骨盤の痛み(骨盤痛)
概要
骨盤は、お腹の下、腰のあたりにある骨の輪のことです。その内側には膀胱(尿をためる袋)、子宮や卵巣(女性の場合)、直腸(便の通り道)などがあります。骨盤痛は、この骨盤の中や下腹部、ときには腰・お尻・太ももの内側・会陰部(肛門と性器の間)に感じる痛みです。骨盤痛は病名ではなく、症状の名前です。数日で治まるものから、6か月以上続く慢性のものまであります。原因は一つとは限らず、筋肉・神経・臓器・心や睡眠の状態が重なっていることもあります。検査で大きな異常が見つからなくても、痛みは本物です。
重要な事実
- 骨盤痛は、下腹部や骨盤の中、腰やお尻、会陰部に感じる痛みで、急性(急に始まる)と慢性(長く続く)があります。
- 原因は人によってさまざまで、複数の要因が重なることもあります。検査で目立った異常が見つからない場合でも、痛みは本物で、対処する価値があります。
- 痛みが続くと、睡眠・仕事・学業・家事・気分に影響することがあります。早めに医療者に相談し、自分に合う対処法を一緒に見つけることが大切です。
とてもよくある症状です。女性だけでなく男性にも起こり、一般外来でもよく相談されます。慢性の骨盤痛は、生活の質に影響する代表的な痛みの一つです。
子どもから高齢者まで、どの年代にも起こります。女性では月経や妊娠・出産に関係することが多く、男性では前立腺や泌尿器の問題が関わることもあります。性別にかかわらず、筋肉・神経・消化器・泌尿器・心の状態など、さまざまな要因が関係します。
症状
- 次の症状があるときは、ためらわず119番に連絡してください。
- 突然の激しい下腹部・骨盤の痛みで動けない、または痛みで意識がもうろうとする
- 大量の性器出血、血便、血尿が止まらない
- 高熱と激しい腹痛があり、お腹が硬い・触ると痛い
- 冷や汗、顔面蒼白、ぐったりしている、意識がぼんやりする
- 妊娠中または妊娠の可能性がある人の突然の強い下腹部痛、出血、ふらつき・失神
- 胸痛や呼吸困難を伴う
- ⚠発熱(38℃以上が目安)と下腹部・骨盤の痛み
- ⚠排尿時の強い痛み、血尿、頻尿が続く
- ⚠嘔吐や下痢、便秘がひどく、水分がとれない
- ⚠性器からの異常な出血やおりもの、悪臭がある
- ⚠痛みで眠れない、仕事や学校に行けない
- ⚠妊娠中または妊娠の可能性がある人の骨盤痛
- ⚠痛みが急に強くなってきた、または新しく血便・血尿が出た
一般的な症状
- 下腹部や骨盤の中の痛み(ずきずきする、重い、焼けるように痛い、引っ張られるなど)
- 腰、お尻、太ももの内側、会陰部(肛門と性器の間)の痛み
- 排尿のときの痛みや灼熱感(焼ける感じ)、頻尿(何度もトイレに行く)、残尿感(出し切れない感じ)
- 排便のときの痛み、便秘や下痢、お腹の張り
- 性交時の痛みや不快感
- 長く座る・立つ・歩くことで悪化し、横になると軽くなる
- 痛みが波のように強くなったり弱くなったりする
- 疲れやすい、眠りが浅い、気分が落ち込む
子供の症状
- 子どもは「お腹が痛い」「おしっこのところが痛い」などと表現することがあります。
- 痛みで歩きたがらない、遊びを嫌がる、学校に行きたがらない
- 便秘やおねしょ、トイレの失敗が増える
- 泣いたり不機嫌になったりして、理由がわかりにくい
- 発熱、嘔吐、血便・血尿、元気がないときは早めに受診してください。
高齢者の症状
- 加齢による筋力低下や骨盤底筋(骨盤の底を支える筋肉)の弱り、便秘、尿路感染、股関節や腰の病気、神経の痛みなどが重なりやすいです。
- 痛みで動くのが怖くなり、活動量が減って筋力が落ちる悪循環に注意してください。
- 複数の病気を持っていることが多く、薬の影響も含めて医師が全体を確認します。
- 「年のせい」と我慢せず、日常生活の変化を相談してください。
原因
主な原因
- 筋肉・筋膜・神経:骨盤底筋(骨盤の底を支える筋肉)の緊張やけいれん、筋膜の痛み、神経の圧迫や過敏。
- 泌尿器:膀胱炎(膀胱の炎症)、尿道炎、間質性膀胱炎(膀胱に慢性的な痛みや頻尿が続く状態)、前立腺炎(男性の前立腺の炎症)。
- 女性の生殖器:月経困難症(月経時の強い痛み)、子宮内膜症(子宮の内側に似た組織が別の場所にできる病気)、子宮筋腫、卵巣のう胞、骨盤内炎症性疾患(感染による骨盤内の炎症)、妊娠に関係する痛み。
- 消化器:過敏性腸症候群(お腹の痛みや便通の変化が続く状態)、便秘、大腸炎、憩室炎(腸の袋の炎症)、虫垂炎など急な病気。
- 骨・関節:変形性股関節症、恥骨結合の痛み、腰椎や仙腸関節(骨盤の関節)の問題。
- その他:外傷、手術後、性感染症、ストレス、睡眠不足。原因が一つに決まらないことも多く、複数が重なっていることがあります。
リスク要因
- 女性であること、月経痛が強いこと
- 妊娠・出産の経験、骨盤の手術の経験
- 尿路感染や性感染症の既往
- 便秘がち
- 長時間座る・立つ・運転する
- 運動不足や筋力低下
- ストレスが多い、睡眠不足
- 過去のつらい体験やトラウマが、痛みの感じ方に影響することがある
- 高齢、体重が増えすぎている、喫煙
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の激しい痛み、発熱と強い痛み、お腹が硬い
- 性器出血、血尿、血便が続く
- 妊娠中・妊娠の可能性がある人の骨盤痛
- 嘔吐が続き水分がとれない
- 意識がぼんやりする、冷や汗、ぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 1〜2週間以上続く、または繰り返す骨盤痛
- 排尿・排便・性交時の痛みがある
- 痛みで睡眠、仕事、学業、家事に支障が出ている
- 痛みの場所や強さが変わってきた
- 自分で対処しても改善しない、または痛みが増している
- 気分の落ち込みや不安が続く
- 子どもが痛みで学校に行きたがらない、元気がない
診断
問診が中心です。痛みの場所、始まり方、続いている期間、月経・排尿・排便・性交との関係、妊娠の可能性、これまでの病気、生活習慣、睡眠、ストレスなどを聞きます。そのうえで身体診察を行い、必要に応じて検査を選びます。原因が一つでないこともあり、経過を見ながら整理していきます。
行われる可能性のある検査
- 尿検査(感染や血尿を調べる)
- 血液検査(炎症や貧血などを調べる)
- 妊娠検査(妊娠の可能性がある場合)
- 超音波検査(エコー:腹部や骨盤の中を画像で見る)
- おりものや尿の培養検査(細菌などの感染を調べる)
- 便検査(出血や感染、炎症を調べる)
- 内診(腟の中を診察する)や直腸診(肛門から直腸を診察する)。必要に応じて、同意を得て行う。
- MRIやCT(必要に応じて、より詳しく画像を見る)
- 大腸カメラや膀胱鏡(必要に応じて、腸や膀胱の中を見る)
- 痛みや気分、睡眠の状態を聞く質問票
診察で予想されること
問診と身体診察のあと、症状に合わせて検査を選びます。一度で原因がわからないこともありますが、その場合は痛みの記録を続けながら、時間をかけて整理します。検査で異常が見つからない場合でも、痛みを軽くするための方法はあります。
治療
治療は、原因と痛みの続き方に合わせて組み合わせます。感染があればその治療を、臓器の病気があれば専門医による治療を行います。筋肉や神経が関わっている場合は、理学療法(リハビリ)や生活の調整、痛みの感じ方を落ち着かせるケアが役立ちます。目標は、痛みを完全になくすことだけでなく、睡眠・仕事・家事・人間関係を保ち、生活の質を上げることです。
自宅でのセルフケア
- 痛み日記をつける(いつ、どこが、どれくらい、何をしたとき、排尿・排便・月経との関係)
- 温める・冷やすなど、自分に合う方法を試す
- 長時間同じ姿勢を避け、こまめに動く
- ゆっくりした呼吸やリラックス、十分な睡眠
- 便秘を防ぐ(水分、食物繊維、規則的な排便)
- 骨盤底筋を力ませすぎないよう意識する
- 散歩や優しいストレッチなど、無理のない運動
- つらさを一人で抱えず、家族や友人、医療者に話す
医療治療
医師は、原因に応じて次のような方法を組み合わせることがあります。痛みの神経の働きを落ち着かせる治療、炎症を抑える治療、感染に対する治療、ホルモンに関わる治療、骨盤底筋のリハビリ(理学療法)、神経ブロック(一時的に痛みの信号を遮る方法)、心理療法やリラクセーションなどです。薬の種類や量は人によって異なるため、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。自分で量を変えたり、他人の薬を使ったりしないでください。
手術が検討される場合
手術が必要になるのは、子宮内膜症や大きな子宮筋腫、膿瘍(うみのたまり)、腸の病気、股関節の病気など、はっきりした原因があり、手術で改善が見込める場合です。すべての骨盤痛に手術が必要なわけではありません。手術の利益とリスクについて、専門医とよく相談してください。
この病気と共に生きる
痛みがある日とない日の差を記録し、予定を詰めすぎないようにしましょう。痛みが強い日は休み、軽い日は無理のない範囲で動くなど、調整することが大切です。周囲に痛みを伝えることも助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠を十分にとる
- 禁煙する(喫煙は血流や痛みに悪影響を与えることがあります)
- 体重が増えすぎている場合は、無理のない範囲で適正体重を目指す
- 長時間の座位を避け、こまめに立つ・歩く
- ストレスをためない工夫をする
- 散歩など軽い運動を続ける
- 便秘を防ぐ
- 性交時の痛みがある場合は、パートナーと相談し、医師にも伝える
食事と運動
バランスの良い食事を心がけ、水分と食物繊維で便秘を防ぎましょう。カフェイン、アルコール、辛いものなどで症状が変わる人は、自分に合うように調整してみてください。運動は、散歩、水中歩行、ヨガなど優しいものから始め、痛みが強くなるときは中止して医療者に相談しましょう。
精神的健康と心の健康
長く続く痛みは、不安、抑うつ、睡眠障害、いらいらを招くことがあります。これは弱さではなく、痛みと脳・心が関係しているためです。つらさを一人で抱えず、医療者やカウンセラーに相談してください。気分の落ち込みが続く、死にたい気持ちがある、自分を傷つけたい気持ちがある場合は、地域の相談窓口や医療機関に連絡してください。日本では、差し迫った危険があるときは119番に連絡してください。
予防
すべての骨盤痛を防ぐことはできませんが、できることはあります。感染症の予防、便秘の予防、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理、早めの受診が役立ちます。
ワクチン
骨盤痛そのものを防ぐワクチンはありません。感染症の中にはワクチンで予防できるものもあります。自分に必要かどうかは、医師に相談してください。
検診プログラム
骨盤痛のための決まったスクリーニング検査はありません。症状に応じて検査を行います。自治体の健康診査やがん検診は、年齢や案内に合わせて定期的に受けましょう。
合併症
治療しない場合
- 痛みが長引き、慢性化することがある
- 睡眠不足、疲労、仕事・学業・家事への支障
- 不安や抑うつ、人間関係や性生活への影響
- 感染や臓器の病気が隠れていた場合、発見が遅れて悪化することがある
- 便秘や排尿トラブルが悪化する
- 動くのが怖くなり、筋力低下や活動量の低下につながる
長期的な見通し
骨盤痛の多くは、命に関わる病気ではありません。痛みが続いてつらいこともありますが、原因に応じた治療、生活の調整、心身のサポートで改善する人は多くいます。痛みを完全になくすことだけでなく、生活しやすくなることを目標に、あきらめずに医療者と一緒に取り組みましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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