物忘れが気になるとき:受診の目安と対処法
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
物忘れや記憶力の低下は、加齢による変化として誰にでも起こり得るものです。しかし、日常生活に支障をきたすような記憶の問題は、何らかの健康上の課題のサインかもしれません。この記事では、記憶の問題について、どのような場合に医師に相談すべきか、どのような検査や治療があるのかを、わかりやすく説明します。
重要な事実
- 加齢に伴う物忘れ(名前やものを置いた場所を思い出せないなど)はよくあることですが、記憶障害が進む場合には、治療可能な原因が隠れていることがあります。
- 認知症を引き起こす病気には、アルツハイマー病、脳血管障害、甲状腺機能低下症などがあり、中には早期発見・早期対応が重要なものがあります。
- 生活習慣(運動、食事、睡眠、社会的交流)を整えることで、記憶力の低下リスクを下げる可能性があります。
物忘れは年齢を重ねると多くの人が経験します。加齢による軽度の物忘れは珍しくありませんが、認知症は高齢者に多く見られます。日本の厚生労働省の調査では、65歳以上の高齢者の約6人に1人が認知症であると推計されています。
記憶の問題はどの年齢でも起こり得ますが、加齢に伴って増加します。特に65歳以上の方、脳卒中や高血圧、糖尿病などの生活習慣病を持つ方、家族に認知症の方がいる方は注意が必要です。若い人でも、睡眠不足、ストレス、うつ病、頭部外傷などが原因で記憶力の低下を感じることがあります。
症状
- 突然、意識がもうろうとしたり、周りの状況がわからなくなったりする
- 突然、言葉が話せない・理解できない
- 突然、体の片側が動かない、顔の半分がゆがむ(脳卒中の可能性)
- 頭を強く打った後に、記憶が飛んだり意識を失ったりした
- 突然の激しい頭痛とともに記憶障害が現れた
- 幻覚や妄想が激しく、自分や周りの安全が心配される
- ⚠数日〜数週間の単位で記憶障害が急速に進行している
- ⚠薬の飲み間違いが増え、持病が悪化しそう
- ⚠火の消し忘れや交通機関の利用困難など、日常生活の危険が増えている
- ⚠本人が強く不安や混乱を感じ、日常生活に支障が出ている
- ⚠周囲の人が「以前と比べて明らかに変わった」と強く感じている
一般的な症状
- 最近の出来事を忘れる(昨日何をしたか思い出せない)
- 同じ質問を何度も繰り返す
- 馴染みのある場所で道に迷う
- 約束や大切な日を忘れる
- 言葉が出てこない、人の名前が思い出せない
- 財布や鍵など、物を置いた場所がわからなくなる
- 簡単な計算やお金の管理が難しくなる
- 気分の変化や性格の変化が見られる
子供の症状
- 授業で習ったことをすぐに忘れる
- 友達の名前や約束を忘れる
- 学校の宿題など、指示を覚えていられない
- 集中が続かず、指示を聞き逃す
高齢者の症状
- 食事をしたこと自体を忘れる
- 火の消し忘れやガスの消し忘れが増える
- 人格が変わったように見える(怒りっぽくなる、無気力になるなど)
- 時間や場所がわからなくなる
- 家族の顔がわからない、または知らない人と間違える
原因
主な原因
- 加齢による正常な変化(軽度の物忘れ)
- アルツハイマー病など、認知症を引き起こす神経の病気
- 脳卒中や脳の血管障害
- 甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症など、治療可能な身体の病気
- うつ病や強いストレスによる「仮性認知症」と呼ばれる状態
- 睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群
- 薬の副作用(特に高齢者で見られます)
- 頭部外傷後の記憶障害
リスク要因
- 年齢(65歳以上)
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病
- 喫煙や過度の飲酒
- 運動不足、偏った食事
- 社会的な孤立(人との交流が少ない)
- 家族に認知症の人がいる(遺伝的な要因)
- 頭部外傷の既往
- 睡眠不足や慢性のストレス
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 日常生活に支障をきたす記憶障害(食事を食べたことを忘れる、家に帰れなくなるなど)
- 記憶障害が急に進行した場合
- うつ症状や幻覚・妄想を伴う場合
- 薬の管理や金銭管理ができなくなってきた場合
- 家族や周囲の人が、性格や行動に大きな変化を感じている場合
定期受診を予約すべき場合:
- 自分でははっきりしないが、物忘れが増えた気がする
- 家族に「最近忘れっぽい」と指摘された
- 記憶力の低下のために仕事や家事に支障が出始めた
- 認知症の検査を希望する場合(かかりつけ医に相談できます)
診断
診断は、医師(一般内科、神経内科、精神科、脳神経外科、老年科など)が、問診で症状の詳しい内容や生活への影響を確認し、その上で認知機能検査や身体の検査を行います。ご家族や身近な方のお話も、診断にとって非常に重要な情報になります。
行われる可能性のある検査
- 問診(本人と家族からの話を聞きます)
- 認知機能検査(MMSEや長谷川式簡易知能評価スケールなど、簡単な質問や課題で記憶や思考の状態を評価します)
- 血液検査(甲状腺機能やビタミン、感染症など、治療可能な原因を調べます)
- 脳画像検査(CTやMRIで脳の萎縮や脳卒中などの異常を調べます)
- うつ病のチェック(うつ病による記憶障害は治療可能なことがあります)
診察で予想されること
診察では、現在の症状、いつ頃から始まったか、どのように進行してきたか、持病や服用中の薬、生活状況などについて詳しく聞かれます。ご家族の同席や、日頃の様子を伝えることは診断に役立ちます。検査は通常外来で行われ、結果に基づいて医師から説明があります。認知症と診断された場合でも、地域の支援サービスや治療について詳しい案内がありますので、心配な点は遠慮なく相談してください。
治療
記憶障害の治療は、原因となる病気によって異なります。甲状腺機能低下症やビタミン欠乏、薬の副作用、うつ病が原因であれば、それらを治療することで記憶力が改善することがあります。アルツハイマー病など認知症については、現在の医学では完全に治すことはできませんが、症状の進行を緩やかにする薬や、生活の質を保つための支援があります。治療は、医師の指示のもと、服薬管理、リハビリテーション、生活支援などを組み合わせて行います。
自宅でのセルフケア
- 睡眠を十分にとる(記憶の定着に重要です)
- バランスの良い食事を心がける(野菜、魚、果物などを取り入れましょう)
- 毎日少しでも体を動かす(散歩や家事などで構いません)
- 人との交流を続ける(家族、友人、地域の集まりなど)
- ストレスをため込まず、趣味やリラックスできる時間を持つ
- メモやカレンダー、スマートフォンのリマインダーを活用して生活を工夫する
医療治療
治療の中心は、原因疾患に対する治療です。認知症の一部のタイプでは、症状の進行を緩やかにする薬が使われることがあります。また、うつ病や睡眠障害など、記憶力に影響する症状がある場合には、それぞれに対する治療(薬物療法や心理的サポートなど)が行われます。どのような治療が適しているかは、医師が患者さんの状態に合わせて判断します。服薬については、必ず医師や薬剤師の説明に従いましょう。
手術が検討される場合
記憶障害の原因が脳腫瘍や脳出血、正常圧水頭症などで、外科的な治療が必要な場合は、脳神経外科で手術が検討されることがあります。ただし、すべての記憶障害が手術の対象になるわけではありません。手術が必要かどうかは、脳の画像検査などで詳しく調べた上で専門医が判断します。
この病気と共に生きる
記憶に問題があっても、生活の工夫によって安全に日常生活を送ることができます。毎日の予定をカレンダーやホワイトボードに書く、服薬はお薬カレンダーや1週間分のピルケースを利用する、財布や鍵などの置き場所を決めておく、調理中は火を消したか必ず確認する習慣をつけるなどの工夫が役立ちます。必要に応じて、地域包括支援センターや介護保険サービスを利用することもできます。
生活習慣のアドバイス
- 適度な運動(ウォーキング、水中運動など)は脳の血流を改善し、認知機能の維持に役立ちます
- 社会的な活動(趣味のサークル、ボランティア、地域のイベントなど)に参加する
- 読書やパズル、ゲームなど、頭を使う活動を日常に取り入れる
- 禁煙、節酒、十分な睡眠を心がける
- 人との会話を大切にし、孤立しないようにする
食事と運動
バランスの良い食事は認知症予防に役立つ可能性があります。特に野菜、果物、魚、オリーブオイルなどを多く含む「地中海食」は認知機能の維持に良いといった研究があります。また、週に150分程度の軽い有酸素運動(速歩き、サイクリング、水泳など)が推奨されています。運動習慣がない人は、1日10分の散歩から始めて、無理なく続けることが大切です。
精神的健康と心の健康
記憶に問題が現れると、うつや不安、自尊心の低下を感じることがあります。本人だけでなく、家族も大きなストレスを感じるものです。このような気持ちを持つことは自然なことであり、決して恥ずかしいことではありません。気持ちのつらさが続く場合には、医師や心理専門職に相談しましょう。また、認知症の人と家族の会などの相談機関や、地域の支援窓口を利用するのも良い方法です。
予防
記憶障害や認知症のすべてを予防することはできませんが、生活習慣の改善によってリスクを減らすことはできます。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠、社会的な交流、そして高血圧や糖尿病などの生活習慣病の管理が重要です。脳卒中や心臓病のリスクを下げることも、認知症予防につながります。
検診プログラム
日本では、自治体によっては住民健診の一部として認知症の簡単なチェックを行っているところがあります。気になる方は、かかりつけ医に相談し、必要に応じて認知機能テストを受けることができます。自分でできるチェックリストもありますが、自己判断は避け、専門医の評価を受けることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 火の消し忘れや交通機関の利用困難など、日常生活の安全が損なわれる
- 服薬管理が難しくなり、持病の悪化や薬の飲み過ぎによる健康被害が起こる
- うつ状態、不安、社会的な孤立が進行する
- 家族や介護者の負担が増え、家庭内の関係が悪化する
- 認知症の原因疾患によっては、症状が急速に進行する
長期的な見通し
記憶障害の見通しは原因によって大きく異なります。甲状腺機能低下症やビタミン欠乏、薬の副作用などが原因であれば、適切な治療により症状が改善することがあります。認知症の場合でも、早期に診断し、適切な治療と生活支援を受けることで、進行を緩やかにし、住み慣れた場所で自分らしく暮らす可能性を広げられます。近年、認知症の研究は進んでおり、新しい治療法や支援方法も開発されています。一人で抱え込まず、医師や支援者と一緒に前に進んでいきましょう。
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地域の団体
- 地域包括支援センター · 日本(各市区町村)
- 厚生労働省 認知症対策・支援サイト · 日本
- 認知症の人と家族の会 · 日本
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健康ガイドラインは国や地域によって異なります。この記事の情報は国際的な臨床ガイドラインに基づいていますが、お住まいの国の具体的なガイドライン、薬、または診療慣行を反映していない場合があります。健康上の懸念は常にご自身の医師または医療提供者と相談し、利用可能な場合は地域の国家ガイドラインを参照してください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。
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情報源とガイダンス
この記事は教育目的で、利用可能な場合は認知された健康情報および臨床ガイダンスの情報源を参照して作成されています。具体的な情報源リンクはトピックによって異なる場合があります。
最終更新: 2026年7月31日
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