ガスキン法(肩甲難産のときの体位の工夫)
概要
ガスキン法は、お産の途中で赤ちゃんの肩が引っかかって出てこなくなる「肩甲難産(けんこうなんざん)」という状態のときに試す、体位の工夫です。赤ちゃんの頭が出たあと、肩が骨盤にひっかかって進めなくなったとき、お母さんが四つん這い(手と膝を床について、お尻を上げた姿勢)になることで、骨盤の中の空間が広がり、赤ちゃんの肩が通りやすくなることがあります。薬を使わず、体の向きを変えるだけで対応できる方法のひとつで、世界の多くの分娩室で用いられています。
重要な事実
- ガスキン法は「治療法」ではなく、肩甲難産のときに医療スタッフが行う体位変換のひとつです。
- 基本の姿勢は四つん這い(オールフォーズ体位)で、お母さん自身の力で姿勢を変えるのが特徴です。
- 肩甲難産は分娩のおよそ1%前後で起こるといわれ、決してめずらしいものではありませんが、多くの場合は数分以内に対応できます。
- この方法はスタッフの指示と介助のもとで行われます。ひとりで判断して行うものではありません。
肩甲難産そのものは、すべてのお産で起こるわけではなく、比較的まれな出来事です。ただ、起こったときには分娩室でよく使われる対応のひとつがガスキン法です。つまり、お産の現場ではなじみのある方法といえます。
症状
- 病院の外(自宅など)で出産が始まり、赤ちゃんの頭が出たのに体が出てこないときは、すぐに119番通報してください
- 妊娠中や分娩中に、大量の出血、意識がもうろうとする、激しい腹痛や頭痛があるときは、ためらわず119番に連絡してください
- 病院外で赤ちゃんが生まれたあと、息をしていない・顔色が悪いときは119番通報し、指令員の指示に従ってください
- ⚠破水した、出血が増えた、おなかの張りが規則的になった、胎動が少ないと感じたときは、かかりつけの産院にすぐ電話してください
- ⚠分娩中に「肩が引っかかっている」と言われたときは、スタッフの指示に落ち着いて従ってください
- ⚠出産後、赤ちゃんの腕の動きが少ない、母乳を吸いにくそう、と感じたら、その日のうちに産院か小児科に相談してください
一般的な症状
- 赤ちゃんの頭は出たのに、そのあと肩が下りてこず、体が出てこない
- 頭が出たあと、赤ちゃんの首が産道に引き戻されるように見える(「亀の首サイン」と呼ばれます)
- お産の進みがそこで止まったように感じる
- スタッフが急に声をかけ合い、体位を変えるよう促す
- お母さん自身は、いきみたいのに進まない、強い圧迫感があると感じることがある
子供の症状
- 生まれたあと、片方の腕を動かしにくそうにしていることがあります(多くは時間とともに回復します)
- 生まれた直後の呼吸や顔色を、スタッフがていねいに観察します
- 鎖骨に小さなひび(骨折)が起きることがあり、こちらも通常は自然に治ります
- 気になることがあれば、退院後も小児科で相談できます
高齢者の症状
- この項目は出産時の対応に関する内容のため、高齢の方に特有の症状はありません
- ただし、高年初産婦では妊娠糖尿病や血圧などのリスク要因が重なりやすいといわれ、健診での確認が大切です
原因
主な原因
- 赤ちゃんの肩幅に対して、お母さんの骨盤の中の通り道が合わず、肩がひっかかることで起こります
- 赤ちゃんが大きめに育っている(推定体重が多い)場合
- お産の進み方が通常と異なり、赤ちゃんの体の向きがうまく回らない場合
- 頭が出たあとに肩が骨盤の骨に引っかかる位置にあった場合
リスク要因
- 妊娠糖尿病、または妊娠中の血糖値が高めといわれた
- お母さんの体重増加が多め、または肥満がある
- 過去に肩甲難産を経験したことがある
- 吸引分娩や鉗子分娩などの器械分娩を行った
- お産が長引いている、または陣痛誘発・促進を行った
- 赤ちゃんが大きめと推定されている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 分娩中に肩が引っかかっていると言われた、または体位変換を求められたとき(その場ですぐスタッフの指示に従ってください)
- 破水した、出血が多い、胎動が少ないと感じたとき
- 出産後、赤ちゃんの腕の動きが明らかに少ない、息苦しそう、哺乳がうまくいかないとき
定期受診を予約すべき場合:
- 以前の出産で肩甲難産になったと伝えられており、次の妊娠・出産を考えているとき
- 出産時の記録(分娩記録)の内容を知りたい、説明を受けたいとき
- 次のお産が不安で、事前に話を聞いておきたいとき
- 妊娠中の体重や血糖値について相談したいとき
診断
肩甲難産は、分娩のその場で「頭は出たのに肩が下りてこない」という状態を見て判断されます。事前に検査で確定しておくものではありません。一方で、妊娠中に超音波で赤ちゃんの大きさを確認したり、血糖の検査をしたりして、リスクが高くないかをあらかじめ見ておくことは行われます。
行われる可能性のある検査
- 妊娠健診での超音波検査(赤ちゃんの推定体重や向きの確認)
- 妊娠糖尿病をみつけるための血糖検査(健診の一環として行われます)
- 分娩時のスタッフの観察と、頭が出たあとの状態の確認
- 出生後の赤ちゃんの診察(腕の動き、呼吸、顔色、鎖骨の状態など)
- 必要に応じて赤ちゃんのレントゲンや超音波などの追加検査
診察で予想されること
分娩中に肩甲難産になると、スタッフが声をかけ合い、役割を分担して対応します。体位を変える、おなかの上を押す、といった方法を組み合わせ、状況に応じて進められます。お母さんは、あおむけから横向き、そして四つん這いへと姿勢を変えるよう声をかけられることがあります。痛みや緊張で大変に感じるときは、呼吸を意識して、スタッフの掛け声に合わせてみてください。パートナーや付き添いの方に手を握ってもらうのも助けになります。
治療
肩甲難産が起きたときは、まずスタッフがお母さんの体位を変えたり、手技を組み合わせたりして、赤ちゃんの肩が通る道をつくります。ガスキン法(四つん這いになる)はその代表的な方法のひとつで、薬を使わずに体の向きだけで対応できる点が特徴です。多くの場合は数分以内に赤ちゃんが生まれます。
自宅でのセルフケア
- 分娩中は、スタッフの指示に合わせて姿勢を変えてみましょう。姿勢を変えること自体が対応の一部です。
- ゆっくり息を吐くことに意識を向けると、体の緊張が少しゆるみます
- パートナーや付き添いの方に、手を握ってもらう、声をかけてもらうなど、支えてもらいましょう
- 妊娠中に、健診で「肩甲難産のときはどうするのか」を事前に質問しておくと安心につながります
- 出産後は、自分の体の回復を最優先に。睡眠と休息をとり、まわりに頼りましょう
医療治療
対応は、薬に頼らず体位や手技で行うことが基本です。具体的には、お母さんの体位を変える(横向き、四つん這いなど)、恥骨の上を押して肩の向きを変える、赤ちゃんの体の向きをスタッフが整える、必要に応じて会陰の切開や器械分娩を行う、といった方法を状況に合わせて組み合わせます。どの方法を選ぶかは、分娩の状況を見ながら医療チームが判断します。
手術が検討される場合
ごくまれに、これらの方法でも肩甲難産が解除できず、赤ちゃんを早く出す必要があると判断された場合には、帝王切開が選ばれることがあります。ただし、これは頻繁に起こるものではありません。
この病気と共に生きる
出産後は、赤ちゃんの腕の動きや呼吸、授乳の様子を日々のなかで見守りましょう。健診のたびに気になることをメモして持っていくと相談しやすくなります。出産時の記録は、次の妊娠を考えたときの大切な情報になるので、分娩記録を保管しておくとよいでしょう。
生活習慣のアドバイス
- 妊娠中は健診を欠かさず受け、体重や血糖値の変化を確認しましょう
- バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動を心がけましょう
- 睡眠と休息をしっかりとり、体調の変化を感じたら早めに相談しましょう
- 出産準備教室や両親学級に参加して、お産の流れを知っておくと安心です
- パートナーや家族と、出産時の対応について事前に話し合っておきましょう
食事と運動
特別な食事制限が必要なわけではありませんが、妊娠中は血糖値が上がりやすい時期です。主食・野菜・たんぱく質をバランスよくとり、甘い飲み物や間食はほどほどに。運動は、医師や助産師に相談したうえで、散歩やマタニティ向けの軽い運動を無理のない範囲で続けるとよいといわれています。
精神的健康と心の健康
肩甲難産を経験した方は、「怖かった」「もっと何かできたのでは」「次のお産が不安」といった気持ちを抱えることがあります。これはとても自然な反応です。出産の体験を誰かに話すことは、気持ちを整理する助けになります。つらい気持ちが続く、眠れない、涙が出るといった状態が続くときは、産婦人科や助産師、お住まいの自治体の保健センター(保健所)の相談窓口に相談してください。気持ちが追い詰められていると感じたら、ためらわずに医療機関や地域の相談先につながってください。
予防
肩甲難産を100%防ぐ方法は、今のところありません。どのお産でも起こりうるものだからです。ただ、妊娠中の体重管理や血糖値のコントロール、健診を欠かさず受けることで、リスクを把握して備えることはできます。また、前回の出産で肩甲難産があった場合は、事前に医療チームに伝えておくことが大切です。
ワクチン
この内容に直接関係するワクチンはありません。妊娠中のワクチンについては、かかりつけの産婦人科にご相談ください。
検診プログラム
妊娠中の健診では、超音波で赤ちゃんの大きさや向きを確認したり、妊娠糖尿病をみつけるための血糖検査を行ったりします。これらは肩甲難産を確実に予測するものではありませんが、備えるための情報になります。前回の出産についての情報も、次の妊娠の際に伝えましょう。
合併症
治療しない場合
- 赤ちゃんの腕の神経が伸びて傷つき、片方の腕が動かしにくくなることがあります(多くは数か月かけて回復します)
- 赤ちゃんの鎖骨にひび(骨折)が入ることがあります(こちらも通常は自然に治ります)
- まれに、赤ちゃんに酸素が十分届かず、出生直後に手厚い観察が必要になることがあります
- お母さんの側では、会陰の裂傷が大きくなったり、出血が多くなったりすることがあります
長期的な見通し
肩甲難産は緊迫した場面ですが、多くは適切な対応によって数分以内に赤ちゃんが生まれ、母子ともに元気に過ごしています。腕の動きの心配も、多くのお子さんが時間とともに回復します。前回肩甲難産だったからといって、次のお産でも必ず同じことが起こるわけではありません。気になることは、遠慮なく医療者に相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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