人工尿道括約筋(じんこうにょうどうかつやくきん)ってどんなもの?
概要
人工尿道括約筋は、尿漏れ(尿失禁)がひどく、自分の力では尿を止められない人のために、手術で体の中に入れる小さな装置です。尿の通り道(尿道)のまわりに、風船のような輪(カフ)をそっと巻きます。この輪に液体を入れると尿道が軽く閉じて尿がもれず、外したいときは体の外からポンプを押して液体を抜き、尿を出します。ふだんは意識しなくても閉じているので、トイレのときだけ操作する仕組みです。
重要な事実
- 体の中に埋め込む装置で、外から見える部分はありません。排尿のときは、陰囊(いんのう)などに入れたポンプを指で押して操作します。
- 前立腺(ぜんりつせん)の手術のあとの尿漏れでよく検討されます。男性に使われることが多い治療です。
- 装置はカフ・ポンプ・圧力調整のための小さな風船の3つの部分からできていて、体内でチューブでつながっています。
- 薬や体操などの治療で改善しない場合に検討される、専門的な手術治療です。日本では保険が適用されることが多い治療です。
尿漏れそのものはとても多い悩みで、決してめずらしいものではありません。ただし人工尿道括約筋は、まず生活の工夫や骨盤底筋体操、薬などの治療を試したうえで、それでも改善しない人に検討される治療です。だから「尿漏れがある人の多くが受ける手術」ではなく、必要な人に選ばれる治療だと考えてください。
前立腺がんの手術のあとや、骨盤(こつばん)の中の手術・放射線治療のあとに尿漏れが続く人、脊髄(せきずい)の損傷や多発性硬化症などの神経の病気で尿道を閉める働きが保てない人などが対象になります。男性に多い治療ですが、女性や小児に検討されることもあります(小児は小児泌尿器科の専門医が判断します)。
症状
- 尿がまったく出ず、下腹部が激しく張って痛む(尿の出口が詰まっている可能性があります)
- 高熱と寒気、腰や背中の痛み、意識がぼんやりするなど、感染が全身に広がったサインがある
- 手術の傷から大量に出血している、または止まらない
- ⚠発熱がある、手術した部位が赤く腫れている、膿(うみ)のようなものが出ている
- ⚠ポンプを操作しても尿が出ない、または尿が止まらない
- ⚠陰囊(いんのう)や会陰(えいん)に強い痛みや腫れがある
- ⚠血尿が続く、または尿がにごって痛みがある
一般的な症状
- 立ち上がったとき、歩いたとき、重い物を持ち上げたときなどに尿がもれる
- 咳(せき)やくしゃみ、笑ったときなど、おなかに力が入ると尿がもれる
- トイレに行きたいと感じる前に、尿がもれてしまう
- 1日に何枚も尿パッドが必要で、外出が不安になる
- 尿の勢いが弱い、途中で尿が止まる、最後にぽたぽたと垂れる
- 夜中に何度もトイレに起きる、トイレが近い
子供の症状
- 小児では人工尿道括約筋が使われることはまれです。先天異常(二分脊椎など)や神経の病気で尿をコントロールしにくい場合に、専門医が検討することがあります。
- 子どもの尿漏れが続くときは、まず小児科や小児泌尿器科で相談することが大切です。
高齢者の症状
- 尿パッドを長時間あてていることで、皮膚がかぶれたり、ただれたりしやすくなります。
- 夜間にトイレへ急いで起きることで、転倒の危険が高まることがあります。
- 手先の動きや認知機能(記憶や判断の力)が低下していると、ポンプを押す操作が難しいことがあります。手術前に家族や支援者とよく相談しておくことが大切です。
原因
主な原因
- 前立腺がんの手術で、尿道を閉める筋肉が傷ついたり弱ったりする(男性で最も多いきっかけのひとつです)
- 骨盤の中の手術や、放射線治療のあとの影響
- 脊髄損傷、多発性硬化症、糖尿病による神経障害など、神経の病気で尿道の働きが乱れる
- 生まれつきの病気(二分脊椎など)による神経因性膀胱(しんけいせいぼうこう)
- 加齢による筋肉の衰え、前立腺の肥大、女性では出産や骨盤のゆるみなど
リスク要因
- 前立腺の手術や骨盤内の手術を受けたことがある
- 骨盤のあたりに放射線治療を受けたことがある
- 脊髄や神経の病気がある
- 肥満、喫煙(咳が続くと腹圧がかかります)
- 便秘がちで、トイレで強くいきむことが多い
- 重い物を扱う仕事や、立ち仕事が長い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 尿が急に出なくなり、下腹部が張ってつらい
- 発熱や手術部位の赤み・腫れ・膿がある
- 尿の操作がうまくいかず、尿が止まらない状態が続く
- 血尿が続く、排尿時に強い痛みがある
定期受診を予約すべき場合:
- 尿漏れで毎日パッドが必要で、外出や人づきあいを控えるようになった
- 尿パッドによる皮膚のかぶれやかゆみが続いている
- 夜間のトイレ回数が増えて、眠りが浅くなっている
- 骨盤底筋体操や生活の工夫を数か月試しても改善しない
- 「手術で入れる装置」という選択肢について詳しく知りたい
診断
まず問診で、どんなときにもれるのか、1日に何枚パッドを使うのか、生活にどれくらい影響しているのかを伺います。そのうえで尿検査や、排尿の記録(排尿日誌)をつけてもらい、膀胱(ぼうこう)と尿道の働きを調べる検査を行います。人工尿道括約筋の手術が適しているかどうかは、泌尿器科の専門医が検査の結果と全身の状態をあわせて総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診と排尿日誌(いつ、どれくらい排尿・漏尿したかを記録します)
- 尿検査(感染や血尿がないかを調べます)
- 残尿測定(排尿したあとに膀胱に残っている尿の量を、超音波で調べます)
- 尿流量検査(尿の勢いと量を測ります)
- 膀胱内圧検査・尿道内圧検査(膀胱と尿道の働きを数値で調べます)
- 内視鏡検査(尿道の中を細いカメラで見ます)
- 場合によっては画像検査や、歩行・認知機能などの全身評価
診察で予想されること
検査は一度にまとめて行うこともあれば、何回かに分けて行うこともあります。排尿日誌は数日間つけてもらうことが多く、検査そのものは30分から1時間ほどで終わることが多いです。痛みはほとんどありませんが、カテーテルを入れる検査では少し違和感があることがあります。結果の説明と、手術を受けるかどうかを決めるまでには、何回か通院していただくことが一般的です。
治療
尿漏れの治療は、体への負担が少ないものから順に考えていきます。まずは生活の工夫、骨盤底筋体操、尿パッドの使い方、便秘の改善などを試します。それでも日常生活がつらい場合には、薬による治療や、尿道のまわりに注入する治療などを検討します。人工尿道括約筋は、こうした治療でも十分に改善しない方に選ばれる手術治療です。
自宅でのセルフケア
- 骨盤底筋体操(骨盤の底の筋肉を、おしっこを途中で止める感覚でぎゅっと締めてゆるめる運動)を毎日続ける
- 水分は少しずつこまめにとる。一日中飲まないとかえって尿が濃くなり、刺激になります
- コーヒーや紅茶、アルコール、炭酸飲料は膀胱を刺激することがあるので、量を意識する
- 便秘を防ぐ(食物繊維と水分、適度な運動)。いきむと尿漏れが悪化します
- 体重を適正に保つ。喫煙があるなら禁煙を考える(咳が腹圧をかけます)
- 尿パッドはこまめに替え、皮膚を清潔に保ってかぶれを防ぐ
医療治療
治療の方法は、尿漏れのタイプや体の状態によって変わります。膀胱が勝手に縮んでしまうタイプには、膀胱の働きを落ち着かせる薬が使われることがあります。尿道を閉める力が弱いタイプには、尿道のまわりに物質を注入して閉まりを助ける治療や、骨盤底筋体操を専門家と一緒に行う治療などがあります。尿をためる袋(集尿器)やカテーテルを使う方法もあります。薬には種類があり、合うかどうかは人によって違うため、かならず医師や薬剤師と相談しながら決めてください。ここでは具体的な薬の名前はお伝えしません。
手術が検討される場合
人工尿道括約筋の手術は、ほかの治療で十分な効果が得られず、日常生活に大きな支障がある場合に検討されます。全身麻酔で行い、1〜数時間ほどかかることが多いです。入院は数日から1週間程度が一般的です。手術のあとは、しばらく尿道に管を入れて尿を外に出す期間があり、傷が落ち着いてから装置の使い方の練習を始めます。手術には感染、装置の故障、装置が皮膚の下から出てきてしまうこと(びらん)、再手術などの可能性があります。高齢の方や認知機能が気になる方は、手術後にポンプを操作できるかどうかも含めて、家族や医療チームとよく話し合ってから決めるとよいでしょう。
この病気と共に生きる
手術のあとは、ポンプの位置と押し方を覚えることが最初のステップです。慣れるまでは少し時間がかかりますが、多くの方は数週間で自然に操作できるようになります。旅行や外出のときは、担当医からもらう説明書や、装置が入っていることを伝えられるカードを持っておくと安心です。空港の保安検査や、ほかの病院で検査を受けるときは、必ず「人工尿道括約筋が入っている」と伝えてください。MRIなどの検査が受けられるかは装置によって条件が違うので、事前に担当医に確認しておきましょう。
生活習慣のアドバイス
- ポンプの押し方を、落ち着いて練習できる時間を作る
- 外出先のトイレの位置を把握しておくと安心です
- 医療機関を受診するときは、必ず装置のことを伝える(検査の制限があるため)
- 激しい接触のあるスポーツや、自転車に長時間乗る場合は、事前に担当医に相談する
- 皮膚の赤みや腫れ、尿の出方の変化があれば、早めに連絡する
食事と運動
食事では、便秘を防ぐことがとても大切です。いきむと尿漏れが悪化し、装置にも負担がかかります。野菜や海藻、きのこなど食物繊維をとり、水分をこまめにとりましょう。カフェインやアルコール、辛いものは膀胱を刺激することがあるので、調子を見ながら量を調整してください。運動は、骨盤底筋体操とウォーキングなどを無理のない範囲で続けるのがおすすめです。体重を適正に保つことは、腹圧を減らし、尿漏れの改善に役立ちます。
精神的健康と心の健康
尿漏れは、外出を控えたり、人に会うのがおっくうになったりと、気持ちの面にも大きく影響します。「人に言えない」と一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。でも、これはあなたの性格や努力の問題ではなく、体の仕組みの問題です。信頼できる人や医療者に話すことで、気持ちがずっと軽くなることがあります。気分の落ち込みが続くとき、眠れない日が続くとき、自分を責めてしまうときは、早めにかかりつけ医や泌尿器科の看護師・医師に相談してください。もし自分を傷つけたい気持ちがわいてきたら、ためらわずに119番、またはお住まいの地域の救急相談(#7119が使える地域があります)に連絡してください。命を守ることが何よりも大切です。
予防
人工尿道括約筋そのものを「予防する」という考え方ではなく、尿漏れを悪化させない、あるいは手術が必要になるまで進めないための工夫があります。禁煙、体重管理、便秘の予防、骨盤底筋体操、重い物を長く持たないことなどが役立ちます。前立腺の手術を受ける予定がある方は、手術前に尿漏れのリスクや術後のリハビリについて医師に詳しく聞いておくと安心です。
ワクチン
この治疗に直接関係するワクチンはありませんが、手術前には感染予防のため、一般的な予防接種歴や体調を医師が確認します。傷の清潔を保つことも大切です。
検診プログラム
尿漏れを早期に見つけるための決まった検診はありません。ただ、前立腺の手術後や骨盤の手術後に尿漏れが続く場合は、早めに泌尿器科で相談することが大切です。気になるときは、かかりつけ医に「尿漏れが続いている」と伝えてみてください。
合併症
治療しない場合
- 尿パッドによる皮膚のかぶれ、ただれ、かゆみ
- 尿路感染をくり返しやすくなる
- 外出や人づきあいを控えるようになり、気分の落ち込みや孤立につながる
- 夜間のトイレ移動が増えて、転倒の危険が高まる
- まれに、尿がうまく出せない状態が続いて腎臓の働きに負担がかかることがある
長期的な見通し
人工尿道括約筋は、多くの方にとって尿漏れを大きく減らせる治療です。報告によって差はありますが、手術を受けた方の多くが「生活が楽になった」「外出ができるようになった」と感じています。装置は一生そのままというわけではなく、年月がたつと修理や交換が必要になることがありますが、その場合も対応できます。尿漏れは治せる可能性のある悩みです。まずは専門医に相談して、あなたに合った方法を一緒に探していきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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