敗血症
参照した情報源
この記事は患者教育のための独自コンテンツです。
- NICE—Sepsis: recognition, diagnosis and early management. NG51(2016)
- NHS—Sepsis(2023)
- WHO—Sepsis fact sheet(2020)
- SSC—Surviving Sepsis Campaign International Guidelines(2021)
国際的な臨床ガイドラインに基づいています
概要
敗血症(はいけつしょう)とは、体のどこかに起きた感染症(細菌やウイルスなどによる病気)に対して、免疫システム(体を守る仕組み)が過剰に反応してしまい、その反応が自分自身の臓器や組織を傷つけてしまう、命に関わる重篤な状態です。簡単に言うと、感染と戦おうとした体の防御システムが暴走してしまい、全身に影響を及ぼす状態です。敗血症は医療の緊急事態であり、早期発見と迅速な治療がとても重要です。
重要な事実
- 敗血症は感染症がきっかけで起こりますが、感染自体よりも体の過剰反応が問題になります。
- 早期に発見して適切な治療を受けることで、命を救える可能性が大きく高まります。
- 敗血症が進行すると「敗血症性ショック」という、さらに危険な状態になることがあります。これは血圧が急激に下がり、臓器が働かなくなる状態です。
敗血症は世界中で年間数千万人が発症すると言われており、日本でも決して珍しい病気ではありません。厚生労働省のデータでも、敗血症は入院患者の死因として上位に挙げられています。特に高齢者や免疫力が低下している方に多く見られますが、健康な方でも発症することがあります。
敗血症は年齢を問わず誰にでも起こる可能性がありますが、特に影響を受けやすいのは、高齢者、生まれたばかりの赤ちゃんや小さな子ども、糖尿病や腎臓病などの慢性的な病気を持つ方、抗がん剤治療中や免疫抑制剤を使用している方、手術後や入院中の方などです。
症状
- 呼吸が非常に速い、または息ができないほど苦しい
- 血圧が急に下がり、立てない・意識を失いそう(敗血症性ショックの疑い)
- 皮膚に青紫色の斑点や網目状の変色が広がっている
- 意識がはっきりしない、名前を呼んでも反応がない
- 子どもがぐったりして全く動かない、または白目をむいている
- 上記の症状が急速に悪化している
- ⚠高熱と強いだるさが続き、感染症の心当たりがある
- ⚠尿が出なくなった、または極端に少ない
- ⚠傷や手術後の部位が赤く腫れて熱を持ち、全身症状も出ている
- ⚠いつもと違う意識の混乱や混濁がある
一般的な症状
- 高熱(38℃以上)または逆に体温が低い(36℃未満)状態
- 脈拍がとても速くなる(心拍数の増加)
- 呼吸が速くなる、息苦しさを感じる
- 意識がぼんやりする、混乱する、いつもと違う様子がある
- 皮膚が青白くなる、または斑点状(まだら)に変色する
- 尿の量が急に減る
- 体の震え(寒気・悪寒)
- ひどいだるさ・疲労感
子供の症状
- 高熱が続く、または逆に体が冷たい
- 呼吸が速い、またはゼーゼーする
- 顔色が青白い、または皮膚に青紫色の斑点が出る
- ぐったりして元気がなく、抱っこしても反応が鈍い
- 母乳やミルクをまったく飲まない
- 泣き声が弱い、または普段と違う甲高い泣き声
- 高熱があるのに手足が冷たい
高齢者の症状
- 急に意識が混乱する、話がつじつまが合わなくなる(せん妄)
- ふだんと比べて急激に元気がなくなる
- 体温が高くないのに具合が悪くなる(高齢者は発熱が出にくいことがあります)
- 急に食欲がなくなり、動けなくなる
- 転倒が増える、ふらつく
原因
主な原因
- 肺炎(はいえん):肺の感染症。敗血症の最も多い原因のひとつです。
- 尿路感染症(にょうろかんせんしょう):膀胱や腎臓の細菌感染。
- 腹部の感染症:虫垂炎(もうちょうえん)や腸の穿孔(せんこう・穴が開くこと)など。
- 皮膚・軟部組織の感染症:傷口からの感染や蜂窩織炎(ほうかしきえん)など。
- 血液の感染(菌血症):血液中に細菌が入り込んだ状態。
- 医療機器に関連した感染:カテーテル(細い管)や人工呼吸器などを介した感染。
リスク要因
- 65歳以上の高齢者、または1歳未満の乳幼児
- 糖尿病、慢性腎臓病、肝臓病などの慢性疾患がある方
- がんの治療中(特に抗がん剤治療)や免疫抑制剤を使用している方
- HIV感染などにより免疫力が低下している方
- 最近手術を受けた方、または入院中の方
- 長期間カテーテルや人工呼吸器を使用している方
- 栄養不良状態にある方
- 過去に敗血症を経験したことがある方
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 感染症の症状(発熱・咳・排尿時の痛みなど)があり、急に体調が悪化したとき
- 高熱とともに意識がぼんやりしたり、呼吸が速くなったりしているとき
- 傷口や手術後の部位が赤くなり、熱を持ち、腫れてきたとき
- 高齢の家族が急に元気をなくし、ぐったりしているとき
- 上記のような症状が少しでも当てはまる場合は、様子を見ずにすぐに医療機関を受診してください。敗血症は時間との勝負です。
定期受診を予約すべき場合:
- 感染症から回復した後に、疲れやすさや集中力の低下が長く続く場合
- 過去に敗血症を経験し、定期的なフォローアップが必要な場合
- 敗血症のリスクを高める慢性疾患のコントロールが難しいと感じる場合
診断
敗血症の診断は、症状の確認と複数の検査を組み合わせて行います。医師は「SOFA(ソファ)スコア」や「qSOFA(クイックソファ)スコア」と呼ばれる評価ツールを使い、臓器の機能が正常かどうかを素早く判断します。これは血圧・呼吸数・意識状態などをもとにした点数で、医師が敗血症の可能性を判断するのに役立てます。一つの検査だけで診断が確定するわけではなく、症状の経過や全体的な状態を総合的に見て判断します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:炎症の程度を示す「CRP(シーアールピー)」や「プロカルシトニン」の値、白血球数、臓器(腎臓・肝臓・心臓など)の機能を調べます。
- 血液培養検査:血液の中にどんな細菌や真菌(カビの一種)がいるかを調べます。結果が出るまで数日かかることがあります。
- 尿検査・尿培養:尿路感染が原因かどうかを調べます。
- 画像検査(レントゲン・CT・超音波):感染の場所(肺・お腹など)を特定するために使います。
- 血液ガス分析:血液中の酸素や二酸化炭素のバランスを調べ、呼吸や臓器の状態を評価します。
- その他の培養検査:必要に応じて痰(たん)、傷口の分泌物なども調べます。
診察で予想されること
敗血症が疑われる場合、検査はできる限り素早く進められます。多くの場合、救急外来や集中治療室(ICU)で対応することになります。医療スタッフは短時間で多くの処置を同時に進めますが、すべては患者さんを守るための行動です。わからないことや不安なことは、医師や看護師に遠慮なく質問してください。
治療
敗血症の治療は一刻を争います。「1時間バンドル」と呼ばれる考え方に基づき、診断後できるだけ早く複数の治療を同時に開始することが世界的な標準となっています。日本の集中治療の現場でも、この考え方に沿って迅速な対応が行われています。治療の目標は、感染の原因を取り除き、体の各臓器が正常に機能できるようにサポートすることです。
自宅でのセルフケア
- 入院中は医師・看護師の指示に従い、安静を保ちながら治療に集中することが大切です。
- 自己判断で治療を中断したり、処方された薬の使用を途中でやめたりしないでください。
- 回復期には、無理のない範囲で少しずつ体を動かすことが回復を助けます。
- 水分摂取の指示がある場合は、こまめに水分を取るようにしましょう。
- 体調の変化(急な悪化・新しい症状など)は、すぐに医療スタッフに伝えてください。
医療治療
敗血症の医療的な治療は、主に以下の柱で構成されます。まず「抗菌薬(こうきんやく)」という感染の原因となる細菌をやっつける薬が、できる限り早く点滴で投与されます。同時に、血液量を補うための点滴(輸液療法)が行われ、血圧や体液のバランスを整えます。血圧が著しく低下している場合は、血圧を上げる薬(昇圧薬)が必要になることがあります。また、呼吸が困難な場合は酸素投与や人工呼吸器によるサポートが行われます。腎臓の機能が低下した場合には、透析(とうせき・血液をきれいにする処置)が必要になることもあります。感染の原因となっている部位が特定できる場合(膿がたまっている部分など)は、その感染源を除去する処置も重要な治療の一部です。治療方針は患者さんの状態に応じて専門の医師チームが決定します。
手術が検討される場合
感染の原因となっている部位(膿がたまっている・腸に穴が開いているなど)が特定された場合、手術やドレナージ(細い管で膿を外に出す処置)が必要になることがあります。例えば、虫垂炎(もうちょうえん)や胆嚢炎(たんのうえん)が原因の敗血症では、手術が治療の重要な一部となります。手術が必要かどうかは、医師が患者さんの状態を総合的に判断した上で決定します。
この病気と共に生きる
敗血症から回復した後も、しばらくは体も心も本来の状態に戻るまで時間がかかることがあります。「敗血症後症候群(Post-Sepsis Syndrome)」と呼ばれる、回復後も長期間にわたって続く疲労感、集中力の低下、睡眠の問題、筋力の低下などの症状が知られています。これは珍しいことではなく、あなたが「弱い」からではありません。体と心が大きなダメージから回復しようとしている自然なプロセスです。焦らず、医療チームや周囲の人のサポートを受けながら、少しずつ日常生活を取り戻していきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 十分な睡眠を確保し、体をしっかり休めることを最優先にしましょう。
- 体力の回復に合わせて、無理のない範囲でゆっくりと活動量を増やしていきましょう。
- 手洗いや感染予防を日常的に心がけ、再感染のリスクを減らしましょう。
- 体調の変化に敏感になり、気になる症状はすぐに医師に相談するようにしましょう。
- アルコールの過剰摂取は免疫力を下げるため、節度ある飲み方を心がけましょう。
- 定期的に医療機関でフォローアップ(経過観察)を受けましょう。
食事と運動
回復期の食事は、体の修復を助けるためにバランスの取れた食事が大切です。特にたんぱく質(肉・魚・豆腐・卵など)をしっかり取ることで、筋力の回復を助けます。食欲がない時期は、食べられるものを少しずつ食べれば大丈夫です。無理は禁物です。運動については、理学療法士(りがくりょうほうし)などの専門家の指導のもと、入院中から少しずつ体を動かすリハビリが行われることがあります。退院後も、主治医の指示に従いながら、ウォーキングなど軽い運動から少しずつ始めることをお勧めします。
精神的健康と心の健康
敗血症を経験した方の多くが、回復後に不安感、うつ状態、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神的な影響を受けることがあります。「なぜ自分が」という気持ちや、再発への恐れを感じることも自然なことです。こうした感情を一人で抱え込まないでください。主治医や看護師に正直に気持ちを話したり、心理士・精神科医などの専門家に相談したりすることを勧めます。こころの健康もからだの回復と同じくらい大切です。もし気持ちが非常に辛くなったときは、かかりつけの医師や下記のサポート窓口に連絡してください。
予防
敗血症のすべてを防ぐことはできませんが、感染症のリスクを減らすことで、敗血症になる可能性を下げることができます。日常生活でできることとして、手洗いの徹底、傷口の適切なケア(清潔に保ち、悪化したら早めに受診する)、慢性疾患(糖尿病・腎臓病など)をきちんとコントロールすること、感染症の症状が出たら早めに医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。
ワクチン
一部の感染症に対するワクチン(予防接種)は、敗血症の原因となる感染症そのものを予防する効果があります。例えば、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン(はいえんきゅうきんワクチン)などがあります。特に高齢者や免疫力が低下している方には、これらのワクチン接種が強く勧められています。どのワクチンが自分に適しているかについては、かかりつけの医師に相談してください。厚生労働省でも定期的にワクチンに関する情報を公開しています。
検診プログラム
敗血症そのものを早期発見するための一般的なスクリーニング検査は現時点では確立されていませんが、入院患者さんに対しては医療スタッフが定期的にバイタルサイン(体温・血圧・脈拍・呼吸数)を観察し、敗血症の早期サインを見逃さないよう努めています。リスクが高い方は、定期的な医療機関への受診と検査が間接的な早期発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 敗血症性ショック:血圧が急激に低下し、全身の臓器に血液が届かなくなる非常に危険な状態。
- 多臓器不全(たぞうきふぜん):腎臓・肝臓・肺・心臓など複数の臓器が同時に機能しなくなる状態。
- 急性腎障害(きゅうせいじんしょうがい):腎臓が急速に機能低下し、透析が必要になることがある。
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS):肺が炎症で傷つき、呼吸がとても苦しくなる状態。人工呼吸器が必要になることがある。
- 血液凝固障害(DIC:播種性血管内凝固症候群):血液が固まりやすくなり、同時に出血も起こりやすくなる複雑な状態。
- 長期的な認知機能の低下や、体力・筋力の回復に長い時間がかかることがある。
長期的な見通し
敗血症は確かに深刻な病気ですが、現代の医療技術の進歩により、以前と比べて多くの方が回復できるようになっています。早期発見・早期治療が鍵であり、病院に到着してから1時間以内に治療が始まると、回復の可能性が大きく高まります。回復の速さや程度は人によって異なりますが、適切なリハビリと医療チームのサポートを受けながら、多くの方が少しずつ日常生活を取り戻しています。時間はかかっても、一歩一歩着実に回復していけることを信じてください。あなたは一人ではありません。
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- 厚生労働省 – 敗血症に関する情報 ↗ · 日本全国
- 日本集中治療医学会(JSICM) ↗ · 日本全国
- 日本救急医学会 ↗ · 日本全国
- よりそいホットライン(こころの相談) ↗ · 日本全国
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重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。