空嘔吐(からえずき)
概要
空嘔吐(からえずき)は、胃の中に何も出てこないのに、吐くときのような動きや「オエッ」という苦しい感覚だけが起きることをいいます。英語では「ドライヒービング」と呼ばれます。吐くときには、お腹と胸の筋肉がぎゅっと縮んで、胃の中身を押し出そうとします。空嘔吐では、その筋肉の動きだけが起きて、実際には何も出てこない、という状態です。体が「吐いたほうがいい」と判断しているサインのことが多く、原因は胃腸の病気からストレス、乗り物酔いまでとても幅広いのが特徴です。
重要な事実
- 空嘔吐は「病気の名前」ではなく、体が発するサインのひとつです。原因を探すことが大切です。
- 多くの場合は一時的で自然に落ち着きますが、水分がとれない状態が続くと脱水になることがあります。
- 何度も繰り返す、長引く、体重が減るといったときは、一度医療機関で相談してみましょう。
とてもよくある症状です。胃腸炎にかかったとき、乗り物に酔ったとき、妊娠中、強いストレスを感じたときなど、多くの人が一度は経験します。ほとんどの場合は短時間で落ち着き、特別な治療が必要ないことも少なくありません。
子どもから高齢者まで、どの年代でも起こります。特に、胃腸炎にかかった方、乗り物に酔いやすい方、妊娠中の方、ストレスや不安が強い方、胃の調子が悪い方によくみられます。小さな子どもと高齢者は脱水になりやすいので、少し注意が必要です。
症状
- 激しい腹痛がある、お腹が硬く張っている
- 吐いたものに血が混じる、コーヒー色のものが出る
- 意識がぼんやりする、呼びかけへの返事がおかしい、ぐったりしている
- けいれんが起きた
- 頭を打った後や、突然の激しい頭痛、首の硬さがある
- 胸の痛みや息苦しさがある
- 水分がまったくとれず、尿がほとんど出ていない(特に子ども・高齢者)
- アナフィラキシーを疑う症状(唇やまぶたの腫れ、じんましん、息が苦しい)がある
- ⚠12〜24時間以上、水分がほとんどとれない
- ⚠8時間以上おしっこが出ていない
- ⚠38度以上の熱が続いている
- ⚠嘔吐や空嘔吐を繰り返し、体重が減ってきた
- ⚠妊娠の可能性があり、水分がとれないほど気持ち悪い
- ⚠吐き気が2週間以上続いている
- ⚠薬を飲み始めてから症状が出た
一般的な症状
- 吐くものが出ないのに、えずく動きが繰り返し起きる
- みぞおちや喉の奥にむかつき、不快感がある
- 唾液が増える、口の中が気持ち悪い感じがする
- 冷や汗が出る、顔色が悪くなる
- だるさ、めまい、立ちくらみ
- 食欲が落ちる、においに敏感になる
- げっぷが出る、お腹が張る
子供の症状
- 機嫌が悪い、泣いても涙が出にくい
- 口の中や唇が乾いている
- おしっこの量が減る、おむつがいつもより軽い
- ぐったりしている、反応がぼんやりしている
- よだれが多くなる、飲み込みづらそうにする
- 子どもは体が小さいため、脱水が進むのが大人より早いことがあります
高齢者の症状
- 喉の渇きを感じにくく、脱水に気づきにくい
- 症状がはっきりせず、なんとなく元気がないだけに見えることがある
- 飲んでいる薬の影響で吐き気が出ることがある
- 吐いたものが気管に入ってしまう(誤嚥=ごえん)心配がある
- 持病があると、症状が重くなりやすい
原因
主な原因
- 胃腸炎(ウイルスや細菌による胃腸のかぜ)
- 食あたり(傷んだ食べ物による食中毒)
- 乗り物酔い
- 妊娠初期のつわり
- 胃酸が食道に逆流する病気(逆流性食道炎)
- 胃の動きが鈍くなる状態(胃不全麻痺=いふぜんまひ)
- 強いストレスや不安、緊張
- 薬の副作用
- お酒の飲みすぎ
- めまいの病気(メニエール病など)
- 腸が詰まる病気(イレウス)
- 激しい咳が続くことによる刺激
- まれですが、脳の病気が隠れていることもあります
リスク要因
- 子ども、または高齢者であること
- 妊娠中であること
- 乗り物酔いしやすい体質
- ストレスが多い、不安が強い
- 胃腸の病気にかかったことがある
- 複数の薬を飲んでいる
- 食べすぎ、飲みすぎ、早食いの習慣
- 睡眠不足や疲れがたまっている
- 食中毒が起こりやすい時期(夏場など)に、生ものや加熱不足の食事をとった
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 水分がとれず、ぐったりしている
- 尿が長時間出ていない、口の中がとても乾いている
- 激しい腹痛、血が混じった吐しゃ物
- 意識がはっきりしない、会話がかみ合わない
- 高熱と首の硬さが同時にある
定期受診を予約すべき場合:
- 空嘔吐が1週間以上続く、または何度も繰り返す
- 食事がとれず体重が減ってきた
- 仕事や学校、日常生活に支障が出ている
- 妊娠の可能性があり、つわりがつらい
- 新しい薬を飲み始めてから症状が出た
- 胸やけや胃の痛みなど、ほかの症状もある
診断
診断はまず問診から始まります。「いつから」「どんなときに」「どのくらいの頻度で」起きるのか、ほかに症状はないか、飲んでいる薬、妊娠の可能性などを医師が丁寧に確認します。そのうえでお腹を触って診察し、必要に応じて検査をします。多くの場合、問診と診察だけで原因の見当がつきます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(脱水や炎症、電解質のバランスを調べる)
- 尿検査(脱水や感染、腎臓の状態を調べる)
- 妊娠検査
- 腹部エコー(超音波)検査
- 腹部レントゲンやCT検査(腸の詰まりなどを見る)
- 胃カメラ検査(胃や食道の状態を見る)
- 心電図(胸の症状があるとき)
診察で予想されること
検査は一度にすべて行うわけではありません。症状や診察の結果から必要なものだけを選びます。採血や尿検査は数分で終わることが多く、結果も比較的早く出ます。画像検査は予約や待ち時間がかかることがあります。家に帰ってから症状の経過をメモしておくと、次の受診のときに役立ちます。
治療
空嘔吐そのものを止めるというより、原因に合わせて対応することが基本です。脱水を防ぐための水分補給と休養が土台になり、胃腸炎なら自然に治るのを待つ、逆流性食道炎なら生活の工夫と治療を行う、といった具合に、原因ごとに方針が変わります。
自宅でのセルフケア
- 水分は一度にたくさんではなく、小さなコップ1杯を少しずつ、こまめにとる
- 経口補水液(水と塩分・糖分のバランスを整えた飲み物)が役立つことがあります
- 冷たいもの、炭酸の強いもの、脂っこいもの、においの強い食べ物は控えめに
- 食べられるようになったら、おかゆやスープなど消化のよいものを少量ずつ
- 安静にして横になる。吐き気が強いときは横向きにすると安心です
- ベルトや服をゆるめる、部屋の空気を入れ替える、窓を開けて風に当たる
- 乗り物では進行方向を向き、景色の遠くを見る。読書やスマホは控えめに
- 症状が起きた時間や回数、食べたものをメモしておく
医療治療
医療機関では、まず脱水の程度を確認し、必要な場合は点滴で水分と塩分を補います。吐き気をやわらげるお薬を使うこともありますが、原因や体の状態によって判断が分かれるため、自己判断で市販薬を重ねて使うのは避け、医師や薬剤師に相談してください。胃酸の逆流や胃の動きの低下など、原因が見つかった場合は、それに応じた治療を行います。妊娠中の方は、産婦人科の先生と相談しながら進めることが大切です。
手術が検討される場合
空嘔吐のほとんどは手術を必要としません。ただし、腸の詰まりやヘルニアなど、手術で治す必要がある原因が見つかった場合は、外科的な治療が検討されます。
この病気と共に生きる
症状があるときは無理をせず、その日の予定を軽くするのがおすすめです。水分をこまめにとり、食べられるものを少しずつ。症状が落ち着いても、いきなり油っこいものやお酒に戻さず、数日かけて少しずつ元の食事に戻していくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 食事はゆっくり、よく噛んで、腹八分目を心がける
- 食後すぐに横にならず、2〜3時間は上体を起こしておく
- 寝るときは頭側を少し高くすると、胃酸の逆流が起きにくくなります
- アルコールとカフェインは控えめに
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない
- ストレスをためず、自分なりの息抜きの時間をつくる
- 乗り物に乗る前は、軽めの食事にして、空腹や満腹を避ける
食事と運動
胃の調子が悪いときは、消化のよいものを少量ずつが基本です。おかゆ、うどん、スープ、豆腐、やわらかく煮た野菜などが食べやすいでしょう。症状が落ち着いてきたら、ウォーキングなど軽い運動から再開すると、胃腸の動きも整いやすくなります。ただし、食後すぐの激しい運動は避け、体調に合わせて無理のない範囲で行いましょう。
精神的健康と心の健康
空嘔吐が続くと、「また起きたらどうしよう」という不安が出てきたり、外出や食事がこわくなったりすることがあります。ストレスや緊張そのものが吐き気を招くこともあり、心と体は深くつながっています。つらい気持ちが続くときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や地域の相談窓口、信頼できる人に話してみてください。気持ちがとても追い詰められていると感じたら、ためらわず医療機関や相談窓口に連絡してください。緊急の場合は119番に電話してください。
予防
原因によって変わります。胃腸炎や食あたりが原因なら手洗いと食事の衛生管理で予防できます。乗り物酔いなら事前の対策が効果的です。ストレスが関係している場合は、睡眠や息抜きの習慣づくりが助けになります。すべてを防ぐことはできませんが、できる工夫はたくさんあります。
ワクチン
胃腸炎の原因のひとつであるロタウイルスには、乳幼児向けのワクチンがあり、日本では定期接種の対象になっています。また、ノロウイルスにはワクチンがありません。接種の時期や対象については、かかりつけ医や自治体の案内をご確認ください。
検診プログラム
空嘔吐そのものに決まったスクリーニング検査はありません。ただし、症状が長引く場合は、胃や食道の状態を調べる検査が勧められることがあります。気になる症状があれば、健診のときも含めて医師に伝えましょう。
合併症
治療しない場合
- 脱水(体の水分が足りなくなること)
- 電解質のバランスの乱れ(ナトリウムやカリウムなどの調整が崩れること)
- 栄養不足や体重減少
- 高齢者の場合、吐いたものが気管に入る誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
- 食道や歯への負担、口の中のトラブル
- 眠れない、外出がこわくなるなど、生活の質の低下
長期的な見通し
空嘔吐の多くは一時的なもので、原因がわかれば適切に対応できます。脱水に気をつけて水分をとり、必要なら早めに医療機関に相談することが、安心への近道です。長引く場合でも、検査で原因を確かめながら一つずつ対処していくことで、多くの方は症状が落ち着いていきます。心配なことがあれば、ひとりで悩まずに相談してください。
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最終更新: 2026年11月3日
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