
- 膿の袋が大きくなり、顎の骨を溶かす
- 顔や首、口の底へ感染が広がる(蜂窩織炎など)
- 深い部分に広がると、呼吸や飲み込みがしづらくなることがある
- 顎の骨の炎症(骨髄炎)や副鼻腔炎を起こすことがある
- 細菌が血の中に入り、全身に影響することがある(特に免疫が弱い人)
- 歯を失う、抜歯が必要になる
- 痛みで食事や睡眠がとれず、体力が落ちる
長期的な見通し
ほとんどの場合は、歯科で適切な治療を受ければ改善します。抗菌薬を使うとしても、それは治療の一部であり、原因を取り除く処置がそろってこそ効果が続きます。痛みや腫れが強いときは早めに歯科を受診し、指示された治療を最後まで続けることが、歯を守ることにつながります。心配なことは、遠慮なく歯科医師に相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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