がんの痛みをやわらげるケア(痛みのマネジメント)
概要
がんの痛みのマネジメントとは、がんで起こる痛みをできるだけ少なくして、食べる・眠る・動く・人と会うといった毎日の生活をできるだけ保てるようにする取り組みのことです。痛みは「がんだから仕方ない」と我慢するものではありません。痛みの原因は人によってさまざまで、腫瘍そのものが神経や骨をおしている場合もあれば、手術や放射線、薬の治療のあとから続く場合、あるいはがんとは関係ない腰痛などが重なっている場合もあります。だからこそ、痛みの種類や出方に合わせて、薬だけでなく放射線やリハビリ、神経の痛みへの処置などを組み合わせて調整していきます。
重要な事実
- 痛みは我慢しなくてよい症状です。医療者に伝えることで、多くの場合かなりやわらげることができます。
- 痛み止めは「がまんできなくなってから」ではなく、決められたとおりに規則正しく使うことで効果が出やすくなります。
- 痛みは体だけでなく、こころ・睡眠・食欲・家族との時間にも影響します。痛みだけでなく、生活全体をみて調整することが大切です。
がんで痛みを経験する人は少なくありません。ただし、すべての人に痛みが出るわけではなく、がんであっても痛みがない人もたくさんいます。痛みがあるかどうか、どのくらいつらいかは一人ひとり違います。
がんと診断された人なら誰でも関係するテーマです。年齢や性別、がんの種類や進行の程度にかかわらず起こりえます。小さな子どもや高齢者、認知症のある方では、本人が「痛い」と言いにくいことがあるため、まわりの人の観察が大切になります。
症状
- 突然の激しい痛みで、胸が苦しい、息ができない、冷や汗がでる
- 意識がもうろうとしている、けいれんが起きた、呼びかけに反応が弱い
- 突然手足が動かない、しびれる、力が入らない(特に両足)
- 突然おしっこが出ない、おしっこやうんちがもれ出す(脊髄がおされているサインのことがあります)
- 大量の出血、吐血、黒い便が続く
- 痛みとともに高熱がでて、ぐったりしている
- ⚠痛みが急に強くなった、今までの痛み止めでまったく効かない
- ⚠新しい場所に痛みが出てきた
- ⚠痛みで一睡もできない日が続いている
- ⚠痛み止めの副作用がつらい(ひどい便秘、強い吐き気、強い眠気、ふらつき)
- ⚠痛みのせいで水分もとれない、食事ができない
一般的な症状
- 痛む場所がはっきりしている、または広い範囲がなんとなく痛む
- ズキズキする、焼けるように痛む、しびれる、電気が走るような痛み
- じっとしていても痛む、動くと痛む、体重をかけると痛む
- 痛みで眠れない、夜中に目が覚める
- 痛みのため動くのがこわい、歩く距離が減る、家事ができない
- 痛みで食欲が落ちる、気分が沈む、イライラする
- 痛み止めが効いている時間が短くなってきた、切れるとつらい
子供の症状
- 「痛い」と言葉で伝えられないことがあり、不機嫌、ぐずる、泣き方がいつもと違うといった形で表れる
- 痛い場所を触らせたがらない、抱っこをいやがる、特定の姿勢をとる
- 遊ばなくなる、食欲が落ちる、眠りが浅い、夜泣きが増える
- 学校や保育園に行きたがらない、人と関わるのを避ける
高齢者の症状
- 「年のせい」「がんだから仕方ない」と我慢して、痛みを伝えないことがある
- 認知症や聞こえにくさのため、痛みをうまく説明できないことがある
- 痛みではなく、元気がない、食欲がない、動きたがらないという形で表れることがある
- 痛み止めの副作用(便秘、眠気、ぼんやりする、転びやすくなる)が出やすい
- 複数の病気の薬を飲んでいることが多く、薬どうしの飲み合わせに注意が必要
原因
主な原因
- がんそのものが神経や骨、臓器をおしている、または広がっている
- 骨に転移して、骨が痛む、折れやすくなっている
- 手術や放射線治療、薬物療法のあとに残る痛み(しびれ、傷の痛みなど)
- 腫瘍が腸や尿の通り道をふさぐことで起こる痛み
- 感染や炎症、むくみなどが加わって痛む
- がんとは直接関係のない痛み(腰痛、肩こり、歯の痛みなど)が重なっている
リスク要因
- がんが進行している、骨や神経の近くに病変がある
- これまでに手術や放射線治療、薬物療法を受けたことがある
- 痛みに対する不安やこわさが強い、気分の落ち込みがある
- まわりに相談できる人が少ない、一人で過ごす時間が長い
- 高齢で、複数の病気や薬を抱えている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 痛みが急に強くなった、これまでの痛み止めが効かない
- 突然手足の力が入らない、しびれる、おしっこが出ない
- 痛みとともに高熱、息苦しさ、意識の変化がある
- 痛みで水分もとれない、眠れない状態が続いている
定期受診を予約すべき場合:
- 痛みが続いている、または少しずつ強くなっている
- 市販の痛み止めでやり過ごしている日が多い
- 痛みのせいで外出や家事、仕事、趣味をあきらめている
- 薬の副作用(便秘、眠気、吐き気、ふらつき)が気になる
- 痛みについてどう話せばよいかわからず、相談できていない
診断
診断というより「痛みの評価」が中心になります。医師や看護師が、痛む場所、痛みの種類(ズキズキ、焼ける、しびれるなど)、いつ出るか、何をすると悪化するか、どのくらいつらいかを聞き取ります。つらさは0(痛くない)から10(これまでで一番つらい)までの数字で表すことが多く、言葉で説明しにくいときにも役立ちます。あわせて身体診察を行い、必要に応じて画像検査などで原因を調べます。
行われる可能性のある検査
- 問診と痛みの評価(場所・性質・時間・強さ・日常生活への影響)
- 身体診察(痛む場所を触る、動かす、神経の働きをみる)
- 血液検査
- レントゲン検査、CT検査、MRI検査、超音波(エコー)検査
- 骨の転移を調べる核医学検査(骨シンチグラフィ)など
- 痛みの日記や、家族からみた様子の聞き取り
診察で予想されること
痛みの評価は一度で終わりではありません。治療を始めたあとも、診察のたびに「今どのくらいか」を確認し、薬の量や種類、使う時間帯を細かく調整していきます。痛み日記(いつ・どんなときに・どれくらい痛んだか、薬を飲んだ時間、副作用)をつけておくと、調整がスムーズになります。
治療
痛みの原因と性質に合わせて、いくつかの方法を組み合わせます。大きくは、薬による痛みのコントロール、放射線治療や神経への処置など原因に働きかける治療、リハビリや姿勢の工夫、こころのケア、そして睡眠や便秘など生活面の調整です。世界保健機関(WHO)が示す考え方では、痛みの強さに応じて薬を段階的に調整し、副作用を予防しながら、生活の質を保つことを目指します。
自宅でのセルフケア
- 痛み日記をつける(時間・場所・強さ・したこと・薬を飲んだ時間・副作用)
- 痛み止めは「痛くなってから」ではなく、決められた時間に規則正しく使う
- 楽な姿勢やクッション、温める・冷やすなど心地よい方法を試す
- 活動と休息のバランスをとる。よい時間帯に無理のない範囲で動く
- 便秘や吐き気など副作用のサインを早めに相談する
- ゆっくりした呼吸や音楽、ぬるめのお風呂などでリラックスする時間をつくる
医療治療
痛みの治療は、原因と痛みのタイプに合わせて選びます。薬では、比較的軽い痛みに使う一般的な痛み止めから始め、痛みの強さに応じて、強い痛みに使う薬のグループ(オピオイドと呼ばれます)へと段階的に調整することがあります。飲み薬だけでなく、貼り薬や注射など、状況に合った方法が選ばれます。しびれや焼けるような神経の痛みには、別の種類の薬が使われることがあります。骨に転移した痛みには放射線治療が有効なことがあり、神経をブロックする処置や、炎症やむくみをやわらげる薬が役立つ場合もあります。薬を使うときは、便秘や吐き気、眠気などの副作用を予防・軽減する工夫を同時に行い、効果と副作用のバランスをみながら、こまめに調整していきます。具体的な薬の種類や量は、担当の医師・薬剤師と相談して決めてください。
手術が検討される場合
痛みの原因によっては、手術や処置が役立つことがあります。たとえば、折れそうになっている骨を補強する治療、腸や尿の通り道の詰まりを解消する処置、腫瘍が神経をおしている場合の减压(おす力をゆるめる)などです。手術が適するかどうかは、体の状態や治療の目的、本人の希望をふまえて、担当医とよく相談して決めます。
この病気と共に生きる
痛みがあっても、できるだけ自分らしい一日を過ごせるように、生活のリズムを整えていきます。朝・昼・夜の過ごし方を大きく変えるのではなく、痛みが少ない時間帯に少しずつ動き、つらいときは早めに休む。予定を詰め込まず、大事な用事の前後に休む時間を入れる。こうした小さな調整の積み重ねが、日々の負担を軽くします。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠を大切にする。眠れない日が続くときは早めに相談する
- 無理のない範囲で体を動かす(散歩、軽いストレッチ、リハビリ)
- 便秘を防ぐために水分をこまめにとり、食物繊維を意識する
- 喫煙や飲酒は主治医に相談する
- 家族や友人と話す時間、好きな音楽や趣味の時間を確保する
- 体の変化を一人で抱えこまず、訪問看護や相談窓口につながる
食事と運動
食事は、便秘を防ぐために水分と食物繊維を意識し、一度にたくさん食べるのがつらいときは少量を回数多くに分けます。運動は、痛みのない範囲で短時間から。ベッドの上でできる足首の運動や、椅子に座ってのストレッチでも十分です。リハビリの専門家(理学療法士など)に、痛みを悪化させない動き方を相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
痛みが続くと、不安、いらいら、気分の落ち込み、眠れない夜、人と会うのがおっくうになることがあります。これは弱さではなく、痛みと長く付き合うときに自然に起こることです。痛みとこころの状態は互いに影響し合うため、こころのつらさを話すことも治療の一部です。医師や看護師、心理の専門家、地域の相談窓口に話してみてください。もし「消えてしまいたい」「死にたい」と考えるほどつらいときは、一人で抱えず、すぐに医療者や家族に伝え、命にかかわる場合は119番に連絡してください。
予防
がんで起こる痛みを完全に防ぐことは難しいですが、悪化を防ぎ、軽くすることはできます。痛みを我慢せず早めに伝えること、治療の副作用に先回りして備えること(便秘や吐き気の予防など)、無理のない範囲で体を動かし筋力や姿勢を保つこと、睡眠や気分の落ち込みに早く気づいて相談することが大切です。
検診プログラム
痛みは「測る」ことができます。診察のたびに痛みの強さと生活への影響を確認してもらうこと、自分でも痛み日記をつけて変化に気づくことが、悪化を早く見つける助けになります。
合併症
治療しない場合
- 眠れない日が続き、体力や気力が落ちる
- 食事がとれず、体重が減る、筋力が落ちる
- 動くのがこわくなり、寝たきりに近づく、足腰が弱る
- 不安や気分の落ち込みが強くなり、人との交流が減る
- 治療を受けるのがつらくなり、治療の継続が難しくなる
- 家族やまわりの人の負担が大きくなる
長期的な見通し
がんの痛みは、多くの場合、組み合わせた方法でかなりやわらげることができます。痛みがゼロにならなくても、「眠れる」「食べられる」「好きな人と話せる」といった時間を取り戻せることは少なくありません。痛みの感じ方も治療への反応も一人ひとり違うため、うまくいかないときは方法を変えていけば大丈夫です。あきらめずに、担当の医療者と一緒に調整を続けてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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