後腹膜リンパ節郭清(こうふくまくりんぱせつかくせい)とは
概要
後腹膜(こうふくまく)は、おなかの内側、腹膜の後ろ側にある空間で、腎臓・大動脈・大静脈などが入っています。この空間には、リンパ節という免疫の働きに関わる小さな豆のような組織がたくさんあります。後腹膜リンパ節郭清は、この後腹膜のリンパ節と、その周りの脂肪組織を手術で取り除く治療です。主に、精巣(睾丸)のがんがリンパの流れに乗って広がるのを防いだり、広がり具合を確かめたりするために行われます。
重要な事実
- 手術は全身麻酔で行います。おなかの中央を縦に切る方法のほか、腹腔鏡(ふくくうきょう)やロボット支援手術のように小さな傷で行う方法もあります。
- 取り出したリンパ節は病理検査(組織を顕微鏡で調べる検査)にかけ、がんが残っていないかを確かめます。
- 手術のあとは数日で歩けることが多く、入院はおよそ1週間前後が目安ですが、体調や病院によって変わります。
- 将来子どもを望む方のために、神経を温存する工夫ができる場合があります。希望や不安は手術の前に医師へ伝えておきましょう。
この手術は、精巣がんの治療のなかでも専門的な手術で、どの病院でも行われているものではありません。精巣がんと診断された方の多くはこの手術を必要とせず、病状に応じて選ばれます。
主に、20〜30歳代の男性で精巣がん(とくに非セミノーマ)と診断された方に行われることが多い手術です。ほかに、リンパ腫やほかのがんが後腹膜のリンパ節に広がった場合や、腎臓・尿管のがんの手術の一部として行うこともあります。高齢の方では、持病や体力をふまえて相談しながら決めます。
症状
- 片方の睾丸が急に激しく痛む(精巣捻転の可能性があり、緊急の対応が必要です)
- 手術後に傷から血が止まらない、おなかが急に大きく膨らむ
- 強い息苦しさ、胸の痛み、冷や汗
- 意識がもうろうとしている、ぐったりしていて反応が弱い
- 高熱に加えて呼吸が速い・意識がぼんやりする(重い感染の可能性)
- 突然の激しい腹痛や背中の痛み
- ※これらの症状があるときは、迷わず119番(救急車)を呼んでください。
- ⚠38度以上の発熱
- ⚠傷の赤み・腫れ・膿、痛みが強くなる
- ⚠吐き気や嘔吐で水分がとれない
- ⚠尿が出にくい、尿の量が減った
- ⚠片脚のむくみ・痛み・赤み(血栓の可能性)
- ⚠傷の周りから透明な液体がたくさん出る
- ⚠おなかが張って、ガスや便が出ない状態が続く
一般的な症状
- 睾丸(精巣)のしこりや、片側だけの腫れ
- 陰嚢(いんのう)の重い感じ、違和感
- 下腹部や背中の鈍い痛み(リンパ節が大きくなったときに起こることがあります)
- 原因がはっきりしない体重減少
- だるさ、熱っぽさが続く
- 症状がまったくないことも多く、自己検診や検査で見つかる場合もあります
子供の症状
- 小児では精巣腫瘍自体がとてもまれです
- おなかのふくらみや、触れるしこり
- 陰嚢の腫れや痛み
- 小児の場合は、小児外科や小児がんを扱う専門施設で相談することが大切です
高齢者の症状
- 高齢者では精巣がんは少なく、リンパ腫など別のがんの治療として行うことが多くなります
- 心臓・肺・腎臓などの持病や、飲んでいる薬の確認が大切です
- 回復に時間がかかることがあり、体力に合わせたリハビリが役立ちます
原因
主な原因
- この手術は「病気の原因」ではなく「治療」です。必要になる背景には、精巣がん(とくに非セミノーマ)がリンパの流れに乗って後腹膜のリンパ節へ広がる可能性があります。
- 画像検査(CTなど)で後腹膜のリンパ節が大きくなっているとき
- 腫瘍マーカー(血液で調べる指標)が下がりきらないとき
- 化学療法のあとに残った病変を確かめ、取り除くとき
- リンパ腫や尿路のがんなど、ほかのがんの治療の一環として
リスク要因
- 若い男性であること、非セミノーマというタイプの精巣がんであること
- がんの進行度や、肺などへの広がりの有無
- 手術の合併症リスクを上げる要因:喫煙、肥満、糖尿病、以前の腹部手術、血液が固まりやすい体質
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 睾丸のしこりに気づいたとき(痛みがなくても、早めに泌尿器科を受診してください)
- 手術後に38度以上の発熱、傷の赤み・膿、水分がとれないほどの吐き気があるとき
- 片脚のむくみや痛み、息苦しさが出たとき
定期受診を予約すべき場合:
- 手術後の定期外来(指示された間隔で通院しましょう)
- 背中や腰の痛みが続く、体重が減ってきた
- 足のむくみが続く、だるさが取れない
- 将来の子どもや性生活について相談したいとき
診断
この手術が必要かどうかは、診察、血液検査、画像検査の結果を組み合わせて判断します。手術の前に、精子を凍結保存しておくかどうかも話し合います。手術で取り出したリンパ節を顕微鏡で調べることで、がんが残っていないかを最終的に確認します。
行われる可能性のある検査
- 診察と病歴の確認(しこりの場所や大きさ、経過を聞きます)
- 血液検査(腫瘍マーカーという、がんの目安になる数値を含みます)
- 腹部・骨盤のCT検査
- 胸部のレントゲンやCT検査(肺への広がりを確認します)
- MRI検査や超音波検査
- 必要に応じてPET検査
- 手術で取り出した組織の病理検査
診察で予想されること
手術の前に、麻酔や手術の方法、入院の流れ、起こりうる合併症について説明があります。手術後は点滴や管が一時的につくことがあり、翌日から歩くように促されることが多いです。退院後しばらくして、病理検査の結果と今後の方針について説明を受けます。
治療
精巣がんなどの治療には、経過をみまもる方法、化学療法(抗がん剤)、手術、放射線治療などがあり、病状や病理の結果、年齢、将来子どもを望むかどうか、体力などをふまえて組み合わせます。後腹膜リンパ節郭清は、その中の手術という選択肢のひとつです。主治医のチームとよく話し合って決めていきましょう。
自宅でのセルフケア
- 手術後は、無理のない範囲で早めに歩くことが回復を助けます
- 傷は清潔に保ち、許可なく軟膏を塗ったり長風呂をしたりしないようにしましょう
- 水分をこまめにとり、便秘を防ぐために食物繊維をとりましょう
- 痛みは我慢せず、我慢できないときは医療者に伝えましょう
- 禁煙を続けましょう。喫煙は治りを遅らせます
- 足のむくみが気になるときは、医師の指示に沿って弾性ストッキングなどを使いましょう
医療治療
手術以外には、化学療法(抗がん剤による治療)、放射線治療、定期的な経過観察などがあります。どの治療を選ぶかは、がんの広がり、病理検査の結果、年齢、将来子どもを望むかどうか、体力や持病をふまえて主治医と話し合います。薬の名前や量はここではお伝えしません。使う薬や副作用については、主治医や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
手術は、画像検査でリンパ節にがんが疑われるとき、化学療法のあとに残った病変を取り除くとき、広がり具合を確かめたいときなどに検討されます。手術をしないで経過をみる選択が適している場合もあります。
この病気と共に生きる
退院後は、傷が落ち着くまで重い物を持ち上げる作業や激しい運動を控え、徐々に体を慣らしていきます。手術の影響で、射精の仕方に変化が出たり(精液が外に出ず膀胱にたまる状態)、リンパ液がたまる感じがしたりすることがあります。多くは時間とともに落ち着きますが、気になる場合は早めに相談してください。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける
- 適度な運動を無理のない範囲で続ける
- 体重を適正に保つ
- 飲酒は控えめにする
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 手術後しばらくは感染予防のために手洗いを心がける
食事と運動
特別な食事制限は通常ありません。主食・野菜・たんぱく質をバランスよくとり、食物繊維と水分をしっかりとることが、排便を整える助けになります。運動は、散歩から始めて少しずつ時間を延ばしていくのがおすすめです。痛みや息苦しさが出たら休み、主治医に相談しましょう。
精神的健康と心の健康
がんの診断や手術、将来の子どもや性生活への不安は、とても大きな気持ちの負担になります。落ち込んだり涙が出たり、眠れない日が続くのは自然な反応です。気持ちがつらいときは一人で抱えず、医療機関や地域の相談窓口に相談してください。自分や大切な人を傷つけたい気持ちがわいたとき、強い不安で生活ができないときは、すぐに119番(救急)や医療機関に連絡してください。
予防
この手術そのものを防ぐ方法はありません。ただ、背景にある精巣がんは、入浴時に睾丸を自分の手で触ってしこりの有無を確かめる「自己検診」で早く気づけることがあります。禁煙は、手術後の回復や合併症の予防にも役立ちます。
ワクチン
この手術や精巣がんに直接関係するワクチンはありません。
検診プログラム
精巣がんに対する国のがん検診はありません。若い男性は、月に一度、入浴時に睾丸のしこりや腫れを自分で確認してみましょう。気になるしこりがあれば泌尿器科を受診してください。
合併症
治療しない場合
- 手術をしない場合:がんがリンパの流れに乗って広がり続けることがあります
- 後腹膜のリンパ節でがんが大きくなり、再発や転移のリスクが高まることがあります
- リンパ節が大きくなって尿管を圧迫し、腎臓が腫れる(水腎症)ことがあります
- 腸が圧迫されて腸閉塞のような症状が出ることがあります
- 手術に伴う合併症として、出血、感染、腸の動きが止まる状態、リンパ液がたまる状態、片脚のむくみ、射精の変化などがあり、事前に説明があります
長期的な見通し
後腹膜リンパ節郭清は、必要な方にとっては再発を防ぎ、広がりを確かめる大切な治療です。多くの方は治療のあと、時間をかけてふだんの生活に戻っていきます。合併症があっても対応できる方法はあります。不安な点はひとつずつ主治医と確認しながら、あせらず進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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