もの忘れが増えたと感じたら ― 記憶障害(もの忘れ)について
概要
「もの忘れ」は、覚えたことや体験したことを思い出せない、覚えておけない状態のことです。人は誰でも年を重ねるにつれて、名前が出てこない、置いた場所を忘れるといったことが増えていきます。これは加齢による自然な変化のことが多いのですが、ときには体の病気や心の状態、薬の影響、脳の病気が隠れていることもあります。大切なのは「年齢のわりに多いかどうか」「日常生活に支障が出ているかどうか」という点です。もの忘れそのものは病名ではなく、原因を調べることで対応が変わってくる症状です。
重要な事実
- もの忘れの多くは加齢による自然な変化で、病気とは限りません。
- 甲状腺の病気、ビタミン不足、脱水、薬の副作用、うつなど、治療で改善する原因もあります。
- 「日常生活に支障が出ているか」「家族から見て以前と違うか」が、受診を考える大切な目安になります。
とてもよくある相談です。年齢が上がるほど「もの忘れが増えた」と感じる人は増え、高齢者の方の多くが何らかの変化を経験します。一般外来でも頻繁に相談されるテーマのひとつです。
誰にでも起こりえます。加齢に伴って増えますが、若い人や働き盛りの人でも、強いストレス、睡眠不足、うつ、体調不良、薬の影響などでもの忘れを感じることがあります。子どもでは、記憶そのものより集中力や睡眠、不安が関係することが多いとされています。
症状
- 突然の混乱や意識のもうろう、会話が通じない状態(脳卒中の可能性があります)
- ろれつが回らない、片側の手足が動かない、顔がゆがむ、といった症状を伴うもの忘れ
- 頭を強く打った後の混乱、嘔吐、意識がぼんやりする
- 高熱と首の硬さ、強い頭痛を伴う混乱
- けいれんや意識を失う発作があった
- 本人が見当たらない、行方不明になっている(警察への連絡も必要です)
- ⚠ここ数日で急にもの忘れや混乱が進んだ
- ⚠転倒や頭部打撲のあとから様子がおかしい
- ⚠新しい薬を始めてから、急にぼんやりするようになった
- ⚠水分がとれず、脱水が疑われる状態で混乱している
- ⚠発熱や感染症にかかってから、急に話が通じにくくなった
- ⚠強い気分の落ち込みや、自分を傷つけたい気持ちがある
一般的な症状
- 同じことを何度も聞く、同じ話を繰り返す
- 約束や予定を忘れてしまう
- 置いた物の場所がわからなくなる、探し物が増える
- 人の名前や物の名前がすぐに出てこない
- 買い物や家事の手順が以前より難しく感じる
- 話の内容についていけず、会話がかみ合わないことがある
- 新しいことを覚えるのに時間がかかる
- 家族や友人から「最近ちょっと違うね」と言われる
子供の症状
- 指示を覚えていられず、何度も確認が必要
- 学校の持ち物や宿題をよく忘れる
- 集中が続かず、ぼんやりしているように見える
- 睡眠不足や不安、強いストレスがあると、もの忘れのように見えることがある
- 聞こえにくさや見えにくさが理由で、覚えにくくなっていることもある
高齢者の症状
- 最近の出来事は忘れるが、昔のことはよく覚えている
- 同じ話を何度もする、同じものを何度も買ってしまう
- 薬の飲み忘れや飲みすぎが増える
- お金の管理や買い物で困ることが出てくる
- 慣れた道で迷う、行き先がわからなくなる
- 日付や曜日がわからなくなることがある
- 気力が低下する、怒りっぽくなるなど、性格や気分の変化が出ることがある
原因
主な原因
- 加齢による自然な変化(思い出すのに時間がかかるなど)
- 睡眠不足や強い疲労、ストレス
- うつ病や不安症など心の状態(集中力や意欲が下がり、覚えにくくなる)
- 薬の副作用や、複数の薬の飲み合わせ
- 甲状腺の働きの異常
- ビタミン不足(ビタミンB12など)や栄養不足
- 脱水、発熱、感染症による一時的な混乱
- 飲酒の影響
- 頭部のけが、脳梗塞や脳出血などの脳の血管の病気
- 睡眠時無呼吸症候群などの睡眠の病気
- 軽度認知障害(MCI)、認知症(アルツハイマー型など)
リスク要因
- 年齢が高いこと
- 家族に認知症の人がいること
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病
- 聴力の低下
- うつ病や長く続くストレス
- 睡眠不足や睡眠の質の低下
- 運動不足、偏った食事
- 人との交流が少ない、外出が少ない
- 頭部のけがの既往
- 飲酒量が多いこと
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に(数時間〜数日のうちに)混乱やもの忘れが始まった
- 頭を打ったあとに様子がおかしい
- 新しい薬を始めてから急にぼんやりするようになった
- 発熱や脱水があり、会話がかみ合わない
- 自分や家族を傷つけたい気持ちがある、強い落ち込みが続く
定期受診を予約すべき場合:
- 家族や友人から「最近おかしい」と指摘された
- 同じことを繰り返すことが明らかに増えた
- 薬の飲み忘れや飲みすぎが目立つようになった
- お金の管理や買い物で困ることが出てきた
- 慣れた場所で迷ったことがある
- もの忘れのせいで、仕事や家事、人づきあいに支障が出ている
- 本人は気にしていないが、家族が心配している(本人が受診を嫌がる場合は、まず家族だけでも相談してよいです)
診断
まず、いつ頃から、どのようなもの忘れがあるのかを、本人と家族の両方から聞き取ります(本人だけでは気づきにくいことがあるためです)。生活の様子、服薬、睡眠、気分、飲酒なども確認します。そのうえで、もの忘れの原因になっている別の病気がないかを調べるために、認知機能の簡単な検査や血液検査、必要に応じて頭の画像検査を行います。診断は一度の診察で決まるものではなく、時間をかけて判断していくものです。
行われる可能性のある検査
- 問診(いつから、どんなことで困っているか、家族から見た変化)
- 認知機能をみる簡単な検査(見当識や記憶、計算などを確認します)
- 血液検査(甲状腺の働き、ビタミン不足、腎臓の働き、血糖などを確認します)
- 頭部CT・MRIなどの画像検査(脳の血管の病気や萎縮などを確認します)
- 気分やこころの状態をみる質問票(うつなどの鑑別のため)
- 服用中の薬の確認(薬剤師と一緒に見直すこともあります)
- 必要な場合の詳しい神経心理検査や睡眠の検査
診察で予想されること
診察は1回で終わらず、何度か通って経過をみることがよくあります。必要に応じて、もの忘れ外来、神経内科、精神科、認知症疾患医療センターなどの専門機関を紹介されることがあります。検査の結果は、本人と家族が一緒に聞くと理解しやすいです。診断がつくことで、必要な支援や今後の見通しを立てやすくなります。
治療
治療は「原因によって変わります」。甲状腺の病気、ビタミン不足、脱水、薬の影響、うつなどが原因であれば、それを改善することでもの忘れも良くなることが期待できます。加齢による変化や認知症が関係している場合も、生活の工夫や支援、必要に応じた治療によって、その人らしい生活を長く続けられるようサポートしていきます。
自宅でのセルフケア
- 決まった場所に物を置く、書き留める、スマホのリマインダーを使うなど、忘れても大丈夫な仕組みをつくる
- カレンダーや手帳に予定を1か所にまとめて書く
- 睡眠を十分にとり、生活のリズムを整える
- 脱水を避けるため、こまめに水分をとる
- 飲酒を控えめにする
- 服薬は、お薬カレンダーや服薬管理の工夫を使い、必要なら家族や薬剤師に相談する
- 人と会う機会を保ち、外出や会話を楽しむ
- 気分の落ち込みが続くときは、ひとりで抱えず相談する
医療治療
治療の中心は、原因に応じた対応です。薬の影響が疑われる場合は、処方した医師や薬剤師と相談しながら調整します。甲状腺やビタミン、生活習慣病などの問題があれば、その治療を行います。うつや不安がある場合は、こころの面からの治療や相談が役立ちます。認知症が関係している場合には、専門医による評価のもとで症状に応じた治療が検討されることがあり、薬以外の支援(生活の工夫、リハビリテーション、作業療法、家族への支援など)も合わせて行われます。治療の内容は人によって異なるため、必ず担当の医師と相談して決めてください。
この病気と共に生きる
もの忘れと付き合うコツは「覚えていようと頑張りすぎないこと」です。メモや目覚まし、スマホの通知など、外から助けてくれる道具をどんどん使いましょう。家族は、できていることを認めながら、必要なところだけ手を貸すのがよいバランスです。できることを奪わず、見守る姿勢が本人の自信を保ちます。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と起床のリズムを保つ
- 適度な運動を無理なく続ける(散歩など)
- 人との交流を保つ(通いの場、趣味、地域の集まりなど)
- 聞こえにくさがあれば、補聴器などについて相談する
- 禁煙し、飲酒は控えめにする
- 血圧や血糖などの生活習慣病の管理を続ける
- 新しいことを少しずつ学ぶ機会を持つ
- 家族や周囲が、本人の変化に気づいたら早めに相談する
食事と運動
バランスのよい食事を心がけ、野菜・魚・良質なたんぱく質をとりましょう。塩分のとりすぎに気をつけ、水分をこまめにとることも大切です。運動は、ウォーキングや軽い体操など、会話ができる程度の強さを、無理のない範囲で続けるのがおすすめです。運動は脳の血流や気分にも良い影響があるといわれています。食事や運動の内容は、持病に合わせてかかりつけ医や管理栄養士に相談してください。
精神的健康と心の健康
もの忘れが増えると、「自分はどうなってしまうのだろう」という不安や、恥ずかしさ、落ち込みが生じることがあります。家族も、心配や疲れを抱え込みやすいものです。不安や気分の落ち込みが続くときは、医療機関や相談窓口に早めに話してください。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいてきたときは、ひとりで抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口、緊急の連絡先(救急119番)に助けを求めてください。誰かに話すことだけで、気持ちが軽くなることはよくあります。
予防
すべてのもの忘れを防ぐことはできませんが、リスクを下げることは期待できます。特に、血圧や血糖、脂質の管理、禁煙、適度な運動、バランスのよい食事、十分な睡眠、聴力のケア、人とのつながりを保つことが、脳の健康に役立つといわれています。厚生労働省も、生活習慣病の予防と社会参加の重要性を示しています。できることから一つずつ始めれば十分です。
ワクチン
特定のワクチンがもの忘れを防ぐという確かな evidence はありませんが、感染症を予防する通常の予防接種は、体調を大きく崩して混乱が起きることを減らす助けになります。接種の必要性は、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
自治体の健康診査では、血圧・血糖・脂質などを確認できます。聴力が気になる場合は聴力検査を、もの忘れが気になる場合はかかりつけ医や地域の相談窓口で認知機能のチェックについて相談できます。決まった「もの忘れ検診」がない地域もありますので、住んでいる市区町村の案内を確認してみてください。
合併症
治療しない場合
- 日常生活の困りごとが増え、自信や意欲が低下することがある
- 薬の飲み忘れ・飲みすぎによる体調の悪化
- お金の管理や契約に関わるトラブル
- 料理や火の始末、外出時の事故や転倒のリスク
- 道に迷う、行方がわからなくなる
- 不安やうつ、社会的な孤立
- 介護する家族の心身の負担が大きくなる
長期的な見通し
もの忘れの見通しは、原因によって大きく変わります。治療で良くなる原因も数多くあり、早めに相談することで対応の選択肢が広がります。認知症が関係している場合も、生活の工夫や周囲の支援、社会とのつながりによって、その人らしい時間を長く続けていくことは十分に可能です。不安を一人で抱えず、早い段階で相談することが、これからの生活を穏やかにする第一歩になります。
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最終更新: 2026年11月3日
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