顔のまひ(顔面下垂)— 左右の違いに気づいたら
概要
「顔のまひ(顔面下垂)」は、顔の片側の筋肉がうまく動かせなくなり、口元やほお、まぶたが下がって見える状態です。鏡を見たときに「片側だけ笑えない」「口元が下がっている」と気づくことが多いです。顔のまひは「症状」の名前で、その背景にはいくつかの原因があります。いちばん大切なのは、突然おきた顔のまひは脳卒中のサインかもしれない、ということです。
重要な事実
- 突然(数秒〜数分で)片側の顔が動かなくなったら、ほかに症状がなくてもすぐに119番。脳卒中の治療は時間との勝負です。
- 顔のまひの原因として多いのは「ベル麻痺(ベルまひ)」。顔の神経(顔面神経)が炎症を起こして、片側が動きにくくなるものです。
- ベル麻痺の多くは数週間〜数か月で良くなりますが、目を守るケアなど早めの対応が大切です。
顔のまひは決してめずらしい症状ではありません。ベル麻痺は1年間に人口10万人あたり数十人程度に起こるといわれ、外来でよく出会う病気のひとつです。ただし脳卒中によるまひもあるため、「よくあるから大丈夫」と決めつけないことが大切です。
ベル麻痺は年齢を問わず起こりますが、30〜50代に多く、妊娠中の方や糖尿病のある方にもやや多くみられます。脳卒中によるまひは高齢者に多いものの、若い人でも起こります。子どもでは比較的まれです。
症状
- 突然(数秒〜数分)に片側の顔が下がった、動かない
- 顔のまひに、片側の手足の脱力やしびれ、ろれつの回りにくさ、言葉が出ない、視界の異常、めまい、激しい頭痛のいずれかが伴う
- 立てない、歩けない、意識がもうろうとしている
- けいれんがある、呼吸が苦しい
- ⚠まひが数日かけてゆっくり強くなってくる
- ⚠発熱や耳の強い痛み、耳だれを伴う
- ⚠まぶたが閉じられず、目が痛い・赤い・見えにくい
- ⚠顔に赤い発疹や水ぶくれが出てきた
一般的な症状
- 片側の口元が下がる、笑っても片側だけしか上がらない
- 片側のまぶたが閉じにくい、閉じても隙間ができる
- 目が乾く、涙がよく出る、まぶしく感じる
- ほおをふくらませにくく、食べ物や飲み物が片側からこぼれる
- 片側の鼻のしわや額のしわが消える
- 口の動きのせいで、言葉が少し聞き取りにくくなる
- 耳の後ろや耳のあたりの痛み(ベル麻痺でよくある)
- 味がわかりにくい、音がいつもより大きく聞こえる
子供の症状
- 子どもでは顔のまひはあまり多くありません
- かぜなどのウイルス感染や耳の感染症が関係することがあります
- 生まれつき顔の神経の発達に特徴がある場合もあります
- 子どものまひは、必ず小児科などで診てもらいましょう
高齢者の症状
- 高齢者の顔のまひでは、まず脳卒中を考える必要があります
- 手足の力の入りにくさ、ろれつの回りにくさ、物が見えにくいといった症状が少しでもあれば、すぐに119番
- 目のふちのたるみで涙が出やすい、まぶたが閉じにくいなどの変化も出やすくなります
- 薬を複数使っている場合は、かかりつけ医に相談しましょう
原因
主な原因
- ベル麻痺(原因ははっきりしないが、ウイルスによる神経の炎症が考えられています)
- 脳卒中(脳の血管が詰まる、または破れる)— 命に関わることがあります
- 帯状疱疹ウイルスによる顔面神経の炎症(耳の痛みや水ぶくれを伴うことがあります)
- 耳の感染症(中耳炎など)や顔のけが
- まれに腫瘍や免疫の病気、糖尿病による神経の障害
リスク要因
- 高血圧、脂質異常、喫煙(脳卒中のリスク)
- かぜやウイルス感染のあと
- 強いストレス、疲労、睡眠不足
- 帯状疱疹にかかったことがある
- 家族にベル麻痺の人がいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の顔のまひ、または手足の麻痺や言葉の出にくさがある → すぐに119番
- まぶたが閉じられず目が痛い、赤い、見えにくい → その日のうちに受診
- 耳の強い痛み、耳だれ、発熱がある → その日のうちに受診
- 顔に水ぶくれや発疹が出てきた → その日のうちに受診
定期受診を予約すべき場合:
- 以前から顔の動きが左右で違う、疲れると目立つ
- まひは良くなってきているが、目の渇きや閉じにくさが続く
- まひのあと、顔がこわばる、動かすと一緒に別の場所が動くなどの変化がある
- 食べこぼしや話しにくさが続き、生活で困っている
診断
問診と診察で、いつから始まったか、突然か、手足や言葉の症状はないか、耳の痛みや発疹はないかを確認します。眉を上げる、目を強く閉じる、口をとがらせる、笑うなど、顔の動きをいくつか試してもらいます。脳卒中が疑われるときは、画像検査を急いで行います。
行われる可能性のある検査
- 血圧・脈の測定、血液検査
- 頭のCTやMRI(脳卒中かどうかの確認)
- 耳の診察、聴力検査
- 顔面神経の働きを調べる検査(電気刺激など)
- 目の状態の診察(乾燥や傷がないか)
- 必要に応じてウイルスなどの検査
診察で予想されること
多くの場合は診察で見当がつきますが、脳卒中を除外するために画像検査を行うことがあります。結果が出るまで数十分から数時間かかることがあります。診断名がつくまでは不安だと思いますが、目の保護などのケアは診断前から始められます。
治療
治療は原因によって変わります。脳卒中が疑われる場合は、できるだけ早く専門の病院で治療を受けることが最も大切です。ベル麻痺では、炎症を抑える治療やウイルスに対する治療が検討されることがあり、発症から早い時期に始めるほど効果が期待できるといわれています。あわせて、目を守るケアと顔のリハビリを行います。
自宅でのセルフケア
- 目を乾燥から守る:医師の指示に従って目薬を使い、外出時は保護メガネや眼帯、寝るときはテープでまぶたを閉じる工夫を
- 顔を清潔に保ち、保湿する
- 食事は片側にためないように、小さめに切る、飲み込みやすいものを選ぶ
- 鏡を見ながら、ゆっくり大きく顔を動かす練習を少しずつ
- 疲れをためず、睡眠をしっかりとる
- 人と話すときは口元が見えるように、ゆっくり話す
医療治療
医師は、原因に応じて炎症を抑える薬やウイルスの増殖を抑える薬、痛みを和らげる薬などを用いることがあります。薬の種類や使い方は医師の判断によりますので、自己判断で市販薬を使ったり、処方された薬を中断したりせず、必ず医師・薬剤師に相談してください。脳卒中の場合は、血栓を溶かす治療や血管の治療など専門的な急性期治療が行われます。目の乾燥を防ぐための目薬や、必要に応じたリハビリも行われます。
手術が検討される場合
多くの場合、手術は必要ありません。ただし腫瘍など別の原因が見つかった場合や、長くまひが残って顔のこわばりが強い場合に、専門医が手術などの適応を検討することがあります。
この病気と共に生きる
顔のまひがあると、食事、会話、目を閉じることなど、毎日のあたりまえのことが難しくなります。一度に全部を変えようとせず、目を守ること、食べこぼしを減らす工夫、無理のない範囲での顔の運動を、少しずつ続けることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 血圧・血糖・コレステロールを管理する
- 禁煙し、お酒はほどほどに
- 睡眠と休息を十分にとる
- ストレスを一人で抱えず、話せる相手を持つ
- 目を酷使するときはこまめに休む
- 定期的にかかりつけ医で体調を確認する
食事と運動
食事は、片側に食べ物がたまらないように小さく切って、よくかんで食べましょう。塩分を控えめにして、野菜・果物・魚などをバランスよくとることが脳卒中の予防にもつながります。運動は医師に相談しながら、ウォーキングなど無理のない範囲で。顔の運動は鏡を見ながら、1日数回・少しずつ行うとよいといわれています。
精神的健康と心の健康
顔の見た目が変わることは、思っている以上にこころにこたえます。「人に会いたくない」「笑顔を見られたくない」と感じるのは自然なことです。落ち込みや不安が2週間以上続く、眠れない、涙が出るといったときは、がまんせずに医師や相談窓口に話してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。
予防
すべての顔のまひは防げませんが、脳卒中によるまひは生活習慣の管理でリスクを下げられます。ウイルス感染によるものは、手洗いや休養といった基本的な感染対策が役立ちます。
ワクチン
帯状疱疹による顔面神経のまひを防ぐ可能性があるものとして、帯状疱疹のワクチンがあります。接種を検討する場合は、かかりつけ医に相談してください(費用や対象年齢は地域や医療機関によって異なります)。
検診プログラム
血圧・血糖・脂質の定期的なチェックが、脳卒中の予防と早期発見につながります。健診の案内は自治体や勤務先の情報を確認してみましょう。
合併症
治療しない場合
- 目が乾いて角膜(黒目の表面)が傷つき、視力に影響することがある
- まひが残る、顔がこわばる、動かすと一緒に別の場所が動く(連合運動)
- 味覚の変化、音が大きく聞こえる
- 食事や会話のしにくさから、外出や人づきあいが減る
- こころの不調(落ち込み、不安)
- 脳卒中の場合は、治療が遅れると命に関わることがある
長期的な見通し
ベル麻痺の多くは、数週間から数か月のうちに大きく良くなります。早めに受診して治療を始めること、目を守ることが回復を助けます。一部の方にまひやこわばりが残ることもありますが、リハビリや生活の工夫で過ごしやすくなります。あせらず、医師と一緒に進んでいきましょう。脳卒中の場合は、できるだけ早く治療を受けることが何より大切です。
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最終更新: 2026年11月3日
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