心因性疼痛(心の状態が痛みに関わることもある痛み)
概要
心因性疼痛(しんいんせいとうつう)とは、けがや病気の検査だけでは説明しきれない痛みのうち、不安・ストレス・悲しみ・緊張といった心の状態が、痛みに強く関係していると考えられる状態を指すことばです。近年は「身体症状症(しんたいしょうじょうしょう)」という、より広い考え方のなかで説明されることが多くなっています。大切なのは、痛みは「気のせい」でも「想像」でもないということです。痛みを感じる仕組みは脳の中にあり、心の状態はその仕組みに実際にはたらきかけて、痛みを強くしたり弱めたりします。だからこそ、痛みは本物で、つらさも本物です。
重要な事実
- 痛みは本人にとって本当に存在するもので、「気持ちの問題」と片づけられるものではありません。
- 心の状態と痛みは、脳の中でたがいに影響し合っています。ストレスが続くと痛みが強まり、痛みが続くと不安や落ち込みが強まる、という関係があります。
- 治療は「痛みを消す」ことだけを目標にせず、睡眠・運動・考え方のクセ・人とのつながりを整えながら、痛みとうまく付き合える状態を目指します。
とてもよくある状態です。長く続く痛み(慢性疼痛)で医療機関を受診する人の多くに、こころの要因が何らかの形で関わっていると考えられています。特別な人だけのものではありません。
年齢や性別を問わず、どなたにも起こりえます。長く続く痛みがある人、不安や落ち込みを抱えている人、強いストレスやつらい出来事を経験した人、睡眠が乱れている人、まわりから「気のせい」と言われてつらさを抱えた人により多くみられます。
症状
- 胸の痛みが続き、冷や汗・息苦しさ・吐き気をともなう(心臓や肺の緊急事態の可能性)
- 今までに経験したことのない突然の激しい頭痛
- 体の片側の麻痺(まひ)やしびれ、ことばが出にくい、ろれつが回らない(脳卒中の可能性)
- 意識がぼんやりする、意識を失う、けいれんする
- 激しいおなかの痛みで、血を吐く・血便がある・動けない
- 自分を傷つけたい気持ちや、死にたい気持ちが強い(すぐに119番または相談窓口へ連絡を)
- ⚠痛みに発熱をともなう
- ⚠けがのあとから新しく強い痛みが出た
- ⚠手足が動かしにくい、しびれが急に広がる
- ⚠説明のつかない体重減少や食欲低下がある
- ⚠痛みで眠れない、日常生活が送れないほどつらい日が続く
- ⚠気分の落ち込みが強く、自分を傷つけたい気持ちがよぎることがある
一般的な症状
- けがや検査の結果からは説明しきれない痛みが続く
- 痛む場所が変わる、または広がっていくように感じる
- ストレスや疲れが強いとき、痛みがひどくなる
- 市販の痛み止めがあまり効かない、効いても長く続かない
- 眠りが浅い、疲れやすい、体がだるい
- 不安が強い、気分が落ち込む、イライラしやすい
- 痛みのことが頭から離れず、外出や人づきあいを控えてしまう
子供の症状
- おなかや頭の痛みを繰り返し訴える(検査では異常が見つかりにくい)
- 学校の行事やテストの前など、決まった場面で痛みが出やすい
- 痛みをうまくことばで説明できず、不機嫌・眠気・食欲低下として表れることがある
- 「仮病」ではなく、本人は本当に痛みを感じていることをまわりが理解することが大切
高齢者の症状
- 加齢によるものと決めつけられ、十分に話を聞いてもらえないことがある
- 配偶者や友人を失う悲しみ、孤立、引っ越しなどの環境の変化が痛みに関わることがある
- 痛みのために眠れず、食欲が落ち、体力が低下する
- うつ状態が「体の痛み」として表れることがある
原因
主な原因
- ストレスや不安、悲しみ、怒りなどの感情が、脳の痛みの感じ方を変える
- うつ病や不安症など、こころの不調が「体の痛み」として表れる
- 過去のつらい経験やトラウマが痛みの感じ方に関わることがある
- 痛みが長く続くことで神経が敏感になり、小さな刺激でも強く痛むようになる
- 睡眠不足や疲労の蓄積が、痛みを強める方向にはたらく
- 検査では分からない細かな体の変化や、筋肉の緊張が重なっている場合もある
リスク要因
- 長く続く痛みや、繰り返すけが・病気の経験がある
- 不安や落ち込みを抱えている、または過去に経験した
- 仕事・家庭・介護などで強いストレスが続いている
- 睡眠が乱れている、生活リズムが不規則
- 人とのつながりが少なく、孤立している
- まわりから「気のせい」と言われ、つらさを分かってもらえない経験がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸痛・息苦しさ・冷や汗など、心臓や肺の病気を疑う症状がある
- 突然の激しい頭痛、体の片側の麻痺やしびれ、ことばの出にくさがある
- 発熱、血便・吐血、動けないほどの腹痛をともなう
- 自分を傷つけたい気持ちや死にたい気持ちがある
- 強い痛みで眠れず、食事もとれない日が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 痛みが数週間以上続いている、または少しずつ悪くなっている
- 検査で異常がないと言われたが、痛みの理由が分からず不安
- 市販の痛み止めがあまり効かない
- 眠れない、疲れやすい、気分が落ち込むといった症状が重なっている
- 痛みのために仕事・家事・人づきあいを控えるようになった
診断
診断は、ていねいな問診と体の診察から始まります。まず、他の病気が隠れていないかを確認するために必要な検査を行います。そのうえで、痛みの出方や経過、睡眠・生活の状況、不安や気分の状態を合わせて聞き取り、こころの要因がどのくらい関わっていそうかを一緒に考えていきます。「心因性」かどうかを決める特別な一滴の血液検査のようなものはありません。
行われる可能性のある検査
- 問診(痛みの始まり、場所、強さ、強くなる場面、これまでの治療歴)
- 診察と神経の働きの確認
- 血液検査や画像検査(他の病気を除外するために必要に応じて)
- 睡眠や生活習慣、ストレスについての聞き取り
- 気分や不安の状態を確認する質問票(問診票)
診察で予想されること
診断までに時間がかかることがあります。いくつかの検査で異常が見つからないことも多く、その場合は「問題がない」のではなく「他の病気が考えにくい」という意味です。医師と一緒に、痛みが生活にどう影響しているかを整理していくことが、次の一歩につながります。
治療
治療の中心は、ひとつの方法だけでなく、いくつかの方法を組み合わせることです。まず「痛みは本物である」ということを医師と共有し、痛みの仕組みを学ぶことから始めます。そのうえで、睡眠や運動、考え方のクセ、人とのつながりを整えながら、痛みがあってもできることを増やしていくことを目指します。痛みをゼロにすることより、生活の質を取り戻すことが目標です。
自宅でのセルフケア
- 痛みの記録をつける(いつ・どこで・どんなときに強いか、その日の気分や睡眠も一緒に)
- 早起き・日中の活動・就寝のリズムを整え、睡眠を大切にする
- 無理をして一気に動くより、休みながら少しずつ活動量を増やす(ペース配分)
- ゆっくりした呼吸や、軽いストレッチ、散歩など、体をほぐす時間をつくる
- 信頼できる人に、痛みと気持ちの両方を話せる場を持つ
- つらい気持ちが強いときは、ひとりで抱えず早めに相談する
医療治療
治療は多面的に行われます。痛みの仕組みを学ぶ教育的なアプローチ、認知行動療法(考え方や行動のクセに働きかける心理療法)、運動療法やリハビリテーション、睡眠や生活リズムの調整などが組み合わされます。必要に応じて薬物療法が検討されることもありますが、種類や使い方は医師とよく相談して決めます。痛み止めを自己判断で量を増やしたり、長く使い続けたりしないでください。こころの不調が関わっている場合は、精神科・心療内科などの専門家と連携することもあります。
手術が検討される場合
このタイプの痛みに対して、手術が解決策になることは通常ありません。ただし、別に手術が必要な体の病気が見つかった場合は、その治療について専門医と相談します。
この病気と共に生きる
痛みがある日と少ない日を波のようにとらえ、よい日に無理をしすぎないことが大切です。「今日はここまで」と決めて小刻みに休む、痛みがあってもできたことを一つ記録する、といった工夫が生活を支えます。
生活習慣のアドバイス
- 毎日の予定を詰め込みすぎず、休憩の時間を先に確保する
- 軽い散歩やストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣をつくる
- カフェインやアルコール、夜更かしを控え、眠る環境を整える
- SNSやネットで痛みの情報を長時間調べ続けないようにする(不安が強まることがある)
- 自分のペースを周囲に伝える。手伝ってほしいことを具体的に伝える
食事と運動
特別な食べ物で痛みが消えるということはありませんが、バランスのよい食事と規則正しい時間は体調と睡眠を支えます。運動は「強度より継続」が大切です。痛みが強い日は短めに、少ない日も調子に乗って増やしすぎず、少しずつ続けてみてください。始める前に医師やリハビリの担当者に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
痛みが続くと、不安・落ち込み・イライラ・孤独感が強くなりやすいものです。これは弱さではなく、痛みが続くときによく起こることです。「心のせいで痛い」のではなく、「痛みと心はたがいに影響し合う」と理解しておくと、自分を責めずにすみます。
予防
このタイプの痛みを完全に防ぐ方法はありませんが、悪化をやわらげる工夫はあります。睡眠を確保する、ストレスをためこまない、痛みを我慢しすぎず早めに相談する、生活のリズムを整えることが助けになります。特に、痛みを「気のせい」と片づけず、早い段階で丁寧に評価してもらうことが大切です。
検診プログラム
決まったスクリーニング検査があるわけではありません。長く続く痛みがあるときは、定期的に医療機関で相談し、気分や睡眠の状態も合わせて伝えるようにしてください。
合併症
治療しない場合
- 痛みが長引き、眠れない日が続いて体力が落ちる
- 不安やうつ状態が強まり、悪循環になる
- 仕事・家事・学業が続けにくくなる
- 外出や人づきあいを控え、孤立してしまう
- 痛み止めの使いすぎによる別の不調(頭痛の悪化や胃の不調など)
- 自分を傷つけたい気持ちが生じることがある
長期的な見通し
心因性疼痛は、決して「治らない」ものではありません。痛みが完全になくなる人もいれば、痛みは残りながらも生活の質を取り戻していく人もいます。痛みの仕組みを学び、睡眠・運動・人とのつながりを整え、必要な支援につながることで、少しずつ楽になっていくことが期待できます。焦らず、一度に全部を変えようとしないことが大切です。
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最終更新: 2026年11月3日
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