心筋梗塞
参照した情報源
この記事は患者教育のための独自コンテンツです。
- NICE—Acute coronary syndromes. NG185(2020)
- NHS—Heart attack(2023)
- WHO—Cardiovascular diseases fact sheet(2021)
- AHA—Heart Attack(2024)
- ESC—ESC Guidelines for acute coronary syndromes(2023)
国際的な臨床ガイドラインに基づいています
概要
心筋梗塞(しんきんこうそく)とは、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る血管(冠動脈)が突然詰まってしまい、心筋の一部が酸素不足になって壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)する状態です。心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしています。そのポンプ自体に血液が届かなくなると、心臓の動きが弱まったり止まったりすることがあります。一刻も早い治療が命を救う鍵となります。
重要な事実
- 心筋梗塞は、冠動脈の中に脂肪やコレステロールが蓄積してできた「プラーク(血管の内側にこびりついた塊)」が破れ、血の塊(血栓)が詰まることで起こります。
- 症状が始まったらできるだけ早く119番に電話することが、命と後遺症を防ぐ最大のポイントです。
- 適切な治療を受ければ、心筋梗塞後も多くの方が回復し、充実した日常生活を送ることができます。
心筋梗塞は日本でも決して珍しい病気ではありません。厚生労働省のデータによると、心疾患(心臓の病気)は日本人の死因の第2位を占めており、そのなかでも心筋梗塞は重要な原因のひとつです。毎年多くの方が発症していますが、医療の進歩により救命率は年々改善されています。
心筋梗塞は中高年の男性に多く見られますが、女性や若い方にも起こりえます。一般的に男性は45歳以上、女性は55歳以上から発症リスクが高まるとされています。生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症など)がある方、喫煙者、肥満の方は特に注意が必要です。ただし、リスクのない方でも発症することがあるため、誰にとっても他人事ではありません。
症状
- 胸に強い締め付け感・圧迫感・痛みが5分以上続く場合は、すぐに119番に電話してください。
- 痛みや不快感が腕・肩・首・顎・背中に広がっている場合は、すぐに119番に電話してください。
- 突然の強い息苦しさがある場合は、すぐに119番に電話してください。
- 意識がない、または意識がもうろうとしている場合は、すぐに119番に電話してください。
- 冷や汗・吐き気・嘔吐とともに胸の不快感がある場合は、すぐに119番に電話してください。
- 「もしかして心筋梗塞かも」と少しでも思ったら、迷わず119番に電話してください。自分で病院に行こうとせず、救急車を呼ぶことが最も安全です。
- ⚠以前に狭心症(きょうしんしょう:一時的に心臓への血流が減る病気)と診断されており、いつもより症状が強い・長い場合は、当日中に医療機関を受診してください。
- ⚠安静にしていても胸の違和感が消えない場合は、当日中に医療機関を受診してください。
- ⚠動悸や脈の乱れが気になる場合は、当日中に医療機関を受診してください。
一般的な症状
- 胸の中央や左側に感じる強い圧迫感・締め付け感・押しつぶされるような痛み
- 痛みや不快感が左肩・左腕・首・顎(あご)・背中・みぞおちなどに広がる(放散痛)
- 冷や汗が突然出てくる
- 息苦しさ・呼吸困難
- 吐き気・嘔吐(おうと)
- 強い不安感やこれまでにない「何か変だ」という感覚
- めまい・ふらつき・気が遠くなる感じ
- 顔面蒼白(そうはく:顔の血の気が引く)
子供の症状
- 子どもの心筋梗塞は非常にまれですが、先天性心疾患(生まれつきの心臓の病気)や川崎病(血管に炎症を起こす子どもの病気)の後遺症として起こることがあります。
- 胸の痛みや強い息苦しさ、顔色が悪くなる、ぐったりするといった症状が現れた場合は、すぐに119番に電話してください。
高齢者の症状
- 高齢の方では、典型的な「胸の激痛」がなく、みぞおちの痛みや吐き気だけが症状の場合があります(無痛性心筋梗塞)。
- ひどい疲労感・だるさが続く
- 突然の息切れや動悸(どうき:心臓がドキドキする感覚)
- 意識が混乱したり、突然ぼんやりする
- これらは「年のせい」と見過ごされやすいですが、心筋梗塞のサインである可能性があるため、気になる症状はすぐに医療機関に相談しましょう。
原因
主な原因
- 冠動脈(心臓に血液を送る血管)の内側に、コレステロールや脂肪が蓄積してできた「プラーク」が破れる。
- プラークが破れると、体が傷を修復しようとして血の塊(血栓)を作り、それが血管を完全に塞いでしまう。
- 血管が塞がれると、その先の心筋に血液(酸素と栄養)が届かなくなり、心筋が壊死する。
- まれに、冠動脈が突然けいれん(スパズム)して血流が途絶える場合もある(冠攣縮性狭心症から移行することも)。
リスク要因
- 高血圧(血圧が高い状態が続くと血管が傷む)
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)
- 糖尿病(血糖値が高い状態が続くと血管にダメージを与える)
- 喫煙(タバコは血管を傷め、血栓ができやすくする)
- 肥満・メタボリックシンドローム
- 運動不足
- 過度のストレスや睡眠不足
- 家族に心臓病の人がいる(遺伝的素因)
- 加齢(年齢を重ねるとリスクが上がる)
- 男性は女性より若い年齢からリスクが高まる傾向がある
- 大量飲酒
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みや締め付け感が5分以上続く場合はすぐに119番へ
- 安静にしても胸の不快感が改善しない場合は当日中に受診
- 息切れや動悸が急に強くなった場合は当日中に受診
- 以前に心臓病と診断されている方で、いつもと違う症状を感じたら当日中に受診
定期受診を予約すべき場合:
- 健診で高血圧・脂質異常症・糖尿病を指摘されたが、まだ治療を受けていない場合
- 家族に心筋梗塞や狭心症を経験した方がいる場合
- 喫煙をしており、心臓の健康が気になる場合
- 胸がたまにドキドキする、軽い息切れが気になる場合
診断
医師は症状の内容・始まった時間・持続時間などを詳しく聞き取り、いくつかの検査を組み合わせて心筋梗塞かどうかを判断します。検査は救急外来でも迅速に行われ、できるだけ早く治療につなげることを目指します。
行われる可能性のある検査
- 心電図(しんでんず):心臓の電気的な活動を記録し、心筋のダメージを見るための検査。痛みがなくても異常が出ることがあります。
- 血液検査:心筋が壊死すると血液中に特定のタンパク質(心筋トロポニンなど)が放出されます。これを測定して心筋のダメージを確認します。
- 胸部X線(レントゲン):心臓の大きさや肺の状態を確認します。
- 心エコー検査(超音波検査):超音波を使って心臓の動きをリアルタイムで観察し、どの部分が正常に動いていないかを確認します。
- 冠動脈造影検査(カテーテル検査):細い管(カテーテル)を血管に入れて、造影剤という液体を注入し、冠動脈のどこが詰まっているかをX線で確認します。この検査はそのまま治療(カテーテル治療)につながることもあります。
診察で予想されること
救急病院に搬送されると、まずは点滴や酸素投与などの処置が行われながら、検査が同時並行で進みます。検査結果によっては、すぐにカテーテル治療室(心臓血管カテーテル室)へ移動することもあります。不安なことはどんどん医療スタッフに質問して大丈夫です。
治療
心筋梗塞の治療は「詰まった血管をできるだけ早く再開通させること」が最大の目標です。治療が早ければ早いほど、心筋へのダメージを少なくできます。治療は大きく「カテーテルを使う方法」「薬による方法」「手術による方法」に分かれます。どの治療が適しているかは、状態や詰まりの場所・程度によって医師が判断します。
自宅でのセルフケア
- 症状が出たら自分で車を運転して病院に行こうとせず、すぐに119番に電話する。
- 楽な姿勢でじっとして、救急車を待つ。
- 衣服のボタンやベルトなど、締め付けるものをゆるめる。
- 家族や周囲にいる人にすぐ知らせる。
- 退院後は、医師から指示された生活習慣の改善や薬の服用を続けることが再発予防に重要です。
医療治療
治療の中心は「詰まった冠動脈の血流を回復させること」です。主な方法として、カテーテル(細い管)を使って血管の詰まりを広げ、ステント(金属の筒)を留置して血管を開通させる「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)」があります。また、血栓(血の塊)を溶かす薬を投与する「血栓溶解療法」も行われることがあります。その他にも、血液が固まりにくくする薬、心臓の負担を減らす薬、コレステロールを下げる薬などが状態に応じて使われます。薬の種類や量は必ず医師が決めますので、自己判断で変えたり中断したりしないようにしましょう。
手術が検討される場合
カテーテル治療が難しい場合や、複数の血管が同時に詰まっている場合などには、「冠動脈バイパス手術(CABG:冠動脈の詰まった部分を迂回する新しい血液の通り道を作る手術)」が行われることがあります。手術が必要かどうかは、検査の結果をもとに心臓専門医と心臓外科医が連携して判断します。
この病気と共に生きる
心筋梗塞から回復した後も、多くの方が仕事や趣味、家族との時間を楽しんで生活しています。ただし、再発予防のために生活習慣の見直しと定期的な通院が大切です。最初は不安や疲れを感じることもありますが、少しずつ体を慣らしながら日常生活を取り戻していきましょう。焦らず、医療チームと相談しながら進めることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙:喫煙は心臓病の最大のリスク因子のひとつです。禁煙支援外来を活用するのもひとつの方法です。
- 適度な運動:医師の許可を得てから、無理のない範囲でウォーキングなどを続けましょう。心臓リハビリテーションプログラムへの参加が推奨されています。
- ストレス管理:過度なストレスは心臓に負担をかけます。趣味やリラクゼーションでうまく発散しましょう。
- 十分な睡眠:睡眠不足は血圧や血糖値に悪影響を与えます。規則正しい生活リズムを心がけましょう。
- 飲酒は控えめに:お酒は適量を守り、過度な飲酒は避けましょう。
- 体重管理:適切な体重を保つことが心臓への負担を減らします。
- 処方された薬は指示通りに続ける:自己判断で薬を中断しないようにしましょう。
食事と運動
食事は塩分・飽和脂肪酸(動物性脂肪に多い)・コレステロールを控えめにし、野菜・魚・大豆食品・食物繊維を積極的に摂ることが大切です。日本食は比較的心臓に良い食材が多い一方、塩分が多くなりがちです。みそ汁・漬物・醤油の量に気をつけましょう。運動については、退院後すぐに激しい運動をするのは禁物です。担当医や心臓リハビリテーション専門のスタッフと相談しながら、段階的に活動量を増やしていきましょう。ウォーキングや軽い体操から始めるのが一般的です。
精神的健康と心の健康
心筋梗塞を経験した後、「また発作が起きたらどうしよう」という不安や、気分の落ち込み(うつ状態)を感じる方は少なくありません。これは自然な反応ですが、放置すると回復の妨げになることもあります。気持ちが落ち込んだり、眠れない日が続いたりする場合は、担当医や看護師に遠慮なく話してみてください。必要であれば心療内科や精神科への相談も大切な選択肢です。もし気持ちが非常に辛く、「消えてしまいたい」と感じることがあれば、一人で抱え込まず、すぐに相談窓口(よりそいホットライン:0120-279-338)に電話してください。
予防
心筋梗塞を100%防ぐことはできませんが、生活習慣の改善によってリスクを大きく減らすことができます。禁煙、バランスの良い食事、定期的な運動、適切な体重の維持、ストレス管理、高血圧・糖尿病・脂質異常症の早期発見と適切な治療が予防の柱です。厚生労働省が推進する「健康日本21」でも、心疾患予防のための生活習慣改善が重要な目標として掲げられています。
ワクチン
心筋梗塞を直接予防するワクチンはありませんが、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種が、心臓病のある方の感染症による心臓への負担を減らすために推奨されることがあります。担当医に相談してみましょう。
検診プログラム
特定健診(メタボ健診)や職場の健康診断で、血圧・血糖・コレステロール・体重などを定期的にチェックすることが、心筋梗塞の危険因子を早期に発見する第一歩です。40歳以上の方は毎年の特定健診を積極的に受けましょう。家族に心臓病の方がいる場合や、複数のリスク因子がある場合は、医師に相談して心電図やより詳しい検査を検討することも大切です。
合併症
治療しない場合
- 心不全(しんふぜん):心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなる状態。息切れやむくみが続く。
- 不整脈(ふせいみゃく):心臓のリズムが乱れる。重篤な場合は突然死につながることもある。
- 心原性ショック:心臓のポンプ機能が急激に低下し、血圧が著しく下がって命に関わる状態。
- 心臓の壁が破れる(心破裂)などの重篤な合併症。
- 梗塞の範囲が広がり、回復が難しくなる。
長期的な見通し
心筋梗塞は確かに怖い病気ですが、適切な治療と生活習慣の改善によって、多くの方が社会復帰し、充実した生活を送ることができます。医療技術の進歩により、救命率・回復率は年々向上しています。大切なのは、早く治療を受けること、そして退院後も医師の指示を守り続けることです。一歩一歩、自分のペースで回復していきましょう。あなたを支えるチームがいます。
サポートを探す
国際機関
地域の団体
- 日本心臓財団 ↗ · 日本全国
- 日本循環器学会 ↗ · 日本全国
- 国立循環器病研究センター 患者・市民向け情報 ↗ · 日本全国
相談窓口
外部リンクは第三者のウェブサイトを開きます。Ruqelo は外部コンテンツについて責任を負いません。団体名の掲載は推奨を意味するものではありません。
必ず医師に確認してください
健康ガイドラインは国や地域によって異なります。この記事の情報は国際的な臨床ガイドラインに基づいていますが、お住まいの国の具体的なガイドライン、薬、または診療慣行を反映していない場合があります。健康上の懸念は常にご自身の医師または医療提供者と相談し、利用可能な場合は地域の国家ガイドラインを参照してください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。