無動(むどう)— 動き出しにくくなる状態について
概要
無動(むどう)とは、体を動かそうと思っても、なかなか動き出せない、動きが少なくなる、動作の始まりがゆっくりになる状態をいいます。英語ではアキネジア(akinesia)と呼ばれます。大切なのは、これは「筋力(きんりょく)が弱っている」こととは少し違う、という点です。筋肉そのものは力があるのに、脳から「動け」という指示が出にくくなっているために、動き出しが遅れたり止まってしまったりします。パーキンソン病という脳の病気でよく見られますが、ほかの原因でも起こります。
重要な事実
- 無動は「動きたくても動き出せない・動きが少ない」状態で、筋力の低下とは区別されます。
- パーキンソン病の人によく見られますが、薬の影響、脳卒中、甲状腺の病気、うつなど、ほかの理由でも起こります。
- 原因によって対応が変わるため、気になる場合は早めに医療機関で相談することが大切です。
パーキンソン病の人ではとてもよく見られる症状です。パーキンソン病自体は人口のおよそ100〜200人に1人程度といわれ、決して珍しい病気ではありません。一方、無動という症状だけを取り上げると、原因はさまざまで、年齢や使っている薬、持病によって起こりやすさが変わります。
パーキンソン病は中高年の方に多い病気ですが、40歳より若い年齢で発症する方もいます。無動は、脑卒中のあとの方、抗精神病薬などの薬を使っている方、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)の方、うつやせん妄(意識がぼんやりして集中できない状態)の方にも見られます。子どもではまれですが、薬の副作用や生まれつきの神経・代謝の病気が関係することもあります。
症状
- 突然、体の片側が動かない・しびれる、顔がゆがむ、ろれつが回らない、言葉が出ない(脳卒中のサインの可能性)
- 意識がない、または呼びかけへの反応がおかしい
- 呼吸が苦しい、息がおかしい
- 突然動けなくなり、立てない・座れない
- 高熱と首の硬さ、ひどい頭痛が急に起こった
- 頭をぶつけたあとに、急に動きが悪くなった・意識がぼんやりしている
- ⚠数日単位で、動きにくさがはっきり進んでいる
- ⚠転んで頭を打った、けがをした、骨折かもしれない痛みがある
- ⚠飲み込みにくくなり、食事や水分でむせるようになった
- ⚠薬を変えてから、急に動けなくなった・体が硬くなった
- ⚠幻覚(実際にはないものが見える)や混乱が出てきた
- ⚠発熱があり、動きが悪くなった
一般的な症状
- 動き出そうとしても、最初の一歩が出るまで時間がかかる
- 歩き始めや、狭い場所・人混みで足がすくんで前に出ない(すくみ足)
- 歩くときに腕の振りが少なくなる、歩幅が小さくなる
- 表情が乏しくなり、笑顔が出にくい(仮面のような顔つきといわれます)
- 声が小さくなる、話し方が単調になる
- 字を書くとだんだん小さくなる
- 着替え・歯みがき・食事などの動作の始まりが遅く、時間がかかる
- 立ち上がる、寝返りを打つなど、姿勢を変えるのが難しい
- まばたきが減る、よだれが出やすくなる
- 動作の途中で急に止まってしまうことがある
子供の症状
- 小児ではまれですが、薬の副作用や生まれつきの神経・代謝の病気が関係することがあります
- 歩き始めの遅れ、動きの少なさ、表情が乏しいなどが気づくきっかけになることがあります
- 言葉の発達の遅れや、疲れやすさを伴うこともあります
- 気になる様子があれば、まず小児科で相談してください
高齢者の症状
- 「年のせいで動きが遅くなった」と思われがちですが、急に変化した場合は相談が必要です
- 転びやすくなる、歩くのがこわくなる
- 飲み込むのがうまくいかず、むせることが増える
- いくつもの薬を飲んでいる場合、薬の組み合わせが影響していることがあります
- 入院や安静が続いたあとに、体が動かしにくくなることがあります(廃用=はいよう)
- 認知症やうつを伴うことがあり、見分けが難しいことがあります
原因
主な原因
- パーキンソン病:脳の中でドパミンという物質をつくる神経細胞が減ることが関係しています
- パーキンソン病に似た経過をたどる病気(進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などのパーキンソン症候群)
- 脳卒中や脳の血管の病気のあと
- 薬の影響:抗精神病薬、吐き気止めの一部、めまい止めなどで起こることがあります
- 正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう):脳に髄液がたまり、歩きにくさなどが出る病気
- 甲状腺機能低下症、電解質の乱れなどの体の病気
- うつ、せん妄、強い疲労や睡眠不足
- 長く寝たきりや安静が続くことによる体の衰え(廃用)
リスク要因
- 年齢が上がること
- 家族にパーキンソン病の人がいる
- 農薬や溶剤などに長く触れる環境(報告はありますが、因果関係は完全には分かっていません)
- 頭を強く打った経験
- 複数の薬を飲んでいる、抗精神病薬などを使っている
- 脳卒中や心臓病、糖尿病などの生活習慣病がある
- うつや不安が強い状態、睡眠の問題
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に動けなくなった、体の片側だけに症状が出た
- 転倒して痛みが続く、頭を打った
- 飲み込みにくく、むせが増えた
- 薬を変えた直後から様子がおかしい
- 発熱、混乱、幻覚がある
定期受診を予約すべき場合:
- ここ数か月で、歩くのが遅くなった、歩幅が小さくなったと言われた
- 字が小さくなった、声が小さくなった
- 家族から「表情が乏しくなった」「腕が振れていない」と言われた
- 着替えや身支度に時間がかかるようになった
- 動作の始まりに時間がかかり、日常生活が少しずつ大変になってきた
診断
診断は、まずお話をうかがうこと(問診)と診察から始まります。いつから、どんなふうに動きにくくなったのか、飲んでいる薬、持病、ご家族の病気などを確認します。そのうえで、手足の動き、筋肉の硬さ、歩き方、表情、反射などを診る神経の診察を行います。無動は「見た目」だけでは原因を決められないため、血液検査や画像検査を組み合わせて、ほかの病気がないかを確かめます。
行われる可能性のある検査
- 問診と神経診察(動き、筋の硬さ、歩き方、バランス、表情などを診ます)
- 飲んでいる薬の確認と見直し(薬が原因かを確かめるため)
- 血液検査(甲状腺の働き、ビタミン、電解質、肝臓・腎臓の働きなど)
- 頭部のMRIやCT(脳卒中、脳の萎縮、水頭症などを調べます)
- 必要に応じて、心電図や専門的な画像検査
- 症状が複雑な場合は、神経内科などの専門医への紹介
診察で予想されること
一度の診察で診断がはっきり決まらないこともあります。症状の経過を数か月かけて見ていくことや、薬の影響を確かめるために薬を調整してみることもあります。診察の前に、症状が出た場面や時間帯、飲んでいる薬のリスト(お薬手帳)をメモしておくと役立ちます。ご家族に一緒に来てもらうと、本人が気づきにくい変化を伝えられるため助かります。
治療
治療は原因によって変わります。パーキンソン病が関係している場合は、脳のドパミンを補う方向の治療と、リハビリテーションを組み合わせます。薬が原因の場合は、処方した医師と相談しながら薬を調整します。甲状腺など体の病気が関係する場合は、その病気の治療を行います。どの場合でも、動きやすさを保つためのリハビリと生活の工夫が大切です。
自宅でのセルフケア
- 動作を小さく分けて考える:「立ち上がる」を「前かがみになる→おしりを上げる」のように分けると動き出しやすくなります
- 声に出して数える、音楽やリズムに合わせて動くと、足が出やすくなることがあります
- 家具の配置を整え、手すりや杖、滑りにくい床材などを使って安全を確保する
- 便秘や脱水は動きにくさを強めることがあるため、水分と食物繊維をとる
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない
- 無理に一度に全部やろうとせず、休みながら行う
医療治療
治療の中心は、原因に応じた薬物療法とリハビリテーションです。パーキンソン病が関係する場合は、脳のドパミンという物質の働きを助ける種類の薬を、症状や生活の状況に合わせて調整します。薬が原因と考えられる場合は、処方した医師と相談して薬を変えたり減らしたりします。リハビリでは、理学療法(歩き方やバランス、立ち上がりの練習)、作業療法(着替えや食事など日常生活の工夫)、言語聴覚療法(声の出し方、飲み込みの練習)を組み合わせます。具体的な薬の名前や量は、症状や体の状態によって一人ひとり異なるため、必ず担当の医師・薬剤師の指示に従ってください。自己判断で薬をやめたり量を変えたりすると、体調が大きく崩れることがあります。
手術が検討される場合
症状や原因によっては、脳の特定の部分に電気的な刺激を与える手術(脳深部刺激療法など)が検討されることがあります。これはすべての方に当てはまるものではなく、年齢、症状の種類、認知機能、これまでの治療の経過などをふまえて、専門医とよく相談して決めます。手術を検討するかどうかは、急いで決める必要はありません。
この病気と共に生きる
無動があると、朝の身支度や移動に時間がかかり、思うように動けないもどかしさを感じることがあります。大切なのは「頑張って速く動く」ことより、「動きやすい工夫を増やす」ことです。時間に余裕をもった予定を立てる、動作の順番を決めておく、家族に声をかけてもらう、といった小さな工夫が毎日の負担を軽くします。できていることを数える視点も、気持ちを保つ助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で、毎日少しずつ体を動かす習慣をつくる
- いすやベッドの高さ、手すりの位置など、家の中の環境を整える
- 転倒を防ぐため、床に物を置かない、夜間の照明を明るくする
- お薬手帳をまとめ、飲んでいる薬をいつも把握しておく
- 体調の変化を短いメモに残し、診察のときに見せる
- 家族や友人と話す時間をつくる
食事と運動
食事は、便秘を防ぐために水分と野菜・きのこ・海藻などの食物繊維を意識してとりましょう。飲み込みにくさがあるときは、あわてず少量ずつ、よくかんで食べ、必要なら医師や管理栄養士に相談してください。運動は、ストレッチ、いすに座っての体操、無理のない範囲の散歩などがおすすめです。大きな歩幅を意識する、かかとから着地する、といった意識づけが歩きやすさにつながることがあります。痛みや転倒の不安がある場合は、理学療法士などの専門家に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
動きにくさが続くと、「思うように動けない」「人に迷惑をかけている」と感じ、気持ちが落ち込んだり、外出を控えたくなったりすることがあります。これは珍しいことではなく、無動と気分の落ち込みが関係することもあります。気持ちのつらさが2週間以上続く、眠れない、何も楽しめない、といった状態があれば、遠慮なく医療機関に話してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちが浮かんだときは、一人で抱えず、地域の相談窓口や医療機関、信頼できる人にすぐ連絡してください。
予防
無動をすべて防ぐことはできませんが、できることはあります。脳卒中を防ぐために血圧・血糖・脂質を整え、禁煙を心がけること、薬を自己判断で増やさず、複数の薬を飲んでいるときは薬剤師に相談すること、そして無理のない範囲で体を動かし続けることが役立ちます。気になる動きの変化を早めに相談することも、進行をゆるやかにする助けになります。
検診プログラム
無動そのものを調べる決まった健診はありません。ただし、生活習慣病の健診を受けて血圧や血糖を確認すること、また診察のときに「動きにくさ」を伝えることが、早期の発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 転びやすくなり、骨折やけがの危険が高まる
- 飲み込みがうまくいかず、むせて肺炎を起こすことがある
- 動かない時間が長引くことで、体がさらに動かしにくくなる(廃用)
- 着替え・食事・トイレなど日常生活に介助が必要になることがある
- 外出が減り、孤立感や気分の落ち込みが強まることがある
- 言葉が伝わりにくくなり、意思を伝えるのが難しくなる
長期的な見通し
無動は、原因によって見通しが大きく変わります。薬の影響や甲状腺の病気など、治療で改善が見込めるものもあります。パーキンソン病が関係する場合も、薬の調整とリハビリ、生活の工夫を続けることで、長く自分らしい生活を送っている方がたくさんいます。症状は良くなったり悪くなったりしながら進むことが多く、早めに相談して自分に合った工夫を見つけていくことが、とても力になります。一人で抱えず、医療者や家族と一緒に少しずつ整えていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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