Breast Cancer
参照した情報源
この記事は患者教育のための独自コンテンツです。
- NICE—Early and locally advanced breast cancer: diagnosis and management. NG101(2023)
- NHS—Breast cancer in women(2023)
- WHO—Breast cancer fact sheet(2023)
- CDC—Breast Cancer(2024)
国際的な臨床ガイドラインに基づいています
概要
乳がんとは、乳房の中にある細胞が異常に増殖してできるがんです。乳房には乳腺(母乳をつくる組織)と乳管(母乳を運ぶ管)があり、そのどちらにもがんが発生することがあります。最初はごく小さな細胞の変化から始まりますが、放置するとしこりとして感じられるようになったり、周囲の組織や他の臓器へ広がることがあります。早期に発見して治療を受けることで、回復できる可能性がとても高い病気です。
重要な事実
- 乳がんは日本人女性がかかるがんの中で最も多く、近年増加傾向にあります。
- 早期発見・早期治療によって、多くの方が治癒または長期間にわたって健康的な生活を送ることができます。
- 乳がんは女性だけの病気ではなく、男性にも発症することがありますが、その割合は全体の約1〜2%程度とされています。
乳がんは日本において非常に多いがんのひとつです。厚生労働省のデータによると、日本人女性の約9人に1人が生涯のうちに乳がんにかかると言われています。40代〜60代に多くみられますが、若い方でも発症することがあります。決して珍しい病気ではありませんが、検診や早期発見の取り組みが広がっているため、治療成績も年々改善しています。
主に女性に多くみられますが、男性も発症する可能性があります。特に40代以降の女性でリスクが高まりますが、20〜30代の若い世代でも発症することがあります。家族に乳がんの方がいる場合や、特定の遺伝子変異をお持ちの方はリスクが高くなることが知られています。ただし、リスク因子がない方でも発症することがあるため、定期的な検診が大切です。
症状
- 乳がんの症状そのものが119番を要する緊急事態になることは多くありませんが、急に呼吸が苦しくなったり、激しい胸の痛みが起きた場合はすぐに119番へ電話してください。
- がん治療中(化学療法など)に高熱(38度以上)や激しい悪寒が出た場合は、感染症のおそれがあるため、担当医に連絡するか、状態が重ければ119番へ電話してください。
- ⚠乳房に急激な腫れ、赤み、熱感が出てきた場合は、当日中に医療機関を受診してください。
- ⚠乳頭から血が混じった分泌物が出た場合は、なるべく早く医療機関に相談してください。
- ⚠わきの下や首のリンパ節が急に大きくなった場合は、早めに受診しましょう。
一般的な症状
- 乳房にしこり(かたまり)を感じる。痛みがないことが多いです。
- 乳房の形や大きさの変化(片方だけが腫れる、変形するなど)。
- 乳房の皮膚のくぼみ、ひきつれ、オレンジの皮のようなでこぼこした変化。
- 乳頭(ちくび)からの分泌物(血が混じっていることもある)。
- 乳頭や乳房の皮膚がただれる、赤みが出る、かゆみが続く。
- わきの下(腋窩リンパ節)のしこりや腫れ。
- 乳頭がへこんでしまう(陥没乳頭)などの変化。
子供の症状
- 子どもの乳がんは非常にまれですが、乳房周辺のしこりや腫れを感じた場合は、早めに小児科や医療機関へご相談ください。
高齢者の症状
- 年齢を重ねると乳房の感覚が鈍くなることがあり、しこりに気づきにくい場合があります。
- 痛みがほとんどないまま進行することもあるため、定期的な検診が特に重要です。
- 乳頭からの分泌物や皮膚の変化も見逃さないよう注意しましょう。
原因
主な原因
- 乳がんは、乳腺や乳管の細胞のDNA(遺伝情報)に傷がつき、細胞が正常にコントロールできなくなって異常に増殖することで起こります。
- なぜ細胞のDNAに傷がつくのか、そのすべての原因はまだ解明されていませんが、遺伝的な要因と生活環境の両方が関わっていると考えられています。
- 女性ホルモン(エストロゲン)が乳房の細胞の増殖に関わっているため、ホルモンの影響も乳がんの発生に関係しています。
リスク要因
- 年齢:40代以降でリスクが高まります。
- 家族歴:母親、姉妹、娘など一親等の方に乳がんの方がいる場合。
- 遺伝子変異:BRCA1・BRCA2という遺伝子に変異がある場合(遺伝性乳がん)。
- 過去に乳がんにかかったことがある場合。
- 月経開始が早い(初潮が早い)、または閉経が遅い場合。
- 出産経験がない、または初産年齢が高い場合。
- 授乳経験がない場合。
- 閉経後のホルモン補充療法(HRT)の長期使用。
- 肥満(特に閉経後)。
- 飲酒習慣(アルコールの摂取量が多いほどリスクが高まるとされています)。
- 運動不足。
- 放射線被ばくの既往(特に若いころに胸部への放射線治療を受けたことがある場合)。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 乳房に新しくしこりを感じたとき。
- 乳頭から血が混じった分泌物が出たとき。
- 乳房の皮膚に急な赤みや腫れ、熱感が出たとき。
- わきの下のリンパ節が腫れていると感じたとき。
定期受診を予約すべき場合:
- 乳房の形や大きさがいつもと違うと気になったとき。
- 乳頭がへこんできた、または乳頭の向きが変わったと感じたとき。
- 乳房の皮膚にくぼみやひきつれが出てきたとき。
- 2年に1回の乳がん検診(マンモグラフィ検査)の受診。40歳以上の方には厚生労働省が推奨しています。
診断
乳がんの診断は、問診(症状や生活歴を医師が聞き取る)、視診・触診(医師が目で見て、手で触れて確認する)、そして画像検査や細胞・組織の検査を組み合わせて行います。ひとつの検査だけで診断が確定するわけではなく、複数の検査を通じて総合的に判断されます。検査の結果が出るまで不安に感じるのは自然なことです。わからないことは担当医や看護師に遠慮なく質問してください。
行われる可能性のある検査
- マンモグラフィ(乳房のX線撮影):乳房を薄く挟んでX線で撮影します。乳がんのスクリーニング(ふるい分け検査)として広く使われています。
- 乳房超音波検査(エコー検査):超音波を使って乳房の内部を映し出します。若い方や乳腺が密な方に特に有効です。
- MRI検査(磁気共鳴画像法):磁気と電波を使って乳房の詳細な画像を得ます。病変の広がりを確認するために使われることがあります。
- 針生検(ニードルバイオプシー):細い針ややや太い針を使って、しこりから少量の組織を採取し、顕微鏡で調べます。がんかどうかを確定するために欠かせない検査です。
- 細胞診:細い針で細胞を吸引して顕微鏡で調べる検査です。
- センチネルリンパ節生検・腋窩リンパ節生検:がんがリンパ節に広がっているかを調べます。
- ホルモン受容体検査・HER2検査・Ki-67検査など:採取した組織を使って、がんの性質(タイプ)を詳しく調べる検査です。治療方針を決めるうえで重要です。
- CT検査・骨シンチグラフィなど:がんが他の臓器や骨に広がっていないかを確認するための検査です。
診察で予想されること
検査を受けると聞くと不安になる方も多いと思いますが、多くの検査は外来(入院不要)で受けられます。針生検は局所麻酔(その部分だけ痛みを和らげる処置)を使うため、強い痛みを感じることは少ないですが、多少の不快感はあります。検査から結果が出るまでに数日〜1〜2週間かかることもあります。結果を待つ時間はとても不安なものですが、担当医や看護師、あるいは信頼できる人と気持ちを分かち合いながら過ごしてください。
治療
乳がんの治療は、がんのタイプ(ホルモン感受性の有無、HER2の状態など)、病期(がんの進み具合)、患者さんの体の状態や希望などを考慮して、担当医チームが個別に計画します。複数の治療を組み合わせることが多く、手術・放射線治療・薬による治療(ホルモン療法・化学療法・分子標的療法など)が乳がんの主な治療の柱です。どの治療が自分に合っているかについて、担当医と十分に話し合うことがとても大切です。
自宅でのセルフケア
- 治療中は無理をせず、体の疲れに正直に向き合い、必要なときは休息をとりましょう。
- 治療に関して感じた不安や疑問は、担当医・看護師・がん相談支援センターに相談しましょう。
- 脱毛など治療による外見の変化に対しては、ウィッグや帽子などのサポートグッズを活用することができます。
- 家族や友人に気持ちや状況を話し、サポートを受け入れることも、回復への大切な力になります。
- 治療のスケジュールや薬の飲み方など、担当医の指示をしっかり守ることが治療効果を高めます。
- がん患者さん向けのサポートグループやピアサポート(同じ経験を持つ方との交流)も心強い支えになります。
医療治療
乳がんの薬による治療には、大きく分けてホルモン療法、化学療法(抗がん剤治療)、分子標的療法、免疫療法などがあります。ホルモン療法は、女性ホルモンの働きを抑えることでがんの増殖を抑える治療で、ホルモン受容体陽性の乳がんに有効です。化学療法は、細胞の増殖を抑える薬を使う治療で、点滴または飲み薬で行われます。分子標的療法は、がん細胞の特定の性質(HER2など)を狙い撃ちにする薬を使う治療です。これらは単独または組み合わせて使われ、手術の前後どちらでも行われることがあります。副作用(薬による体への影響)は薬の種類によって異なりますが、担当医や薬剤師に相談しながら上手に管理することが大切です。具体的な薬の種類や用量については、必ず担当医に確認してください。
手術が検討される場合
手術はがんを切除するための治療で、乳がんの治療においてとても重要な選択肢のひとつです。手術の方法には、乳房部分切除術(がんの部分だけを切り取り、乳房を温存する方法)と、乳房全切除術(乳房全体を取り除く方法)の2種類があります。どちらが適しているかは、がんの大きさや位置、広がり具合、患者さんの希望などによって異なります。乳房を切除する場合でも、乳房再建術(乳房の形を取り戻す手術)を選択できることがあります。手術後の生活や見た目の変化についても、担当医や形成外科医と事前に相談することができます。
この病気と共に生きる
乳がんと診断されたり、治療を受けながら生活するのは、体的にも精神的にもとても大変なことです。治療の副作用(疲れやすさ、吐き気、脱毛など)が日常生活に影響することもありますが、多くの症状は担当医のサポートで和らげることができます。職場や家庭での役割を一時的に調整することも大切です。日本では「がん患者の就労支援」が進んでおり、治療を続けながら働くことを支援する制度もあります。自分のペースを大切にしながら、一日一日を過ごしていきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 治療中・治療後を通じて、十分な睡眠をとることが体の回復を助けます。
- アルコールはできるだけ控えめにしましょう。
- 禁煙(たばこをやめること)は、治療効果を高め、他のがんや病気のリスクを下げます。
- ストレスをためこまず、自分なりのリラックス方法(散歩、読書、音楽など)を見つけましょう。
- 体調の良い日は軽い運動(ウォーキングなど)を取り入れると、疲労感の軽減や気分の改善に役立ちます。
- 定期的な通院・経過観察を怠らないようにしましょう。治療後も再発がないかを確認するための検査が続きます。
食事と運動
バランスのよい食事は、治療中・治療後の体力維持にとって大切です。野菜、果物、全粒穀物、豆類、魚や大豆製品などを取り入れた和食スタイルの食事は、体の回復を助けると言われています。治療中は食欲が落ちることもありますが、管理栄養士に相談しながら食べやすいものを少しずつ食べることが大切です。運動については、体調に合わせた無理のない範囲での活動が推奨されています。特にウォーキングや水中運動などの軽い有酸素運動は、疲労感の軽減や気分の改善に効果があるとされています。ただし、治療の種類や体の状態によって適切な運動量は異なりますので、担当医や理学療法士に相談しながら進めてください。
精神的健康と心の健康
乳がんと診断されたとき、「なぜ自分が」「これからどうなるのか」という不安や恐怖、悲しみ、怒りを感じるのはごく自然なことです。治療中の体の変化(脱毛や乳房の変化など)が自己イメージに影響することもあります。こうした気持ちを一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、あるいは医療チームに話してください。精神腫瘍科(がん患者さんの心のケアを専門とする診療科)や臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングも有効です。気持ちのつらさが続く場合は、担当医や看護師に遠慮なく相談してください。あなたの心の健康もとても大切です。もし「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちが出てきたときは、一人で抱え込まず、すぐに信頼できる人に話すか、よりそいホットライン(0120-279-338)などの相談窓口に電話してください。
予防
乳がんをすべて予防することは現時点では難しいですが、生活習慣を整えることでリスクを下げる効果が期待できます。具体的には、適度な運動を続けること、標準的な体重を保つこと、アルコールを控えること、禁煙することなどが挙げられます。また、授乳(母乳育児)を行うことも乳がんリスクの低下と関連があるとされています。遺伝的に高いリスクがある方は、専門の遺伝カウンセリングを受けることで、個別のリスク管理について相談することができます。
ワクチン
現時点では、乳がんを予防するためのワクチンは一般には存在しません。
検診プログラム
乳がんの早期発見には定期的な検診がとても大切です。厚生労働省は、40歳以上の女性に対して2年に1回のマンモグラフィ検査を推奨しています。お住まいの市区町村では、費用の一部を助成する「乳がん検診」を受けることができます。また、自分で乳房を定期的に触れて確認する「自己触診(じこしょくしん)」も、変化に気づくための有効な習慣です。自己触診の正しい方法は、医療機関や市区町村の保健センターで教えてもらうことができます。リスクが高い方は、検診の頻度や方法について担当医と相談しましょう。
合併症
治療しない場合
- 治療を受けずに放置すると、がんが乳房の周囲の組織(皮膚、筋肉など)へ広がることがあります。
- リンパ節(体の免疫に関わる小さな組織)にがんが広がり、わきの下や首などが腫れることがあります。
- がんが血液やリンパの流れに乗って、肺、肝臓、骨、脳などの遠くの臓器へ転移(移動してそこで増えること)するリスクが高まります。
- 乳がんが骨に転移すると骨折しやすくなることがあります。
- リンパ節の手術や放射線治療後に、腕がむくむ「リンパ浮腫(ふしゅ)」が起こることがあります(治療に関連した合併症です)。
長期的な見通し
乳がんの治療成績は年々改善しており、早期に発見・治療を受けた場合の5年生存率(5年後に生存している方の割合)は非常に高いとされています。たとえがんが進行していても、症状をコントロールしながら充実した生活を続けている方はたくさんいます。医療は日々進歩しており、新しい治療法の開発も続いています。診断を受けたばかりで不安を感じるのは当然のことですが、あなたは一人ではありません。担当医や医療チーム、家族、そして同じ経験を持つ仲間と一緒に、一歩一歩進んでいきましょう。
サポートを探す
国際機関
- World Cancer Research Fund International(世界がん研究基金) ↗
- Breast Cancer Now(英国乳がん支援団体) ↗
- Susan G. Komen(米国乳がん支援団体) ↗
地域の団体
- 国立がん研究センター がん情報サービス ↗ · 日本全国
- 一般社団法人 乳房健康研究会 ↗ · 日本全国
- NPO法人 乳がん患者友の会「桜会」 ↗ · 日本全国
- 厚生労働省 がん対策情報 ↗ · 日本全国
- がん相談支援センター(全国の拠点病院に設置) ↗ · 日本全国
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