前方引き出しテスト|膝の前十字靭帯のゆるみを調べる検査
概要
前方引き出しテスト(ぜんぽうひきだしテスト)は、膝の真ん中にある前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい、英語の頭文字でACLとも呼ばれます)がゆるんでいないかを、医師が手で確かめる検査です。前十字靭帯は、すねの骨(脛骨)が太ももの骨(大腿骨)より前にずれすぎないように支えている、ひものような組織です。この検査では、あおむけに寝て膝を曲げた状態で、医師がすねの骨をそっと前に引き、どのくらい動くかを見ます。痛い注射も放射線も使わず、診察室で1〜2分ほどで終わる、体にやさしい検査です。
重要な事実
- 特別な機械を使わず、診察室で手だけで行う検査です。痛みはほとんどなく、終わるまで1〜2分ほどです。
- 片方の膝だけでなく、左右の膝を比べて「動く量が多いかどうか」を確かめます。人の体には元々個人差があるため、比べることが大切です。
- この検査の結果だけで決めつけることはありません。けがの起きた状況の聞き取りや、MRIなどの画像検査と合わせて、総合的に判断します。
膝のけがはスポーツの場面でも日常生活でもよく起こるため、この検査は整形外科などで日常的に行われています。特別なものではなく、膝の不安定さを調べるときの基本の検査のひとつです。
スポーツで急な方向転換やジャンプの着地を繰り返す10代〜30代の人に多く見られますが、階段や段差での転倒など、ふとしたはずみでも起こります。子どもから高齢者まで、どなたでも受ける可能性のある検査です。
症状
- 大きなけがのあと、膝や脚が明らかに曲がっている・変形している
- 足先の血色が悪い、しびれて感覚がない、足を動かせない
- 激しい痛みで立つことも動くこともできず、冷汗や気分の悪さがある
- 膝が赤く熱く大きく腫れ、高い熱が出ている(関節の中の感染が疑われる場合)
- ⚠けがの直後から数時間で膝が大きく腫れてきた
- ⚠体重をかけると痛くて歩けない状態が続いている
- ⚠膝が抜ける感じが繰り返し起こり、日常生活に支障がある
- ⚠腫れや痛みが翌日になっても強く、悪化しているように感じる
一般的な症状
- 膝がぐらぐらして安定しない、力を入れると不安な感じがする
- 歩いていて急に膝が「抜ける」ような感覚がある
- けがをした直後から、膝が大きく腫れて熱っぽくなる
- 膝を曲げ伸ばししにくい、曲げると痛む
- けがの瞬間に「ポキッ」「グキッ」という音や感触があった
- 膝の内側や外側にも痛みがあり、どの靭帯が傷んでいるか調べたい
子供の症状
- 言葉で説明するのが難しく、膝をかばって歩く、走るのを嫌がるといった形で表れることがあります
- けがのあと、膝が腫れているのに痛みをあまり訴えないこともあります
- 成長期は、靭帯だけでなく骨の成長部分のけがのこともあるため、診察が大切です
高齢者の症状
- 変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)や筋力の低下でも「膝が不安定」と感じることがあり、原因が一つとは限りません
- 転倒をきっかけに受診し、この検査が行われることがあります
- 膝が不安定だと転びやすくなるため、生活の中での安全確保も合わせて相談しましょう
原因
主な原因
- スポーツ中の急な方向転換、ジャンプの着地、相手との接触などで、膝にひねりの力がかかる
- 階段や段差での転倒、足を滑らせて膝が内側に入るなど、日常生活の中の不意の動き
- 事故や強い衝撃による膝への外からの力
- 生まれつき靭帯がやわらかい、過去のけがで靭帯がゆるんでいるなど、体質や既往によるもの
リスク要因
- サッカー、バスケットボール、スキー、柔道など、急なストップや方向転換の多いスポーツ
- ウォームアップや筋力トレーニングが十分でない状態での運動
- 太ももの裏やお尻の筋肉が弱い、着地の姿勢が崩れやすい
- 過去に同じ膝で靭帯や半月板(はんげつばん)のけがをしたことがある
- すべりやすい靴や、硬くて不安定な地面での運動
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けがのあと膝が大きく腫れ、体重をかけられない
- 膝が抜ける感覚が繰り返しあり、日常生活で不安がある
- 膝を動かせる範囲が急に狭くなった、まっすぐ伸ばせない
- 膝の痛みや腫れが数日たってもよくならない
定期受診を予約すべき場合:
- 以前のけがから、なんとなく膝の安定感に自信が持てない
- スポーツに戻りたいが、膝が不安で踏み出せない
- 膝の不安定さについて、一度しっかり調べてもらいたい
診断
医師はまず、どのような動きでけがをしたか、音や感触があったか、どのくらいで腫れたかなどを聞きます。そのうえで、あおむけに寝てもらい、膝を90度ほど曲げて足を軽く固定し、すねの骨をそっと前に引いて、動く量を左右で比べます。膝の曲げ方を変えて調べる別の方法(ラックマンテストなど)を組み合わせることもあります。
行われる可能性のある検査
- 診察(問診と、膝を手で動かして調べる検査)
- ラックマンテストなど、膝の角度を変えてゆるみを見る検査
- MRI検査(軟部組織の状態を画像で見る検査。靭帯や半月板の様子がわかります)
- レントゲン検査(骨のけががないかを確かめる検査)
- 必要に応じて、関節の動きを数値で測る機器を使う検査
診察で予想されること
検査のときは、できるだけ体の力を抜いてもらうことが大切です。力が入っていると正確に判断できないためです。痛みが強い場合は、その旨を医師に伝えてください。結果はその場で説明されることが多いですが、靭帯の状態を詳しく見るためにMRIなどの画像検査を行う場合は、結果がわかるまで数日から1週間ほどかかることがあります。
治療
この検査で異常が見つかった場合の治療は、年齢、スポーツや仕事での活動量、膝の不安定さの程度によって変わります。大きく分けると、リハビリテーションを中心に筋力と動きを整えて膝を支える方法と、手術で靭帯を再建する方法があります。どちらがよいかは、生活の希望も含めて医師と相談して決めていきます。
自宅でのセルフケア
- けがの直後は、無理に動かさず安静を保ち、膝を冷やして腫れを抑える
- 膝を心臓より高く上げて休むと、腫れが引きやすくなる
- 医師や理学療法士に教わったストレッチや筋力トレーニングを、無理のない範囲で続ける
- 腫れや痛みが強い時期は、長時間の立ち仕事や運動を控える
- 松葉づえやサポーターを使う場合は、使い方と期間を医療者に確認する
医療治療
治療の中心は、リハビリテーション(理学療法)です。太ももやお尻の筋肉を鍛え、正しい動き方を身につけることで、膝を安定させていきます。腫れや痛みが強い時期には、医師の判断で痛みや炎症をやわらげる薬が使われることがありますが、内容や量は必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。必要に応じて装具(サポーター)を使うこともあります。自分で判断して市販薬を続けたり、運動量を急に増やしたりしないようにしましょう。
手術が検討される場合
スポーツ復帰を急ぐ若い人、膝が抜ける感覚が繰り返して日常生活に支障がある人、半月板など他の組織も同時に傷めている人では、靭帯を再建する手術が検討されます。手術後は数か月単位のリハビリが必要です。手術をするかどうかは、年齢や活動量、生活の希望をふまえて、整形外科の医師とじっくり相談して決めましょう。
この病気と共に生きる
膝の不安定さがある間は、急な方向転換や段差の上り下りで膝が抜けないよう、意識して足を運ぶと安心です。手すりを使う、荷物を両手で持たない、疲れたら早めに休むといった小さな工夫が、日常生活の不安を減らします。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で、毎日少しずつ筋力トレーニングを続ける
- 運動の前には必ずウォームアップを行い、体を温めてから動く
- すべりにくく、クッション性のある靴を選ぶ
- 体重が膝への負担を増やすため、バランスのよい食事と適正体重を心がける
- 睡眠を十分にとり、疲労をためない
食事と運動
特別な食事制限はありませんが、筋肉や骨の材料になるたんぱく質やカルシウムを意識してとるとよいでしょう。運動は、痛みのない範囲で行うことが基本です。ウォーキングや自転車こぎなど、膝に大きな負担をかけにくい運動から始め、医師や理学療法士に相談しながら少しずつ量を増やしていきます。
精神的健康と心の健康
けがをしてスポーツや仕事を続けられない時期は、不安やいらだち、落ち込みを感じるのは自然なことです。一人で抱え込まず、家族やチームの仲間、医療者に気持ちを話してみてください。つらい気持ちが長く続くときは、かかりつけ医やお住まいの自治体の相談窓口に相談しましょう。自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわず救急(119)を呼ぶか、医療機関を受診してください。
予防
前方引き出しテストそのものは検査ですので、予防という考え方は当てはまりません。ただし、この検査で調べるような膝の靭帯のけがは、日ごろの準備である程度 risk を減らせると考えられています。ウォームアップを丁寧に行う、太ももやお尻の筋肉を鍛える、着地や方向転換の正しい姿勢を練習する、疲労をためないようにすることが大切です。
検診プログラム
症状がない人が受けるタイプの検査ではありません。膝の不安定さや腫れ、痛みがあるときに、医師の判断で行われます。
合併症
治療しない場合
- 膝の不安定さが続き、日常生活やスポーツで膝が抜ける感覚が繰り返す
- 不安定な膝が原因で半月板や軟骨を傷め、痛みが長引くことがある
- 長い目で見ると、変形性膝関節症のリスクが高まることがある
- 不安定さから転倒し、別のけがにつながる可能性がある
長期的な見通し
膝の靭帯のけがは、適切に診断を受け、リハビリや必要な治療を続けることで、多くの人がこれまでに近い生活やスポーツに戻っています。回復には数か月単位の時間がかかることもありますが、あせらず一歩ずつ進むことが大切です。不安なことは、その都度医療者に相談しながら進めていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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