包括型地域生活支援(ACT)を知る ― 地域で暮らし続けるための支援のしくみ
概要
ACT(アクト)は「包括型地域生活支援プログラム」と呼ばれる、地域生活を支える支援のしくみです。英語のAssertive Community Treatmentの頭文字をとった名前で、日本語では「積極的訪問型地域支援」などと訳されることもあります。精神科の病気などで生活の支えが必要な人が、入院ではなく、住み慣れた地域で暮らし続けられるように、医師・看護師・精神保健福祉士・作業療法士・心理職・ピアサポーター(同じ経験をもつ支援者)などがひとつのチームをつくります。チームは事務所で待つのではなく、本人の家や職場などに出向いて支援し、困ったときには夜間や休日も含めて連絡できる体制を整えます。なお、日本には「ACT法」という名前の法律があるわけではありません。国によっては法制化されている地域もありますが、日本では障害者総合支援法などの制度のなかで、自治体や事業所が行う支援のひとつとして位置づけられている場合が多く、実施している地域には差があります。
重要な事実
- ACTは「病気の名前」ではなく「支援の形(サービス)」の名前です。診断名ではありません。
- ひとつのチームが、医療・生活・仕事・住まい・家族支援などをまとめて担当します。担当者が次々と変わらないのが特徴です。
- 日本では制度化のされ方が地域によって異なり、実施していない地域もあります。利用できるかどうかは、担当の相談支援専門員やお住まいの保健所・市区町村の窓口で確認できます。
ACTのような手厚い訪問型支援を受けている人は、決して多いとはいえません。日本の多くの地域では、通院と外来・地域の福祉サービスを組み合わせて支える形が主流で、ACTを実施している地域は限られています。ただし、入院を繰り返している人や、支援が途切れやすい人にとっては、必要な選択肢のひとつと考えられています。
統合失調症、双極性障害、重度のうつ病、発達障害など、精神面の不調が長く続き、生活全般の支えが必要な人が対象になることが多くなります。とくに、入院と退院を繰り返している、通院が続かない、家族だけで支えるのが難しい、住まいやお金の管理に困っている、といった状況の人に向いているとされます。年齢を問わず、思春期・若い世代から高齢者まで支援の対象になりえます。
症状
- 自分を傷つけたい気持ちが強く、実際に危険な行動をとろうとしている
- ほかの人を傷つけるおそれがあり、周囲で止められない
- 強い混乱や興奮があり、会話が成り立たず、その場にひとりで置くのが危険な状態
- 意識がもうろうとしている、けいれんがある、呼吸がおかしいなど、体の異常が強い
- ⚠眠れない日が続き、食事もとれず、生活が保てなくなっている
- ⚠幻聴や妄想が強くなり、外出や家事ができなくなっている
- ⚠治療を自己判断で中断し、調子が明らかに悪くなっている
- ⚠家族や周囲の人が、対応に限界を感じている
一般的な症状
- 調子が悪くなっても受診が途切れやすく、気づくと症状が重くなっている
- 幻聴や妄想などの症状で不安が強く、外出や人づきあいが難しくなる
- 生活のリズムが乱れ、食事や睡眠、部屋の片づけが滞る
- お金の管理や書類の手続きがひとりでは難しくなる
- 入院と退院をくり返し、地域での生活が長く続かない
- 福祉サービスにつながりたいが、どこに相談すればよいかわからない
- 家族が対応に疲れ、頼れる人が少なくなっている
子供の症状
- 学校に行きづらくなる、欠席が増える
- 家族以外とほとんど話さなくなる、部屋にこもりがちになる
- 気分の波が大きく、イライラや落ち込みが目立つ
- 進路や生活の変化についていけず、支援の手が届きにくくなる
高齢者の症状
- 足腰や体調の変化で、通院そのものが負担になる
- 物忘れや判断力の低下があり、認知症との見分けが必要になる
- ひとり暮らしで、食事や服薬の管理が難しくなる
- 入院をきっかけに、住まいや人間関係が大きく変わってしまう
原因
主な原因
- ACTは病気ではなく支援のしくみなので、「原因」という考え方はあてはまりません。
- ACTが必要になりやすい背景には、精神面の不調が長く続くこと、入院と退院をくり返すこと、地域の支援にうまくつながらないことがあります。
- 家族や身近な人だけで支え続けることが難しく、支援の「受け皿」が足りないことも背景になります。
- 通院や手続きが複雑で、本人ひとりでは続けにくい仕組みになっている場合もあります。
リスク要因
- ひとり暮らし、または家族の支援が得にくい状況
- 経済的なゆとりがない、住まいが不安定
- これまでに通院が途切れた経験や、入院をくり返した経験がある
- 引っ越しや退院など、生活の大きな変化のあと
- 支援者との関係が途切れやすい、相談先がわからない
- お住まいの地域に支援の資源が少ない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 眠れない、食べられない状態が続き、日常生活が成り立たない
- 幻聴や妄想が強くなり、混乱して危険な行動がありそうなとき
- 治療を中断してから調子が悪くなっている
- ご家族や周囲の方が、これ以上ひとりで対応するのが難しいと感じたとき
定期受診を予約すべき場合:
- 今の支援に不安があり、もっと手厚い支援があるか知りたい
- 入院をくり返していて、地域での生活を安定させたい
- 相談できる窓口がわからず、どこに頼ればよいか知りたい
- 家族として、どう支えればよいかを相談したい
診断
ACTは診断名ではないため「ACTかどうか」を検査で決めることはありません。まず主治医が病気の状態や生活の困難さを把握し、本人の希望を聞きます。そのうえで、相談支援専門員が「サービス等利用計画」を作り、市区町村が支給決定を行う流れが一般的です。地域によっては、支援者どうしの会議(ケア会議)で、ACTのような手厚い支援が必要かどうかを話し合います。本人の「こう暮らしたい」という希望が中心になります。
行われる可能性のある検査
- 主治医による診察と、これまでの治療歴・入院歴の確認
- 生活の困りごとや希望を聞く面談(本人・家族)
- 相談支援専門員によるアセスメント(生活全般の聞き取り)
- 必要に応じて、体の病気がないかを確認する検査
- 支援者どうしのケア会議での検討
診察で予想されること
相談してから支援が始まるまでには、書類の準備や調整で少し時間がかかることがあります。まずは「この人が中心になってくれる」担当者が決まることが多く、そこから少しずつ生活の組み立てを一緒に考えていきます。一度に全部を決める必要はありません。
治療
ACTの「治療」は、薬だけではなく、生活そのものを支えることです。チームが訪問を中心に、体調の管理、服薬のサポート、食事や部屋の片づけ、お金や書類の管理、仕事や就労の相談、人間関係の支援、家族への支援、そして調子が悪くなったときの早期対応をまとめて行います。入院が必要なときは、入院を避けることだけを目的にせず、必要な治療を受けながら早く地域に戻れるよう支えます。
自宅でのセルフケア
- 調子が良い日と悪い日のサインを、自分なりにメモしておく
- 困ったときに連絡できる相手と番号を、目につく場所に置いておく
- 睡眠と食事のリズムを、完璧でなくても意識しておく
- お金や書類は、ひとりで抱えず、支援者と一緒に確認する習慣をつくる
- 「こう暮らしたい」という希望を、小さくても言葉にしておく
医療治療
治療は主治医の判断で行われます。薬による治療が中心になることが多いですが、種類や量は症状や体調に合わせて医師が決めるもので、自分で判断して中断したり調整したりすると再発のきっかけになりやすいため、気になる点はチームに相談してください。薬以外にも、生活リズムを整える支援、対人関係や社会復帰を目指すリハビリテーション、心理的な支援、家族への支援などが組み合わされます。ACTチームは、通院の付き添いや服薬の確認など、治療が続くための橋渡しも担います。
手術が検討される場合
ACTは支援のしくみであり、手術とは関係ありません。体の病気が疑われるときは、通常どおり主治医や専門の医療機関に相談します。
この病気と共に生きる
ACTのもとでは、支援者が定期的に家を訪ね、短いやりとりを重ねながら生活を整えていきます。毎日きちんと過ごすことよりも、調子を崩したときに早く気づいて、早く立て直せることを大切にします。支援者と本人が一緒に決めた「こうなったら連絡する」という目安を持っておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 起きる時間・寝る時間の目安を、無理のない範囲で決めておく
- 買い物や通院など、外出の予定を少しずつ組み入れる
- 人と会う約束を、疲れすぎない程度に持つ
- 部屋の片づけは、一度に全部ではなく場所を決めて少しずつ
- お金の使い方を、支援者と定期的に振り返る
食事と運動
特別な食事療法が必要なわけではありませんが、決まった時間に何かを口にすること、水分をとることを意識すると、体調の波が穏やかになりやすくなります。運動は激しいものでなくてよく、散歩や軽いストレッチなど、続けられるものを少しずつ取り入れてみてください。体調や薬の影響で食欲や体重が変わることがあるので、気づいたらチームに伝えましょう。
精神的健康と心の健康
入院と退院をくり返すと、「また失敗した」という気持ちになりやすいものです。ACTは、失敗を責めるためではなく、暮らし続けるための仕組みです。調子を崩すことは誰にでもあり、そのたびに早く立て直せることが大切です。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ひとりで抱えず、すぐに主治医や支援チーム、ご家族、お住まいの保健所などに連絡してください。緊急の場合は119番、警察が必要な場合は110番に電話してください。
予防
ACTは病気そのものを防ぐものではありませんが、調子を崩したときの悪化や、入院が長引くことを防ぐ助けになると考えられています。再発のサインを早く見つけること、支援が途切れないようにしておくことが、暮らしの安定につながります。
検診プログラム
ACTに「検査で見つける」という意味のスクリーニングはありません。ただし、入院をくり返している、通院が続かないといった状況に気づいたら、早めに相談することが大切です。主治医や相談支援専門員に「もっと手厚い支援はないか」と尋ねてみてください。
合併症
治療しない場合
- 症状が悪化し、入院が長引いたり、入院をくり返したりしやすくなる
- 住まいや仕事、人間関係が途切れてしまう
- 体の病気に気づくのが遅れる
- 家族や周囲の負担が大きくなり、支えが少なくなる
- 孤立が深まり、相談する気力そのものが失われていく
長期的な見通し
ACTは、地域で暮らし続けたい人を支えるための、実績のある考え方のひとつです。すべての人の調子が同じように良くなるわけではありませんが、支援が途切れないことで、入院が短くなったり、暮らしの見通しが立ちやすくなったりすることが報告されています。日本では利用できる地域に差がありますが、まずは相談してみることが第一歩です。希望をもって、できることから一緒に考えていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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