脳卒中
参照した情報源
この記事は患者教育のための独自コンテンツです。
- NICE—Stroke and transient ischaemic attack in over 16s. NG128(2022)
- NHS—Stroke(2023)
- WHO—Stroke fact sheet(2020)
- AHA—Stroke(2024)
国際的な臨床ガイドラインに基づいています
概要
脳卒中(のうそっちゅう)とは、脳への血液の流れが突然止まったり、脳内で血管が破れたりすることで、脳の細胞がダメージを受ける病気です。脳は酸素と栄養を血液から受け取って働いていますが、その供給が途切れると、わずか数分で脳細胞が死んでしまいます。脳卒中には大きく分けて2種類あります。ひとつは「脳梗塞(のうこうそく)」で、血のかたまり(血栓)などが血管を詰まらせるタイプです。もうひとつは「脳出血(のうしゅっけつ)」や「くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)」で、血管が破れて脳の中や周りに出血するタイプです。どちらのタイプも、一刻も早い対応がとても大切です。
重要な事実
- 脳卒中は、「時間との闘い」と言われる病気です。症状が始まったら、すぐに救急車(119番)を呼ぶことが命を救います。
- 日本では脳卒中は死因の上位に入っており、介護が必要になる原因としても最も多い病気のひとつです(厚生労働省のデータより)。
- 脳梗塞の一部は、症状が始まってから数時間以内に病院に到着できれば、特定の治療によって回復の可能性が高まります。
脳卒中は日本でとても多い病気です。厚生労働省の調査によると、国内には約174万人(2020年患者調査)の脳卒中患者がいるとされています。毎年およそ20万人以上が新たに発症していると推計されており、決して珍しい病気ではありません。
脳卒中は主に中高年以降の方に多く見られますが、若い方や子どもにも起こることがあります。年齢が上がるほどリスクは高くなりますが、高血圧・糖尿病・喫煙などの生活習慣と深く関わっているため、年齢に関わらず注意が必要です。男性のほうがやや発症しやすい傾向がありますが、女性も決して他人事ではありません。
症状
- 顔・腕・足の片側が突然動かなくなったり、しびれたりしている → すぐに119番へ!
- 突然、言葉が話せなくなった、または人の話が全くわからなくなった → すぐに119番へ!
- これまでにない激しい頭痛が突然起きた → すぐに119番へ!
- 突然、目が見えなくなった、または視野が欠けた → すぐに119番へ!
- 意識を失った、または意識がもうろうとしている → すぐに119番へ!
- 上記の症状が少しでもあれば、「様子を見よう」とは思わず、迷わず119番に電話してください。脳卒中は1分1秒が大切です。
- ⚠症状がいったん治まったように見えても、脳卒中の前触れ(一過性脳虚血発作・TIA)の可能性があるため、その日のうちに必ず医療機関を受診してください。
- ⚠片側の手足の軽いしびれが続いている場合も、早めに医師に相談しましょう。
一般的な症状
- 顔・腕・足の片側が突然しびれたり、力が入らなくなる(片麻痺・へんまひ)
- 突然、言葉がうまく話せなくなる、または相手の話が理解できなくなる
- 片方の目や両目が突然見えにくくなる、視野の一部が欠ける
- 突然、激しいめまいがして、ふらふらして歩けなくなる
- これまで経験したことのないような、突然の激しい頭痛(バットで殴られたような痛み)
- 口の周りや顔の片側が歪む(顔が一方に引っ張られたように見える)
子供の症状
- 突然の激しい頭痛や嘔吐(おうと)
- けいれん(手足がガタガタ震える発作)
- 片側の手足に力が入らなくなる
- 突然、言葉が出なくなったり、話し方がおかしくなる
- 意識がぼんやりして反応が鈍くなる
高齢者の症状
- 急に話が噛み合わなくなる、受け答えがおかしくなる
- 急にぼんやりして、意識がはっきりしなくなる
- 突然、足がもつれて転倒する
- 急に飲み込みにくくなる(嚥下障害・えんげしょうがい)
- 普段とは違う、急激な混乱や興奮
原因
主な原因
- 脳梗塞(血栓性・血栓が脳の血管に詰まるタイプ):動脈硬化(血管の壁が硬くなること)が進んだ血管に血のかたまりが詰まる
- 脳梗塞(心原性脳塞栓・しんげんせいのうそくせん):心臓でできた血のかたまりが脳の血管に流れ込んで詰まる(心房細動などの不整脈が関係することが多い)
- 脳出血:高血圧などで弱くなった脳の血管が破れて出血する
- くも膜下出血:脳の表面にある血管のこぶ(動脈瘤・どうみゃくりゅう)が破れて、脳を包む膜の下に出血する
リスク要因
- 高血圧(最も大きなリスク要因のひとつ)
- 糖尿病(血糖値が高い状態が続くと血管が傷みやすい)
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)
- 心房細動などの不整脈(心臓の動きが乱れると血のかたまりができやすい)
- 喫煙(タバコは血管を傷つけ、動脈硬化を進める)
- 過度の飲酒
- 肥満・運動不足
- 加齢(年齢が上がるほどリスクが高まる)
- 脳卒中や心臓病の家族歴(遺伝的な影響)
- 以前に脳卒中やTIA(一過性脳虚血発作)を経験したことがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 脳卒中の症状が少しでもあれば、すぐに119番に電話してください。症状が短時間で治まった場合も、必ずその日のうちに医療機関を受診してください。
- 初めて激しい頭痛を経験した場合は、同日中に受診が必要です。
定期受診を予約すべき場合:
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの持病がある方は、定期的に医師の診察を受けましょう。
- 脳卒中の後遺症のリハビリに取り組んでいる方は、かかりつけ医やリハビリ担当者と定期的に連絡を取り合いましょう。
- 家族に脳卒中の方が多い場合は、予防について医師に相談してみましょう。
診断
脳卒中の診断は、医師がまず症状や発症した時間などを詳しく聞き取り、神経学的な診察(体の動き、感覚、反射などを確認すること)を行うことから始まります。その後、脳の状態を詳しく調べるためにさまざまな画像検査が行われます。発症した時刻を正確に把握することが治療方針に大きく影響するため、できるかぎり「いつから症状が始まったか」を伝えることが大切です。
行われる可能性のある検査
- CT検査(コンピュータ断層撮影):脳の出血や大きな梗塞を素早く確認できる検査。救急でよく使われます。
- MRI検査(磁気共鳴画像法):CTよりも詳しく脳の状態を調べられる検査。特に脳梗塞の初期段階の確認に優れています。
- MRA(磁気共鳴血管撮影):脳や首の血管の詰まりや異常を調べる検査。
- 頸動脈超音波検査:首の血管(頸動脈)の状態を音波で調べる検査。
- 心電図・心エコー検査:心臓に原因がないかを調べる検査(心房細動などの確認)。
- 血液検査:血糖値、コレステロール値、血液が固まりやすい状態かどうかなどを調べます。
診察で予想されること
救急病院に到着すると、まず迅速に症状の確認と画像検査が行われます。脳卒中が疑われる場合は、専門の医師(脳神経内科医・脳神経外科医)がすぐに対応します。検査の結果によって、どのタイプの脳卒中かを判断し、最適な治療方針が決められます。家族や付き添いの方も、発症した時刻や普段の薬などについて聞かれることがありますので、できる限り情報を整理しておくと助かります。
治療
脳卒中の治療は、できるだけ早く始めることが回復の鍵です。治療の内容は脳卒中のタイプ(脳梗塞か出血か)によって大きく異なります。脳梗塞では、詰まった血管を開通させることが目標になります。脳出血では、出血を止めて脳への圧迫を減らすことが中心となります。入院後は急性期の治療と並行して、早期からリハビリテーション(機能回復のための訓練)が始まることが多いです。脳卒中の治療・リハビリについては、担当の医師や医療チームがあなたの状態に合わせて丁寧に説明してくれます。
自宅でのセルフケア
- 医師から指示された通りに薬を飲み続けましょう。自己判断で止めないことがとても大切です。
- 血圧・血糖値・体重などを自宅でも定期的に記録し、受診時に持参しましょう。
- リハビリのメニューは、担当のセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など)の指導に従って、自宅でも続けましょう。
- 塩分・脂肪分を控えた食事を心がけましょう。
- 禁煙・節酒を実践しましょう。
- ストレスをためすぎないよう、休息もしっかりとりましょう。
- 体調の変化(新しい症状や気になること)があれば、すぐに医療機関に連絡しましょう。
医療治療
脳梗塞の治療では、血のかたまりを溶かしたり取り除いたりすることを目的とした治療が行われます。発症からの時間が短い場合に適用できる治療もあるため、一刻も早い受診が重要です。また、再発を防ぐために血液をサラサラに保つための薬物療法が継続して行われることが一般的です。脳出血の場合は、出血の拡大を防いで脳への影響を最小限にすることが目標で、血圧の管理などが重要になります。くも膜下出血では、出血の原因となった血管のこぶ(動脈瘤)への対処が必要になります。入院中はリハビリテーション科の専門スタッフ(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など)が連携して、身体機能・言語・嚥下などの回復を支援します。退院後も外来リハビリや在宅リハビリが続けられることがあります。
手術が検討される場合
脳出血やくも膜下出血では、出血の量や場所によって手術が必要になることがあります。くも膜下出血の原因となった動脈瘤(血管のこぶ)に対しては、開頭手術(脳外科手術)や、血管の中から細い管を入れてこぶをふさぐカテーテル治療が行われることがあります。また、脳梗塞の一部では、血管内治療(カテーテルを使って詰まりを取り除く手術)が適用されることもあります。手術が必要かどうか、どの方法が適しているかは、専門の医師が画像検査の結果などをもとに判断します。
この病気と共に生きる
脳卒中の後遺症は人によってさまざまです。手足のマヒ(麻痺)、言葉の障害(失語症・しつごしょう)、飲み込みにくさ(嚥下障害)、記憶や思考の変化(高次脳機能障害)などが残ることがあります。一方で、適切なリハビリを続けることで機能が回復していく方も多くいます。日常生活では、無理をせず自分のペースで過ごすことが大切です。家族や介護のサポートを上手に活用しながら、できることを少しずつ増やしていきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 毎日の血圧測定を習慣にしましょう。高血圧は再発の最大のリスクです。
- 塩分を控えた食事を心がけましょう(目安は1日6g未満:厚生労働省の推奨)。
- タバコは血管にとって大敵です。禁煙外来などを活用して禁煙に取り組みましょう。
- 飲酒は控えめにしましょう(飲む場合は少量にとどめることが大切です)。
- 無理のない範囲でウォーキングなどの軽い運動を継続しましょう(必ず医師に相談してから始めてください)。
- 規則正しい睡眠をとり、疲れをためないようにしましょう。
- ストレスをうまく発散させる方法を見つけましょう(趣味・散歩・会話など)。
食事と運動
食事では、塩分・脂肪分・糖分を控えることが脳卒中の再発予防に役立ちます。野菜・果物・魚・大豆食品を積極的に取り入れた、いわゆる「和食」スタイルは動脈硬化の予防にも向いています。ただし、薬の種類によっては食べ合わせに注意が必要なものもありますので、食事制限については必ず担当の医師や管理栄養士に相談してください。運動については、後遺症の程度や体の状態によって安全にできる運動が異なります。自己判断で激しい運動を始めるのではなく、リハビリ担当者や医師のアドバイスに従って、無理のない範囲で体を動かしましょう。
精神的健康と心の健康
脳卒中の後に、気持ちの落ち込み(うつ)や不安、イライラ、感情のコントロールが難しくなる「感情失禁(かんじょうしっきん)」などが起こることは少なくありません。これは脳の変化によるものであり、本人の意志の弱さではありません。「頑張れない自分がいけない」と自分を責めないでください。気持ちの変化に気づいたら、担当の医師や看護師、相談員に遠慮なく伝えましょう。専門的なサポートを受けることで、気持ちが楽になることがあります。また、ご家族も介護の負担で心が疲れることがあります。周りの人も含めて、心のケアを大切にしましょう。もし「もう消えてしまいたい」などの気持ちが湧いてきたときは、一人で抱え込まずに、下の支援窓口に連絡してください。
予防
脳卒中はある程度予防できる病気です。特に生活習慣の改善が大きな効果をもたらします。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの持病を適切にコントロールすること、禁煙・節酒・適度な運動・塩分を控えた食事を実践することが、脳卒中のリスクを下げることにつながります。また、心房細動(不整脈)が見つかった場合は、適切な治療を受けることで脳卒中の予防に役立ちます。「自分には関係ない」と思わず、かかりつけ医と一緒に予防に取り組みましょう。
検診プログラム
脳卒中のリスクが高い方(高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙歴がある方、家族に脳卒中が多い方など)は、定期的な健康診断を受けることをおすすめします。血圧・血糖値・コレステロール値のチェックは、異常を早期に見つけて対処するために非常に重要です。また、一部の自治体では脳ドック(脳の血管を画像で調べる検査)を提供していることがあります。詳しくはかかりつけの医師や地域の保健センターにご相談ください。
合併症
治療しない場合
- 身体の麻痺(片麻痺など)が残り、歩行や日常動作が難しくなる
- 言語障害(話せない、言葉が理解できない)が残る
- 嚥下障害(飲み込みにくさ)により、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん・食べ物が肺に入って起こる肺炎)のリスクが高まる
- 記憶・思考・判断などに支障が出る高次脳機能障害
- 脳卒中後うつ(気分の落ち込みが続く状態)
- 再発リスクの高まり(一度脳卒中を経験した方は再発しやすいため、予防対策が特に重要)
- 重篤な場合は意識障害や死亡に至ることもある
長期的な見通し
脳卒中の回復の程度は、発症した場所や大きさ、治療開始までの時間、年齢や体の状態によって異なります。しかし、早期に治療を受け、継続的にリハビリに取り組むことで、多くの方が日常生活を取り戻すことができています。最初は思うように体が動かなくても、脳には「神経可塑性(しんけいかそせいゅ)」——つまり傷ついた部分を補おうとする力——があります。焦らず、一歩一歩着実に進んでいきましょう。あなたを支えてくれる医療チーム、家族、仲間がいます。ひとりではありません。
サポートを探す
国際機関
地域の団体
- 公益社団法人 日本脳卒中協会 ↗ · 日本全国
- 厚生労働省 生活習慣病予防(脳卒中含む) ↗ · 日本全国
- 国立循環器病研究センター 患者・家族向け情報 ↗ · 日本全国
- 脳卒中・心臓病等総合支援センター(各都道府県に設置) ↗ · 日本全国(各都道府県)
相談窓口
外部リンクは第三者のウェブサイトを開きます。Ruqelo は外部コンテンツについて責任を負いません。団体名の掲載は推奨を意味するものではありません。
必ず医師に確認してください
健康ガイドラインは国や地域によって異なります。この記事の情報は国際的な臨床ガイドラインに基づいていますが、お住まいの国の具体的なガイドライン、薬、または診療慣行を反映していない場合があります。健康上の懸念は常にご自身の医師または医療提供者と相談し、利用可能な場合は地域の国家ガイドラインを参照してください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。