夜盲症(やもうしょう)〜暗い場所で見えにくくなる症状について
概要
夜盲症(やもうしょう)は、名前のとおり「暗い場所や夜に物が見えにくい」という状態を指します。英語ではナイクタロピア(Nyctalopia)と呼ばれます。目の奥にある網膜(もうまく)の中には、薄暗いところで働く「杆体(かんたい)」という細胞があり、夜盲症はこの杆体がうまく働かないときに起こります。夜盲症は病名というよりも「症状の名前」で、原因は生まれつきの体質から、目の病気、栄養の不足までさまざまです。明るい場所での見え方はほとんど問題ないことが多いのも特徴です。
重要な事実
- 暗い場所・夜間に見えにくくなる「症状の名前」で、原因は人によって大きく異なります。
- 暗い場所に目が慣れるまで時間がかかる(暗順応の遅れ)という形で現れることもあります。
- 原因が白内障やビタミン不足などであれば、対応によって見え方が改善することがあります。
- 生まれつき・遺伝性の網膜の病気が原因のこともあり、その場合は専門医による定期的な経過観察が大切です。
頻度は原因によって大きく変わります。白内障や強度の近視など、よくある目の状態に伴って軽い夜間の見えにくさを感じる人は少なくありません。一方、網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)のような遺伝性の網膜の病気が原因の場合は、数千人に1人程度とまれです。ビタミンAの不足によるものは、食事が大きく偏っている人や消化管の病気がある人に見られます。
子どもから高齢者まで、どの年代でも起こりえます。生まれつきのタイプは、幼児期〜小児期に「夜になると極端に見えにくそうにする」ことで気づかれることが多いです。ビタミンA不足によるものは、偏った食生活、極端なダイエット、胃や腸の手術後、肝臓の病気がある人に起こりやすくなります。高齢者では白内障が関係することも多く、糖尿病のある人は網膜の血管の病気に注意が必要です。
症状
- 突然、視力が大きく失われた、または視野の一部が急に欠けた
- 急にたくさんの飛蚊症(虫が飛ぶように見える)や光の点滅が現れ、視野の一部がカーテンで覆われたように暗くなった(網膜剥離:もうまくはくりが疑われる状態)
- 目を強く打ったあと、見えにくさが強い、または痛みが続く
- 目の激しい痛みと頭痛・吐き気を伴う見えにくさ(急性緑内障発作が疑われる状態)
- ⚠数日単位で見えにくさが進んでいる
- ⚠夜だけでなく昼間も見えにくくなってきた
- ⚠視野が狭くなった、端のほうが見えない気がする
- ⚠まぶしさが急に強くなり、日常生活がつらい
一般的な症状
- 夕方や夜、暗い部屋で物が見えにくい、ぼんやりする
- 映画館やトンネルに入った直後、真っ暗で何も見えない
- 暗い場所に目が慣れるまで、ふつうの人より時間がかかる
- 暗いところでつまずく、物にぶつかる、段差がわからない
- 車のヘッドライトや街灯が異常にまぶしく感じる(羞明:しゅうめい)
- 夜間の運転が以前より怖い、自信がなくなった
子供の症状
- 夜になると極端にこわがる、暗い場所への移動を嫌がる
- 暗い廊下・階段・トイレに行きたがらない
- 夕方以降、物にぶつかったり転んだりしやすい
- 帰りが暗くなる季節に、迎えが必要になる
- 黒板やノートが見えにくいなど、学校生活での困りごと
高齢者の症状
- 夜間の運転がつらい、対向車のライトがまぶしすぎる
- 白内障による「にごり」で、夜の見え方が悪くなった
- 夜中にトイレへ行くとき、足元が見えず転倒が心配
- 糖尿病があり、夜の見えにくさが進んでいる気がする
- 夕方になると疲れ目と一緒に見えにくさが強くなる
原因
主な原因
- 遺伝性・生まれつきの網膜の病気(網膜色素変性症など)
- 白内障(水晶体:すいしょうたいがにごる状態)
- 強度の近視
- 糖尿病網膜症など、網膜の血管の病気
- ビタミンAの不足(偏った食事、吸収不良、肝臓や消化管の病気など)
- 進行した緑内障
- 目のけがや網膜の炎症の後遺症
- 生まれつきの静止性夜盲(しせいせいやもう)
- 一部の薬の影響(長期に使っている薬がある場合は医師・薬剤師に相談してください)
リスク要因
- 家族に同じような夜の見えにくさや目の病気の人がいる
- 食事が大きく偏っている、極端なダイエットをしている
- 胃や腸の手術を受けたことがある、消化管の病気がある
- 糖尿病と診断されている
- 強い近視がある
- 高齢である
- 目に強い外傷を受けたことがある
- 長期間にわたって同じ薬を使い続けている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の見えにくさ、視野が欠ける、視界に急な影や光の点滅が広がる(すぐに眼科を受診、状況によっては119番)
- 目の強い痛み、頭痛、吐き気を伴う見えにくさ
- 数日で急速に進む見えにくさ
- 目の外傷のあとの見えにくさ
定期受診を予約すべき場合:
- 以前より暗い場所で見えにくくなったと感じる
- 夜間の運転に不安を感じるようになった
- 家族に網膜色素変性症などの遺伝性の目の病気の人がいる
- 糖尿病があり、眼科の定期受診がしばらくできていない
- 子どもの頃から暗い場所が苦手だったが、大人になって困るようになった
診断
眼科で、まず話を聞くこと(問診)から始まります。いつごろから、どんな場面で見えにくいか、家族に同じ症状の人がいるか、食事や持病、飲んでいる薬などを確認します。そのうえで、目そのものを調べる検査を行い、原因が目の病気なのか、栄養や全身の状態なのかを整理していきます。必要に応じて、総合病院の眼科や遺伝カウンセリングにつながることもあります。
行われる可能性のある検査
- 視力検査・矯正視力検査
- 眼圧検査、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査
- 眼底検査(目薬で瞳を広げて網膜を観察します)
- 視野検査(見える範囲を調べます)
- 暗順応検査(暗さに目が慣れる速さを調べます)
- 網膜電図(ERG:網膜が電気的に反応するかを調べます)
- 血液検査(ビタミンAや血糖、その他の全身状態を確認します)
- 必要に応じて遺伝学的検査や遺伝カウンセリング
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、外来でその日のうちに終わります。眼底検査では目薬で瞳を広げるため、数時間まぶしく感じたり、近くが見えにくくなったりします。その日は車の運転を避け、サングラスを持っていくと安心です。結果の説明には時間がかかることもあり、遺伝性の病気が疑われる場合は、結果が出るまでに数週間かかる検査もあります。
治療
夜盲症の対応は「原因によって変わる」のが基本です。白内障やビタミンAの不足、血糖のコントロール不足など、取り除ける原因があれば、それに対する対応で見え方が改善することが期待できます。一方、遺伝性の網膜の病気のように根本的な治療が難しい場合でも、進行をゆるやかにする方法、見えにくさを補う補助具、生活の工夫によって、できることはたくさんあります。まずは原因をはっきりさせることが第一歩です。
自宅でのセルフケア
- 廊下・階段・トイレ・寝室に足元灯(フットライト)を付ける
- 夜間の外出時は明るい懐中電灯やスマートフォンのライトを使い、反射材を身につける
- 家具の配置を決めて動かさない、床に物を置かない(つまずき予防)
- まぶしさが強いときはサングラスを使い、暗い場所では外す
- 夜間の運転は控え、必要かどうかを眼科医に相談する
- 緑黄色野菜、卵、乳製品、魚など、ビタミンAを多く含む食品をバランスよくとる
- 禁煙を心がける(血管の健康を守るため)
- 糖尿病がある人は血糖値をよい状態に保つ
医療治療
原因に応じた対応を行います。白内障が原因なら手術で改善が期待できます。ビタミンAの不足があれば、食事の見直しや医師の指導のもとでの補充を行います。糖尿病網膜症があれば血糖値や血圧の管理を徹底し、必要に応じて眼科的な治療を行います。緑内障であれば眼圧を下げる治療を続けます。遺伝性の網膜の病気が疑われる場合は、進行をゆるやかにする治療や、限られた条件での新しい治療の適応があるかを専門医が判断します。あわせて、文字を大きくする拡大読書器、夜間でも見やすい照明、白杖などのロービジョンケア(見えにくさを補う支援)を活用します。薬の名前や量については、必ず担当の医師・薬剤師の指示に従ってください。
手術が検討される場合
白内障が原因の場合は、手術によって夜の見えにくさが改善することが期待できます。網膜剥離(もうまくはくり)が疑われる場合は緊急の手術が必要です。一方、遺伝性の網膜の病気などでは、手術で夜盲症そのものが治るわけではありません。手術が適切かどうかは、検査の結果をもとに主治医とよく相談して決めましょう。
この病気と共に生きる
夜盲症があっても、工夫次第で日常生活は十分に送れます。ポイントは「暗さを作らない」「つまずきの原因を減らす」「無理をしない」の3つです。家の中を明るくし、よく通る場所の配置を固定し、夜間の外出は明るい時間帯に用事を済ませるなど、生活のリズムを少し変えるだけでも不安は軽くなります。
生活習慣のアドバイス
- 部屋全体の照明を明るめにし、間接照明より直接照明を活用する
- 懐中電灯やヘッドライトを玄関・枕元に常备しておく
- 夜間の予定は、できれば明るい時間帯にずらす
- スマートフォンの文字を大きくする、音声読み上げ機能を使う
- 移動するときは手すりや壁伝いに歩くなど、自分の歩き方の癖を把握しておく
- 定期的に眼科を受診し、見え方の変化を記録しておく
食事と運動
食事は、緑黄色野菜・卵・乳製品・魚などを取り入れたバランスのよい食事を心がけましょう。ビタミンAは油と一緒にとると吸収されやすいといわれます。ただし、サプリメントで大量にとればよいというものではなく、過剰摂取は体に悪影響を与えることがあります。心配なときは医師や管理栄養士に相談してください。運動は、明るく段差の少ない場所で行うのが安全です。ウォーキングや室内での軽い運動を、無理のない範囲で続けましょう。糖尿病がある人は、運動が血糖管理にも役立ちます。
精神的健康と心の健康
「夜になると見えない」という状況は、思っている以上に不安や緊張を伴います。外出を控えるようになった、人に説明しづらい、将来が心配といった気持ちは自然なものです。一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に話してみてください。話すことで、具体的な工夫が見つかることも多くあります。気分の落ち込みが続くときは、遠慮なくかかりつけ医や自治体の相談窓口に相談を。つらい気持ちが強いときは、地域の相談支援窓口や医療機関を頼ってください。
予防
遺伝性・生まれつきの夜盲症は、残念ながら予防することはできません。しかし、ビタミンAの不足によるものは食事の見直しで、糖尿病網膜症によるものは血糖値の管理と定期受診で、目の外傷によるものは保護メガネの使用で、それぞれ予防したり進行を遅らせたりできる可能性があります。紫外線を長く浴びることは目の病気のリスクに関わるといわれており、屋外では帽子やサングラスを活用するとよいでしょう。
検診プログラム
糖尿病がある人は、症状がなくても定期的に眼科で眼底検査を受けることが大切です。40歳以上では、特定健康診査などで目の健康状態を確認する機会があります。家族に網膜色素変性症などの遺伝性の目の病気の人がいる場合は、症状が出る前から眼科で相談しておくと安心です。自治体によっては目の健康診査を行っている場合もあるので、お住まいの自治体の案内を確認してみてください。
合併症
治療しない場合
- 暗い場所での転倒・けが、段差でのつまずき
- 夜間の交通事故のリスク上昇
- 外出や社交の機会が減り、生活の範囲が狭くなる
- 進行する病気の場合、視野が狭くなる(視野狭窄)ことがある
- 学校や仕事での困りごとが増え、不安や落ち込みにつながることがある
長期的な見通し
夜盲症の見通しは、原因によって大きく異なります。ビタミン不足や白内障など、取り除ける原因がある場合は改善が期待できます。遺伝性の網膜の病気の場合も、進行の速さは人によって差が大きく、何年も安定している方も多くいます。補助具や生活の工夫、医療とのつながりによって、できることは確実に増えています。心配なときは、検査を受けて自分の状況を知ることが、前を向く第一歩になります。
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最終更新: 2026年11月3日
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