透析用グラフト(人工血管で作る透析の通り道)
概要
透析用グラフトは、血液透析(機械を使って血液をきれいにする治療)を受けるために、腕の中に作る「血液の通り道」のひとつです。自分の血管のかわりに、細い人工の管(人工血管)を動脈と静脈の間につなぎ、皮膚の下に埋め込むように置きます。透析のときは、この管に針を刺して血液を出し入れします。この通り道のことを「シャント」と呼び、自分の血管で作るものを「内シャント」、人工血管を使うものを「グラフト」と呼んで区別します。
重要な事実
- グラフトは病気そのものではなく、透析を続けるための「血液の出入口」です。作るかどうかは、血管の状態を見て医師が判断します。
- 触ると「ブルブル」とした振動(スリル)を感じ、聴診器では「シューッ」という音(ブリュイ)が聞こえます。これが血液がよく流れているサインです。
- 詰まる・狭くなる・感染するといったトラブルが起こることがあり、ふだんの観察と定期的なチェックが大切です。
透析の血液の出入口にはいくつかの種類があり、グラフトはそのひとつです。自分の血管で内シャントを作るのが難しい場合に選ばれることが多く、透析を長く続けている方の間ではよく使われる方法です。
腎臓の働きが大きく低下して血液透析が必要になった方が対象です。とくに、糖尿病や動脈硬化(血管が硬く狭くなること)がある方、高齢の方、以前に作ったシャントが使えなくなった方などは、自分の血管だけでは通り道を作りにくいため、グラフトが選ばれやすくなります。
症状
- 針を刺した場所やグラフトの部分から血が勢いよく出て、10分ほど強く押さえても止まらない(押さえながら119番に連絡してください)
- グラフトの部分の皮膚が破れて大量に出血している
- 寒気を伴う高熱と、腕の激しい痛み・赤み・腫れが急に出た(感染が広がった疑い)
- ⚠振動(スリル)が急に感じられなくなった、透析中に血流がほとんど出ないと言われた
- ⚠グラフトのある腕が冷たい、しびれる、力が入らない、痛みが強い
- ⚠穿刺部分の赤み・腫れ・熱が広がってきた、膿のようなものが出る
- ⚠発熱がある(透析中・透析後を含む)
- ⚠腕全体が腫れて、手や指のむくみが強い
一般的な症状
- 透析中に「血液の流れが足りない」と言われる、針が刺しにくい
- 腕を触っても振動(スリル)が弱い、または感じにくい
- 穿刺(針を刺す)部分の痛み、赤み、腫れ、熱っぽさ
- 透析のあと、針を抜いた場所の止血に時間がかかる
- グラフトのある側の腕や手のむくみ、皮膚の赤み
- 透析中や透析後に血圧が下がる、だるさが出る
子供の症状
- 子どもではグラフトを使うことは多くありませんが、体格が小さいため穿刺や固定に工夫が必要です
- 自分で振動を確かめるのが難しいことが多く、保護者の方が毎日観察します
- 機嫌が悪い、触られるのを嫌がる、腕を動かさないなどがサインになることがあります
高齢者の症状
- 皮膚が薄く血管がもろいため、止血しづらく内出血(あざ)ができやすい
- 認知症や手の動きの低下があると、自分で振動を確かめることが難しくなります
- 感染のサイン(赤み・腫れ・熱)が出ても気づきにくく、発熱で初めて分かることがあります
- むくみや脱水など体の水分の変化が起こりやすく、血圧の変動に注意が必要です
原因
主な原因
- 腎臓の働きが大きく低下し、血液透析(機械で血液をきれいにする治療)が必要になったこと
- 自分の血管をつないで作る内シャントが、血管が細い・もろいなどの理由で作りにくい、または作っても十分に使えなかったこと
- 以前に作ったシャントやグラフトが詰まる・狭くなるなどして使えなくなったこと
リスク要因
- 糖尿病、高血圧、動脈硬化(血管が硬く狭くなること)
- 透析のたびに同じ場所へ針を刺すことによる血管や人工血管の傷み
- 透析中の血圧低下や体の水分不足(脱水)
- 血液が固まりやすい体の状態
- 穿刺部分の清潔が保ちにくい、かゆみで皮膚を傷つけてしまう
- 高齢、やせている、皮膚が薄い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 振動(スリル)が急に消えた、または非常に弱くなった
- 穿刺部分や腕の赤み・腫れ・熱が広がっている、膿が出ている
- 発熱がある
- 出血が止まりにくい、あざがどんどん大きくなる
- 腕の冷たさ、しびれ、強い痛みがある
定期受診を予約すべき場合:
- 透析中に「血流が足りない」と言われた、穿刺が難しくなってきた
- 以前より振動が弱くなった気がする
- グラフトのある側の腕や手がむくむ
- 穿刺部分の皮膚がかゆい、赤い、硬くなってきた
- 透析後の止血にいつもより時間がかかる
診断
診察では、グラフトの上をそっと触って振動(スリル)を確かめ、聴診器で血流の音(ブリュイ)を聞きます。さらに超音波検査(エコー)で、血液の流れや血管の狭くなり具合、血のかたまり(血栓)の有無を見ます。多くの場合、痛みの少ない検査で状態を把握できます。
行われる可能性のある検査
- 視診・触診(振動=スリルを確かめる)
- 聴診(血流の音=ブリュイを聞く)
- 超音波検査(エコー)で流れや狭さ、血栓を調べる
- 透析中の血流モニタリング(機械で流量を測る)
- 必要に応じて造影検査(血管の形を写す検査)
- 血液検査(感染や貧血などの状態をみる)
診察で予想されること
診察は痛みが少なく、触る・聴く・エコーで見る検査が中心です。透析中にもスタッフが流量や穿刺の状態を確認することがあります。気になることがあれば、検査の前に遠慮なく質問してください。
治療
グラフトの治療は「どこにどんなトラブルが起きているか」で変わります。詰まり、狭くなり、感染、出血など、それぞれに合った方法を透析スタッフ、腎臓の担当医、血管の手術を担当する医師が相談して決めます。グラフト自体を大事に使いながら、できるだけ長く透析を続けられるようにするのが目標です。
自宅でのセルフケア
- 毎日、グラフトの上をそっと触って振動(スリル)を確かめる。左右の腕で比べてみると分かりやすいです
- 穿刺部分は清潔に保ち、かゆくても爪で強くかかない
- グラフトのある腕では血圧を測らない、採血や点滴をしない(かかりつけ以外の医療機関でも必ず伝える)
- 重いものを持たない、腕を強く締め付ける時計・衣類・かばんのひもを避ける
- 透析後に自分で押さえて止血するときは、教わった方法と時間を守る
- 入浴や洗濯など、日常生活で濡れる場面の注意をスタッフに確認しておく
医療治療
詰まったときは、カテーテルという細い管を使って血のかたまりを取り除いたり、手術で取り除いたりすることがあります。狭くなったときは、風船のような器具で広げる治療(血管拡張術)や、狭い部分を広げる手術が行われることがあります。感染が疑われるときは、まず検査で確かめ、医師の判断で感染に対する治療が行われ、状態によっては人工血管の一部を交換したり新しく作り直したりします。出血が多いときは、まず圧迫して止血し、必要に応じて処置を行います。いずれも具体的な方法は、血管の状態や体の全体の状態をみて医師が決めます。
手術が検討される場合
血のかたまりが多くて血管の中の治療で取りきれない場合、狭い部分が繰り返す場合、感染して人工血管の一部を使い続けられない場合などに、手術が検討されます。手術の必要性や方法は、透析の担当医と血管外科の医師が相談して決めます。
この病気と共に生きる
グラフトは「透析の相棒」のようなものです。毎日の観察を日課にすると、変化に早く気づけます。朝や入浴前など、決まったタイミングでそっと触って振動を確かめ、穿刺部分の皮膚の色や腫れを見てみましょう。気づいたことは、メモしておくと透析のときに伝えやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を心がける(血管を守るために大切です)
- 血圧の管理を主治医と相談しながら続ける
- 透析前後の体重や水分の変化を記録する
- 睡眠を十分にとり、無理のない範囲で体を動かす
- 穿刺部分をぶつけないよう、腕を守る工夫をする
- かかりつけ以外の病院にかかるときは、必ず「この腕にグラフトがある」と伝える
食事と運動
食事は、透析を受けている方に合わせた内容が大切です。塩分・水分・カリウム・リンなどについて、主治医や管理栄養士の指示に従ってください。自己判断で極端に減らしたり増やしたりしないようにしましょう。運動は、散歩など無理のない範囲で行うのがおすすめです。グラフトのある腕の運動については、強く握る運動や重いものを持つ運動を避けるなど、透析スタッフに確認してから始めてください。
精神的健康と心の健康
透析を続ける中で、不安、疲れ、気分の落ち込みを感じることは自然なことです。「また詰まったらどうしよう」という心配が続くこともあります。一人で抱え込まず、透析スタッフ、主治医、家族、同じように透析を続けている方の集まりなどに話してみてください。つらさが続くときは、医療者に遠慮なく相談しましょう。
予防
グラフトそのものは、透析を続けるために必要な場合に作るもので、避けるという性質のものではありません。ただし、詰まり・狭くなり・感染といったトラブルを減らすことはできます。清潔を保つ、毎日観察する、血圧を管理する、禁煙する、脱水を避ける、定期的にチェックを受けることが大切です。
ワクチン
透析を受けている方は感染症にかかると重症化しやすいため、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンについて主治医に相談してみてください。接種の時期や種類は、そのときの体の状態に合わせて判断されます。
検診プログラム
透析中や定期診察のときに、血流の量やグラフトの状態を定期的に確認します。痛みがなくても、エコーなどで狭くなりかけを見つけられることがあります。決められた検査を継続して受けることが、トラブルの早期発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 血のかたまり(血栓)で詰まり、透析ができなくなる
- 狭くなりが進み、透析に必要な血液の量が確保できなくなる
- 感染が腕の周りに広がり、場合によっては体全体に広がる(重症になることがあります)
- 穿刺部分からの出血が止まりにくくなる
- グラフトのある側の腕や手のむくみ、皮膚の色の変化
- 腕に血液が流れすぎたり、逆に手に血流が回りにくくなったりして、しびれや冷たさを感じる
長期的な見通し
グラフトは工夫しながら長く付き合える方法です。トラブルがあっても、多くの場合は血栓を取り除く、狭い部分を広げる、感染した部分を治療するなどで対応でき、透析を続けられることがほとんどです。毎日の観察と早めの相談が、グラフトを長持ちさせる一番の近道になります。心配なことがあれば、遠慮なく透析スタッフや主治医に相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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