慢性の痛み(慢性疼痛)
概要
慢性の痛み(慢性疼痛)とは、けがや病気が治るのに必要な普通の期間(およそ3か月)を過ぎても痛みが続く状態をいいます。最初はケガや病気が原因でも、痛みが長く続くうちに、神経や脳のしくみが変化して「痛みそのもの」が続いてしまうことがあります。つまり、体のどこかに今も新しい傷があるとは限らないのに、痛みを感じ続けてしまう状態です。これは気のせいでも、我慢が足りないのでもありません。
重要な事実
- 痛みが3か月以上続く場合は「慢性の痛み」と考えられます。治療の目標は、痛みをゼロにすることだけでなく、生活の質をできるだけ良くすることです。
- 痛みが長引くと、眠れない、疲れやすい、気分が落ち込む、体を動かすのが怖くなるといった悪循環が起こりやすくなります。この悪循環を断つことが治療の大切なポイントです。
- 慢性の痛みは、一人で我慢するより、かかりつけ医と相談しながら、体の動き・睡眠・気分・生活のリズムを少しずつ整えていくことで改善が期待できます。
慢性の痛みは決して珍しいものではなく、日本でも多くの人が悩んでいます。腰や肩、頭、関節などの痛みが長引いている人は少なくありません。世界的にも、慢性の痛みは生活の質を下げる大きな原因のひとつとして重視されています。
年齢を問わず起こります。高齢者に多い印象がありますが、働き盛りの大人や、子ども・思春期の人にもみられます。女性にやや多いといわれ、長時間の同じ姿勢の仕事、睡眠不足、強いストレス、不安や気分の落ち込みがあると長引きやすい傾向があります。
症状
- 突然の激しい胸の痛み、胸を締めつけられる感じ、冷や汗(心臓や血管の病気の可能性)
- 意識がもうろうとする、会話がかみ合わない、けいれん
- ろれつが回らない、顔や手足の片側が動かない、突然の激しい頭痛(脳卒中の可能性)
- 呼吸が苦しい、息ができない
- 大きなケガ、骨折が疑われる変形、止まらない出血
- 自分で動けないほどの急な激痛
- ⚠発熱を伴う強い痛み、患部が赤く腫れて熱を持つ
- ⚠急に歩けない、脚の力が入らない
- ⚠尿や便が漏れる、排尿できない、おしりや脚のしびれ(脊髄の異常の可能性)
- ⚠けがや病気のあとから、痛みがどんどん強くなっている
- ⚠原因不明の体重減少や長引く微熱とともに痛みがある
一般的な症状
- 3か月以上続く痛み(腰、肩、首、頭、関節、手足など)
- ズキズキする、焼けるような、しびれる、電気が走るような、締めつけられるような痛み
- 触られるだけで痛い、服が肌に当たるとつらい(アロディニアと呼ばれることがあります)
- 天気や気温、疲れ、ストレスで痛みが強くなったり弱くなったりする
- よく眠れない、朝起きても疲れが取れない
- 体を動かすのが怖い、動くと痛むので活動量が減る
- 疲れやすい、集中しにくい、気分が落ち込む、イライラする
- 「どこが悪いのか説明しにくい痛み」が続く
子供の症状
- 頭痛、おなかの痛み、脚の痛みなどを繰り返し訴える
- 痛みのために学校を休みがちになる、体育を嫌がる
- 痛みを言葉で説明するのが難しく、不機嫌・泣く・甘えるといった形で表れることがある
- ストレスや生活リズムの乱れと関係することがある
- 保護者が「大げさ」「仮病」と決めつけず、まず医療機関に相談することが大切です
高齢者の症状
- 膝や腰など複数の場所に痛みが出やすい
- 痛みのため動かなくなり、筋力が落ちて転びやすくなる
- 痛みを「年のせい」と我慢してしまい、相談が遅れがやすい
- 他の病気の治療薬を飲んでいることが多く、薬の組み合わせに注意が必要
- 認知症がある場合は痛みをうまく伝えられないことがあり、表情や動きの変化が手がかりになります
原因
主な原因
- 神経の損傷や圧迫(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、糖尿病による神経障害など)
- 関節や筋肉、腱の慢性的な炎症やこわばり(変形性関節症、肩こり、筋膜性の痛みなど)
- 手術やケガのあとに続く痛み
- 帯状疱疹のあとに残る神経の痛み(帯状疱疹後神経痛)
- 片頭痛など慢性的な頭痛
- 内臓の病気による痛み(腹痛、骨盤内の痛みなど)
- はっきりした原因が見つからない痛み(脳や神経が痛みに敏感になっている状態と考えられています)
リスク要因
- 痛みが長引くこと自体(痛みが続くほど、神経が痛みに敏感になりやすい)
- 強い不安、ストレス、気分の落ち込み
- 睡眠不足や生活リズムの乱れ
- 運動不足、長時間の同じ姿勢、体力の低下
- 喫煙、肥満
- 仕事や家庭での心理的な負担、つらい体験
- まわりの人に痛みを理解してもらえないこと
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の激しい痛みや、今までにない痛みが急に出たとき
- 発熱、赤み、腫れ、熱感を伴う痛み
- 手足の力が急に入らない、しびれが広がる、排尿・排便の異常がある
- 痛みで眠れない、食事がとれない、日常生活が保てない
- 気分の落ち込みが強く、自分を傷つけたい気持ちがわいたとき(すぐに医療機関や相談窓口、救急に連絡してください)
定期受診を予約すべき場合:
- 痛みが3か月以上続いている、または何度も繰り返している
- 痛みのため仕事・家事・学校生活に支障が出ている
- 市販の痛み止めを何度も使うようになった、量が増えている
- 眠れない、疲れやすい、気分が落ち込むなど、痛み以外の不調も続いている
- 痛みの場所や性質が少しずつ変わってきた
診断
慢性の痛みの診断は、まずていねいな問診から始まります。痛みがいつ始まったか、どんな感じか、どんなときに強くなるか、睡眠や気分、仕事や家庭での状況、これまでの治療などを聞き、体の診察を行います。必要に応じて、別の病気が隠れていないかを確認するための検査が行われます。はっきりした原因が見つからない場合でも、痛みは本当に存在します。そこを理解してもらえることが、治療の第一歩になります。
行われる可能性のある検査
- 問診と痛みの記録(痛み日記)の確認
- 診察(痛む場所を動かす、触れる、神経の働きをみるなど)
- 血液検査(炎症や糖尿病などの確認)
- レントゲン検査
- 必要に応じてMRI・CT・超音波検査
- 神経の伝わり方を調べる検査(しびれや神経障害が疑われる場合)
- 睡眠や気分の状態を確認する質問票
診察で予想されること
検査で異常が見つからないことも少なくありません。それは「痛みがない」という意味ではなく、画像に映りにくい痛みのしくみが関係しているためです。診断は一度で決まらず、治療を試しながら少しずつ整理されていきます。痛みの記録をつけて持参すると、話がスムーズになります。
治療
慢性の痛みの治療は、「痛みを完全になくす」ことだけでなく、「痛みがあっても暮らしやすくする」ことを目標にします。体の治療、リハビリ、気分や睡眠への支援、生活の調整を組み合わせる「チームでの治療」が効果的とされています。少しずつ段階を踏むことが大切で、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長い目で進めていきます。
自宅でのセルフケア
- 痛み日記をつける(時間帯、強さ、きっかけ、その日の活動と睡眠)
- 活動と休憩を細かく分ける(「がんばりすぎて休む」の繰り返しを避ける)
- 無理のない範囲で、毎日少しずつ体を動かす(散歩、ストレッチなど)
- 温める・冷やすなど、自分に合う方法を見つける
- 睡眠のリズムを整える(決まった時間に起きる、寝る前のスマホを控える)
- ゆっくりした呼吸や、体の力を抜く練習を取り入れる
- 痛みについて考え続ける時間を減らす工夫(趣味、人との会話、気晴らし)
- 市販の痛み止めの使いすぎに注意し、使う前に薬剤師や医師に相談する
医療治療
治療は組み合わせて行われます。痛みの薬(神経の痛みに使われる種類の薬など)は、医師が体の状態や他の薬との組み合わせをみながら判断します。薬だけでなく、リハビリ(理学療法・作業療法)で筋力や動きを整えること、神経ブロックなどの処置、痛みにどう向き合うかを学ぶ心理的な支援(認知行動療法など)、睡眠や気分への支援も重要です。複数の分野が関わる「集学的 pain 治療」を行う医療機関もあります。薬の名前や量はここではお伝えできませんので、必ず医師・薬剤師にご相談ください。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、ヘルニアや脊柱管狭窄症など、痛みの原因となるはっきりした病気があり、保存的な治療で改善しない場合などに限られます。慢性の痛みでは、原因が特定しにくいことが多く、手術で必ず良くなるとは限りません。手術の適応は専門医とよく相談して決めましょう。
この病気と共に生きる
痛みがある日と楽な日があることを前提に、「その日の状態に合わせて予定を調整する」ことが大切です。調子が良い日に頑張りすぎると、翌日つらくなる「ふりこ」のような状態になりやすいので、こまめな休憩と優先順位づけを心がけましょう。痛みが強い日は、自分を責めずに「今日は休む日」と決めることも大切な対処法です。
生活習慣のアドバイス
- 起床・食事・就寝の時間をできるだけ一定にする
- 長時間の同じ姿勢を避け、30〜60分ごとに少し立ち上がる・伸びをする
- 仕事や家事の負担を家族や同僚に相談し、分担する
- 喫煙を控える(血流や神経に影響します)
- アルコールは睡眠の質を下げることがあるため量と時間に注意
- ストレスをためないように、話せる相手やリラックスの方法を持つ
食事と運動
特別な食事で慢性の痛みが治るという確かな方法はありませんが、バランスの良い食事、適正体重の維持、減塩は血管と神経の健康に役立ちます。運動は「痛みが増すのでは」と不安になりがちですが、無理のない範囲で続けることが、痛みに敏感になっている体を和らげる助けになります。まずは散歩や軽いストレッチから、翌日に響かない程度の量で始め、少しずつ増やしていきましょう。始める前に医師やリハビリ担当者に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
痛みが続くと、眠れない、集中できない、イライラする、気分が落ち込む、将来が不安になるといった変化が起こりやすくなります。これは弱さではなく、痛みとストレスが体と心に与える自然な反応です。気分の落ち込みが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口、緊急時は救急(119)に連絡してください。心の支援は、痛みの治療の大切な一部です。
予防
慢性の痛みを完全に防ぐことは難しいですが、長引かせない工夫はできます。けがや病気のあと、痛みがあってもできるだけ体を動かし続けること、早めに医療機関に相談すること、睡眠やストレスを整えることが、痛みの慢性化を防ぐ助けになると考えられています。
ワクチン
帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、治ったあとに長く続く神経の痛み(帯状疱疹後神経痛)の原因になります。帯状疱疹にはワクチンがあり、リスクを下げられる可能性があります。接種を希望する場合は、年齢や体の状態を含めてかかりつけ医にご相談ください。
検診プログラム
慢性の痛みそのものをみつける検査はありません。ただし、糖尿病や骨の病気など、痛みの原因になる病気の健診は、地域の健診制度を活用して定期的に受けることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 睡眠の質が下がり、疲れが取れない状態が続く
- 気分の落ち込みや不安が強くなり、日常生活がつらくなる
- 動かないことで筋力が落ち、動くのがさらに怖くなる(悪循環)
- 仕事・家事・学業が難しくなり、収入や生活に影響が出る
- 人とのつながりが減り、孤立感が強まる
- 痛み止めの使いすぎによる体の不調
長期的な見通し
慢性の痛みは、すぐに消えるものではないかもしれません。しかし、治療の目標は「痛みゼロ」だけではありません。眠れるようになる、少し歩けるようになる、家族と笑える時間が増える——そうした変化は十分に期待できます。痛みと上手に付き合いながら、生活の質を取り戻していくことは可能です。あきらめずに、かかりつけ医と一緒に少しずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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