乳房の皮膚のくぼみ(ひきつれ)
概要
乳房の皮膚の一部が、へこんだり、内側に引っぱられたように見える状態を「乳房の皮膚のくぼみ(ひきつれ)」といいます。英語では「breast dimpling」と呼ばれます。乳房の中には、皮膚と乳腺をつなぐ細い線維(クーパー靭帯と呼ばれる支えの組織)があり、この部分に変化が起こると、皮膚が引き寄せられて、えくぼのようなへこみができます。この変化の原因はさまざまで、心配のいらないものも多くありますが、乳がんが隠れていることもあるため、自己判断せずに医療機関で確認してもらうことが大切です。
重要な事実
- 乳房のくぼみは「しこり」と同じように、乳房の変化のサインのひとつです。気づいたら早めに相談しましょう。
- 原因は、加齢や体重の変化、けがの後の脂肪の変化、乳腺の炎症など、心配のいらないものも多くあります。
- ただし、乳がんでも起こることがあるため、見た目だけで判断せず、医師の診察と画像検査で確かめることが必要です。
乳房の皮膚のくぼみは、それほど珍しいものではありません。特に、出産・授乳の経験がある方、急に体重が減った方、乳房の手術を受けたことがある方では見られやすいことがあります。一方で、乳がんが原因となることもあるため、「よくある変化だから大丈夫」と決めつけず、一度は専門の医療機関で確認することがすすめられます。
乳房の組織がある方なら、年齢を問わず起こる可能性があります。40代以降は乳がんのリスクが上がるため、より注意が必要です。10代など若い方では、乳腺の炎症や、成長にともなう左右差として見られることがありますが、その場合も自己判断は避けましょう。男性の乳房にも乳腺組織があるため、同様の変化が起こることがあります。
症状
- 乳房が急に大きく腫れ、赤みが急速に広がって、高熱や激しい痛みがある(重症の感染症の可能性があります)
- 乳房の症状に加えて、呼吸が苦しい、胸の痛みが強い、意識がもうろうとする
- ⚠新しく現れた乳房のくぼみやしこり
- ⚠乳房の一部が硬く赤くなり、熱をもって痛む(乳腺炎や膿がたまる状態の可能性)
- ⚠血が混じった乳頭からの分泌物
- ⚠発熱をともなう乳房の腫れや痛み
一般的な症状
- 乳房の皮膚の一部が、えくぼのようにへこむ、または内側に引きつれて見える
- 皮膚が厚くなったように感じる、あるいは毛穴が目立ってオレンジの皮のような見た目になる
- 乳頭が内側に引っ込む(乳頭陥没)、または向きが変わる
- 乳房にしこり(硬い部分)を触れる
- 乳房の大きさや形、左右差が以前と変わる
- 乳房の一部が赤くなる、熱をもつ、痛む
- 乳頭から分泌物が出る(特に血が混じったもの)
子供の症状
- 小児期に乳房のくぼみが見られることはまれです。多くは成長にともなう左右差や、乳腺の炎症によるものです。
- 思春期には乳房が発達する途中で、一時的にしこりや痛みを感じることがありますが、皮膚のくぼみが続く場合は診察を受けましょう。
- 小児でも、乳房の痛みや腫れ、発熱がある場合は早めに小児科やかかりつけ医に相談してください。
高齢者の症状
- 加齢にともない乳房の組織がやわらかくなり、皮膚のたるみや形の変化で、くぼみのように見えることがあります。
- 乳房の手術や放射線治療を受けたことがある方は、治療の影響で皮膚がひきつれることがあります。
- 閉経後の方では、新しく現れたくぼみやしこりは、特に注意して検査を受けることが大切です。
原因
主な原因
- 乳房を支える線維の組織(クーパー靭帯)が、加齢や体重の変化で引きつれることによる、心配のいらない変化
- けがや手術のあとにできる脂肪の変化(脂肪壊死)により、皮膚がひきつれる
- 乳腺の炎症(乳腺炎)や、膿がたまる状態(膿瘍)による腫れとひきつれ
- 乳房の手術や放射線治療のあとの、皮膚や組織の変化
- 乳腺の中にできるしこりや、乳がんが組織を引き寄せることによる変化
リスク要因
- 40代以降の年齢(乳がんのリスクが上がります)
- 近い親族(母、姉妹、娘など)に乳がんや卵巣がんの経験がある
- 過去に乳房の手術や放射線治療を受けたことがある
- 長い期間の女性ホルモンの影響(初潮が早い、閉経が遅い、出産経験がないなど)
- 飲酒習慣がある、閉経後の肥満がある、運動習慣が少ない
- 授乳期の乳腺炎や、乳房へのけがの経験
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 新しく乳房のくぼみに気づいたとき(数日以内を目安に、乳腺外科や婦人科、かかりつけ医へ)
- 乳房のしこり、乳頭の陥没、血の混じった分泌物がある
- 乳房が赤く腫れて熱をもち、痛みや発熱がある
- くぼみが少しずつ深くなっている、範囲が広がっている
定期受診を予約すべき場合:
- 以前からある左右差や形の変化で、最近の変化がない場合でも、次の検診のときに相談する
- 授乳期の乳房の違和感が続くとき
- 乳房の手術や治療のあとの皮膚の変化が気になるとき
- 乳房の自己チェックで、いつもと違うと感じたとき
診断
まず医師が、いつから気づいたか、痛みやしこりの有無、体重の変化、手術や授乳の経験などを聞き、乳房を実際に触って診察します。そのうえで、必要に応じて画像検査や細胞・組織を調べる検査を行い、原因を確かめます。多くの場合、外来で短時間に検査を受けることができます。
行われる可能性のある検査
- 問診と触診(医師が乳房の状態を直接確かめます)
- マンモグラフィ(乳房のX線検査)
- 乳房超音波検査(エコー)
- 必要に応じてMRI検査
- 針を刺して細胞や組織を調べる検査(細胞診・組織診)
- 血液検査
診察で予想されること
検査は外来で行えるものがほとんどで、痛みは軽いことが多いです。結果が出るまでに数日から2週間ほどかかることがあります。検査の内容や結果の伝え方は医療機関によって異なるため、わからないことは遠慮なく医師や看護師に質問してください。
治療
治療は、くぼみの原因によってまったく変わります。心配のいらない変化であれば、経過を見ながら定期的に確認するだけでよいこともあります。炎症や感染が原因の場合は、その治療を行います。しこりや乳がんが疑われる場合は、より詳しい検査と、それに合わせた治療が行われます。
自宅でのセルフケア
- サイズの合った、締めつけの少ない下着をつけ、乳房を支える
- 乳房のけがを避け、強い圧迫を加えない
- 月に一度、鏡の前で乳房の形や皮膚の変化をチェックする習慣をつける
- 気になる変化は、日付とともにメモしておき、診察のときに伝える
- 自治体の乳がん検診の案内を確認し、決められた年齢になったら受診する
医療治療
原因に応じて、医師が治療の必要性を判断します。乳腺の炎症や感染が原因の場合は、安静や冷やすなどのケアに加えて、医師が必要と判断したときに薬による治療が行われます。膿がたまっている場合は、それを取り除く処置が必要になることがあります。しこりや乳がんが疑われる場合は、検査の結果に基づいて、手術・薬物療法・放射線治療などを組み合わせた治療が検討されます。治療の方針は、年齢や体の状態、本人の希望も含めて、医師とよく相談して決めていきます。
手術が検討される場合
しこりや乳がんが疑われる場合、あるいは膿がたまっている場合には、手術や処置が検討されます。手術が必要かどうかは、検査の結果と、担当医との話し合いで決まります。
この病気と共に生きる
乳房の変化が気になる時期は、つい何度も確認してしまいがちです。確認は月に一度の習慣にとどめ、それ以外の時間は、いつもの生活を楽しむようにしましょう。気になる症状や不安は、一人で抱え込まず、診察のときに医師や看護師に伝えることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 適度な運動を日常に取り入れる(ウォーキングなど無理のない範囲で)
- 飲酒は控えめにする
- 禁煙する、または受動喫煙を避ける
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない
- 乳房を強く圧迫する服装や習慣を避ける
食事と運動
厚生労働省などがすすめるバランスのよい食事(野菜・果物・魚・大豆製品などを取り入れた食事)と、無理のない範囲の運動習慣は、乳がんのリスクを下げる可能性があるとされています。閉経後の肥満はリスクと関連するため、体重管理も大切です。特別な食事法に頼らず、続けられる範囲で整えていきましょう。
精神的健康と心の健康
乳房の変化は、誰でも不安や恐怖を感じるものです。「もしかしたら」と考えてしまい、眠れない、気持ちが落ち着かないということもあります。これは自然な反応です。つらい気持ちが続くときは、かかりつけ医や看護師、地域の保健センター、公的な相談窓口に話してみてください。ひとりで抱え込まないことが、こころの健康を守る第一歩です。
予防
乳房のくぼみそのものを完全に防ぐ方法はありません。ただ、乳腺の炎症を早めに治療すること、乳房へのけがを避けること、そして乳がんのリスクを下げる生活(節酒・禁煙・適正体重・運動)を心がけることは、乳房の健康を守ることにつながります。また、変化に早く気づいて相談すること自体が、安心と早期発見につながります。
ワクチン
乳房のくぼみを防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
日本では、厚生労働省の指針にもとづき、40歳以上の女性を対象に、2年に1回のマンモグラフィによる乳がん検診が行われています。対象年齢や受診方法はお住まいの市区町村によって異なるため、届いた検診の案内をご確認ください。家族歴などがある場合は、医師に相談のうえで、より早い年齢から検査を行うことがあります。
合併症
治療しない場合
- 乳腺の炎症や感染が広がり、膿がたまる状態になることがある
- 乳がんであった場合、診断が遅れることで治療の選択肢が狭まることがある
- 皮膚のひきつれや乳頭の陥没が進み、見た目の変化や痛みが強くなることがある
- 不安が続くことで、睡眠や日常生活に影響が出ることがある
長期的な見通し
乳房のくぼみの原因の多くは、命に関わらない変化です。また、乳がんであったとしても、早期に見つけて適切な治療を受けることで、多くの方が治療を続けながら前向きに生活されています。気になる変化に気づいた今が、相談を始めるよいタイミングです。
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最終更新: 2026年11月3日
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