QSART(発汗神経反射検査)とは ― 小さな神経の働きを調べる検査
概要
QSART(キューサート)は「量的軸索反射性発汗検査」とも呼ばれる検査で、汗を出すように指令を出す「小さな神経(細い神経線維)」が正しく働いているかを調べるものです。人の神経には、筋肉を動かす太い神経のほかに、痛みや温度を感じたり、汗や血圧・心臓の動きを自動で調整したりする細い神経があります。この細い神経は体の表面近くまで張り巡らされているため、ふつうの神経伝導検査(太い神経を調べる検査)では異常が見つかりにくいことがあります。QSARTは、皮膚にごく弱い電気で汗を出させる薬(アセチルコリンという体内にもある物質)をしみ込ませ、その部分がどれだけ汗をかいたかを測ります。汗の量は細い神経のはたらきを映す「鏡」のようなものなので、手足の焼けるような痛みやしびれ、汗のかき方の異常などの原因を探る手がかりになります。
重要な事実
- 腕と脚の数か所(通常4か所)に小さな装置を貼り、汗の量を時間を追って測る検査です。採血のような針は使いません。
- 検査時間は準備を含めておよそ40〜60分です。検査中はベッドに横になり、ほとんど痛みはありません。
- この検査は「病気そのもの」を診断するものではなく、細い神経のはたらきが低下しているかどうかを知るための情報のひとつです。結果は必ず問診や他の検査と合わせて総合的に判断されます。
特殊な検査のため、どこの病院でも受けられるわけではありません。手足のしびれや痛みの原因がはっきりしないとき、糖尿病などで神経の障害が疑われるとき、あるいは汗の異常や立ちくらみの原因を調べたいときに、神経内科や一部の大学病院・専門外来で行われることがあります。必要かどうかは主治医が症状や経過をみて判断します。
手足の先の焼けるような痛み・しびれがある人、汗を異常にかく(またはほとんどかかない)人、立ち上がると気分が悪くなる人、糖尿病や血糖値の境界域を指摘されたことがある人などが対象になります。小児ではまれですが、遺伝性の神経の病気が疑われる場合に行われることがあります。高齢者では糖尿病や加齢に伴う神経の変化が背景にあることが少なくありません。
症状
- 突然の手足の麻痺、ろれつが回らない、顔の片側が動かない(脳卒中のサインの可能性)— ためらわず119番へ
- 呼吸が苦しい、息ができない、意識がもうろうとしている
- けいれんが起きた、意識を失った
- 激しい胸の痛み、冷や汗、脈が非常に速い・乱れている
- 暑い場所で汗が出ず、体温が異常に高く、意識がぼんやりしている(熱中症の重症例の可能性)
- ⚠しびれや痛みが数日以内に急に広がってきた
- ⚠足にできた傷が赤く腫れ、膿んでいる、熱をもっている
- ⚠歩けないほどの痛み、脚の力が入らない
- ⚠急に尿が出にくくなった、トイレの回数が極端に増えた
- ⚠立ちくらみで転倒し、頭を打った
一般的な症状
- 足の裏や足の指先の焼けるような痛み、ピリピリしたしびれ、針で刺されるような感じ
- 手足の感覚が鈍く、熱い・冷たいがわかりにくい、小さな傷に気づかない
- 汗を異常にかく、反対にほとんど汗をかかない、暑いのに体が熱を逃がせない
- 立ち上がったときにふらつく、めまいがする、動悸がする(体の自動調整の乱れ)
- 皮膚が乾燥する、かかとがひび割れる、爪の変化
- 胃腸の動きが不安定(便秘と下痢を繰り返す)、食べたあとの気分不良
- 疲れやすい、眠りが浅い、理由のわからない痛みが続く
子供の症状
- 足が痛い・しびれると言うが、外から見て異常がない
- 運動会や体育のあとに足の痛みを強く訴える
- 汗をほとんどかかない、暑い日に体温が上がりやすい
- 歩き方がぎこちない、靴下の跡の感覚に敏感、または無頓着
- 検査は本人の協力が必要なため、説明を理解できる年齢かどうかで実施を検討します
高齢者の症状
- 加齢による変化と病気による変化の区別がつきにくく、痛みを「年のせい」と我慢してしまうことがあります
- 糖尿病のある方は、気づかないうちに足の感覚が鈍くなっていることがあります
- 足の傷ややけどに気づかず、感染につながることがあります
- 立ちくらみによる転倒のリスクが高まります
- 複数の持病や薬を併用している場合、検査の前に主治医へすべて伝えてください
原因
主な原因
- 糖尿病や血糖値の境界域(いわゆる予備群)による細い神経の障害
- ビタミンB12などの栄養不足、過度の飲酒
- 抗がん剤など、一部の治療薬の影響(主治医・薬剤師に確認できます)
- 甲状腺の病気、腎臓の病気、膠原病など全身の病気に伴う神経の障害
- 遺伝性の神経の病気(家族に似た症状がある場合)
- 原因が見つからない特発性のもの(決してまれではありません)
リスク要因
- 糖尿病、または血糖値が高めと指摘されたことがある
- 長期間の飲酒、偏った食事、胃の手術の既往
- 抗がん剤や一部の薬による治療歴
- 甲状腺機能低下症、腎不全、膠原病などの持病
- 家族に手足のしびれや神経の病気がある人がいる
- 加齢、長時間の立ち仕事や足への負担
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手足のしびれや麻痺が急に出現した、または急に悪化した
- 呼吸が苦しい、飲み込みにくい、声が出しにくい
- 足の傷が赤く腫れて膿んでいる、熱がある
- 立ちくらみで倒れた、意識が遠のいた
定期受診を予約すべき場合:
- 手足の先の焼けるような痛みやしびれが数週間以上続いている
- 汗のかき方が以前と変わった、暑さに耐えられなくなった
- 立ち上がると毎回ふらつく、動悸がする
- 足の感覚が鈍い気がする、小さな傷に気づかないことが増えた
- 家族に似た症状の人がいる、原因不明のしびれが続いている
診断
診断は検査だけで決まるものではありません。まず問診で、症状がいつから・どのあたりに・どんなふうに起きているかを伺い、感覚の検査(触った感じ、温度の感じ方、針の先の感じ方)、腱反射、血圧の変化などを確認します。そのうえで、血液検査や神経伝導検査などを行い、必要と判断された場合にQSARTが追加されます。複数の情報を組み合わせて、神経の状態を総合的に評価します。
行われる可能性のある検査
- 問診と診察(症状の経過、持病、飲んでいる薬、飲酒や食事の習慣の確認)
- 感覚検査(やわらかい毛や冷たいもの・温かいものに触れて感じ方を調べる)
- 神経伝導検査(太い神経の伝わり方を調べる)
- 血液検査(血糖、ビタミンB12、甲状腺のはたらき、腎臓のはたらきなど)
- QSART(汗の量から細い神経のはたらきを調べる)
- 必要に応じて皮膚の生検、自律神経の検査、画像検査
診察で予想されること
QSARTでは、検査着に着替えてベッドに横になります。腕と脚の皮膚に小さな円形の装置を貼り、ごく弱い電気を使って汗を出させる薬を皮膚にしみ込ませます。このとき「ピリッとする」「温かい」と感じることがありますが、強い痛みはほとんどありません。そのまま20分ほど安静にし、装置の中の水分量の変化から汗の量を測ります。検査前は、激しい運動、喫煙、カフェイン(コーヒー・お茶・エナジードリンク)、飲酒を数時間控えるよう案内されることが多いです。当日は汗をかきやすい服装を避け、検査部位に湿疹や傷がある場合は事前に伝えてください。結果は検査直後ではなく、他の検査と合わせて後日説明されるのが一般的です。
治療
QSARTはあくまで「調べる検査」であり、それ自体が治療になるものではありません。検査の結果をもとに、症状の背景にある原因を探し、その人に合った対応を組み立てていきます。原因が見つかればそれを踏まえた対応を、見つからない場合でも症状をやわらげる工夫を重ねていきます。
自宅でのセルフケア
- 足の観察を習慣にする(毎日、鏡を使って足の裏まで見る)
- 裸足で熱い砂浜やコンクリートを歩かない、湯たんぽやカイロで低温やけどをしないよう注意する
- 靴は中に異物が入っていないか確認し、ゆったりしたものを選ぶ
- 汗をかきにくい場合は、暑い日の外出や運動を控え、こまめに水分をとり、体を冷やす
- 立ちくらみがあるときは、ゆっくり起き上がる、水分と塩分を適度にとる、長時間の立ちっぱなしを避ける
- 禁煙し、飲酒は控えめにする
- 十分な睡眠と休息をとる
- 気になる症状の変化をメモしておき、診察のときに伝える
医療治療
治療は原因によって変わります。血糖値が高い場合は、食事・運動を含めた血糖管理を主治医と相談して進めます。ビタミン不足や甲状腺の病気などが見つかれば、その状態に対する対応を行います。薬による影響が疑われる場合は、自己判断で中止せず、必ず処方した医師や薬剤師に相談してください。手足の痛みやしびれに対しては、症状の性質に応じた薬や、痛みの感じ方をやわらげる治療が検討されることがあります。汗の異常や立ちくらみには、生活の工夫に加えて、症状に応じた対応がとられることがあります。いずれも主治医の判断のもとで行われます。
手術が検討される場合
QSARTの結果だけで手術が行われることはありません。手術が必要かどうかは、見つかった原因となっている病気によって別に判断されます。
この病気と共に生きる
症状があっても、日常のちょっとした工夫で過ごしやすくなることはたくさんあります。足の感覚が鈍い場合は「気づかないうちに傷ついている」ことが最大の注意点なので、毎日の観察を日課にしましょう。汗の調整がうまくいかない場合は、暑さを避ける工夫が体を守ります。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあります。一喜一憂しすぎず、記録をつけながら自分なりのペースを作っていくのがおすすめです。
生活習慣のアドバイス
- 足のチェックを毎日、同じ時間に行う(入浴後など習慣にすると続きます)
- 爪の手入れは深爪を避け、角質のケアはやさしく行う
- 夏場は冷房の効いた場所を選び、冷却グッズを活用する
- 禁煙・節酒を心がける
- ストレスをためず、リラックスする時間を意識して作る
- 症状と生活の記録をノートやスマホに残す
食事と運動
バランスのよい食事は神経の健康を支えます。血糖値が気になる方は、主食の量や食べる順番を見直し、野菜やたんぱく質を一緒にとるとよいでしょう。ビタミンB12は魚介類や肉、乳製品に多く含まれますが、偏りが気になる場合は自己判断でサプリメントに頼らず、医師や管理栄養士に相談してください。運動は無理のない範囲で、ウォーキングや軽い筋力運動を定期的に行うことが血糖管理や血行の面で役立ちます。ただし足の感覚が鈍い方は、靴ずれや靴の中の異物に気づきにくいので、運動後は必ず足を確認しましょう。暑い時間帯の屋外運動は避け、水分補給を忘れずに。
精神的健康と心の健康
「原因がわからないまま痛みやしびれが続く」ことは、とても疲れる経験です。検査結果を待つ間は不安が大きくなりやすく、眠れなくなったり、気分が落ち込んだりすることもあるでしょう。それは弱さではなく、誰にでも起こることです。症状を周囲に理解してもらいにくいもどかしさもあるかもしれません。ひとりで抱え込まず、主治医に気持ちも含めて話してみてください。つらい気持ちが続くときは、専門の相談窓口を頼ることも大切です。
予防
QSARTが調べる「細い神経の障害」は、すべてを防げるものではありませんが、リスクを減らせる場合があります。血糖値をよい範囲に保つこと、禁煙、節酒、バランスのよい食事、ビタミン不足の是正、足を守る習慣が大切です。原因が遺伝性の場合は予防が難しいこともありますが、早期に気づいて対処することで生活の質を保つことができます。
検診プログラム
糖尿病がある方や血糖値の境界域を指摘された方は、定期的な診察と足のチェックを受けることが勧められます。手足のしびれや感覚の変化は、健康診断の問診でも伝えておくと見落としを防げます。必要な検査をいつ受けるかは、主治医と相談して決めましょう。
合併症
治療しない場合
- 足の傷ややけどに気づかず、感染や治りにくい傷(潰瘍)につながることがあります
- 転倒やけがのリスクが高まる
- 痛みやしびれが慢性的になり、睡眠や気分に影響することがある
- 汗の調整がうまくいかず、暑さに体が対応できにくくなる
- 立ちくらみによる思わぬ事故
- 背景にある病気(糖尿病など)に気づくのが遅れる
長期的な見通し
QSARTで異常が見つかっても、それは「これからどうなるか」が決まったという意味ではありません。原因が特定できれば、それに応じた対応で症状が安定することは多くあります。原因が見つからない場合でも、足を守る工夫や症状をやわらげる方法を重ねることで、日常生活を快適に保つことは十分に可能です。気になることは遠慮なく主治医に質問し、一緒に方針を考えていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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